より身近で頼りがいのある司法サービスの提供に関する決議-真の司法過疎解消に向けて-

当連合会は、1990年代以降、「市民にとって利用しやすい、開かれた司法」、「いつでも、どこでも、だれでも良質な司法サービスを受けられる社会」の実現を目指し、司法サービスの全国地域への展開に取り組んできた。特に弁護士過疎・偏在の解消に関しては、1999年の「日弁連ひまわり基金」の設置と全会員からの特別会費の徴収によって、全国に数多くの法律相談センターとひまわり基金法律事務所が開設・運営されるようになり、加えて2007年に創設された「弁護士偏在解消のための経済的支援」制度の後押しによって、各地に法律事務所の開設が進められてきた。

 

他方で、国も総合法律支援法の下、2006年から日本司法支援センター(以下「法テラス」という。)の業務を開始させて、民事法律扶助予算を増額させ、被疑者国選弁護制度及び国選付添人制度などを立ち上げるとともに、司法過疎地域事務所にスタッフ弁護士を配置して、司法過疎解消の役割を担うところとなった。

 

こうした取組の結果、2011年12月には地方裁判所支部管内における弁護士ゼロワン地域が一旦解消されるところとなり、司法過疎の問題は、こと弁護士過疎・偏在について見れば、その解消に向けて大きな進展を遂げたといってよい。今後は、地方裁判所支部単位に限ることなく、必要性が高いと判断される地域に必要な法律事務所が存在し、また、様々な事案に対して、市民がより身近に弁護士のサービスを受けられる態勢の確立が求められるところである。

 

しかし、当連合会の弁護士過疎・偏在解消の取組を通じて改めて明らかとなったのは、いかに地方裁判所支部管内に弁護士が存在するようになっても、それのみでは真の司法過疎の解消には、なおほど遠いということである。

 

特に、司法基盤整備の面では、現に裁判官・検察官の非常駐支部は多数存在し、訴訟や調停の期日が先送りされ、緊急性の高い事件に即応できなかったり、労働審判手続や民事執行手続等の一定事件について支部では取扱いができないなど、支部地域住民の多くは本庁地域住民と同程度の法的サービスを受けることができず、人権保障の観点からも大きな問題が生じている。

 

この点に関し、当連合会は、既に2000年5月26日の定期総会で採択した「司法サービスの全国地域への展開に関する決議」において同様の指摘をしたが、10年以上経過しても支部地域の司法基盤は整備されるどころか明らかに後退している。

 

このような状況を踏まえ、司法が市民にとってより身近で頼りがいのあるものとなるように、当連合会は、次のとおり取り組む決意である。

 

  1. 引き続き地方裁判所支部単位の弁護士ゼロワン地域解消状態を維持するとともに、地方裁判所支部単位に限らず、アクセスの不便性や具体的ニーズを考慮して必要性が高いと判断される地域に必要な法律事務所の設置を進める。
    また、法テラスや地方自治体等と連携しつつ、法律相談センターをはじめとする法的サービスの提供態勢を更に整備するとともに、その提供に際しては、利用者市民の視点に立って、様々な事案やニーズに対応でき、相談や事件受任に民事法律扶助制度の利用が可能となるようにする。
    そして、これら法律事務所の設置や法律相談センターによる相談体制を継続していくため、どのような財政的負担が必要か、今後検討していく。
  2. 国に対し、今なお深刻な司法過疎の解消を図り、司法基盤の整備とその充実を図るため、裁判官・検察官の増員による支部の裁判官・検察官の常駐化とともに、労働審判や民事執行手続等を取り扱うことのできる裁判所支部を増やすなど、支部機能の大幅強化を求める。また、多くの市民に利用しやすく、使い勝手の良い法的サービスを提供するために、法律扶助予算の更なる増額と扶助対象案件の拡大を求める。
  3. 地方自治体に対し、地域における住民への司法サービスの実施及び体制の整備に関し、必要な措置を講ずることを求めるとともに、当連合会と連携して、国に対し司法基盤整備の充実を強く働きかけるよう求める。

 

以上のとおり決議する。

2012年(平成24年)5月25日
       日本弁護士連合会

 

(提案理由)

第1 司法過疎問題の本質(過疎・偏在対策の意義)

憲法法第32条は「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない」と規定し、裁判を受ける権利を保障しているが、これは、既にでき上がった裁判制度の枠内で裁判を受ける権利を認める趣旨だけではなく、国に対し裁判を受ける権利を保障するに相応しい裁判制度の構築を要求する趣旨も含まれており、その意味で、裁判を受ける権利の保障は、国に対しそのような内実を持った裁判制度を整備し、それを通じて国民に司法的救済を与える義務を負わせるものと考えるべきである。

