中小企業・小規模事業者に対する法的支援を更に積極的に推進する宣言

 

 

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弁護士は、法による紛争の予防や解決に必要な情報やサービスが社会の隅々まで行き渡るよう努めるべき使命を担っている。我が国の約380万の中小企業・小規模事業者(中小企業基本法第2条に規定する「中小企業者」及び「小規模企業者」をいう。以下同じ。)は、事業者数や従業員数に占める割合、技術力等において、我が国の経済や雇用の主要な担い手でありながらも、これに対する法的支援が十分ではない現状がある。

 

当連合会では、各弁護士会と連携・協働して、とりわけこの10年来、弁護士による中小企業・小規模事業者に対する法的支援活動を十全ならしめるべく諸取組に注力してきた。

 

しかし、2016年に実施した「中小企業の弁護士ニーズ全国調査」や2015年に実施した各弁護士会における中小企業支援活動の実情調査によれば、一定の改善状況はうかがえるものの、訴訟・調停等の法的手続以外の相談・助言を始めとする紛争予防のための法的サービスについては中小企業・小規模事業者に対して十分に行き渡っていないことや、そもそも弁護士が提供できる法的支援内容に対する認知度が依然として低いこと、費用面での弁護士利用に関するアクセス障害が大きいこと等々の実情や課題が顕著となった。

 

また、中小企業・小規模事業者は、経営者の最多年齢が66歳に達し(中小企業庁「事業承継ガイドライン」)、事業承継対策が急務であるにもかかわらず、後継者不足や経営者保証の問題等を背景に承継が円滑に進まず、意図しない廃業及びそれに伴う雇用や技術の喪失が進んでおり、大きな社会問題となっている。事業承継は、相続関連法や会社法等、高度な法律知識や金融機関との交渉等の複雑な利害関係の調整が必要であるが、これまで弁護士が関与すべき必要性が十分に認識されてきたとはいえない。

 

よって、当連合会は、各弁護士会と連携・協働して、以下の諸取組を強化し、弁護士による法的情報の提供や法的助言等の法的支援を中小企業・小規模事業者にあまねく行き渡らせることにより、その個性や可能性を存分に伸ばし、自立を支え、中小企業・小規模事業者の健全な経営と持続的な成長を促進し、もって、地域経済・社会の活性化を図るとともに、経営者・事業者、従業員、取引先、その家族等の全ての関係者の暮らしと権利が守られる社会の実現を目指すことをここに宣言する。

 

1 弁護士会による相談・紹介制度の充実


「ひまわりほっとダイヤル」、「中小企業海外展開支援弁護士紹介制度」を始めとする当連合会及び弁護士会による相談・紹介制度を増強・充実させるとともに、更に周知を図り、もって中小企業・小規模事業者の弁護士に対するアクセス障害を解消し、弁護士による適時・適切な法的支援をあまねく受けられる態勢の確立を目指す。


2 関係機関・団体等との連携・協力関係構築の推進・強化


中小企業・小規模事業者が、弁護士による法的情報の提供や法的助言等の法的支援、ひいては必要かつ有益な司法制度や公的制度を的確に利用し、権利を十分に擁護される環境を整備するため、関係行政官庁、地方自治体、中小企業諸団体、金融機関、専門士業団体等、中小企業・小規模事業者の法的支援に資するあらゆる関係機関・団体等との間で適切な連携・協力関係を構築・増強する取組を更に推進・強化する。


3 調査・研究・提言と実践及び費用面でのアクセス障害の解消


中小企業・小規模事業者が抱える創業、海外展開、事業再生、事業承継その他の法的課題や新たに生起する課題について、調査・研究・提言や実践を継続・強化する。また、中小企業・小規模事業者から弁護士への相談・依頼に要する費用を保険や共済制度等で賄うことができるようにして、費用面でのアクセス障害の大幅な改善を図るべく、弁護士保険あるいは弁護士費用に関する共済制度等の研究・開発を検討・推進する。


4 研修制度の充実等による提供業務の高度化


中小企業・小規模事業者への法的支援に資する弁護士向けの専門的研修の充実、法令や裁判例、各種公的支援施策や制度等に関する情報提供の充実等により、弁護士による中小企業・小規模事業者に対する法的支援がより高度で精通したものとなるよう取組を推進・強化する。


