安心して修習に専念するための環境整備を更に進め、いわゆる谷間世代に対する施策を早期に実現することに力を尽くす決議

 

 

icon_pdf.gif決議全文 (PDFファイル;149KB)

 

1 当連合会は、司法修習生に対する新たな給付制度について、最高裁判所、法務省等の関係諸機関と協力して、その安定的かつ継続的な運用を図り、安心して修習に専念できる環境の整備を更に進めることで、多くの志ある者が法曹の道を志望することにつながるよう、引き続き取り組む。


2 当連合会は、いわゆる谷間世代(修習期間中に給費ないし給付の支給がなかった世代)の者が、その経済的負担や不平等感によって法曹としての活動に支障が生ずることのないよう、引き続き国による是正措置の実現を目指すこと及び当連合会内で可能な施策を早期に実現すること、に力を尽くす。
  

以上のとおり決議する。

 

 

2018年(平成30年)5月25日


日本弁護士連合会

 

 

提案理由

第1 新たな給付制度の創設とそれによって生じた問題

2017年4月、裁判所法の一部を改正する法律(平成29年4月26日法律第23号。以下「2017年改正裁判所法」という。)が成立し、同年11月1日以降に採用された司法修習生(第71期以降)に対して、基本給付金、住居給付金及び移転給付金を内容とする修習給付金が支給されることとなった(裁判所法第67条の2第1項、第2項)。
   

この新たな給付制度の立法趣旨は、法曹人材確保の充実・強化の推進を図ること、とりわけ法曹志望者の増加を図ることにあると説明されている。
   

既に司法修習を終えた者、現に司法修習を受けている者には法曹志望者の増加を図るとの立法趣旨が直接には当てはまらないとされることから、この制度による修習給付金の支給対象は改正裁判所法施行後に採用される司法修習生に限定され、2017年改正裁判所法の「施行前に採用され」た司法修習生については適用しないものとされている(2017年改正裁判所法附則第2項)。
   

このため、2011年11月から2017年10月までの間に採用された司法修習生には、新たな給付制度の適用はなく、これら谷間世代の者の経済的負担が第71期以降の司法修習生に比して重くなるという問題が生じた。このことは、裁判所法改正の国会審議の過程でも指摘され、また、谷間世代を始めとする多くの会員からも何らかの措置が必要ではないかとの声が上がっている。


 

第2 決議第1項について

1 貸与制が実施されるまでの経緯と実情
     

司法修習生に対するいわゆる給費制については、裁判所法の一部を改正する法律(平成16年12月10日法律第163号)により2010年11月から、無給・貸与制へ移行することが決定された。
     

当連合会は、2010年4月、司法修習費用給費制維持緊急対策本部(現司法修習費用問題対策本部)を設置し、同年5月、第61回定期総会にて「市民の司法を実現するため、司法修習生に対する給費制維持と法科大学院生に対する経済的支援を求める決議」を採択し、その後、法科大学院生や司法修習生、若手弁護士らによる「ビギナーズ・ネット」、「司法修習生に対する給与の支給継続を求める市民連絡会」(以下「市民連絡会」という。)等と共に、全国的に市民集会や署名活動、院内集会等を実施した。
     

当連合会のみならず、法曹志望者や労働福祉団体、消費者団体、労働組合、環境保護団体等の市民と一緒になっての短期的・集中的な取組の中で、司法制度を支える法曹は社会の人的インフラであり、国には公費で法曹を養成する責務があるとの主張が盛り上がりを見せ、同年11月、経済的理由によって法曹となることを断念するというような事態を生じさせないようにするとの観点から、無給・貸与制の導入を1年延期するとの裁判所法の改正がなされるとともに、個々の司法修習終了者の経済的状況等を勘案した措置の在り方について検討を加えるという内容の衆議院法務委員会決議がなされた。
     

しかし、2011年5月から始まった政府の「法曹の養成に関するフォーラム」では、無給・貸与制は、2004年の段階で一旦決まったものであるから実施すべきとの意見が多数となり、2011年11月、司法修習費用については、1947年から続いた給費制は廃止され、無給・貸与制が実施されることとなった。
     

なお、谷間世代のうち、この貸与制を利用した者は約7割であり、1人当たりの平均貸与総額は約300万円である。その他、家族・親族から借りた者、それまでの蓄えを利用した者等、最高裁判所から貸与を受けずに修習した者もいた。また、貸与を受けた者であっても、既に繰上返還をしている者もいる等、谷間世代の実情は様々である。


2 2017年裁判所法改正
     

当連合会は、前述の司法制度を支える法曹は社会の人的インフラであり、国には公費で法曹を養成する責務があるとの考えの下に、その後も、ビギナーズ・ネット及び市民連絡会等と共に給費制復活を求める運動を展開した。
     

これらの運動により、徐々に社会的理解は広がっていったものの、その実現には困難を極める状態が続いていたところ、法科大学院入学試験受験者、入学者、司法試験受験者などが経年的に減少するという事態が生じ、法曹志望者増加へ向けた施策という観点から、司法修習生に対する給付型の経済的支援が必要ではないかとの世論が高まった。
     

