臨時総会・法曹人口、法曹養成制度並びに審議会への要望に関する決議

 

2000年(平成12年)11月1日
日本弁護士連合会臨時総会


当連合会は、かねてより、21世紀の我が国の司法制度を「大きな司法」とし、市民が参加し、市民に身近で役立つ「市民の司法」とするために、法曹一元制及び陪・参審制の実現を求め、弁護士の自己改革を行う決意を表明してきた。また、本年5月の定期総会においても、その旨の宣言を行った。


我々は、司法制度改革審議会の審議の現状を踏まえ、審議会に対し、改めて、法曹一元制と陪審制の実現について要望するとともに、市民から期待されている弁護士のあり方と社会的役割に応えるべく、以下のとおり決議する。


  1. 司法が21世紀の我が国社会において果たすべき役割に照らし、司法制度改革審議会に対し、次のとおり、抜本的な制度改革を提起されるよう強く要望する。
    1. 裁判官制度については、判事補制度を廃止し、相当期間の豊かな実務経験を有する弁護士等の法律家から、市民も加わった裁判官推薦委員会の推薦を経て、裁判官を任用することを基本とし、あわせて裁判官の人事制度の透明性・客観性を図ることを内容とする法曹一元制の実現の方向を打ち出すこと。
    2. 陪審制度(少なくとも刑事重罪否認事件における選択的陪審制度)を早期に実現すること。
  2. 法曹人口については、法曹一元制の実現を期して、憲法と世界人権宣言の基本理念による「法の支配」を社会の隅々にまでゆきわたらせ、社会のさまざまな分野・地域における法的需要を満たすために、国民が必要とする数を、質を維持しながら確保するよう努める。
  3. 法曹一元制を目指し、21世紀の「市民の司法」を担うのにふさわしい専門的能力と高い職業倫理を身につけた弁護士の養成を眼目として、下記事項を骨子とする新たな法曹養成制度を創設し、大学院レベルの法律実務家養成専門機関(以下「法科大学院(仮称)」という。)における教育と、その成果を試す新たな司法試験及びその後の司法(実務)修習を行うこととし、弁護士会は、これらに主体的かつ積極的に関与し、その円滑な運営に協力する。
    1. 法科大学院(仮称)は、公平性・開放性・多様性を基本理念とし、全国に適正配置する。
    2. 新たな法曹養成制度は、法曹養成における実務教育の重要性を認識し、法科大学院(仮称)においてもこれを適切に行う。
    3. 新たな司法試験後に実施する司法(実務)修習は、法曹三者が対等な立場で運営する。

提案理由

1. 司法制度改革審議会の現状と我々の課題

当連合会が1990年(平成2年)5月25日の第41回定期総会で司法改革に関する宣言を行ってから、すでに10年余の時が経過した。「国民の権利を十分に保障し、豊かな民主主義社会を発展させるためには、充実した司法の存在が不可欠である。」という一文から始まるこの宣言は、「今や司法改革を実現していくための行動こそ、弁護士と弁護士会に求められている。当連合会は、国民のための司法を実現するため、国民とともに司法の改革を進める決意である。」と結ばれている。


そして現在、「国民がより利用しやすい司法制度の実現、国民の司法制度への関与、法曹の在り方とその機能の充実強化その他の司法制度の改革と基盤の整備」について調査審議するために、衆参両院の決議により内閣に設置された司法制度改革審議会が、この11月中にその基本的見解をまとめた中間報告書を発表しようとしている。


司法制度改革審議会が昨年12月に審議指針として発表した「論点整理」は、我が国の司法制度が、法を国民生活の血肉とするうえでは、十分な機能を果たしてこなかったことを指摘している。また、国民一人ひとりが、自律的でかつ社会的責任を負った統治主体として、自由で公正な社会の構築に参画していくことが、21世紀のこの国の発展を支える基盤であるとし、司法は、国民の具体的生活状況に即した法的サービスを提供し、さまざまな紛争を公正かつ透明な法的ルールの下で適正かつ迅速に解決し、政治部門の行き過ぎによる基本的人権の侵害を監視し救済しなければならないとしている。


