破壊活動防止法案の立法化に反対するの件(決議)

第13回国会に提出せられんとする破壊活動防止法案は、憲法の保障する自由を広範囲に亘って制限し、官・憲による基本的人権の蹂躙を招来する虞あるものである。


よって、本会は右法案の立法化に反対する。


1952年(昭和27年)3月28日
於福岡市、人権委員会春季総会


理由

本法案は、昨年「団規法案」として大橋法務総裁が発表したが、東京弁護士会、新聞法制研究会其の他世論の反撃に遭い、当初案を修正し、本年2月下旬「特別保安法案」として世上に伝えられたものである。しかし、この法案は相当の修正があったに不拘、その基本的構成においては「団規法大橋案」と何等選ぶところがなく、団規法に対しなされた東京弁護士会、新聞法制研究会の反対理由は「特別保安法案」にもその儘あてはまる。


基本的人権の擁護を使命とする在野法曹は、この官僚独裁の実現と国民の政治的自由を奪い、基本的人権を蹂躙する本法案の立法化には絶対判定せざるを得ない。即ち


  1. その第2条後段においては「いやしくも、これを逸脱し、思想、信教、集会、結社、表現及び学問の自由ならびに勤労者の団結及び団体行動をする権利その他日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に侵害することがあってはならない」と如何にも基本的人権を尊重するような表現をしているが、この規定は単なる訓示規定に過ぎないのであって、第3条に示す「暴力主義的破壊活動」については、公安審査委員会や審査庁の行政解釈に一任し、団体の活動の禁止や、解散、役員の追放などの行政処分権を認める許りでなく嘗ての特高警察を思わせる下僚「審査官」に調査権を与える等、戦前の悪法「治安維持法」「治安警察法」の再現を思わせるものがある。
  2. 更に、又この法案によれば「団体」とは「特定の共同目的を達成するための多数人の継続的結合体」または「その連合体」を指すのであって政党は勿論あらゆる組合、社交団体、学術団体を含むものである。
    その「暴力主義的破壊活動」として定義するところのものは、刑法第77条(内乱)同第106条(騒擾)等何れも現に刑法に規定されるもので、本特別立法により処罰するの要ないものである。
  3. 況や同法第3条によれば、これら行為を「共謀し」「企て」「そそのかし又はあおること」も亦暴力的破壊活動とせられるのであって、かつて英国等に於て広汎に行われ、今日理論的にも実際的にも著しく制限されている。コンスピラシーを拡張的に規定する非民主的立法である。

以上のように本法案の2、3の要点のみを挙げても悪立法と断言できるのであって、本法案を立法化することは新憲法の精神に悖り、基本的人権を侵害するものとして、その立法化には絶対反対である。