 

ところで、裁判を受ける権利は、元来裁判所にアクセスする権利とでも呼ぶべきものである。憲法第32条が、全ての人が裁判制度を通じて自己の権利を現実に行使し得る機会を保障したものとするなら、いかなる地域に住む人であっても裁判所にアクセスする機会が保障されなければならず、国はそのような内実を備えた下級審裁判所を構築する責務を負うものと解さなければならない。そうすると、憲法第76条第1項は下級審裁判所の配置を「法律の定めるところによる」と規定しているが、身近に裁判所が存在しない、あるいは裁判官が常駐しないという司法過疎の問題は、裁判を受ける権利の保障にかかわる問題ということができる。

 

同じことは弁護士過疎・偏在の問題にも当てはまる。現実に権利を行使して、権利の内容たる利益を享受し得るためには、法律の専門家である弁護士の助力を必要とすることが多い。とりわけ、裁判制度を通じて自己の権利を実現しようとする場合には、しばしば弁護士の助力が不可欠ですらある。そこで、人が個人として尊重され、社会の構成員全てに、法によって与えられた権利を現実に実現する機会が与えられるべきとするなら、市民が容易に弁護士を利用する機会が保障されなければならない。言い換えれば、弁護士にアクセスする権利ということができる。

 

この権利を保障する責務は国にあるが、我が国においては、弁護士法が弁護士及び弁護士会を公的性格の強いものとし、弁護士を法律分野における高度の総合的な専門職とみなし、法律事務の独占を認めており(同法第72条)、かつ、このような職責を有する弁護士の登録、指導、監督、懲戒、報酬等について、完全な自治権を付与していることからすれば、我が国の弁護士及び弁護士会の責務は、諸外国に類を見ないほど重いといわなければならない。ここに、当連合会、弁護士会連合会及び弁護士会が、弁護士過疎・偏在の問題に取り組むべき所以が存する。

 

第2 弁護士過疎・偏在解消の経過(現状と課題)

1 当連合会の取組

当連合会は、1990年代以降、「市民にとって利用しやすい、開かれた司法」、「いつでも、どこでも、だれでも良質な司法サービスを受けられる社会」の実現を目指して司法改革に取り組んできた。1996年5月24日の定期総会では、市民が容易に弁護士に相談し、依頼することができる体制の確立を目指し「弁護士過疎地域における法律相談体制の確立に関する宣言」(以下「名古屋宣言」という。)を採択し、弁護士過疎・偏在問題の解決のために全力を挙げて取り組む決意を表明した。

 

その後、当連合会は、1999年9月、「日弁連ひまわり基金」を設置して、弁護士過疎・偏在対策の財政的基盤を整備することとし、法律相談センターの開設・運営についての財政的支援を開始し、併せて、ひまわり基金法律事務所制度と弁護士定着支援制度を創設して、弁護士過疎地域における法律事務所の設置・展開にも積極的に取り組むこととなった。「日弁連ひまわり基金」の主たる財源には会員からの特別会費が充てられ、2000年1月から現在まで、特別会費の徴収が続けられてきた。

 

さらに、当連合会は、2007年に、弁護士過疎地域より広い「偏在解消対策地区」を設定し、そこに独立開業する弁護士等を支援する「弁護士偏在解消のための経済的支援」制度を導入した。この制度により、各地の弁護士会連合会や弁護士会が弁護士過疎・偏在対策のための弁護士を養成する拠点事務所を設立したり、各地で経済的支援を受けて独立開業する弁護士が続々と現れるようになり、当連合会の弁護士過疎・偏在対策は多様化・実質化し、より充実した内容を伴うものとなっている。

 

また、地域司法の充実を目指すことを目的に2006年から全国支部問題シンポジウムを開催し、2010年からは同シンポジウムの開催に伴って各弁護士会連合会に呼びかけて管内の支部問題に関する協議会を開催してきた。そうした中で、例えば北海道弁護士会連合会は2010年12月11日付けで「裁判官・検察官非常駐支部の解消に向けた行動を取ることの宣言」を、関東弁護士会連合会は2011年9月30日付けで「東京高等裁判所管内の司法基盤の整備充実を求める決議」を採択している。

 

