安保法制に反対し、立憲主義・民主主義を回復するための宣言

 

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「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律」(平和安全法制整備法)及び「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律」(国際平和支援法)(以下併せて「安保法制」という。)が、本年3月29日に施行された。

 

安保法制は、「存立危機事態」なる要件の下に、歴代内閣が憲法上許されないとしてきた集団的自衛権の行使を容認した。また、「重要影響事態」や「国際平和共同対処事態」において外国軍隊の武力行使と一体化したといえる範囲にまで後方支援を拡大し、国連平和維持活動(PKO)等に従事する自衛隊に対しては、「駆け付け警護」等の新たな任務と任務遂行のための武器使用権限を付与することを認めた。さらには艦船・航空機を含む米軍等外国軍隊の武器等を防護するための武器使用を自衛官に認めたものである。

 

安保法制が容認した集団的自衛権の行使や後方支援の拡大等は、海外での武力の行使を容認し、又は、武力の行使に至る危険性が高いものであり、日本国憲法前文及び第9条に定める恒久平和主義に反する。また、憲法改正手続を経ずに、閣議決定及び法律の制定によって実質的に憲法を改変しようとするものであり、立憲主義に反するものである。

 

また、国会(第189回国会)の審議において、政府は集団的自衛権の行使を容認する根拠として、1972年10月14日に参議院決算委員会に提出された政府見解や1959年12月16日に最高裁判所が出したいわゆる砂川事件最高裁判決を挙げていたが、これらは根拠になり得ないものであり、外国領域における集団的自衛権行使の唯一想定される適用場面として説明されたホルムズ海峡の機雷封鎖も、参議院審議の最終局面では立法事実となり得ないことが明らかになった。このように、集団的自衛権の行使を容認する政府の説明は説得力に乏しく、報道機関の世論調査においても同国会での成立に反対するとの意見が多数を占めていた。

 

しかし、2015年7月16日の衆議院本会議に続き、同年9月17日の参議院「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会」においても、採決が強行された。憲法違反の安保法制が、言論の府であるべき国会において、十分な説明が尽くされないまま採決が強行されたことは、立憲主義・民主主義国家としての我が国の歴史に大きな汚点を残したものであった。

 

そして、安保法制が本年3月29日に施行されたことにより、我が国は、集団的自衛権に基づく武力の行使や、後方支援として米軍等へ弾薬を提供したり、PKOや米軍等の武器等防護として自己保存を超える武器を使用したりすることで、海外における武力の行使に踏み出しかねない段階に至った。立憲主義及び民主主義の危機はより一層深刻であり、平和国家としての我が国の在り方が変わろうとしている。

 

しかし、このような事態を座視するわけにはいかない。

 

安保法制の立法化の過程では、若者、母親、学者その他の市民各界・各層が、自発的かつ主体的に言論、集会等の行動を通じて政治に参加する民主主義の大きな発露があった。そのような政治参加の声を国政に反映させることは、立憲主義及び民主主義の回復を支えるものである。また、安保法制が施行された今、人権を擁護し、立憲主義及び民主主義を回復するために、弁護士会を含む法曹の役割、そして司法が果たすべき責任もまた重大である。

 

当連合会は、2015年5月29日の定期総会において、戦前、弁護士会が戦争の開始と拡大に対し反対を徹底して貫くことができなかったことを省み、安保法制に反対し、立憲主義を守る活動に全力を挙げて取り組むことを宣言した。当連合会は、これまでの取組の成果を踏まえ、改めて憲法の立憲主義及び恒久平和主義の意義を確認するとともに、今後とも安保法制の適用・運用に反対しその廃止・改正を求めることを通じて立憲主義及び民主主義を回復するために、市民と共に取り組むことを決意する。

 

以上のとおり宣言する。

 

 

2016年(平成28年)5月27日

日本弁護士連合会

 

提案理由

第1 立憲主義及び恒久平和主義の意義

立憲主義とは、憲法によって個人の自由・権利を確保するために国家権力を制限することを目的とする近代憲法の基本理念である。日本国憲法は、基本的人権の永久・不可侵性を確認するとともに(第97条)、憲法の最高法規性を認め(第98条第1項)、国務大臣、国会議員等の公務員の憲法尊重擁護義務を規定し(第99条)、立憲主義を基本理念としている。

 

また、日本国憲法は、全世界の国民が平和的生存権を有することを確認するとともに(前文)、戦争と武力による威嚇又は武力の行使を禁止することに加え(第9条第1項)、戦力の不保持、交戦権の否認を定めることで(同条第2項)、徹底した恒久平和主義を基本原理とした。

