第62回定期総会「民事司法改革と司法基盤整備の推進に関する決議」

 

当連合会は、1990年以来一貫して「市民のための司法」、市民にとってより利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのある司法とすることを目指す改革を唱えてきた。2001年の司法制度改革審議会意見書から10年の節目を迎える本年、当連合会は、この改革の原点を再確認し、市民の目線での「第二次司法改革」を提唱し、推進する。


その最重要の柱の一つが、市民に最も密接な分野である民事司法の分野における改革である。民事・家事・行政訴訟を中心とする民事司法は、市民の権利を擁護し、法の支配を社会の隅々に行き渡らせるための公共的インフラである。民事司法の分野は、市民の生活や経済活動に最も密接に関わる分野であり、その公共的インフラとしての重要性は、他の分野に比しても大きい。


身近で頼りがいのある民事司法であるためには、消費者、労働者、外国人、障がい者、高齢者等の社会的弱者をはじめとする救済を必要とする全ての市民の権利が実効的に保障され、さらには、高度化し、グローバル化した経済社会における企業等の諸団体や個人の様々な法的問題に適確に対処できるものでなければならない。


当連合会は、そのような民事司法を目指して以下の改革に取り組み、市民のために、また市民とともに、これを実現する決意である。


  1. 以下を含む民事司法改革諸課題について、政府関係諸機関に対し、強力な改革推進の取組を求めるとともに、これらの改革実施に必要とされる司法予算の大幅な拡大を求める。

    (1) 裁判官、裁判所職員等の人的基盤整備、裁判所支部の充実及び裁判所の物的基盤整備を推進すること。
    (2) 誰にでも身近で利用しやすい民事司法とするために、民事法律扶助制度の拡充、提訴手数料の低額化及び定額化、弁護士費用保険(権利保護保険)の拡充を図ること。
    (3) 市民の権利を保障し頼りがいのある民事司法とするために、民事訴訟・行政訴訟における証拠及び情報収集手続の拡充、多数の被害者の権利行使を糾合する集団訴訟制度等の導入、原告適格等訴えの要件の緩和や団体訴訟等新たな訴訟制度の創設を含む行政訴訟制度の改革の推進、また、判決履行確保のための諸制度の改革の検討、簡易迅速な訴訟及び審判手続の導入の検討、裁判等への市民参加の検討、損害賠償制度等民事実体法の改善改革の検討を進めること。さらに、裁判外紛争解決手続(ADR)の拡充及び活性化を図ること。

  2. 上記諸課題を推進するため、当連合会内に整備される新たな取組体制のもと、各弁護士会や市民団体等外部の意見を聴きながら鋭意検討を進め、それぞれの検討状況に応じて、適時に提言を行う。

  3. あわせて、上記のような民事司法改革に対応するため、弁護士自身の意識改革、業務態勢の改革に努めるほか、法曹養成や研修を含めた弁護士の能力の向上に取り組む。

以上のとおり決議する。

2011年(平成23年)5月27日

日本弁護士連合会


 

(提案理由)

第1 民事司法改革の必要性

当連合会は、1990年以来一貫して「市民のための司法」、すなわち市民にとって利用しやすく、分かりやすく、頼りがいのある司法とすることを目指して、改革を求め、また、実行してきた。司法改革諸課題の中で、とりわけ民事・家事・行政訴訟やADR等の紛争解決手続を含む民事司法は、市民の権利を擁護し、法の支配を社会の隅々に行き渡らせるための公共的インフラであり、また、市民の生活や経済活動に最も密接に関わる分野であって、民事司法が市民にとって身近で頼りがいのあるものとして整備されることの重要性は、他の分野に比しても大きい。


しかしながら、今次司法改革において刑事司法や法曹養成の分野で大きな制度変革があったのに比べ、民事司法の分野においては、証拠収集手続の拡充をはじめとする民事裁判の充実、利用者の費用負担の軽減、民事法律扶助の拡充、裁判所の利便性の向上、被害救済の実効化、司法の行政に対するチェック機能の強化等、様々な問題提起が行われてきたが、民事訴訟法の一部改正、労働審判制度の創設等にとどまり、市民が利用しやすく市民の権利保障に役立つ民事司法制度の確立のための本格的な変革・改革への取組には至っていない。


