第54回定期総会・司法改革宣言2003 -総力をあげて「市民の司法」を実現するために-

 

日本弁護士連合会は、市民の権利を十分に保障し、豊かな民主主義社会を発展させるため、国民主権の下におけるあるべき司法として、「市民の司法」の理念の下、1990年以降、6度に亘って司法改革に関する宣言を行うとともに、会をあげて「市民の司法」の実現に向けた司法改革運動に取り組んできた。


このような運動の一つの成果として、ほぼ半世紀ぶりにわが国の司法制度を抜本的・総合的に見直す司法制度改革審議会意見書が内閣総理大臣に提出され、司法制度改革推進本部が設置された。


同推進本部が策定した司法制度改革推進計画に基づく司法改革の制度設計および立法作業は、現在、最大の山場を迎えている。われわれは、「市民の司法」の実現を目ざし、審議会意見書の骨抜きや後退は許さないこと、国民に開かれた透明な立法作業を進めることを目標として、制度改革に積極的に取り組んできた。


その努力の成果として、プロセスを重視した法科大学院関連法の成立、非常勤裁判官制度の導入、裁判官の任命過程に民意を反映する下級裁判所裁判官指名諮問委員会の設置などが実現すると同時に、弁護士制度改革についても、綱紀・懲戒制度の透明化・実効化をはじめとする着実な改革を進めてきたところである。


改革の本番とも言える本年は、裁判員制度・刑事司法改革をはじめ、引き続き重要な課題が山積している。われわれは、これら司法制度改革の真価が問われる重要な課題についても、改革の名にふさわしい制度の実現に向け、全力をあげてたたかう決意である。


具体的には、裁判員制度・刑事司法改革について、裁判員としての市民が主体的・実質的に参加できるよう、裁判員の数を裁判官の3倍以上とし、裁判員にとって分かりやすい公判中心の直接主義・口頭主義の徹底をはじめ、刑事手続きを抜本的に改革すること、公的弁護制度について、弁護活動の自主性・独立性を確保しつつ、身体を拘束されたすべての者が弁護人の援助を受ける権利を保障されるようにすること、裁判官制度改革について、下級裁判所裁判官指名諮問委員会の実効化、判事補の他職経験の制度化、裁判官・検察官の大幅増員など、審議会意見書を具体化すること、いわゆるリーガルサービスセンター構想について、法律相談センター、弁護士会が設置する公設事務所、法律扶助、当番弁護士制度、ADRなど、弁護士会のこれまでの活動の成果を発展させ、弁護権の独立を実質的に確保し、組織・運営に弁護士会の意見が十分反映されるものとすること、裁判迅速化法について、充実かつ迅速な裁判を可能にするインフラの整備と、証拠開示など透明で新しい裁判手続きに改革すること、弁護士報酬の敗訴者負担制度について、その一般的導入に反対し、司法アクセス促進に寄与するか否かの観点から個別具体的な導入の可否を検討すること、行政訴訟改革について、司法の行政に対するチェック機能を強化するため、行政訴訟制度を抜本的に改革すべく、当連合会提言にかかる「行政訴訟法案」の実現を期すこと、労働訴訟について、労働参審制の実現、労働訴訟の実効化を目ざすこと、法科大学院について、大学院および学生への十分な財政支援、適正配置、複数の第三者評価機関による適正な評価制度を実現すること、法教育について、裁判員制度の定着にも資するものであり、学校教育その他様々な局面における法教育活動を一層強化すること、司法改革に対する予算措置について、改革目的達成のため、国の必要かつ十分な抜本的予算措置を求めていくこと、等である。


今日、わが国は、法の支配が貫徹し、弱者が切り捨てられることのない、透明で公正な社会とすべくあらゆる面での変革が求められている。われわれ弁護士・弁護士会も決してその例外ではない。われわれは、活動領域を拡大し、高い倫理と専門的能力の一層の向上を図るとともに、弁護士会が取り組んできた地域司法計画の精神に沿って、市民により身近で、より役立ち、そしてより信頼される弁護士・弁護士会となることによって、わが国変革の一端を担わなければならない。


日本弁護士連合会は今後も、市民の権利が十分に保障され、透明で公正な民主主義社会を発展させるため、「市民の司法」の実現を目ざす司法改革を主体的・積極的に推進することを宣言する。


2003年(平成15年)5月23日
日本弁護士連合会


(提案理由)