 

日本国憲法は、その前文において「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」としており、立憲主義に基づく平和主義を宣言している。

 

第2 安保法制は恒久平和主義・立憲主義に反している

1 はじめに

 

安保法制は、2015年7月16日衆議院本会議で、同年9月19日参議院本会議でそれぞれ可決され、本年3月29日に施行された。

 

2 安保法制は恒久平和主義・立憲主義に反している

 

安保法制の内容は、次の理由から、日本国憲法の恒久平和主義及び立憲主義に反している。

 

(1) 第一に、我が国に対する武力攻撃が発生していない場合においても、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされる等の要件を満たす場合(存立危機事態)に、自衛隊が地理的限定なく国外に出動して米軍等外国の軍隊と共に武力を行使することを可能としている。これは、集団的自衛権に基づく武力の行使を容認するものである。

 

(2) 第二に、我が国の平和と安全に重要な影響を与える「重要影響事態」や、国際社会の平和と安全を脅かす「国際平和共同対処事態」において、現に戦闘行為が行われている現場でなければ、地理的限定なく世界中で、武力を行使する米軍等外国の軍隊に、自衛隊が弾薬の提供等までを含む支援活動(後方支援)を行うことを可能としている。これでは、自衛隊の活動は従前禁止されてきた外国軍隊の武力行使との一体化は避けられず、海外での武力の行使に至る危険性の高いものである。

 

(3) 第三に、これまでの国連平和維持活動(PKO)のほかに、国連が統括しない有志連合等の「国際連携平和安全活動」にまで活動範囲を拡大している。そしてその両方において、従来禁止されてきた安全確保業務、「駆け付け警護」、共同宿営地防護を新たな任務とし、それらに伴う任務遂行のための武器使用等を認めている。しかし、任務遂行のための武器使用は、相手からの妨害を排除するためのものであるから、自衛隊員を殺傷の現場にさらし、さらには戦闘行為から武力の行使に発展する道を開くものである。これは、海外での武力の行使に至る危険性の高いものである。

 

(4) 第四に、武力攻撃に至らない侵害への対処として、新たに艦船・航空機等を含む外国軍隊の武器等の防護を自衛官の権限として認めている(自衛隊法第95条の2)。これは、現場の判断により戦闘行為に発展しかねない危険性を飛躍的に高め、実質的に集団的自衛権の行使と変わらない事態すら危惧される。

 

(5) このように安保法制は、集団的自衛権の行使や海外での武力の行使を容認することになる。これは、戦争の違法化(戦争放棄に関する条約(パリ不戦条約、1928年)・国際連合憲章第2条第3項及び第4項)を推し進めて、戦争の放棄のみならず、戦力の不保持と交戦権の否認を規定した日本国憲法第9条第2項の意義を否定するものである。そして、同時に、これら武力の行使は、自衛隊員はもとより、自国・他国の国民を殺傷する現実をもたらし、諸国民の平和的生存権を保障する日本国憲法前文にも違反するものである。さらに、安保法制は、後記のとおり、閣議決定に基づき、法律の制定・改正によって、日本国憲法第9条等の恒久平和主義の実質的内容を改変しようとするものであり、それは、国民の自由・権利そして平和を、権力に縛りをかける憲法によって守ろうとする立憲主義を踏みにじるものである。

 

第3 立憲主義及び民主主義の危機

1 安保法制の提出に至る経緯

 

(1) 政府は、2014年7月1日、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」と題する閣議決定(以下「2014年閣議決定」という。)を行った。2014年閣議決定は、集団的自衛権の行使容認など前記安保法制の基本的枠組と内容を内閣として決定したものである。

 

(2) 日米安全保障協議委員会は、2015年4月27日、新たな日米防衛協力のための指針(以下「新ガイドライン」という。)に合意した。

 

新ガイドラインは、安保法制を先取りしようとしたものであった。

 

(3) 政府は、2014年閣議決定や日米防衛協力のための指針の見直しを経て、2015年5月14日に安保法制法案を閣議決定し、翌日、同法案を国会に提出した。

 

当連合会は、2014年閣議決定、新ガイドライン、安保法制法案の国会提出などの度に、意見書や会長声明等により、集団的自衛権に基づく武力の行使や海外での武力の行使を容認することの危険性や違憲性を繰り返し訴え、安保法制の成立に反対してきた。

 

2 安保法制をめぐる国会審議

 