この「論点整理」には、我が国の司法の現状に対する批判的検討が不十分であるなどの問題があるとはいえ、ここで目指されているのは、司法制度が、我が国社会でより大きな機能を発揮できるよう抜本的な改革をすることであり、当連合会が求めつづけた司法改革と、その点で志向を一にするものである。


司法制度改革審議会は、その後具体的な改革案の審議に入り、裁判所・検察庁の人的体制の充実、国民が期待する民事司法・刑事司法・弁護士のあり方など国民が利用しやすい司法の実現、法科大学院構想など、広範な改革案を論議している。本年4月25日には法曹(裁判官・検察官・弁護士)の大幅増員とともに、裁判所職員、検察庁職員等の増加を図ることが確認され、8月7日から9日にわたる夏期集中審議においては、法曹養成制度と法曹人口、法曹一元制につき中間報告に向けてのとりまとめがなされた。このとりまとめでは、法曹人口について、現在検討中の法科大学院(仮称)構想を含む新たな法曹養成制度の整備状況を見定めつつ、計画的に、できるだけ早期に年間3000人程度の新規法曹の確保を目指すこととされた。また法曹一元制については、判事補制度の廃止に踏み込まないなど極めて不十分な面を残しているが、法曹一元の根底にある考え方に基づいて裁判官制度の改革を行っていくとして、(1)裁判官の給源の多様性、多元性を図る、(2)裁判官の任命のあり方について工夫する、(3)裁判官の人事制度の透明性、客観性を付与する工夫を行う、など司法の民主化を図る方向性を示し、今後その具体像を審議検討するとした。


このような状況において、まさに今、我々弁護士に対して、10年前に高らかに宣言した司法改革を具体的にどのように実践するのか、法曹一元制と陪・参審制の実現のために、我々がいかなる行動をとり、いかに自己改革するのか、が端的に問われている。


2. 大きな司法の実現のための制度改革と法曹人口

(1) 法曹一元制の基盤としての法曹人口

当連合会は、本年5月26日開催の定期総会において、我が国の司法について、これまでの行政主導型の社会における「小さな司法」から、我が国社会の隅々まで憲法と世界人権宣言の基本理念による「法の支配」がゆきわたる「大きな司法」へと転換し、市民が参加し市民に身近で役に立つ「市民の司法」を実現するために、法曹一元制及び陪審制の実現と、市民が必要とするだけの数の弁護士が、気軽に利用できる「社会生活上の医師」として、社会の隅々にまで存在するべきことを宣言した。


法曹一元制や陪審制が、明治以来司法官僚(キャリア)による制度運営を基本としてきた我が国の司法制度の根幹に関わる変革目標であることは、いうまでもない。法曹一元制は、単に弁護士が裁判官の給源となるだけではなく、裁判官の選任手続や選任後の人事管理の民主化を通じて、官僚司法から市民の司法への、あるいは中央集権的司法制度から分権的司法制度への、歴史的な転換となる。


戦後、我々は、先人の努力により、法曹資格の統一、統一司法修習、弁護士自治、及び弁護士の使命の法定などの大きな前進を勝ち取り、これを基礎にして、弁護士と弁護士会が、死刑再審事件、公害・環境被害、薬害、消費者被害の救済、法律相談センター開設、当番弁護士の全国展開など、社会の進歩に寄与する活動を数多く行なってきた。このことは、我々の貴重な歴史であり、誇りの源泉でもある。しかし、「小さな司法」という国の政策のもとで法曹の数が少数であり、弁護士の訴訟を中心とした活動は、社会全体からみれば極めて限定されたものにならざるを得なかった。司法がより大きな役割を果たすためには、法曹一元制の採用のような大きな制度変革と弁護士自身の自己変革が必要となる。なぜなら、制度を担うのは人であり、逆にいえばその担い手のあり方が制度内容を規定するからである。