民事司法の分野は、伝統的に「私的紛争にすぎない」「私的利益の争い」とみなされる傾向があり、そのため裁判の手数料は高く設定され、民事法律扶助に対する国の支出金は不十分で、いまだ償還制が原則とされている。しかしながら、裁判を受ける権利は、憲法第32条が保障している基本的人権である。近代国家では、自力救済を禁止しているのであるから、民事司法制度を適切なものとして整備することは国の責務でもある。また、個々の裁判が適正に行われ、その結果としてルールが社会に示されることによって、違法行為や権利侵害行為の抑止が図られ、当事者以外の市民の権利も広く保障されることになる。


多様化する価値観の中で営まれる市民の社会生活上の様々な法的問題に適確に対応できるような民事司法、社会的に弱い立場にある人々が不当な不利益を受けた場合の実効的な権利保障が図られるような民事司法、そして高度化、多様化、国際化する経済社会において、ルールに基づいた経済活動が営まれ、その過程で生じる様々な紛争がルールに基づいて適正な手続で迅速に解決されるような民事司法であることが、公共的インフラとして求められる。民事司法の制度及び基盤整備は、かかる視点に立って行われなければならない。


さらに、我が国は今、未曾有の被害をもたらした東日本大震災からの復興という重い課題に直面している。被害救済、復興に際しての様々な法的問題の解決など、既存の制度にこだわることなく適切な措置が講じられなければならず、そのために民事司法がその役割を十二分に発揮することが求められる。それとともに、この震災は、直接の被災地・被災者のみならず、社会の様々な制度や仕組みに変容を迫る可能性があるのであり、公共的インフラとしての民事司法も、抜本的な改革を迫られている。


民事司法が果たすべき役割の重要性に鑑み、その大幅な拡充に向けて、これらの課題を検証し、市民のために、また、市民とともに、身近で頼りがいのある民事司法を実現する必要がある。


本年、司法制度改革審議会意見書から10年の節目を迎える。当連合会は、市民の目線での「第二次司法改革」を提唱し、推進するが、その最重要の柱の一つとして民事司法改革を位置付けている。

 

第2 民事司法の現状と課題

我が国の民事司法の問題点を、民事訴訟を中心に見ると以下のとおりである。


1 民事裁判の利用件数が少ない

我が国の地方裁判所の通常民事訴訟の新受件数は、2003年までおおむね14万件台であったものが、2009年は23万5508件となっている。しかし、依然として我が国の民事裁判の件数は、各国と比べても少ない。人口比で、アメリカの8分の1、イギリスの4分の1、ドイツの3分の1、フランスの4分の1、韓国の3分の1である(2010年12月・日弁連調べ)。特に、地方裁判所が対象とする訴訟(訴額が140万円を超える訴訟)の増加は、かなりの部分が貸金業者に対する過払金返還請求訴訟であって、一般の民事訴訟件数は、2005年から2009年まで、ほぼ横ばいであると推測される。簡易裁判所新受件数にも同様の傾向が見られる。


これらの状況を踏まえると、我が国における民事訴訟の利用は低い水準にある。

 

2 民事裁判の利用者の満足度が低い

司法制度改革審議会が民事裁判の経験者に対して2000年に行った調査では、訴訟制度について「満足」、「やや満足」との回答は、合計で18.6%しかなく、「不満」、「やや不満」が50.6%であった。また、2006年の第2回利用者調査でも、「満足」、「やや満足」という答えは、合計で24.8%しかなかった。民事裁判の利用者の満足度は高くない。

 