2 法テラスの開業とその取組

2004年に制定された総合法律支援法は、「民事、刑事を問わず、あまねく全国において、法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会を実現する」という基本理念の下、国の「総合法律支援の実施及び体制の整備に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務」を明らかにし、2006年、総合法律支援の実施主体として法テラスが設立された。法テラスが民事法律扶助業務や国選弁護関連業務等を担うようになった後、民事法律扶助予算は増額し、国選弁護の対象は被疑者にも拡大され、一定の重大少年事件に対し国選付添人制度が設けられるようになった。そして、法テラスは、2006年以降、司法過疎地域に法律事務所を設置し、有償の法律事務も取り扱うことのできるスタッフ弁護士を配置して、司法過疎対策業務を実施し始めた。

 

3 各制度による成果

名古屋宣言当時、弁護士ゼロワン地域に開設された法律相談センターは2か所にとどまっていたが、現在は全国各地で法律相談センターの開設が進み(総数300か所余り)、「日弁連ひまわり基金」から援助金を支出する弁護士過疎地域の法律相談センターは約140か所に及んでいる。

 

2000年6月に第1号の石見ひまわり基金法律事務所が開設されて以来、各地にひまわり基金法律事務所が設置され、2012年3月末現在その設置累計は111か所(定着33か所)となった。同様に、法テラスの司法過疎地域事務所は、2006年以降、現在までの間に31か所に設置されている。また、弁護士偏在解消のための経済的支援制度等を利用して開設された事務所は、2012年3月末現在で累計132事務所となっている。

 

これらの取組により、名古屋宣言当時、全国に78か所存在した地方裁判所支部単位の弁護士ゼロワン地域は、15年を経た2011年12月、遂にその解消を見るに至った(現在はワン地域が1か所存在している。)。

 

当連合会は、名古屋宣言以来、弁護士過疎・偏在問題は地域住民の法的ニーズに対処すべき国全体の課題と捉えるべきであり、公的資金による解決を志向すべきものであるとしてきたが、それが実現するまでの間は法律事務を独占している弁護士・弁護士会の責務であるとして、自らの負担により活動を展開してきた。

 

当連合会は、2012年3月末までに、「日弁連ひまわり基金」から、法律相談センターに対し累計約17億円、ひまわり基金法律事務所に対し累計約10億円の援助金を捻出し、「偏在解消事業特別会計」から累計約4億9、000万円の支援金を捻出して、これら活動の財政的基盤を支えるとともに、各弁護士会連合会及び弁護士会と一体となってこれらの活動を支援し、その責務を果たしてきたのであるが、弁護士ゼロワン地域がほぼ解消されるに至ったことは、その大きな成果の一つであるといってよい。

 

4 現状の到達点と課題

2011年12月、旭川地方裁判所紋別支部管内において、流氷の町ひまわり基金法律事務所が開設され、地方裁判所支部単位における弁護士ゼロワン地域は一旦解消されるに至った。

 

各制度を利用して弁護士過疎地域に弁護士が常駐することによって、法律相談のみならず、受任態勢が整備された結果、法的利益の実現が実質的に保障されるようになり、事件数が大幅に増加するなど、地域における司法アクセスの改善に大きな成果を上げることができた。さらに、同一管内に2人以上の弁護士が常駐することで、利益相反等対立当事者の司法アクセスの改善をも概ね図ることができるようになった。

 

このことからすると、司法過疎の問題は、こと弁護士過疎・偏在についてみれば、その解消に向けて大きな進展を遂げたといえる。

 

しかし、当連合会の弁護士過疎・偏在解消の取組を通じて改めて明らかとなったのは、いかに司法過疎地域に弁護士が存在するようになっても、それのみでは真の司法過疎の解消には、なおほど遠いということである。

 

すなわち、各種取組を進めていく中で、司法過疎地域においても、民事、家事、刑事の各事件や、債務整理事件など、法的トラブルは普遍的に発生することが改めて認識されている。そして、弁護士の常駐していない独立簡易裁判所管轄地域や、裁判所自体が存在しない市町村においても、法的需要は相当程度存在すると見込まれるが、これらの地域における司法アクセスについては、今なお十分に確立されたとはいい難い。

 

また、地域を問わず、DV・性犯罪被害・離婚に関する事件等において、女性が女性の弁護士への相談や依頼を希望するケースも多く見受けられるが、必ずしもその希望には応えきれていない。

 

今後は、地方裁判所支部といった地域単位に限ることなく、必要性が高いと判断される地域に必要な法律事務所が存在し、また、様々な事案に対して、市民がより身近に弁護士のサービスを受けることができる態勢の確立が求められるというべきである。

 

他方で、裁判所支部における司法基盤の整備に関しては、裁判官・検察官の非常駐支部が未だ多数存在しており(2010年8月時点で裁判官非常駐支部46か所、検察官非常駐支部128か所)、様々な問題が生じている。