法曹一元制は、弁護士が社会のあらゆる分野で広範な活動をする法律実務専門家として存在することを前提とし、そのような普遍性のある法律実務家によって担われる制度である。我々の提起した変革の課題は、我々自身が、社会の隅々にまで「社会生活上の医師」として存在し、社会の不正を正し弱者を救済する活動をするような弁護士制度を大きく発展させてこそ、はじめて実現可能なものとなる。また弁護士偏在の解消問題についても、弁護士人口増加は、その必要条件の一つであることは間違いない。我々は、法曹一元制の基盤としての弁護士制度の改革と法曹人口増加の課題を真正面から受け止めなければならない。


(2) 「市民の司法」の実現基盤としての法曹人口

弁護士のあり方の改革は、単に、法曹一元制の基盤の問題として問われているのではない。


弁護士が、市民にとって「頼もしい権利の護り手」であり、「信頼しうる正義の担い手」であるためには、弁護士が全国にあまねく存在し、身近で活動している状況にならなければならない。我々は、弁護士法72条にかかわる隣接士業の職域拡大要求につき、「法律事務は、本来的に弁護士が行うべきものであり、将来における弁護士人口の増加により対応すべき」ことを提起し、その承認を受けたが、その実効性のある抜本的解決のためには法曹人口の増加が不可欠である。


21世紀の社会においても司法の中核が裁判であることはいうまでもないが、それを担うのは法曹である。裁判がより使いやすく身近で役に立つものになるためには、裁判官、検察官の大幅増員と弁護士が市民のそばに豊富に存在していることが必要である。


また、ますます高度化し国際化する21世紀の日本社会の中に我々の業務の将来を位置付けるとき、それは、我々が、社会の中のあらゆる領域で、真に信頼ができ、またアクセスの容易な質の高い法律実務専門家として存在し、その専門家としての存在価値を社会全体によって認知されるということ以外にはない。弁護士がこのような存在であってこそ、21世紀の社会と経済の進展により新たに発生してくる消費者・高齢者・少年・環境などを巡る様々な問題や、情報革命によるビジネスモデル特許など知的財産権問題の新たな展開、電子商取引の発展、金融危機に端を発した企業法規遵守(コンプライアンス)の要求や金融再生法による経営責任の追及といった、生起しつつある現代的課題に対応することができ、それが弁護士の役割としてより広く社会的に認知されることも可能となるのである。


これらが弁護士という職業に、今要請されている歴史的課題であるといわなければならない。


(3)21世紀の弁護士像

それでは、司法改革実現後の21世紀の弁護士像はどのようなものになるのであろうか。


我々は昨年11月、当連合会の創立50周年に当たり「人権のための行動宣言」を行い、21世紀において、国際社会の政治・経済の動き、人口の激増、先端科学の発達等により、内外における平和と民主主義、基本的人権、地球環境の問題は、ますます深刻、重大になるという予想のもと、刑事手続改革、思想・信条の自由の擁護、個人情報の保護、公害・環境問題対策、社会保障と人権の擁護、消費者の権利確立、両性の平等の実現など、人権擁護の諸課題に対する固い決意を表明した。21世紀の弁護士は、なによりもまず、自らの公益性と倫理性を自覚し、我が国の弁護士の輝ける伝統を引き継いで、人権の擁護に取り組む存在とならなければならない。この弁護士の公益性と倫理性の自覚は、弁護士人口が増加し、法曹一元制が実現して、弁護士がより広い役割を担う存在となったときにも、弁護士職のアイデンティティとして保持されなければならない。現在、司法改革と並行して進行中の行財政改革と規制緩和は、必然的に、我が国の社会における司法の役割を増大させることになる。従来は行政の広範な裁量権に基づく事前の行政指導によって処理されていた事項が、法的ルールの適用や解釈をめぐる法律的な紛争として立ち現れることになり、市民の権利擁護を法的救済に求める機会も多くなると考えられるからである。


そのとき、法曹一元制の下で市民感覚豊かで真に独立した裁判官と、質の高い豊富な量の弁護士が存在すれば、市民の権利の適正かつ迅速な実現が可能となり、それが司法に対する信頼を高めて、新たな需要を喚起するという好循環も期待できる。弁護士の共同化、専門化が促進され、より使いやすく、より信頼できる司法を実現することもまた可能となる。多数の公設事務所の設置によって弁護士偏在が解消すれば、過疎地における司法へのアクセス障害も解消されていることになる。