3 少ない裁判官数と裁判所予算

1960年から2000年の40年間に、地方裁判所の民事・行政事件は総数で3.4倍、訴訟事件は2.5倍に増えたが、裁判官数は1.3倍にしか増えていない。その後司法制度改革により、最近は毎年一定数の定員増が図られてきたが、先進国と人口比で比較すると、依然として我が国の裁判官の数は少ない。民事裁判の平均審理期間は、1990年で全事件12.9か月であったものが、2008年には6.5か月に短縮している。他方、裁判官1人当たりの手持ち事件数は多く、東京地方裁判所民事通常部の裁判官は2009年度末に約270件程度の裁判を抱えていた。裁判が迅速化していること自体は望ましいことではあるが、このように少ない裁判官数で多数の事件を短期間に処理しなければならないとなると、手続の適正や充実、さらには当事者の納得が犠牲になっている可能性がある。


また、裁判所支部は全国に203か所あるが、裁判官が常駐していない支部が46か所もある(2010年8月末現在・日弁連調べ)。裁判官が常駐していないと、迅速かつ適切な権利救済ができないおそれがある。


また、裁判所予算は、1957年頃は国家予算の0.93%であったが、低下の一途をたどり、2010年度は0.35%である。

 

4 民事訴訟を利用する際に費用的な障害がある

民事訴訟を起こすには、請求額によっては高額の提訴手数料を支払わなければならない。これが民事訴訟を利用する際の費用的な障害となっている。


訴訟等紛争解決を弁護士に依頼する資力に乏しい場合には、民事法律扶助制度を利用することになるが、立て替えられた費用を全額償還するという原則が、同制度の利用をためらわせる大きな要因となっている。


弁護士費用を保険でカバーする弁護士費用保険(権利保護保険)についても、最近拡大の兆しはあるものの、市民の権利保障を十分担っているというには程遠い状況である。

 

5 民事訴訟が利用しづらい、利用しがいがない

民事訴訟を提起しようとしても、証拠や情報が十分得られず、提訴の準備ができない、あるいは提訴しても十分な訴訟追行ができない場合がある。特に、消費者や労働者が企業等団体に対して提起する訴訟、環境訴訟、行政訴訟、国家賠償訴訟等証拠の偏在が多く見られる訴訟類型において、そのような傾向が見られる。


また、多数の同種被害が生ずるような事案では、被害額が少額で多数の者に拡散していることや、共通の責任原因の主張及び立証の困難から、訴訟を提起して権利実行することが妨げられることがある。


たとえ勝訴したとしても、勝訴によって得られる賠償額が厳格に算定された填補賠償の額に限られるため、苦労して勝訴しても弁護士費用さえ賄えないことがある。


さらに、判決を得ても、その履行がされず、また執行対象財産を把握することが困難なため、強制執行も十分にできないことがある。


このように、現在の民事・行政訴訟は、利用しづらい、あるいは利用しがいのないものにとどまっている。

 

6 充実した手続がなされているかどうか疑問がある

弁論準備手続を中心とする争点整理手続が形骸化している(書面のやり取りと次回期日の設定だけに終わっている。)例が多数報告されている。


裁判での証人、検証、鑑定等の証拠調べが大幅に減少している。地方裁判所民事第一審通常訴訟既済事件における証人尋問は、1983年頃は全事件の30%で実施されたが、減少の一途をたどり、2009年は6.6%の事件でしか実施されていない。当事者尋問も1983年は33%の事件で実施されたが、2009年は10.1%の事件でしか実施されていない。


鑑定や検証も大幅に減少している。鑑定は、1993年頃まで2%台で実施されたが、2009年は0.4%である。検証は、1991年頃まで1%台で実施されたが、2009年は0.09%である。


第一審裁判所の判決に納得できない場合は控訴がされるが、高等裁判所で控訴が認容される率は、1988年は21.6%であったが、2009年は26.3%に増加している。


控訴審については、1回で結審することが多くなっている点も、当事者の納得のいく裁判という観点から問題ではないかという指摘がある。

 

7 民事司法改革全体の中における民事・行政訴訟の位置付け

以上、民事司法改革諸課題のうち、特に民事・行政訴訟に焦点を当てて現状と問題点を指摘した。もとより、民事司法改革は、民事・行政訴訟の改革だけの問題ではない。裁判外紛争解決手続や法律相談、さらには予防法務等の分野も重要である。しかし、民事司法の中核である民事・行政訴訟が充実したものになること、また、市民にとって身近で頼りがいのあるものになることが、民事司法全体にとって決定的に重要である。