5 広報・啓発


中小企業・小規模事業者自身が、法的課題に気付き、司法制度や弁護士にアクセスする契機とするため、また、弁護士が適切かつ効果的にその役割を果たすため、中小企業・小規模事業者が対応を迫られる法的課題や新たに生起する課題についてセミナー及び法律相談会等を実施するとともに、上記の諸取組や中小企業・小規模事業者支援における弁護士の役割の周知に資する広報・啓発に努める。

 

 

2017年(平成29年)5月26日


日本弁護士連合会


 

 

提案理由

1 本宣言の必要性

 (1) 中小企業・小規模事業者支援と弁護士の果たすべき役割 

中小企業・小規模事業者は、2014年において事業者数で約380万、従業員数で約3,360万であって、我が国の全事業者数の99.7%、全従業員の70.1%を占める(中小企業庁「中小企業白書2016年版」による。)。法の支配を行き渡らせるべく、中小企業・小規模事業者を弁護士が法的に支援し、コンプライアンス経営を徹底させて事業の健全な発展に寄与することは、地域経済や社会を活性化させ、事業者のみならず従業員や取引先等を守り、ひいては、その家族の暮らしと命を守る人権擁護活動としての側面もあり、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする弁護士(弁護士法第1条)の役割そのものにほかならない。

 

現代社会は企業社会ともいわれ、あらゆる企業活動が法の枠組みの中で展開されている。弁護士は、個人のみならず中小企業・小規模事業者を含む企業の諸活動全般において、相談・助言を含む適切な法的サービスを提供すること、企業の活動が公正な法的ルールに従って行われるよう助力すること、海外展開を含め活躍の場を広げるよう助力すること、紛争の発生を未然に防止すること等が求められている。また、紛争が発生した場合には、法的ルールの下で適正・迅速かつ実効的な解決・救済が図られるよう関与すべき責務がある。弁護士がこのような責務を果たすことは、中小企業・小規模事業者の発展、ひいては地域経済、国の発展にも寄与することになる。

 

ところが、中小企業・小規模事業者の多くに、いまだ弁護士による法的支援が行き渡っていない実情がある。取引契約書の不存在・不備、大企業や親企業等からの優越的地位を背景とした不利な取引条件の甘受、経営危機に遭遇した際の専門的支援の欠如等の事態が往々にして見られる。まして、少子高齢社会における国内市場の収縮傾向の中、中小企業・小規模事業者の経営は困難を極めており、中小企業・小規模事業者の疲弊が、すなわち、我が国の経済の沈滞を招いているといっても過言ではない。

 

また、中小企業・小規模事業者は、経営者の最多年齢が66歳に達し、事業の承継が急務であるにもかかわらず、後継者不足や経営者保証の問題等を背景に承継が十分に進まず、意図しない廃業及びそれに伴う雇用や技術の喪失が進んでおり、大きな社会問題となっている。事業承継スキームの策定・実行に当たっては、相続、会社法の遵守・活用、M&A(事業譲渡、会社分割等)、金融機関との交渉等、高度な法律知識や複雑な利害関係の調整が必要であるが、これまで弁護士が関与することの必要性が十分に認識されてきたとはいえない。

 

もちろん、これまでの個々の弁護士の業務活動によって、中小企業・小規模事業者を含む企業の活動に弁護士が関与する意義の認知度が向上してきた経緯はある。しかし、弁護士が身近なパートナーとして真に事業活動に根付くためには、個々の弁護士に委ねるだけではなく、中小企業・小規模事業者から個々の弁護士へ、個々の弁護士から中小企業・小規模事業者へという相互間のアクセスを容易にするための諸方策を当連合会及び弁護士会が組織的・積極的に講じることも必要かつ有益である。具体的には、弁護士側の中小企業・小規模事業者が抱える諸課題に関する精通度を高めつつ、弁護士が提供できる法的支援内容を企業に周知すること、必要とする企業に適切な弁護士を紹介できるよう努めること、そのための環境作りと活動基盤の整備などの取組が重要である。

 

 (2) 当連合会のこれまでの取組 

当連合会は、2006年9月、弁護士業務総合推進センターに中小企業関連業務推進プロジェクトチームを設け、中小企業・小規模事業者が弁護士へアクセスするための方策の検討などを目的とし、活動を開始した。そして、2年間の活動結果を基に、中小企業・小規模事業者の健全な発展と存続には弁護士の関与が不可欠であるとし、2008年に中小企業・小規模事業者と弁護士相互間のアクセス改善や、相談・紹介・相談窓口機能の強化など9つの提言を行っている。