しかも新たな需要は、必ずしも訴訟事件という形をとって現れるわけではない。むしろそれは、より迅速で柔軟な解決を求めて、ADRなど裁判外のさまざまな解決手段に対する需要の増大として現れる。


さらには、弁護士は、従来の紛争予防・解決の役割を増大させるにとどまらず、例えば、


  1. 全国2700を数える地方自治体において、今後地方分権型社会の推進強化によって必要となる自治体の政策立案や執行力の強化への関与
  2. 地域における福祉、医療、高齢化対策などの活動への参加
  3. NPO・NGOなどの公益活動を行う市民団体について、特定非営利活動促進法(NPO法)により法人格を得る団体や労働団体、消費者団体の諸活動への関与
  4. 各種プロボノ活動への参加
  5. 国際的取引業務、国際的人権活動への取り組み
  6. 中小企業の法務・コンサルタント業務
  7. 大企業の法務・監査業務
  8. 国の立法作業について、政策秘書、国会職員への就任
  9. 国の行政分野での活動等が期待される。

もちろん、新たな業務分野が所与のものとして存在しているわけではなく、弁護士に対する社会の需要と期待を敏感に受け止め、自ら積極的にこれを切り拓いていく姿勢が求められるとともに、弁護士会としてもその取り組みを強化する必要がある。


また、現行の制度の中には、「市民の司法」の実現を阻害する要因となっているものも少なくない。行政訴訟や消費者訴訟を提起しやすいようにしたり、NPOに対する寄付の免税措置を実現するなど、制度の改善や整備も進めなければならない。


以上のとおり、我々の展望する21世紀の社会では、弁護士が、自由・公正並びに透明性の高い法化社会の進展に寄与し、それを維持発展させるために、地域的にも、分野・領域的にも、社会全般に進出し、市民に助言する専門的法律実務家として活動することが求められるであろう。そのような弁護士のあり方が、法曹一元制の基盤となるのであり、また逆に法曹一元制下において、裁判制度そのものを担うのも、弁護士の大きな役割となる。


紛争の予防・解決のみならず、弁護士は、全社会において、社会の重要な構成部分となり、他の構成員とともに協働して活動する専門職として、その領域の発展に寄与することにより、その役割を拡大させることが求められる。それらの役割を担いきるために、それにふさわしい弁護士の質と量の確保を必要とすることは明らかである。


3. 法曹人口問題についての新たな方針

(1) 日弁連のこれまでの取り組み

法曹人口は、戦後50数年にわたり法務省と最高裁判所によりコントロールされてきた。法務省が実質的に司法試験を管理して合格者数を決定し、最高裁判所が司法研修所を管理・運営してきたためである。これにより、我が国の社会経済のめざましい発展にもかかわらず、司法試験合格者数は、1963年(昭和38年)から1990年(平成2年)までの30年近くに亘り500人前後に固定されてきた。


新規法曹の数が法曹三者の合意となったのは、1990年(平成2年)の「司法試験制度改革に関する基本的合意」において、丙案実施のための5年の検証期間中に合格者数を年間700人程度まで漸増させるとされたときからである。以後、司法試験合格者数は法曹三者で決定していくことを前提として、日弁連では、1994年(平成6年)の臨時総会で「当面の司法試験合格者は今後5年間で800名程度とする」こと、1995年(平成7年)の臨時総会で「平成11年度から1000名程度に増加する」ことを決議した。さらに1997年(平成9年)の臨時総会では、その増員時期を「平成10年から」と1年早め、法曹養成制度等改革協議会が最終答申した多数説の1500人増員については「平成14年10月に3年にわたる1000名増員の影響を調査、検証して決する」ことを決議し、その旨を法曹三者で合意した。