 

第3 改革諸課題

1 はじめに

以上を踏まえると、我が国の民事司法が制度整備及び基盤整備の両面において、いまだ「小さな司法」の域を脱することができておらず、そのために民事司法を通じた市民の権利保障が十分に図られていない状況があるといえる。市民にとって、身近で頼りがいのある民事司法を実現するため、民事司法へのアクセスの問題及び民事・行政訴訟の在り方を含め、以下のような制度整備及び基盤整備の諸改革を推進すべきである。


当連合会は、政府関係諸機関に対し、民事司法改革を国の重要な政策と位置付け、以下のような課題について強力な改革推進の取組を求めるとともに、これらの改革実施のうち予算が必要なものについては十分な予算措置を講ずることを求める。


下記諸課題のうち多くのものは、有機的に関連しており、一体として推進すべきである。


また、これら基盤整備や制度改革とともに、民事・行政訴訟の運用の改善及び代理人となる弁護士の業務態勢の改善の努力を怠ってはならない。

2 民事司法の基盤整備のために

(1) 裁判官、裁判所職員等の人的基盤整備

民事裁判を納得のいくものとするためには、裁判官の手持ち事件を減らし、その多忙状況を改善して、裁判の質を高めなければならない。そのために、必要な数の裁判官が確保されなければならない。当連合会は、2003年10月23日付け「裁判官及び検察官の倍増を求める意見書」で10年間で2300人の増員を求めているが、現在までの増員数はその数とほど遠い状況であるため、更なる増員が図られるべきである。特に、家事事件については、近年の事件数増加への対応が急務である。もとより、裁判官の数及び配置は、支部への填補や他の部の業務の兼務等各地の実情も考慮しなければならない。


裁判官の増員とともに、裁判所書記官、家庭裁判所等調査官、執行官等裁判所職員の増員も必要である。


このほかに、裁判官の独立性の確保、人事(任命及び評価)の透明性の確立等これまで当連合会が主張してきた裁判官制度改革課題に引き続き取り組む必要がある。


法曹一元制度については、その理念と目標を見失うことなく、当面弁護士任官制度の運用改善、特に非常勤裁判官の活用の拡充等、裁判官の給源の多様化に継続的に取り組む必要がある。


(2) 家庭裁判所を含む各地裁判所及び支部の充実等

管轄集中が定められている知的財産権訴訟については、少なくとも高等裁判所所在地の地方裁判所でも取り扱えるようにする等の見直しが必要である。医療訴訟、建築訴訟、労働訴訟・審判、行政訴訟事件及び簡易裁判所の刑事を除く判決に対する控訴事件については、本庁のみで取り扱うこととされたり、一部の支部でしか取り扱わないこととされていることが多いが、地域住民の裁判を受ける権利を実質的に保障する視点から、できるだけ多くの支部でも実施すべきである。


家庭裁判所については、社会の高齢化、成年後見契約締結件数の増加を背景とする近年の成年後見関係事件を踏まえ、高齢者の権利が適切に守られるような事件処理がなされるよう、成年後見関係事件の処理態勢及び監督態勢の抜本的強化、すなわち裁判官、調査官及び書記官の大幅増員とともに、後見人に適切な相談及び助言を行う行政機関及び専門職団体との連携等を図るべきである。また、家庭裁判所出張所についても、増設を検討すべきである。


また、裁判官が常駐していなければ、迅速かつ適切な権利救済ができなくなるおそれがあることは前に述べたとおりであり、その解消は急務である。とりわけ、今回の東日本大震災の被災地にも裁判官が常駐していない支部があり、震災の被害救済及び復興のためにも裁判官の常駐を強く求める。


さらに、人口が増えた地域では裁判所支部の本庁化を進める(例えば、東京地裁立川支部、福岡地裁小倉支部等は本庁化検討の最優先候補である。)ことや、市民にとっての利便性等に鑑み、各地において裁判所支部の新設や復活等を検討するべきである。