(1) 安保法制は、2015年5月15日、衆議院に提出され、同院の「我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会」(以下、衆議院、参議院にそれぞれ設けられたこの委員会を「特別委員会」という。)での審議が開始された。同年6月4日、衆議院憲法審査会において、与党推薦者を含む参考人3名の憲法学者全員が、安保法制が憲法違反であると発言したことを契機に、安保法制の違憲性が中心的な争点となった。

 

(2) 集団的自衛権に関しては、従来の憲法解釈を変更した根拠について審議された。政府は、1972年10月14日に参議院決算委員会に提出された政府見解(以下「昭和47年見解」という。)の基本論理を前提に、日本を取り巻く安全保障環境の変化を理由に、昭和47年見解の最後の結論部分を変更したとの説明を繰り返した。しかし、昭和47年見解は、日本国憲法前文の平和的生存権や第13条を根拠に「自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛の措置をとること」を禁じていないとしながらも、平和主義を基本原理とする日本国憲法が自衛のための措置を無制限に認めているとは解されないとした上で、自衛の措置は、あくまで「外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権限が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態」であることが前提となること、そしてそれは、我が国に対する急迫、不正の侵害に対処する場合に限られるのであって、「他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されない」と述べている。すなわち、昭和47年見解は、日本国憲法の下で集団的自衛権の行使が容認できないという規範を定立するための論理を述べたものである。したがって、昭和47年見解と同じ論理を根拠に、集団的自衛権に基づく武力の行使を容認する結論を導き出すことは理論的に矛盾している。昭和47年見解は、集団的自衛権に関する従来の憲法解釈を変更する根拠にはなり得ない。

 

また、砂川事件最高裁判決が日本国憲法の下で集団的自衛権の行使が認められる根拠となるかについて、政府関係者の発言も二転三転する中で、首相が国会答弁で根拠になると答弁をした(2015年6月26日衆議院特別委員会)。しかし、砂川事件では、在日米軍が日本国憲法第9条第2項の「戦力」に該当するのかが争われたものであり、また日米安全保障条約の違憲性についていわゆる統治行為論により憲法判断を回避したものであって、我が国が集団的自衛権を行使することについては問題にもなっておらず、同判決は、日本国憲法の下で集団的自衛権の行使が許される根拠にはなり得ない。

 

さらに、政府からは、存立危機事態における外国領域における集団的自衛権行使の唯一想定される適用場面の例として、ホルムズ海峡における機雷掃海の必要性が強調され、当初衆議院特別委員会での審議では、その例を理由に存立危機事態を認める必要性について繰り返し説明されていた。ところが、2015年9月14日の参議院特別委員会では、その事態を具体的に想定していないと答弁され、ホルムズ海峡における機雷掃海が存立危機事態を認めるべき立法事実になり得ないことが明らかとなった。また、邦人母子などが乗った米艦の防護の必要性も、首相が当初から強調していたところ、これも参議院特別委員会の審議の中で、邦人の乗船の有無は無関係であることが確認されている。

 

それ以外にも、存立危機事態の定義が不確定であること、その判断を政府に委ねることの危険性、専守防衛概念や海外派兵禁止との関係など多数の論点が指摘されたが、必ずしも十分に審議されなかった。

 

(3) 後方支援に関しては、従来禁止されていた弾薬の提供や戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機への給油・整備を認めることは、外国軍隊の武力行使との一体化とみなされることや、重要影響事態の定義の不確定性とそれを政府が判断することの危険性などが指摘されたが、必ずしも十分に審議されなかった。

 

(4) PKOに関しては、「駆け付け警護」等の新たな任務遂行に伴う武器の使用権限付与の危険性、交戦権が否認されている下で自衛隊員が地元住民を殺傷した場合の武力紛争法(国際人道法)の適用の有無などが指摘されたが、これらの点についても、必ずしも十分に審議されなかった。

 

(5) 国会審議においては、集団的自衛権の行使を容認する根拠についての政府の説明は合理性を欠き、かつ変遷しており、その他の論点への説明も必ずしも十分ではなく、政府の説明は説得力に乏しいと言わざるを得ない。

 

3 衆議院本会議での採決の強行

 

衆議院特別委員会での国会審議が進む中で当該国会での成立に反対する世論が6割を超えるまでになった(2015年6月20日及び21日の朝日新聞の世論調査では反対65%、賛成17%。同日共同通信の世論調査では反対63.1%、賛成26.2%など)。そのような状況の下、2015年6月22日、衆議院本会議において、会期を9月27日まで95日間延長することが賛成多数で議決された。