 

当連合会では、この提言を踏まえ、中小企業・小規模事業者の法的支援活動を拡充し、かつ、弁護士法にのっとった理念を深化させるために、2009年10月、「日弁連中小企業法律支援センター」を発足させ、翌2010年4月には、「ひまわりほっとダイヤル」を開設・運用するなどして、後述する諸活動を鋭意展開して現在に至っている。

 

 (3) 「中小企業の弁護士ニーズ全国調査」からうかがえる課題 

当連合会では、中小企業・小規模事業者を対象に、弁護士のニーズに関する調査を過去2回実施している。第1回目は中小企業・小規模事業者支援活動の指針を得るべく、2006年及び2007年に全国1万5,450社の中小企業・小規模事業者を対象に実施した(回答企業3,214社。以下「前回調査」という。)。そして、第2回目は、2016年、前回調査の継続調査として全国1万5,000社の中小企業・小規模事業者を対象に実施した(回答企業3,887社。以下「今回調査」という。)。

 

この両調査では、回答した中小企業・小規模事業者のほぼ半数において弁護士の利用経験がなく、その理由のほとんどが「特に弁護士に相談すべき事項がない」という理由であったが、その実、これら回答企業の多くが何らかの法的課題を抱えていることも明らかとなった。

 

この回答を企業規模に照らして検討すると、今回調査によれば、訴訟・調停等の法的手続で弁護士を利用した企業の割合は、企業規模によってそれほど大きな違いはない一方で、法的手続以外の事業活動に関する弁護士利用においては企業規模により大きな違いがあることが分かっている。

 

すなわち、弁護士の利用経験がない企業の割合は、売上高、従業員数等の企業規模に反比例しており、例えば、従業員数301人以上の企業では、弁護士の利用経験がない割合は約10%でしかないが、5人以下であれば約68%である等の違いがある。売上高でみると、30億円を超える企業では、弁護士の利用経験がない割合は約14%でしかないが、1億円未満であれば約73%になる。この結果から、どのような規模の中小企業・小規模事業者に対してどのような法的支援に重点を置くべきかや、企業規模の小さな中小企業・小規模事業者に対していかにして法的手続以外の事業活動に関する法的サービスを行き渡らせていくかという観点が、今後の当連合会の活動上必要と思われる。

 

さらに、今回調査によれば、弁護士以外の社外の人に相談した企業が、なぜ弁護士に相談しなかったかを集計すると、「弁護士に相談する問題とは思わなかった」という理由が約52%、「日ごろあまり接点がないため頼みにくい」、「弁護士にツテがなかった」、「相談しにくい」、「弁護士は探しにくい」という理由が合計約60%、「弁護士報酬の基準が分かりにくい」、「他の社外の人と比べて弁護士報酬が高い」という理由が合計約30%に上ることが分かっている。つまり、社内では解決できずに外部の専門家に相談した企業でも、弁護士との接点の持ち方(弁護士が提供できる法的支援内容に対する企業の認知度の低さを含む。)という意味でのアクセス障害及び弁護士費用を理由としたアクセス障害が大きいことが理解できる。

 

 (4) 弁護士会における中小企業支援活動の実情調査等から浮かび上がった課題 

当連合会が2015年に実施した弁護士会における中小企業支援活動の実情調査や、同年及び翌年に開催した全国弁護士会中小企業支援連絡協議会によれば、全国の弁護士会の半数強が中小企業・小規模事業者向けのセミナーやイベントに取り組んでいること(27会)、自治体や商工会議所等の中小企業関連機関・団体等との連携をしていること(29会)、その連携内容は、中小企業・小規模事業者支援に関する関連機関等との覚書締結、関連機関等との定期的な意見交換会及び勉強会の実施、中小企業・小規模事業者向けイベントの共催等、多岐にわたり、各地の弁護士会の創意工夫によって実のある連携が進められており、弁護士会としての取組は徐々に充実しつつあることが確認できた。

 

しかし、中小企業・小規模事業者支援に取り組む精通弁護士を養成するための会員向け研修を実施している弁護士会は全体の30%強にとどまり、また、相当数の弁護士会が会独自の格別な支援活動ができていないなど、会員数が限られた弁護士会における支援活動をどのように充実させていくかなどの課題も浮かび上がってきている。

 