加えて、市民に最も身近な簡易裁判所の拡充についても取り組むべきである。


(3) 裁判所の物的基盤整備等

地方裁判所、家庭裁判所及び簡易裁判所における法廷、調停室、待合室、親子面会交流のための専用室等の新設・増設が必要である。その際には、利用者である市民の声を十分に聴いて反映させるべきである。

 

3 誰にも身近で利用しやすい民事司法とするために

誰にも身近で利用しやすい民事司法にするためには、司法利用の費用の負担軽減を図る必要がある。具体的には、民事法律扶助制度の改革、提訴手数料の減額及び弁護士費用保険(権利保護保険)の整備である。


(1) 民事法律扶助制度の拡充

民事法律扶助は、経済力にかかわらず法律専門家の支援を受けて法的権利を実現することを保障する制度である。我が国の民事法律扶助については、この間、予算の増額、償還猶予及び免除の拡大、手続の合理化等着実な改善が図られてきた。しかし、法の支配を社会の隅々まで行き渡らせ、民事法律扶助制度を法的セーフティネットとして十分に機能させるためには、以下のことが必要である。


(1) 費用について、立替償還制を改め原則給付制とするなど、利用者負担の軽減を図ること。


(2) 生活保護受給の同行申請支援、労働基準監督署・労働局に対する同行申請支援等、法的援助が必要とされる一定の行政手続を法律扶助に取り込む等、対象事件の範囲を拡大すること。


(3) 災害被災者、高齢者、障がい者、子ども、在留資格のない外国人等の社会的弱者に対する扶助要件の緩和等特別な対応と配慮


(4) 法律扶助のニーズに応えるための予算の更なる増額


(5) 代理援助立替基準の適正化と運用の改善


(6) 広報の徹底により、制度の認知度を更に高めること。


特に、東日本大震災の被災者については、扶助要件の撤廃又は大幅緩和、償還義務の原則的免除又は猶予、扶助対象範囲を裁判費用に限定することなく裁判外紛争解決手続(ADR)や行政に対する申請手続についても利用可能とすること、破産予納金等についても民事扶助の援助の対象とすること等の手当てが求められる。


(2) 提訴手数料の更なる低額化及び定額化

提訴手数料の低額化は、今次司法制度改革では僅かの減額にとどまったが、当連合会の2010年3月18日付け「提訴手数料の低・定額化に関する立法提言」のレベルにまで大幅な低額化及び定額化を実現すべきである。


同時に、訴訟救助についても裁判所の運用を改善し、実効性のある制度にする必要がある。


(3) 弁護士費用保険(権利保護保険)の拡充

現在自動車保険を中心に弁護士費用について保険金が支払われる制度が導入され、毎年利用数が伸びている。ドイツなど普及している国の例を参考にして、民事問題を広くカバーする弁護士費用保険(権利保護保険)を検討し、実現する必要がある。ただし、制度設計に際しては、利用者の便宜を第一義としつつ、弁護士の職務遂行における独立性が侵されることがないよう配慮すべきである。

4 市民の権利を保障し、頼りがいのある民事司法とするために

(1) 民事訴訟及び行政訴訟における証拠及び情報収集手続の拡充

事案解明力のある民事訴訟とするために、また、訴訟における武器対等の原則を実質的に保障するために、証拠や情報の開示、証拠・情報収集制度の拡充を図るべきである。当事者照会制度の実効化、文書提出命令制度の拡充(自己利用文書除外規定の削除を含む。)を図るべきである。相手方関係者の事情を聴取する制度(陳述録取制度)についても、その導入の是非について積極・消極の両論を踏まえて検討すべきである。


あわせて、訴訟におけるプライバシーや営業秘密の適正な保護を図るため、秘密保持命令制度を拡充すること及び訴訟や行政手続において、依頼者が弁護士に相談する権利を実質的に保障し、依頼者の秘密を守るための制度を明確化するべきである。