 

これら非常駐支部においては、開廷日の減少が顕著であり(中には年8回の開廷日という支部も存在する。)、訴訟や調停の期日設定に困難を来している。また、常駐の小規模支部においても、刑事、執行、保全、破産事件等の本庁等への集約化が進むなど、ここ10年の間でも、司法サービスの提供が大幅に後退し、悪化している。例えば、刑事事件においては、本庁や大規模支部での起訴及び公判がなされることにより、弁護人、各種証人が接見、公判等で移動を余儀なくされている。また、民事事件においても、裁判官との間で期日調整ができないことにより審理の大幅な長期化を強いられたり、本庁等へ集約化されたため、緊急性のある保全、執行及び各種異議手続などに即応できないなど、裁判所支部において法的利益の実現に大きな支障を来す事態が各地で見られている。

 

加えて、全国の多くの裁判所支部においては、未だ労働審判事件等は取り扱われず、地域住民の多くは、本庁管轄内の住民と同程度の法的サービスを受けられない状況にある。

 

全国あまねく共通した司法サービスを提供することが憲法上の要請であるにもかかわらず、裁判所、検察庁の「機能集中」の名の下に、サービスの受益者であるはずの司法過疎地域の市民、そして市民の権利の担い手である弁護士が犠牲を強いられ、最寄りの司法基盤を十分に利用できないという不利益は、法の下の平等を損なうものであり、裁判を受ける権利を実質的に損なう事態となっている。

 

そしてまた、都市部と地方における所得格差等は、司法過疎地域ではより顕著に現れるところ、資力に乏しい市民にとって、弁護士へのアクセスは都市部以上に困難とされている。多くの市民に利用しやすく、使い勝手の良い法的サービスを提供するためにも、民事法律扶助の対象範囲の拡大、立替償還制から原則給付制への転換の検討等が必要である。

 

もとより、司法サービスの展開については、過度の均一性や効率性が強調されるべきものではなく、地域ごとの多様で個別的な司法要求への対応や、柔軟な司法制度の構築も求められている。

 

第3  真の司法過疎の解消を目指して(今後の取組)

1 当連合会の課題

当連合会は、2012年3月15日の理事会決議において「司法サービスの全国展開と充実のための行動計画」を策定し、今後10年間にわたり、自ら取り組むべき課題を定めた。そのうち、法律事務所の設置及び法律相談サービスの提供等については、次のとおりである。10年間の計画とはいえ、これら課題の実現には、相当な困難も想定されるが、地域の実情に十分配慮しつつ、仮に財政的負担が伴うこととなっても、当連合会は時宜にかなった必要な措置を講じていく。

 

(1) 法律事務所の設置等
  • ① 全ての地方裁判所支部管内において、弁護士ゼロワン解消状態を継続する。
  • ② 人口3万人以上の簡易裁判所管内及び人口3万人以上の市町村において、弁護士ゼロ地域の解消を目指す。
  • ③ ②以外で、人口にかかわらず、アクセスの不便性を総合的に考慮して設置の必要性が高いと判断される地域にも、法律事務所を設置する。
  • ④ 地方裁判所支部管内において、女性弁護士がゼロである地域を減らし、最終的には解消するための取組を行う。
(2) 法律相談サービス提供態勢の整備・確立
  • ① 全ての地方裁判所支部管内に、法律相談センターを設置することを原則とする。地域の実情により設置が困難な場合にも、これに代替する制度(弁護士紹介制度、民事当番弁護士制度など)を整備し、1週間以内に弁護士による法律相談及び事件受任ができる態勢を確立する。
  • ② 人口3万人以上の簡易裁判所管内及び人口3万人以上の市町村において、法テラス、地方自治体(都道府県及び市町村)、社会福祉協議会、法務局、商工会議所等の機関・団体と積極的に連携し、1週間以内に弁護士による法律相談及び事件受任ができる態勢を整備する。
(3) 法律相談サービス等の充実
  • ① 全ての地方裁判所支部管内に民事法律扶助の契約弁護士が2名以上常駐する態勢を整備し、かつ、法律相談センターは、原則として民事法律扶助による相談及び事件受任ができる態勢を整備する。
  • ② 人口3万人以上の簡易裁判所管内及び人口3万人以上の市町村に法律扶助の契約弁護士が少なくとも1名常駐する態勢を目指し、かつ、法テラス、地方自治体等と連携して、民事法律扶助の事件受任ができる態勢を整備する。
  • ③ 法律相談センター(代替する制度においても同じ)では、必要に応じて女性弁護士の相談枠を設けるなどして、女性弁護士に対する法律相談ニーズに対応できる態勢を整備する。
  • ④ 法律相談センターの利用者が、できる限り法律相談だけでなく、弁護士会主催のADRセンターなどを利用して紛争解決が図られるように態勢を整備する。とくに東日本大震災の被災地においては、震災・原子力発電所事故被害の損害賠償請求に関する対応態勢を整備する。