そのような中、政府は、2015年6月、法曹養成制度改革推進会議決定「法曹養成制度改革の更なる推進について」の中で、「司法修習の実態、司法修習終了後相当期間を経た法曹の収入等の経済状況、司法制度全体に対する合理的な財政負担の在り方等を踏まえ、司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討するものとする」とした。
     

当連合会は、2016年3月11日の臨時総会において、司法修習をより充実させるとともに、経済的事情によって法曹への道を断念する者が生じることなく、かつ、司法修習生が安心して修習に専念し得るよう、給付型の経済的支援として、給費の実現・修習手当の創設が行われるよう、全国の会員と弁護士会が力を合わせて取り組むことを決議した(法曹養成制度改革の確実な実現のために力を合わせて取り組む決議)。
     

政府は、2016年6月の「経済財政運営と改革の基本方針2016」(いわゆる骨太の方針)の中で司法修習生に対する経済的支援を含む法曹人材確保の充実・強化を明示した。
     

法曹三者は、これらの経緯の下で、法曹人材の確保の充実・強化を推進するため、協議を積み重ね、2016年12月に、司法修習生に対する経済的支援として新たな給付制度創設が、法務省から発表されるに至った。新たな給付制度は、第71期以降の司法修習生に、基本給付金13.5万円、住居給付金3.5万円、移転給付金を支給することを内容とするものである。
   

2017年4月に、裁判所法の一部を改正する法律が成立し、その後所要の最高裁判所規則の新設及び改正を経て、第71期司法修習生から新たな給付制度が実施されている。
     

新たな給付制度は、法曹養成課程における経済的負担の重さが法曹への道を断念させる一因となっていることに鑑み、司法修習生に対して修習給付金等を支給する制度を創設することにより、法曹となる人材の確保の推進等を図る、というものである。これは司法の充実・強化の観点及び法曹養成制度の改革にとって前進である。


3 決議第1項のまとめ
     

当連合会は、法曹の役割や魅力を社会に発信するとともに、最高裁判所、法務省等の関係諸機関と協力して、司法修習生に対する新たな給付制度の安定的かつ継続的な運用を図り、安心して修習に専念できる環境の整備を更に進めることにより、法曹養成制度に対する信頼を高め、多くの志ある者が法曹の道を志望することにつながるよう、引き続き全力で取り組む。


 

第3 決議第2項について

1 谷間世代に対する施策の必要性
     

谷間世代の者は、前後の世代の者と同様に、司法制度の担い手となる者として修習専念義務を課され(裁判所法第67条第2項)、原則として兼業が禁止されていた。
     

そして、修習終了後は、有為な人材として多方面で活動していることも前の世代の者と同様である。司法制度の最終的な受益者は、その利用者である国民であり、司法制度を支える法曹は社会の人的インフラである。国には公費で法曹を養成する責務がある。
     

また、この度の立法過程において、新たな給付制度が谷間世代に適用されないと規定されたこと、谷間世代に対する立法措置がなされなかったことは事実であるが、一方で、谷間世代の問題について法曹養成制度改革連絡協議会では検討されてはいないなど、谷間世代の問題に対する是正策それ自体が公的な会議で否定されているわけではない。
     

したがって、谷間世代の問題に対する是正策がなされる余地は完全には失われていない。


2 当連合会におけるこれまでの取組
     

当連合会は、法曹三者による協議及び2017年改正裁判所法の成立過程において、三権の一翼を担う法曹の公共的な役割に照らし、安心して司法修習に専念できる金額の修習手当を支給すべきであると主張し、併せて、谷間世代についても何らかの措置を獲得するための活動を続けた。
   

このような経緯を踏まえ、当連合会は、2017年改正裁判所法の成立時に「谷間世代の者がその経済的負担等によって法曹としての活動に支障が生じることがないよう、力を尽くす」との会長声明(裁判所法の一部を改正する法律の成立に当たっての会長声明)を公表し、2017年7月から同年8月までには第70期司法修習生全員を対象としたアンケート(回収率45.7%)、同年9月から同年11月までには新第65期から第69期司法修習終了者の会員全員を対象としたアンケート(回収率45%)を実施した上、同年10月には新第65期から第69期司法修習終了者の一部を対象とした意見交換会(以下「谷間世代の声を聴く会」という。)を実施した。加えて、同年6月には「修習給付金の創設を感謝する会~若手法曹が輝く社会へ~」、同年11月には「修習給付金制度スタート!~充実した司法修習と司法制度の充実・強化について考える会~」、2018年3月には「市民の期待に応える力強い司法へ」といった院内意見交換会を実施し、谷間世代に対する施策の立法事実の把握に努めた。これらの活動により集められた立法事実について、理解を示す関係者は少なくないが、実現するには世論及び関係各方面の更なる理解が必要である。
   