1. 司法制度改革審議会意見書提出後の経過

(1)日本弁護士連合会は、市民の権利が十分に保障され、豊かな民主主義社会を発展させるため、日本国憲法が定める国民主権の下におけるあるべき司法の理念として「市民の、市民による、市民のための司法(「市民の司法」)」を掲げ、一貫して市民の視点に立ちつつ、1990年以降、6度に亘る司法改革に関する宣言を行うとともに、「市民の司法」の実現に向け、会をあげて司法改革運動に取り組んできた。


2001年6月12日、ほぼ半世紀ぶりに、わが国の司法制度を、主権者であり、利用者である市民の立場から抜本的・総合的に改革しようとする司法制度改革審議会意見書が内閣総理大臣に提出された。これは、当番弁護士制度の創設、法律相談センターの開設、弁護士会が設置するいわゆる公設事務所の設置などに代表される、「市民の司法」を市民とともに築いてきたわれわれの運動の大きな成果である。


(2)内閣は、司法制度改革推進法に基づき、同年12月1日、内閣総理大臣を本部長とする司法制度改革推進本部を設置した。


同本部は、司法制度改革審議会の意見書の趣旨にのっとって行われる司法制度の改革と基盤の整備を、総合的かつ集中的に推進することを目的とする(司法制度改革推進法第1条)。内閣は、翌2002年3月19日、司法制度改革審議会意見書を具体化するため、同推進法第7条に基づき、司法制度改革推進計画を閣議決定した。


(3)日本弁護士連合会も同日、司法制度改革推進計画を提出したが、これは当連合会が長年目ざしてきた「市民の司法」を具体的に実現しようとするものである。言い換えれば、主権者であり、利用者である市民にとって、身近で、利用しやすく、頼りがいがあり、また自らも担うべき司法の具体像とスケジュールを示したものである。


(4)審議会意見書の具体化のため、いわば改革のお目付役として、本部長である内閣総理大臣に意見を述べる顧問会議、および審議会意見書に基づいて改革課題の具体的設計を行う11の検討会が司法制度改革推進本部に設けられ、議論が行われてきた。


われわれは、「市民の司法」の観点から、制度改革に積極的に取り組んできたが、その努力の成果として、審議会意見書の趣旨に沿った、プロセスを重視する法科大学院関連法の成立、裁判官制度改革の分野における弁護士任官の大幅増加、非常勤裁判官制度の導入、任命過程に民意を反映した下級裁判所裁判官指名諮問委員会の設置などが実現した。また弁護士制度改革の分野においても、綱紀・懲戒制度の透明化・実効化をはじめとして、諸改革を着実に進めてきた。


(5)今通常国会では、すでに成立した法科大学院への裁判官・検察官などを派遣する法律をはじめ、裁判迅速化法案、その他、弁護士法改正法案、外弁法改正法案、新仲裁法案、裁判所法、民訴費用法、民事調停法、家事審判法などの各改正法案が提出されている。


司法制度改革推進計画に基づく立法作業は、いわば折り返し点に到達したが、改革の本番とも言うべき本年は、裁判員制度・刑事司法改革をはじめ、引き続き重要な課題が山積し、現在、最大の山場を迎えている。


2.今次司法改革の基本精神

(1)日本弁護士連合会の司法改革運動の成果と位置付けられる審議会意見書は、今次司法制度改革の根本的な課題を、「日本国憲法のよって立つ個人の尊重(憲法第13条)と国民主権(同前文、第1条)が真の意味において実現されるために何が必要とされているのか」を明らかにすることと定め、主権者であり、利用者である市民の立場から、わが国の司法制度を抜本的に見直し、創り直そうとするものである。すなわち、審議会意見書の基本精神は、統治主体であり利用者である市民の立場から、改革の名にふさわしい、新しい司法制度を打ち立てようとするものである。それはわれわれがこれまで提唱してきた「市民の司法」と、基本的にその精神と方向性を同じくするものである。


(2)これに対し、今次司法改革を現在の司法制度の延長線上にとどめようとする考え方がなお存在する。このような考え方は、審議会意見書の基本精神を無視し、現在の司法制度を肯定的に評価し、現在の制度に若干の改善を付するものにとどめようとするものである。たとえば、裁判員制度に関し、審議会意見書は現在の裁判官による刑事裁判を良いものとして評価しているとし、裁判員制度とは、社会常識を加えるために、現在の合議体に市民を付加する制度として理解する。これは審議会意見書の基本精神を無視し、現在の構造を基本的に維持し、技術的改良にとどめようとする立場であって、結果として改革を失敗に終わらせることに連なるものである。


審議会意見書は、前述のとおり、司法改革を、統治主体であり、利用者である市民の立場から、政治改革等と並ぶ構造改革の要として位置付けていることは明らかであって、われわれは、審議会意見書を曲解する意見とは今後も敢然と対決し、真の改革を成し遂げなければならない。