2 国に対する要望

法律事務所の設置により弁護士過疎が解消され、法律相談センターの設置によって弁護士へのアクセスポイントが各地に展開されたとしても、司法基盤が整備されなければ、地域住民の司法アクセスは改善されない。司法過疎の解消のためには、当連合会の弁護士過疎・偏在対策だけでは不十分であり、国による司法基盤整備の推進が強く求められる。

 

しかるに、裁判所支部の司法基盤整備は立ち後れており、むしろ後退している状況にある。支部地域住民は本庁の地域住民が受けられると同程度の法的サービスを受けられず、人権保障の観点からも大きな問題を抱えている。当連合会が司法過疎解消のために尽力するのとまさに逆行する状況が見られるのは、極めて遺憾なことである。

 

「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」(2011年7月最高裁判所事務総局公表)においては、繁忙庁における裁判官の負担の増大への対応として、裁判所組織内での人的態勢整備等の必要性について言及されているが、当連合会としては、繁忙庁のみならず、裁判所支部を含めた裁判所全体の人的態勢整備を求めるところである。

 

国は、裁判官及び検察官を増員して支部の常駐化を図り、労働審判手続や民事執行手続も、全ての裁判所支部で取扱うなど、機能を強化させるべきである。また、民事法律扶助予算の更なる増額によって、労働基準監督署・労働局に対する同行申請支援等を法律扶助に取り込むなど、更に対象事件を拡大し、立替償還制から原則給付制にして、司法サービス利用者の負担軽減を図るべきである。

 

当連合会は、既に2011年5月27日の定期総会における「民事司法改革と司法基盤整備の推進に関する決議」をもって、政府関係諸機関に対し、民事司法分野における司法基盤の整備及び司法予算の大幅な拡充を求めたところであるが、司法全般にわたる深刻な過疎状態の解消を図るべく、改めて司法基盤の整備とそのための司法予算の充実を強く求める。

 

3 地方自治体に対する要望

地方自治体は、住民の権利保障と福祉増進の観点から、地域における総合法律支援の実施及び体制の整備に関し、国との適切な役割分担を踏まえつつ、必要な措置を講ずる責務を有している。当連合会が、地域住民の視点に立って司法基盤の充実を求めていくには、今後、地方自治体との密接な連携が不可欠である。 

 

従来、地方自治体では、弁護士・弁護士会に委託して無料法律相談を実施してきたところが多いが、昨今の緊縮財政の煽りを受け、これを削減する動きが見られるのは遺憾である。こうした相談は、それが端緒となって住民の法的利益の実現に一定の役割を果たしてきており、地方自治体は引き続きこれを実施していくべきである。

 

これまでの当連合会の取組においても、部分的にではあるが、地方自治体との連携が図られてきた。法律相談センターにおいては、地元自治体から設置場所の提供を受けたり、補助金獲得やチケット制を導入したりして、運営の支援を受け地域住民の利用促進を図ってきた。ひまわり基金法律事務所においても、各地で地元自治体・社会福祉協議会との連携により地域住民に良好な法的サービスを提供しているといった実績が報告されている。地方自治体には、今後、弁護士会連合会や弁護士会、更にはひまわり基金法律事務所との間で、こうした連携を一層深め、必要な措置を取ることを求める。 

 

当連合会は、こうした取組を続けるほか、今後は、地方自治体に対し、司法過疎解消の必要性について十分な理解を求め、地域住民が等しく法的サービスの提供を受け、その人権保障が全うされるよう、積極的に働きかけを行っていく。昨今では、弁護士不在による司法アクセスの障害が大きな問題であることを正視し、積極的に弁護士の定着を誘致する地方自治体(鳥取県、福島県南相馬市、新潟県柏崎市等)が現れていることを見逃せない。こうした地方自治体に端を発した弁護士定着のための動きを、全国に情報提供し、地方自治体が進んで弁護士を誘致するよう求めていく。

 

そして、司法過疎の解消は、弁護士過疎・偏在の解消のみでは実現しないことから、地方自治体に対し、当連合会と連携して、裁判官・検察官の常駐化や裁判所・検察庁の支部機能を強化すること等、国に司法基盤の充実を強く要請していくことを求める。