司法権運営に関する要望の件(決議)

本委員会は、司法権運営上左記各項を要望する。


  1. 警察、検察及び裁判所当局者は、人権の尊重に思をいたし逮捕状、勾留状等の請求又は発付に当っては、苟も人違い、冤罪等不当の結果を起こさないよう慎重に処理せられたきこと。
  2. 検察官は、弁護人の指示した被疑者利益の資料を拒むことなく、この資料を特に斟酌し公正なる判断に資せられたきこと。
  3. 検察官は、接見禁止の事案につき弁護人より面接請求を受けたるときは、速やかに接見時間を充分とする指定票を交付し、防禦権の行使に支障なからしめたきこと。

1955年(昭和30年)11月12日
於松江市、人権委員会秋季総会


理由

新憲法は、その3分の1を基本的人権擁護の宣明に充て、司法権運営につき明確なる指針を与えている。然るに新憲法実施10年に垂んとする秋、司法権運営につき未だその成績に欠くる処あるは誠に遺憾である。


本委員会は、左記の諸点につき当局の反省を求むるものである。


  1. 警察、検察、裁判所当局者は、逮捕状、勾留状の請求又は発付に当りては苟も人違い、冤罪等の不当の結果が発生しないよう慎重に処置すべきである。又検察官は自ら被疑者並に関係人の取調べに当ることなく、単に司法警察員又は検察事務官の取調べの結果を唯一の資料として起訴する事例少しとせぬ。かくして公判において無罪の判決を得たとしても、被告人をして拭うべからざる恥辱と恢復することのできない損害を与え不当に被告人の人権を侵害する結果となる。
  2. 弁護人が被疑者の利益のために、その資料を収集してこれを検察官に指示するは、被疑事件の弁護権行使であって、被疑者の人権擁護上必要なる手段である。然るに検察官は弁護人の指示する被疑者利益の資料を顧みることなく、これが指示を拒む事例がある。かかる処置は被疑者の弁護権行使上遺憾の結果を招来するに至る。宜しく検察官は起訴に当っては、弁護人の指示したる資料を特に調査斟酌して公正なる判断の下に処置せられたい。
  3. 検察官は拘束中の被疑者の外部との面接の自由を、必要以上に制限する処置に出る事例が少くない。弁護人から接見申入があった際、検察官は口実を設けて面会の指定票の交付を回避する傾向がある。かくの如きは被疑事件の防禦権行使の妨害であって、被疑者の人権擁護上遺憾と云わねばならぬ。検察官は弁護人より面接請求があった際は可成速かに防禦上必要な接見時間を考慮して指定票を交付し、被疑者の防禦権行使に支障なからしむるよう努められたい。