 (5) 小括 

弁護士が、我が国の全事業者数の99.7%、全従業員の70.1%を占める中小企業・小規模事業者の経営安定に寄与することは、新たな産業の創出に与し、就業の機会を増大させ、市場における競争を促進し、地域経済・社会の活性化を促進することとなる。また、今日、多くの中小企業・小規模事業者が抱える重要な課題に法的・実務的知識を背景として対応できる弁護士が的確に関与・寄与していくべきことは、正に時代的な要請にほかならない。中小企業・小規模事業者に対する法的支援は、弁護士法第1条の趣旨にのっとり、法の支配を社会の隅々まで行き渡らせるべき責務を担っている弁護士の使命である。

 

2006年、当連合会が中小企業・小規模事業者に対する法的支援活動に本格的に乗り出してから10年を経て、今回の弁護士ニーズ全国調査や弁護士会における支援活動実情調査等から目下の諸課題が明らかになり、また、大きな社会問題となっている中小企業・小規模事業者の事業承継に私たち弁護士が積極的に関与・支援することが求められている今、私たち弁護士は、中小企業・小規模事業者を更に積極的に支援する覚悟を改めて共有し、諸取組を推進・強化し、また、新たな課題に即応すべく取り組む強い決意を宣明することが要請されているというべきである。

 

中小企業・小規模事業者支援に関して、弁護士が果たすべき役割については、当連合会が中小企業庁と発表した「中小企業の法的課題解決支援のための中小企業庁と日本弁護士連合会の連携について」(2007年2月)を始めとする5つの共同コミュニケにおいても確認してきているところである。

 

2 弁護士会による相談・紹介制度「ひまわりほっとダイヤル」の充実

当連合会は、全国の弁護士会と連携し、中小企業・小規模事業者の弁護士へのアクセス障害を解消するため、2010年4月1日、中小企業・小規模事業者の経営者が日常の経営の悩みや心配事を気軽に弁護士に面談で相談できるシステム「ひまわりほっとダイヤル」を開設し、これまで運営してきた。これは、日弁連中小企業法律支援センターの設置目的である「中小企業が法的サービスの提供を受ける機会が必ずしも十分であるとはいえない現況に鑑み、中小企業による法的サービスの利用を促進するとともに、組織的かつ全国的な法的サービスの提供による中小企業支援態勢を確立・発展させる」ことを具現化した最たるものである。

 

「ひまわりほっとダイヤル」は、中小企業・小規模事業者が全国統一電話番号に架電すると、最寄りの弁護士会の受付窓口につながり、相談申込後、配てんを受けた相談担当弁護士が申込者に電話をして、相談担当弁護士の事務所で面談相談を実施するというもので、担当する弁護士から電話が入ること、相談者が法律相談センターに出向くことなく弁護士の事務所で相談できることなど、従前の相談事業とは一線を画す画期的なスキームである。この制度は、弁護士との接点の持ち方及び弁護士費用に関するアクセス障害を少なくするための方策と合致するものである。

 

受電数は開設当初の2010年度は1万4,186件であったが、2016年度は1万6,720件に達している(以下の統計分析は、2012年6月から2016年12月のデータに基づくものである。)。

 

相談内容は、開設当初から、「契約・取引」、「債権保全・債権回収」、「事業再建・倒産」の相談が大多数を占め、その他、「債務」、「損害賠償」、「雇用・労務」、「クレーム対策」、「会社経営」、「法律・制度の問合せ」、「契約書作成・チェック」、「事業承継・相続」等、中小企業・小規模事業者の経営に関する幅広い分野の相談に対応している。このことは、中小企業・小規模事業者の円滑な運営に当たって法的課題の解決が重要であること、そのために、法律専門家集団たる弁護士会の役割が不可欠であることを示している。

 

利用の経緯(関知経路)としては、「法テラス」が最も多く、次いで「消費生活センター」、「弁護士会」、「役所」、「中小企業関連団体」などが続いている。

 

近時は、日弁連中小企業法律支援センターにおける綿密な広報戦略の下、インターネットでの広報に力を入れている成果もあり、「ホームページ」や「オンライン申込み」をきっかけとする申込みが増えている。

 

利用企業の業種としては、「卸売業、小売業」、「建設業」、「製造業」、「宿泊業、飲食サービス業」及び「生活関連サービス業、娯楽業」の順に多く、続いて、「不動産業、物品賃貸業」、「運輸業、郵便業」、「情報通信業」となっており、一部の業種に限らず、幅広く弁護士が必要とされていることが明らかとなっている。