 

その後も安保法制の成立に反対する世論の高まりが続く中で、同年7月16日、衆議院本会議において、安保法制の採決が強行され可決された。

 

当連合会は、同日、「安全保障法制改定法案に反対し、衆議院本会議における採決の強行に抗議する理事会決議」を公表し、衆議院において採決が強行されたことは、世論調査にも示されている民意を踏みにじるものであり、到底容認できないとして、安保法制の成立することのないよう、今後も引き続き国民と共に全力を挙げて取り組む決意を表明した。

 

4 市民の自発的かつ主体的な政治参加の広がり

 

衆議院特別委員会や本会議での採決が強行される中で、立憲主義及び民主主義が破壊されようとしていることへの危機感が市民の間に高まり、個々人が主権者として自発的かつ主体的に政治に参加し、意思を表明する動きが若者、母親及び学者などを含む市民各層に広がっていった。2015年8月30日に国会議事堂前で開催された集会には、12万人を超える市民が参加した。また、参議院での強行採決が危ぶまれる同年9月14日には、国会議事堂前に4万5000人の市民が集まり、その後も同月15日から19日にかけて連日、多数の市民が国会議事堂前に集まり、安保法制反対の声をあげるといった状況が続いた。

 

5 参議院特別委員会での採決の強行と参議院本会議での可決

 

報道機関の世論調査では、政府の説明は不十分であり当該国会での成立に反対するとの意見が多数を占めていたが、2015年9月17日、参議院特別委員会は前日横浜で開催された地方公聴会の報告もされず、総括質疑も行わずに、突然質疑を打ち切り、速記には「議場騒然、聴取不能」と記載される異常な混乱の中で、採決が強行された。なお、参議院特別委員会の会議録には、委員長の職権で「本日の本委員会における委員長(鴻池祥肇君)復席の後の議事経過は、次のとおりである。」「速記を開始し、…右九案を議題とし、…右両案の質疑を終局した後、いずれも可決すべきものと決定した。なお、両案について附帯決議を行った。」と記載されている。また会議録には、「参照」として横浜地方公聴会速記録が添付されて掲載されている。

 

また、同月19日未明には、参議院本会議で安保法制法案が採決された。当連合会は、同日、「安全保障法制改定法案の採決に抗議する会長声明」を公表し、参議院特別委員会が採決を強行し、参議院本会議において本法案が採決されたことに強く抗議するとともにデモや集会に参加し、本法案に反対する動きが全国各地に広がったことは、我が国の民主主義の健全性をあらためて示したものといえるとし、今後も国民・市民とともに、安保法制の適用・運用に反対し、その廃止・改正に向けた取組を行う決意を表明した。

 

6 立憲主義及び民主主義の危機

 

安保法制をめぐり繰り返しその違憲性が指摘されてきたが、国会審議において政府からは説得力のある説明が行われず、むしろ集団的自衛権の行使を容認したことについて政府の説明が成り立たない状況になった。また、報道機関の世論調査では当該国会での成立に反対するとの意見が多数を占めていた。さらに、多くの憲法学者、歴代の内閣法制局長官、元最高裁長官を含む最高裁判事経験者からも安保法制は憲法違反であると指摘されていた。それにもかかわらず、安保法制法案は、衆議院本会議に続き、参議院特別委員会においても採決が強行された上、参議院本会議で可決されるに至った。

 

このように、憲法違反の安保法制が、言論の府であるべき国会において、十分な説明が尽くされないまま採決が強行されたことは、立憲主義・民主主義国家としての我が国の歴史に大きな汚点を残したものであった。

 

第4 安保法制の施行による立憲主義の危機の深化

1 安保法制の施行

 

政府は、2016年3月22日、安保法制の施行について閣議決定をし、同法は同月29日施行された。

 

これにより、我が国は、集団的自衛権に基づく武力行使や、戦闘行為の現場近くで弾薬の提供等までを含む後方支援、PKOや米軍等の武器等防護として自己保存を超える武器の使用を行うなど、海外における武力の行使に踏み出しかねない段階に至った。

 

既に防衛省は、民間会社との間で、自衛隊員や武器の運搬に使う民間フェリー確保のための事業契約を締結したことや、民間船舶の船員を予備自衛官として確保することなどが報じられている。

 

このように準備が進められる中で、安保法制が施行されることにより、立憲主義の危機はより一層深刻であり、平和国家としての我が国の在り方が根本から変わろうとしている。

 