(2) 法曹人口のあり方と日弁連の立場

しかしながら、法曹人口は、本来的には、利用者である市民の視点、市民のニーズによって決められるべきもので、法曹人口を法曹三者だけでコントロールするシステムは、司法のあり方に照らして必ずしも適切なものではない。 1999年(平成11年)に成立した司法制度改革審議会設置法の参議院法務委員会の附帯決議は、「法曹の質と量の拡充など基本的施策は・・・特に利用者である国民の視点に立って多角的視点から検討すること」とされたし、近時の市民、マスコミ、政界、経済界、大学関係その他の司法改革に対する広範な関心の高まりは、法曹人口をユーザーである市民の視点で決すべきことを求めている。もっとも、その際、市民に身近な法律家として、市民のニーズを受けとめ、市民の司法の確立を目指す弁護士会が、法曹人口のあり方について必要な提言をしていくことは依然として重要なことであり、この点への取り組みを欠いてはならない。


さらに、前記の1994年(平成6年)、1995年(平成7年)及び1997年(平成9年)の臨時総会の決議は、司法試験合格者数について、法曹三者の合意で決定できることを前提としている点で、その前提条件に根本的な変化が生じている。すなわち、これらの決議がなされた当時と比べて、現在では法律扶助制度の抜本的な拡充、国費による被疑者弁護制度など、司法制度の基盤整備と変革が画期的な規模で進められようとしてしているし、何よりも法曹一元制の導入を求めて改革を進められようとしている点で大きく異なっている。 このように、これら決議は根本的な見直しが迫られており、それをふまえた当連合会の法曹人口についての新たな意思決定が必要である。従ってこれら決議は、新たな本件決議の趣旨に抵触する限りにおいて変更することとする。


(3) 国民が必要とする適正な法曹人口

ところで、国民が必要とする適正な法曹人口を試算するには、一般論ではあるが、次のような諸要素を総合的に考慮して検討するアプローチが考えられ、既にそのいくつかは試算結果が公表されている。


  1. 法律相談、法律扶助、国選弁護、当番弁護士など法的ニーズから必要数を積算する方法
  2. 民事法律扶助の拡充、国費による被疑者弁護制度の実現など司法基盤整備の状況を考慮する方法
  3. 東京都や大阪市の人口と弁護士数の比率により、日本全体の弁護士数を推測する方法
  4. 実質GDPの上昇比率と法曹人口増加率の比実質GDPの上昇比率と法曹人口増加率の比較
  5. 法人数の伸び率と法曹人口増加率の比較
  6. 地域司法計画による積み上げ
  7. 外国の弁護士人口と国民人口比率との比較
  8. 新たな法曹養成制度の整備状況

これらのアプローチによって算出される法曹人口数は、各方法とも、どの時点を基準として算出するかによって結論が異なってくるが、概ね5万人程度という数が試算され、現在より大幅な増員が必要と思われる。


(4) 法曹に求められる質の維持、向上

法曹の役割が、人の生命、身体、財産等に重大な関係を持つことに鑑みれば、その質の維持、向上は極めて大切なことである。同時に、前記2の(3)で述べたとおり、弁護士のアイデンティティとして、基本的人権の擁護と社会正義の実現という使命に基づく公益性と倫理性の自覚が保持されることも重要である。当連合会は、司法の一翼を担うものの責務として、新規法曹人口の大幅な増加により弁護士の質の低下を招来することのないよう、法曹養成の全過程に、より主導的に関わることによって充実した教育内容や質の高い教員を確保し、さらにはオン・ザ・ジョブ・トレーニングにおいて後進の育成に積極的に関与し、資格取得後の各種研修の継続・強化などに努力することが必要である。