 

利用企業の規模としては、資本金が「100万円以上~500万円未満」の企業が37%を占め、「1000万円以上~2000万円未満」が21%、「500万円以上~1000万円未満」が15%、「資本金なし」14%と続いている。

利用企業の従業員数としても、「1人~5人」が半数以上(55%)を占め、続いて、「従業員なし」が18%、「6人~20人」が20%である。

 

資本金(相談実施案件)(2012年6月~2016年12月)従業員数(相談実施案件)(2012年6月~2016年12月)


このように、極めて小規模の事業者からの相談が多いこと、及び利用の経緯(関知経路)として法テラスや消費生活センター等が多いことなどから、実情として、「ひまわりほっとダイヤル」は、弁護士との接点が少ない小規模事業者(特に零細事業者)にとっての「駆け込み寺」ないしセーフティネットの役割を担っていることがうかがえ、弁護士会が組織的に取り組む意義・必要性は高い。


相談担当弁護士名簿に登録される会員は、中小企業・小規模事業者の支援に熱意を持っている弁護士が多く、弁護士会によっては名簿登録要件として研修義務を課すなどの工夫がなされている。


また、こうした活動の結果として、今回調査では、約20%の中小企業・小規模事業者に「ひまわりほっとダイヤル」が認知されていることが認められる。


「敷居が高い」と言われていた弁護士へのアクセスが改善されつつあり、各地域の弁護士会と中小企業関係機関・団体等との交流・連携も活発化している。


もっとも、弁護士との接点の持ち方(弁護士が提供できる法的支援内容に対する企業の認知度の低さを含む。)という意味でのアクセス障害については、いまだ解消されていないところであり、「ひまわりほっとダイヤル」という弁護士と中小企業・小規模事業者をつなぐツール及び弁護士が提供できる法的支援内容の更なる周知・広報等、取り組むべき課題が認められる。

 

3 関係機関・団体等との連携・協力関係構築の推進・強化

2009年10月、日弁連中小企業法律支援センターが発足して以降、各弁護士会で、中小企業・小規模事業者向けセミナー等イベントの開催、中小企業関係機関・団体(自治体、商工会議所等)との連携、他士業との連携及び中小企業・小規模事業者支援に取り組む精通弁護士を養成するための会員向け研修の実施等、中小企業・小規模事業者支援活動が展開・蓄積されてきた。


また、当連合会は、全国あまねく弁護士会と地域における中小企業支援機関・団体との連携が構築・増強されることなど、弁護士会による支援活動の活性化を目的に、弁護士会及び弁護士会連合会と共催して、地域における中小企業関係機関・団体の関係者に参加を求め、弁護士の中小企業・小規模事業者支援活動について意見交換する企画を継続して実施してきた。第1回目は2010年9月に熊本県で開催し、北は釧路から南は沖縄まで、2017年2月までの間に合計21回開催するに至っている。


その結果、これらの開催地においては、意見交換会を契機として、弁護士会としての取組が活性化し、また、中小企業関係機関・団体等との連携・協力関係が拡充している。


当連合会と全国の各弁護士会が連携して「ひまわりほっとダイヤル」を開設し、組織的に取り組んだことで、中小企業関係機関・団体等から弁護士会の中小企業・小規模事業者支援活動が評価されるようになり、国の中小企業・小規模事業者支援施策(中小企業支援ネットワーク強化事業、中小企業・小規模事業者ビジネス創造等支援事業、地域プラットフォーム等)の中にも弁護士会が重要な組織として位置付けられるようになりつつある。


一方で、会員数が少ない等の事情により取組が思うに任せない弁護士会もある。


当連合会においては、中小企業庁を始めとする行政官庁、中小企業諸団体等と密に交流・情報交換するほか、中小企業・小規模事業者への法的支援に地域格差が生じないよう、各弁護士会の求めに応じて必要な情報を積極的に提供するとともに、協働態勢をとり、各地の中小企業関係機関・団体等と各弁護士会の連携を促進していく必要がある。

 