(3)他方、司法改革は決して弱者を切り捨てるものであってはならない。審議会意見書も「個人の尊重」を指導理念の一つとして掲げ、「事前規制の廃止・緩和等に伴って、弱い立場の人が不当な不利益を受けることのないよう」と述べる。市民の誰もが、どこででも、法的サービスを等しく受けることができてはじめて、「市民の司法」が実現したと言えるからである。


3.当連合会の司法改革諸課題に対する具体的取り組み

(1)日本弁護士連合会が提案する「市民の司法」の理念は、統治主体、権利主体としての市民、また利用者としての市民の立場から、新しい、質的変更を伴う改革を司法に求めるものである。この理念は、個人の尊重と国民主権を司法改革の基本原理とする審議会意見書と方向性を基本的に同じくするものであり、であるからこそ当連合会は、今次司法改革の主体として、先頭に立ってその理念を実現すべく、諸改革を実現してきたところである。


 


(2)改革の本番とも言える本年は、裁判員制度・刑事司法制度改革をはじめ、引き続き重要な課題が山積している。われわれは、今次司法制度改革の基本理念に立って、これら司法制度改革の真価が問われる重要な課題についても、改革の名にふさわしい制度の実現に向けて、全力をあげて取り組む決意である。


その具体的取り組みは次のとおりである。


一.裁判員制度・刑事司法改革

裁判員制度は、戦後初めて国民の本格的な司法参加を実現する制度であって、画期的な意義を有するものである。「市民の司法」の中核を担う重要な改革課題であって、市民が主権者として本来の役割を果たす、いわば今次司法改革の精神を体現する制度である。


国民から選ばれた裁判員が、裁判官とともに主体的・実質的に刑事裁判に関与できる制度とするために、裁判員の数を裁判官の3倍以上とすること、国民に分かりやすい公判中心の直接主義・口頭主義の徹底をはじめ、刑事司法の抜本的改革を強く求めていく必要がある。さらに、評価の高い裁判員ドラマ「裁判員-決めるのはあなた」の上映運動など全国的運動を通じ、国民の理解と支持を得ることが何より重要である


二.公的弁護制度

被疑者・被告人の弁護人の援助を受ける権利を実質的に確保するため、被疑者および被告人段階を通じた一貫した弁護体制が国費をもって整備されなければならない。公的弁護の対象事件の範囲は、身体拘束された全被疑者とし、その受入れ態勢を、当該地域の弁護士会を中心としつつ、必要な場合には、弁護士会相互の協力体制を整えることにより、また、公設事務所の設置などにより、全国どの地域においても対応可能にしなければならない。なお公的弁護の運営主体については、弁護活動の自主性・独立性の確保が不可欠である。


また、公的付添人制度については、少年鑑別所送致の観護措置がついた事件などに積極的にその実現を求めていく。


三.裁判官制度

裁判官制度改革においては、弁護士任官に加え、新たに非常勤裁判官制度が創設されるとともに、下級裁判所裁判官指名諮問委員会が発足し、各地に地方裁判所委員会が設置され、また、家庭裁判所委員会も改組される。これらの裁判官制度改革を実効的な制度とするため、弁護士会は本格的に取り組まなければならない。


判事補の他職経験の制度化、特例判事補の段階的解消、裁判官・検察官の大幅増員などについても審議会意見書の無視や後退を許さず、具体化を求めていく。


四.リーガルサービスセンター構想

いわゆるリーガルサービスセンター構想については、法律相談センター、弁護士会が設置するいわゆる公設事務所、法律扶助事業、当番弁護士制度、ADRなど、弁護士会のこれまでの活動の成果を尊重し、さらにこれらを発展させるものであること、弁護活動の自主性・独立性が確保されるものであること、予算の大幅増大が図られること、組織および運営に弁護士会の意見が十分反映されることを基本方針とし、その実現性等を十分チェックしつつ積極的に取り組んでいかなければならない。


五.裁判迅速化法

審議会意見書が、常に裁判の「充実・迅速」を一体のものとしてとらえ、充実・迅速を図るための方策として司法基盤の整備や制度改革の実現を提言していることを踏まえ、真に「充実した迅速な裁判を受ける権利」を国民に保障し、充実かつ迅速な裁判を可能にするため、裁判所、検察庁の人的・物的インフラの倍増を推進すること、充実・迅速化のために、刑事における全面的な証拠開示・捜査過程の可視化、民事における証拠偏在の解消のための証拠収集制度の改革など、抜本的制度改革を行うこと、当事者の裁判を受ける権利を不当に侵害しないこと、検証は、裁判官・検察官・弁護士・学識経験者からなる機関によるものとすることが重要である。