一方、2017年度の各地の弁護士会連合会定期大会等における若手会員と当連合会執行部との意見交換会(以下「若手カンファレンス」という。)では、「谷間世代に対する是正・救済策を国に対し求めるべきである」との意見が繰り返し述べられた。加えて、司法修習費用給費制存続緊急対策本部(現司法修習費用問題対策本部)からも同様の声が上がった。
     

そこで、当連合会は2018年1月に最高裁判所及び法務省に対し、立法により「谷間世代に対し何らかの適切な事後的措置を講じること」及び「2018年7月25日までに前述の措置が講じられない場合は、その措置を検討するために、新第65期の司法修習生であった者で修習資金(貸与金)の貸与を受けていた者の返還期限を当面、1年間延期すること」に関し、その実現可能性について意見交換を行ったところであるが、最高裁判所、法務省共にいずれの要望に対しても具体的な対応は困難である旨の意見であった。
     

この間、2017年度の当連合会理事会においても、その情勢について報告がなされてきたところである。


3 谷間世代全員を対象とする施策
     

貸与金債権の放棄等の貸与を受けた者のみを対象とする施策では、前述の貸与金を借りていない者、既に繰上返還した者との関係で不平等となる上、暫定的な措置と言わざるを得ず、妥当ではないことから、谷間世代全員を対象とする施策が必要である。

ところで、谷間世代は弁護士のみでも約9,700人、裁判官・検察官、その他をも含めた総数は約1万1,000人である。仮に、新たな給付制度により第71期以降の司法修習生に支給される一人当たりの基本給付金総額約170万円と同額を谷間世代全員に支給するとの是正策を実施する場合、約187億円を要することとなる。谷間世代の問題に対する国による是正措置は、大規模な予算を要するものであり、幅広い世論の支持を得られる立法事実が必要である。
     

当連合会は、前述のとおり2017年に谷間世代の会員等に対する各種のアンケートを行い、立法事実の収集に努めたが、谷間世代の裁判官・検察官の実情は未だ明らかとはなっていない。
  

このように、政府や多くの国会議員を説得し、世論の支持を幅広く得るためには、更に立法事実の集積を重ねなければならない。
  

また、前述のとおり、谷間世代の者は弁護士のみならず、裁判官・検察官にも多数いることから、谷間世代の問題の解決には、当連合会のみではなく、最高裁判所、法務省の理解も重要となる。
     

当連合会としては、弁護士会等とも連携しながら、国による是正措置の実現を目指し、政府や多くの国会議員を説得し、世論の支持を幅広く得るに足る立法事実の集積等を進めるとともに、最高裁判所、法務省の理解を得るために両者と粘り強く協議する。


4 谷間世代の会員を対象とする施策
     

他方で、有為な人材として多方面で活動している谷間世代の会員に対して、現時点で何らの具体的措置が講じられない状況を看過することはできない。
     

前述の谷間世代の声を聴く会や各弁護士会連合会定期大会等で開催された若手カンファレンスでは、谷間世代の多数の会員から、自分たちの世代のみ救済されず、置き去りにされている等の声が上がった。また、本年1月の関東弁護士会連合会地区別懇談会の若手カンファレンスにおいても谷間世代の経済的負担に対する具体的かつ実効的な支援策を、直ちに講じるべきであり、当連合会における谷間世代の救済を直接の目的とする、会費の減免措置も行うべきであるという趣旨の提言がなされた。
     

谷間世代の会員の多くが抱いている不平等感や、経済的な負担感をしっかりと受け止め、新たな給付制度の創設に尽力した谷間世代の会員に報い、世代間に隔絶が生じないよう力を尽くす必要がある。
     

谷間世代の会員に対して施策を講じることを通じて、司法制度を支える人的インフラである全会員が不平等感を抱くことなく、統一性のある組織を形成していることを確認し、まとまりのある団体の構成員として、社会に対して力を発揮し、もって国民の権利擁護と社会正義の実現に資するようにすべきである。
     

当連合会は、既に谷間世代の会員のための会内施策の具体的な検討を開始している。
     

一つは、新第65期で貸与を受けた者に対する返還資金の貸付制度であり、収入・所得の額において最高裁判所の猶予要件に該当しないが、弁護士業務に支障を来す事情がある会員や、家族の事情により貸与金の年賦金の返還が困難な会員に対し、2018年の年賦金と同額を貸し付け、年賦金の返還に充てる制度である。
     

もう一つの例は、谷間世代の会員に対する当連合会の一般会費の減額であり、当連合会の理事会において具体的な案を示し、協議を重ねているところである。当連合会の会費において谷間世代の会員の経済的負担を軽減することに対しては、複数の要望も出ている。   
     

なお、この他にも複数の弁護士会において、会費に係る施策や谷間世代の会員に対して金員を支給する施策等が決定されている。


5 決議第2項のまとめ
     

当連合会は、全会員が一体としてこの問題に取り組み、谷間世代の者がその経済的負担や不平等感によって法曹としての活動に支障が生ずることのないよう、弁護士会等と連携しながら、引き続き国による是正措置の実現を目指し、当連合会内においても可能な施策を早期に実現することに力を尽くす。