4 調査・研究・提言と実践及び費用面でのアクセス障害の解消

 (1) 事業再生支援 

窮境にある中小企業・小規模事業者の再生は、働く場や働きがいを守り、雇用を維持し、地域経済を支えるものであり、人権の擁護や社会の活性化に果たす意義は計り知れず、関係者の多くがその必要性を理解している。他方で、抜本的な再生には、一定の痛みを伴うことや、ややもすると後ろ向きのイメージで捉えられがちな面もあり、中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律が失効した2013年3月以降も、元本返済猶予(リスケジュール)を受けている中小事業・小規模事業者は全国で20万から30万といわれ、事業再生の実現が進んでいないのが実情である。

 

そのような状況下で、交渉や折衝の専門家であり、法的ルールに通じ、危機状況への対応に習熟している弁護士こそが、中小企業・小規模事業者の経営者に寄り添って事業再生を支援する役割を担うのに最適である。弁護士が個別の案件で尽力すべきなのはもちろんであるが、弁護士会は、組織として、仕組み作りや提言、意見交換や情報共有など、中小企業関係機関・団体等に積極的に働きかけて、事業再生の力強い推進を主導していく責務がある。

 

当連合会は事業再生に関し、事業再生の実践に役立つ書式の作成、eラーニング研修等のツールの提供を行い、また、中小企業・小規模事業者や経営者保証人が中立公正かつ簡易迅速に債務の免除を受けられる仕組みとして、最高裁判所や中小企業庁等と協議の上、特定調停制度の新運用を開始し、その活用の周知・促進のため各地での意見交換会・セミナー等を開催している。さらに、中小企業庁、金融庁、金融機関関連団体等と定期的に協議を行い、きめ細やかな意見交換や情報共有を続けているが、現状として上記特定調停制度を活用して抜本的な事業再生を果たすまでに至った実例は少ない等の課題があるため、今後も関連機関等との連携を図りつつ、これらの取組を更に深化する必要がある。

 

 (2) 創業支援 

経営者の高齢化等による中小企業・小規模事業者数の減少という深刻な事態に対し、事業再生や事業承継によって「今ある中小企業・小規模事業者」の消滅を食い止める一方で、「新たに生まれる中小企業・小規模事業者」の誕生を助けることも不可欠であって、両者はいわば車の両輪である。中小企業・小規模事業者支援を実効的なものにする上で、創業支援は事業再生・事業承継と並んで弁護士の支援が欠かせない重要な分野である。

 

また、創業者(これから創業しようとする者や創業して間もない者を含む。)は、既に経営が安定している事業者に比べて法的知識が少ないことが多く、事業体としての基盤が弱いことから、一度法的なトラブルに巻き込まれると経営上致命的な打撃を受けることも少なくない。したがって、創業者にとっては、安定した経営を実現するために、早い時期から法的なリスクの所在を認識し、これに備えることが重要であって、そのために弁護士による支援が有益であることは言うまでもない。

 

しかし、実際には創業支援を担う弁護士はまだまだ少なく、また、創業者自身や中小企業関係機関・団体等にとっても、弁護士が「創業支援を行う専門家」として認識されていないのが現状である。

 

そのような問題意識の下、日弁連中小企業法律支援センターは、第19回弁護士業務改革シンポジウム第1分科会(2015年10月開催)において、弁護士による積極的な創業支援の必要性と弁護士の具体的役割について提言し、創業支援における弁護士の意識を醸成するとともに、中小企業関係機関・団体等に対して弁護士の存在意義を意識付ける機会となった。

 

2016年1月、日弁連中小企業法律支援センター内に創業・事業承継プロジェクトチームを発足させ、創業支援についてのセミナー・法律相談会の実施や広報活動等、本格的な取組を開始している。

 

今後は、「弁護士による創業支援」を多くの創業者や中小企業関係機関・団体等に広げて行くべく、広報の充実や中小企業関係機関・団体等との効果的な連携関係の構築を工夫していくとともに、創業支援を担う弁護士の育成にも力を入れていくこととする。

 

 (3) 事業承継支援 

中小企業・小規模事業者は、前述したとおり、事業承継が十分に進まず、廃業とそれに伴う雇用や技術の喪失が大きな社会問題となっている。

 

そのような中、国も、2016年12月「事業承継ガイドライン」を策定する等、事業承継を促すための体制作りを加速させている。

 

事業承継においては、相続(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の遺留分に関する民法の特例を含む。)、会社法の遵守・活用、M&A(事業譲渡・会社分割等)等、高度な法律知識や複雑な利害関係の調整が必要であるから、経営者を支え、適切な後継者・承継先に対して円滑に事業を承継させ、もって事業承継を成功に導く上で、弁護士の果たすべき役割は極めて大きい。