2 海外でのPKOへの新たな任務と権限の付与

 

当面危惧される一例が、南スーダンにPKOとして派遣されている自衛隊への新たな任務と権限の付与であるといわれている。

 

PKOは、伝統的には、紛争当事者の停戦合意、中立性の維持、自己防衛以外の武力不行使の原則の下での停戦監視が主たる任務とされ、軽武装でその任務に当たってきた。しかし、南スーダンを含め冷戦崩壊後のPKOにおいては、その主たる任務が住民保護とされ、そのための武力行使権限も付与されている。そのため、任務遂行の過程で住民に紛れた武装勢力からPKO部隊が攻撃を受け、それに反撃することで武力紛争状態になりPKO部隊自身が国際法上の紛争当事者(交戦主体)になる事態が生じている。

 

南スーダンにおいて武力紛争が継続していることが指摘されている中で(2016年2月4日衆議院予算委員会での質疑)、日本国憲法第9条第2項で交戦権を放棄している日本の自衛隊が、安全確保業務、「駆け付け警護」、宿営地共同防護等の新たな任務と、その任務遂行のための武器使用等の権限が付与されて派遣されることになれば、自衛隊員が自ら殺傷し、殺傷されるという非常に危険な状態に至るおそれがより一層現実化する。

 

第5 立憲主義・民主主義の回復に向けた展望

1 立憲主義回復における司法の果たすべき役割

 

近代立憲主義憲法は、個人の権利・自由を確保するために国家権力を制限することを目的とするが、この立憲主義思想は、法の支配の原理と密接に関連する。

 

法の支配の原理は、専断的な国家権力の支配(人の支配)を排斥し、権力を法で拘束することによって、国民の権利・自由を擁護することを目的とする原理であるが、そこでは憲法の最高法規性の観念、権力によって侵されない個人の人権、法の内容・手続の公正を要求する適正手続に加えて、権力の恣意的行使をコントロールする裁判所の役割が重要である。

 

憲法違反の安保法制が施行されるに至ったことから、今後、安保法制の適用・運用から個人の基本的人権を擁護し、立憲主義を回復するために、法曹の役割、そして司法の果たすべき責任は重要である。立憲主義が侵されようとしている中で、司法には、裁判手続を通じて立憲主義を回復することが期待されている。

 

2 市民の自発的かつ主体的な政治参加の広まり

 

安保法制に関する国会審議の在り方や採決強行を受けて、若者、母親、学者その他の市民各層に立憲主義及び民主主義が侵されようとしていることへの危機感が強まり、そのことが市民の自発的かつ主体的な政治参加の広がりを生み出してきた。

 

市民が集会・デモなどに参加するなど、自発的かつ主体的に言論、集会等の行動を通じて政治に参加し国政に民意を反映させることは、民主主義の大きな発露でありその健全性を示すものである。それは、立憲主義及び民主主義の回復を支えるものである。

 

3 当連合会、弁護士会及び弁護士会連合会の取組

 

戦前、弁護士会は、言論・表現の自由が失われていく中、戦争の開始と拡大に対し反対を徹底して貫くことができなかった。今、弁護士及び弁護士会が「基本的人権を擁護し、社会正義を実現する」という立場から意見を述べ行動しなければ、弁護士及び弁護士会は、先の大戦への真摯な反省と、そこから得た痛切な教訓を生かせないことになる。

 

当連合会、全国の弁護士会及び弁護士会連合会は、このような立場から、安保法制に関する憲法上の問題点を解明しそれを広く訴え続けてきた。

 

立憲主義及び民主主義の危機がより一層深刻になる中で、立憲主義及び民主主義を回復するために、弁護士会がその責任を果たすことが更に求められている。

 

4 立憲主義・民主主義の回復のために

 

2015年10月21日、衆議院において総議員の4分の1以上の議員が臨時国会の召集を求めたのに対し、政府は召集を見送った。憲法第53条は、いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、「内閣は、その召集を決定しなければならない」と定めているが、その決定を行わなかった。

 

憲法違反の安保法制の可決・施行に続き、臨時国会の召集に応じないことや政府関係者が国家緊急権の創設や日本国憲法第9条の改変等に言及する状況の下、当連合会は、これまでの取組の成果を踏まえ、改めて憲法の立憲主義及び恒久平和主義の意義を確認するとともに、今後とも憲法に違反する安保法制の適用・運用に反対し、その廃止・改正を求めることを通じて、立憲主義及び民主主義を回復するために、市民と共に取り組むことを決意する。