六.弁護士報酬敗訴者負担制度

弁護士報酬敗訴者負担制度の一般的導入は、審議会意見書が掲げる「市民のための司法」、「市民が裁判を利用し易くする」などの理念に反し、市民を裁判から締め出すとともに、裁判の法創造機能を損なう結果をもたらすおそれがある。したがって、われわれは、この制度の一般的な導入に強く反対し、この制度の導入が司法アクセスの促進に寄与するか否かの観点から、個別具体的に検討して決めるべきであることを引き続き求めていかなければならない。そしてこの問題を世論に訴えるため、国会請願パレードを含め多様な国民的運動を盛り上げていく必要がある。


七.行政訴訟制度

現行の行政訴訟制度は、市民の権利利益の擁護および行政の適法性確保の点できわめて不十分であり、深刻な機能不全に陥っている。市民の権利救済手段として行政訴訟制度を充実・実効化し、司法の行政に対するチェック機能を強化するため、行政訴訟制度を抜本的に改革することは、焦眉の国民的課題である。われわれの提言する「行政訴訟法案」の実現を目ざして全力を尽くさなければならない。


八.労働訴訟制度

労働訴訟については、制度や慣行についての専門的知見が求められるとともに、労働者の生活基盤に直接影響を及ぼすことから、迅速な解決が必要である。その意味で、経営・労働双方の代表を含む労働参審制の実現、いわゆる事実上の5審制の解消など、労働紛争解決の実効化を目ざす。


九.法科大学院

2004年4月からの開校を目ざし、法科大学院関連法が成立した。資力の十分でない者が法科大学院への入学を断念することにならないよう、法科大学院への財政支援による学費の低額化および奨学金など学生に対する支援制度の充実が緊要である。また、地域を考慮した法科大学院の全国的な適正配置を実現させること、法科大学院の教育水準の維持・向上を図るため、複数の認証評価機関による適正な第三者評価制度を確立することが肝要である。


十.市民のための法教育

審議会意見書は、司法教育の充実を提言し、法曹が積極的役割を果たすことを求めている。われわれは、すでに学校教育をはじめとする様々な局面において、生きた法教育の実践に着手しているが、これは、裁判員制度の定着にも資するものであり、その活動をより一層強化していく必要がある。


一一.抜本的な予算措置

裁判官・検察官の大幅増員をはじめ司法インフラの整備、法科大学院や学生に対する財政支援、裁判員制度、いわゆるリーガルサービスセンター、公的弁護制度、法律扶助の拡充など、今次の司法改革は相当規模の財政資金を必要とする。国が必要かつ十分な予算措置を講じなければ、これらの制度改革の目的は達し得ない。あるべき制度設計が財政上の困難さを理由に歪められることのないよう、国民とともに司法改革に対し抜本的な予算措置を引き続き強力に求めていかなければならない。


4.われわれの決意

混迷が続く今日に、われわれは、改革の方向性と何をなすべきかを明確にしなければならない。司法改革は、これまでの市民不在の司法制度から、市民が主体となる新しい司法への改革を実現するという希望に満ちあふれたものである。この「司法改革宣言2003」は、その希望に向け、われわれが限りなき挑戦を行う決意表明である。


われわれは、「市民の司法」を掲げ、常に市民の視点に立って、司法の担い手である市民とともに、市民主体の新しい司法の構築に向けて挑戦し続けていかなければならない。


今日、わが国は、法の支配が貫徹し、弱者が切り捨てられることのない、透明で公正な社会とすべくあらゆる面での変革が求められている。われわれ弁護士・弁護士会も決してその例外ではない。われわれは、弁護士人口増大の時代を迎え、弁護士・弁護士会の自己改革の一環として活動領域を拡大し、高い倫理と専門的能力の一層の向上を図るとともに、弁護士会が取り組んできた地域司法計画の精神に沿って、市民により身近で、より役立ち、そしてより信頼される弁護士・弁護士会とならなければならない。弁護士・弁護士会の改革を行うことにより、われわれは、必要とされているわが国変革の一端を担うことができるのである。


日本弁護士連合会は、これまで行ってきた司法改革運動の総仕上げであるこのときに向けて、市民の権利が十分に保障され、透明で公正な民主主義社会を発展させるため、「市民の司法」の実現を目ざす司法改革を、市民とともに、総力をあげて主体的・積極的に推進することを宣言する。