 

一方で、事業承継においては、法律面のみならず、税務や会計等の専門家の協力や経営者保証に関する金融機関の理解・協力、そして、事業承継に悩む経営者の初期相談窓口といえる商工会・商工会議所等との連携が不可欠であり、弁護士のみで事業承継における諸課題を解決することは困難である。

 

事業承継に関して、弁護士各自が研鑽を積み、個別案件に積極的に取り組むことは当然であるが、併せて、会員向けの研修や情報共有、中小企業関係機関・団体等との意見交換や連携体制の整備等において、当連合会及び弁護士会が果たす役割も非常に大きい。

 

そのような観点から、当連合会は、中小企業庁、金融庁、日本税理士会連合会、日本公認会計士協会等との協議を定期的に行い、各団体の取組や、事業承継に関する実務運用、課題等について、多様な視点から意見交換や情報共有を行っている。また、日本税理士会連合会や日本公認会計士協会とは、相互に研修会等に参加して知見を共有し、今後の連携の枠組みの検討も行っている。

 

事業承継は、中小企業・小規模事業者の存続において不可欠なテーマであるものの、これまで弁護士関与の必要性が十分に認識されていない等の課題も山積している状況である。そこで、当連合会は、今後、事業承継において弁護士が関与することの必要性、重要性の周知に励むとともに、中小企業関連機関・団体等との連携を深化させていくこととする。

 

 (4) 海外展開支援 

昨今の経済社会環境下、取引先の海外進出に伴い、あるいは、自ら積極的に海外の需要を取り込む等の理由で、海外取引や海外進出等の「海外展開」を進める中小企業・小規模事業者が全国的に増加傾向にある。海外展開においては、国内よりも幅広く様々なリスクに対応しなければならず、海外展開を行う中小企業・小規模事業者に対する法的支援の必要性が高まっている。こうした状況に応えるべく、当連合会では、2012年1月、中小企業の海外展開業務の法的支援に関するワーキンググループを設置して、海外展開業務の経験豊かな弁護士を中小企業・小規模事業者に紹介する「中小企業海外展開支援弁護士紹介制度」(以下「本紹介制度」という。)を創設し、現在全国11の地域(札幌地域、宮城県、東京都、神奈川県、新潟県、愛知県、京都府、大阪府、広島県、香川県及び福岡県)の対応可能弁護士を紹介できる体制を整えたほか、海外展開支援を担う人材の裾野を広げるべく、対応可能な弁護士を育成するための研修等を実施している。また、国内の中小企業関係機関・団体等との間で、セミナー講師や法律相談員の派遣、支援事業への協力等、中小企業・小規模事業者の海外展開支援に関する様々な連携・協力を行っている。

 

このように、当連合会では鋭意、弁護士による中小企業・小規模事業者の海外展開業務の法的支援に資する制度作りや環境整備に取り組んでいるが、本紹介制度については、想定される潜在的なニーズの数に比べて利用件数はまだまだ少ないのが現状であり、制度の周知と実施地域の更なる拡大による利用促進が課題である。また、海外展開を進める中小企業・小規模事業者は全国的に増加傾向にあるにもかかわらず、その法的支援を担う人材は都市部に偏在している。全国の中小企業・小規模事業者がまずその拠点の近くで気軽に海外展開に関する法的サービスの提供を受けられるように、海外展開業務を扱う弁護士の裾野を全国に広げる必要がある。

 

 (5) 弁護士保険等による弁護士費用の負担軽減制度創設の必要 

今回調査の結果明らかとなったのは、中小企業・小規模事業者が法的課題(困りごと)への対処について企業として一番問題と感じていることは、対応コストをかけられないということである。

 

特に小規模事業者においては、弁護士への相談や依頼をするための費用が大きな障害となっていることは明らかである。

 

また、個人対象の「弁護士保険」の存在を知っている企業は15%にすぎず、大多数の企業には弁護士保険が知られていない。

 

今回調査では、多くの企業が、企業対象の弁護士保険ができると仮定した場合、弁護士保険への加入を検討する際に、自己負担額や補償内容、付帯サービスの充実を重視すると回答している。保険料については、約25%が月額1,000円、約28%が月額3,000円であれば弁護士保険への加入に前向きであると回答している。また、月額3,000円以上と回答した企業は、約48%であった。一方、弁護士保険への加入に消極的な企業では、「保険の補償内容がよく分からない」というのが大きな理由の1つとなっている。