また、弁護士法第23条の2に基づく弁護士会照会制度については、訴訟のための証拠・情報収集だけでなくその前段階での紛争解決にも資するという重要な機能を有しており、受付件数も10万件を超えている一方、最近では照会を無視する照会先も現れるなど問題も生じている。厳正な運用を前提として、照会に対する回答義務を明確化することを含め、同制度の実効化を図る必要がある。


同様に、固定資産税評価額や自動車登録事項を弁護士職務上請求により取得することを可能にする制度など、民事紛争の解決に必要な情報を得るための法整備等を行うべきである


(2) 多数の被害者の権利行使を糾合する集団訴訟制度等の導入

我が国では、消費者被害差止請求については団体訴訟の制度があるが、現在、消費者訴訟を中心に損害賠償請求についての集合権利訴訟制度が検討されており、消費者被害の実効的な回復及び抑止を図るための制度設計を早急に行うべきである。


また、この制度は、悪質消費者被害を引き起こす業者に対する違法収益はく奪や財産保全の制度と併せて検討すべきである。


(3) 行政訴訟制度の改革

行政訴訟については、市民にとって有効かつ確実な権利保護の手段となるように改善することが急務である。当連合会は、2010年11月17日付けで行政訴訟の更なる改正の方向を提言する「行政事件訴訟法5年後見直しに関する改正案骨子」を発表した。この骨子の中で行政訴訟に関する全面的な改正に関する包括的な提言を行っている。具体的には、制度運用の方向性を国民の目線にする目的規定及び解釈規定の導入、原告適格の緩和、厳しすぎて認容例が少ない義務付けの訴え及び差止めの訴えの要件の改善、当事者訴訟における確認の利益の拡大、仮の救済制度の創設、執行停止・仮の義務付け・仮の差止制度の要件緩和、裁量審査の充実のための基準の法定、行政過程の明確化、行政計画・行政立法の段階での訴訟制度の創設、団体訴訟の導入、公金検査訴訟の創設等、多くの改革が必要である


(4) 判決履行確保及び民事執行制度の改革の検討

民事訴訟の出口である判決の履行確保及び執行手続をより実効的なものとするため、財産開示手続の改善、不動産の名寄せ制度等を含め、総合的に検討すべきである。


(5) 簡易迅速な訴訟・審判手続の検討

裁判を利用するに当たり、期間及び費用の予測が立てられることは重要な要素である。簡易迅速に解決できる手続が拡充されれば、これらが原因となって訴訟をためらっていた事件の掘り起こしにつながることが期待できる。一定の類型の事件や当事者双方の同意が得られる場合には、少額事件や、2006年の導入以降利用件数が年々増加し、埋もれていた個別労働紛争案件の掘り起こしに一定程度貢献したと評価されている労働審判手続を参考に、紛争類型ごとの適合性や当事者の手続上の権利保障の観点に留意しながら、簡易かつ迅速に一定の結論が得られる手続の導入の是非を検討すべきである。


(6) 裁判等への市民参加の検討

労働審判制度を参考に、紛争類型ごとの適合性にも配慮しつつ、民事裁判等における市民参加の制度(民事陪審及び民事参審)もその導入の是非を検討すべきである。


(7) 損害賠償制度等民事実体法の改善改革の検討

司法制度改革審議会においても、我が国の損害賠償認定額が低額であるという批判のあることが指摘され、必要な制度を検討すべきとされた。早急に損害賠償制度の改善改革が必要である。填補賠償を超えた損害賠償制度、違法行為抑止や違法利益はく奪を目的とする損害賠償制度を含め、検討すべきである。


民事司法改革のためには、損害賠償制度のほか、様々な民事実体法の改善の検討が必要である。現在検討が進んでいる民法(債権法部分)の改正をはじめ、消費者保護法制、社会保障法制、労働法制、会社法制、倒産法制、競争法制、知的財産法制等、市民の権利保障が十分に図られるものとすべきである。