 

つまり、弁護士費用が保険で賄えるのであれば、弁護士に相談、依頼したいと考える企業が一定層存在するのである。このような需要に応えられるような中小企業・小規模事業者向けの保険あるいは保険同様の弁護士費用に関する共済制度などの研究・開発とそのアイデアを実現すること、そして、広く細やかな広報を行い、弁護士保険あるいは弁護士費用に関する共済制度等への加入を促すことが、費用面での障害を除去することとなり、中小企業・小規模事業者に対する現実の法的支援活動の実現にもつながることになる。

 

当連合会としては、喫緊の課題として弁護士保険あるいは弁護士費用に関する共済制度などの研究・開発を検討・推進する必要がある。

 

5 研修制度の充実等による弁護士の提供業務の高度化

弁護士が中小企業・小規模事業者をあらゆる場面において法律的に適時、有効かつ適切に支援する上においては、幅広く関係の法令・裁判例に通暁することはもちろん、各種の中小企業・小規模事業者支援の公的制度や企業会計に対する理解、さらには事業者の業界事情に関する理解も期待されている。弁護士に対するアクセス障害の大きな理由の1つとして、誰がその法的課題に強いかが分からない、どのような弁護士であるか分からない、弁護士が何をどこまでしてくれるのか分からない等、弁護士側の精通度・専門性、つまりは弁護士と顔が見える関係にないことに対する不安が根強いことは、前回調査及び今回調査や各地で重ねてきた意見交換会においても繰り返し指摘されているところである。


この点、当連合会では、これまでも日弁連中小企業法律支援センターを中心に、中小企業・小規模事業者支援に関する研修の企画・実施に注力しており、会員による随時の自己研鑽にも役立つように整備されている。また、海外展開支援、事業再生、事業承継支援等の今日的課題についても、研修会を繰り返し、実務書を刊行する等、会員に対する実務的なツールの作成・提供を行ってきた。また、各弁護士会においても、それぞれに創意工夫を凝らして、中小企業・小規模事業者支援に資する研修を企画・実施している状況にあり、「ひまわりほっとダイヤル」の名簿登載やその更新(継続)に際して専門研修の受講を義務付ける弁護士会の取組例などもある。


しかし、中小企業・小規模事業者に対する支援に資する知識や情報は幅広いだけではなく奥も深く、当連合会は各弁護士会とも連携して、研修制度を更に充実させるとともに、業務情報の提供に努めることとして、「ひまわりほっとダイヤル」を始めとする弁護士による中小企業・小規模事業者に対する支援活動を全うせしめるべく取組を推進することとする。

 

6 広報・啓発

当連合会は、上記の諸取組の推進に当たって、中小企業・小規模事業者支援における弁護士の具体的役割や弁護士関与の必要性に資する周知・広報活動を継続して行ってきた。その結果、中小企業関係機関・団体等から弁護士会の中小企業・小規模事業者支援活動が評価されるようになり、国の中小企業・小規模事業者支援施策の中にも弁護士会が重要な組織として位置付けられるようになりつつある。

 

もっとも、今回調査によれば、弁護士との接点の持ち方(弁護士が提供できる法的支援内容に対する企業の認知度の低さを含む。)という意味でのアクセス障害はいまだ解消されていないとの課題がうかがえるところであり、弁護士が提供できる法的支援内容に関しての更なる周知・広報に努める等、取り組むべき課題が認められる。

 

当連合会は、各弁護士会と連携・協働して、中小企業・小規模事業者が抱える法的課題について、中小企業・小規模事業者自身の課題への気付きに資するよう、また、司法制度や弁護士へのアクセス障害を取り除き、弁護士が適切かつ効果的にその役割を果たし得るため、中小企業・小規模事業者が抱える法的課題や新たに生起する課題についてセミナー及び法律相談会等を実施するとともに、上記の諸取組や中小企業・小規模事業者支援における弁護士の役割の周知に資する更なる広報・啓発に努める。

 

7 更なる積極的な支援活動への取組の決意

当連合会は、以上のことを踏まえ、上記宣言のとおりの法的支援活動に精力的に取り組み、中小企業・小規模事業者の健全な経営と持続的な成長を促進し、もって、地域経済・社会の活性化を図るとともに、経営者・事業者、従業員、取引先、その家族等の全ての関係者の暮らしと権利が守られる社会の実現を目指す決意である。