(8) 裁判外紛争解決手続(ADR)の拡充活性化

民事紛争の解決手段としては、民事訴訟以外に裁判外紛争解決手続(ADR)がある。ADRについては、今次司法制度改革で仲裁法及び裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律が制定され、制度的な枠組みは一応整った。しかしながら、民間ADRの利用はいまだ低調である。弁護士会ADRをはじめとする民間ADRの充実を図るとともに、裁判所の調停や裁判手続との連携、行政との連携を検討すべきである。また、医療ADR、金融ADR、国際家事調停といった特殊な分野のADRについても、ADRの柔軟性・多様性を活かしつつ、拡充を図るべきである。特に、東日本大震災からの復旧・復興に当たって生起する様々な紛争を迅速・柔軟に解決する手段としてのADRが重要であることは、阪神・淡路大震災の際の例が示すとおりである。


ADRは、合意を基本とする紛争解決手段として、訴訟と並ぶ民事紛争解決手続の選択肢である。ADRは訴訟の前さばき的なものとして設計すべきではなく、訴訟と異なる解決原理・手続を持つ解決手段として正しく位置付けてその健全な発展を図るべきである。


もっとも、民事訴訟がしっかりした制度であってこそADRも健全に発展するのであり、そのためにも先に述べた民事訴訟制度の改革は不可欠である。

5 その他の施策

(1) 民事訴訟の運用の充実及び改善

諸制度改革と併せて、争点整理手続や訴え提起前の証拠収集制度など、現在の民事訴訟制度の運用についても、民事訴訟法大改正時の所期の理念を改めて確認し、その検証と改善を図るべきである。現在、多くの弁護士会において行っている民事訴訟の運用についての裁判所との協議等の取組を今後も継続し、実務レベルでの運用の充実及び改善を図っていくべきである。


(2) 非訟事件手続法及び家事審判法に関連する改革

現在、非訟事件手続法及び家事審判法の改正が法制審議会での議論を経て、国会で審議されている。弁護士会は引き続き、その後の最高裁判所規則の制定についても積極的に意見を述べ、さらには、適正な実務慣行を形成していくための提言と会内の研修を強化すべきである。


(3) 広報など民事司法の利用可能性を高めるための施策

裁判所では、市民が利用しやすいように、広報の充実、窓口の改善、夜間調停、夜間の破産審尋等の整備を行う必要がある。


また、裁判所情報、判決情報の提供、裁判手続におけるITの活用等、民事司法の利用可能性を高めるためのハード・ソフト両面での改善改革が必要である。


さらに、国民の法律事務所や裁判へのアクセスを改善するために、日本司法支援センターや地方自治体窓口との連携、大阪などで行われている民事当番弁護士(弁護士会で待機する当番の弁護士が訴訟当事者の相談に無料で応じる。)の活動、裁判所委員会の活用及び裁判所と各地の弁護士会との協議が有効である。


(4) 利用者満足度の継続調査等

市民の視点に立って各地の民事裁判の実情、問題事例、弁護士選任にどのような障害があるのか等を調査・検証し、施策を提言することを検討すべきである。あわせて、弁護士の執務態勢や弁護士費用の透明化・適正化等についても検討を進めるべきである。

 

第4 弁護士、弁護士会の民事司法改革に向けた実践

当連合会は、前述のとおり、政府関係諸機関に対し、民事司法の制度改革及び基盤整備についての取組と予算措置を求め、また、自身も民事 司法改革の諸課題についての検討を進め、適時に提言していくことを宣言した。民事司法改革諸課題は、法改正や予算措置を伴う困難な課題も多い。しかし、だ からこそ、当連合会は、民事司法改革の明確な方針を定め、新たな取組体制のもと、会内外の意見を聴きながら、推進力を持って取組を進め、政府や社会に提言 していかなければならない。

市民に接する位置で民事司法を日々中心として担うのは、個々の弁護士である。弁護士自身が実務を行う中で、利用者の声に虚心に耳を傾 け、自らの業務のやり方や意識の変革も必要である。また、法曹養成過程の充実、さらに、弁護士になった後の研修やオン・ザ・ジョブ・トレーニングの態勢の 整備等により、新たな民事司法を担うに足る能力の涵養に努めなければならない。これらについては弁護士自身が不断の努力を続け、実践していく決意である。