(5) 審議会の夏期集中審議に対する日弁連の対応

司法制度改革審議会は、前記集中審議において、前記1記載のとおり、現在検討中の法科大学院(仮称)構想を含む新たな法曹養成制度の整備状況を見定めつつ、計画的に、できるだけ早期に、年間3000人程度の新規法曹の確保を目指す方向をとりまとめた。法曹一元の実現と市民に開かれた大きな司法を目指す当連合会としては、このとりまとめを、審議会が国民各層の強い要望を汲んで導き出した方向として真摯に受け止め、国民の視点からする法曹人口のあり方の検討に寄与するため、前記目標の実現に向けて努力しなければならない。その際、我々はまず第一に、前記(4)で述べたとおり、法曹人口の増加にあたっては、法曹に求められる質の維持、向上がいかに大切であるかを認識し、そのために新たな法曹養成制度の創設に主体的に関与し、かつその整備・充実に努める必要がある。そのうえで、第二に、新たな法曹養成制度の整備状況と新法曹の活動状況を把握しながら、前記(3)の各アプローチによって、既に算出公表されている法曹人口の試算等を参考にしつつ、法律扶助制度の一層の拡充、国費による被疑者弁護制度、裁判官・検察官の大幅増員、司法予算の飛躍的拡大等の司法制度に関する基盤の整備状況を検討していかなければならない。


そして、このたび審議会から示された前記目標の実現過程や達成時期について、法曹一元制の達成をも展望しながら、司法の一翼を直接担う立場から具体的な提言を行っていきたい。


当連合会は、このような観点から、諸事情を慎重に考慮し、市民から期待されている弁護士のあり方と社会的役割に応えるべく、司法改革の根幹をなす法曹人口について、本決議をなすものである。


4. 新たな法曹養成制度構築の必要性

(1) 現在の法曹教育の問題点

社会が必要とする十分な量の法曹を、その質を維持・向上させながら養成するためには、法曹養成制度の抜本的な改革が必要である。


現在の法学部における法学教育は、これから一層急激に複雑化し国際化する我が国の社会と経済を担うべき法曹の養成課程としては、法律学の教育について質も量も不十分であるうえ、基礎法学の教育も不足していて、実定法の背後にある基本的法原理の理解が十分に得られるものになっていない。また、法的分析、口頭と文書による表現、法的調査法などの基本的法技能の教育も全く不十分である。これからの法曹に必要とされる外国語や情報技術の教育も足りない。法曹倫理教育もなく、法曹の果たすべき公共的役割の十分な理解を学生に与えているとは言い難い。また、法技術を真に創造的に使いこなすために必要な経済学などの隣接科学や一般教養の教育も十分でない。 法曹を目指す学生は、司法試験に役立たない基礎法学、隣接科学、一般教養を敬遠するので、かえって法の基礎にある人と社会の理解が習得されていないというパラドックスが生じている。


法曹を目指す者は司法試験予備校に頼っているが、司法試験予備校における教育は、司法試験合格という目的に特化しており、受験生は、司法試験科目6科目の試験に出題される主要論点という極めて狭い範囲のみを、正解暗記型で勉強している。もちろん、受験に役立たない一般教養や隣接科学の教育などはなされていないし、正解が常に与えられる勉強であるため、批判的・創造的思考能力が十分に育っている保証はない。


さらに、現在の司法試験は、厳しすぎる競争試験であり、また正規の法学教育を制度的前提としないで法的知識を試す試験であるため、予備校の受験技術訓練なしには合格が困難となっている。しかも、少数回受験者への優遇措置(丙案)付きで行われるため、早い時期から予備校で主要論点の正解暗記型の受験勉強に専念した者が多数合格する結果となっており、合格者に体系的な法や法原理の理解力と法的思考能力や表現能力が本当に十分に備わっているのかについて疑問が呈される状況が現出している。


(2) 現在の司法研修所制度の問題点

司法研修所は、戦後の司法の民主化の一環として統一修習を実現し、我が国の法曹の質的向上に大きな役割を果たしてきたし、特に弁護教官が多大の犠牲を払って後進の養成に献身してきたことは特筆されるべきである。しかし、司法研修所では、その沿革、裁判科目中心の前・後期のカリキュラム、裁判修習中心の実務修習、弁護教官のみが非常勤であること等のいずれからも明らかなように、裁判官の養成と選抜を一つの核として、法廷中心の伝統的法曹像を念頭においた修習がなされており、また現行実務の訓練機関として位置づけられているため、実務を理論的・批判的に分析して、その改革をする能力を養う教育はなされていない。その結果、社会が複雑・高度化し、求められるものがますます多様化している法曹の養成、とりわけ21世紀の社会にふさわしい弁護士の養成という点では、修習期間の短縮とあいまって、極めて不十分なものとなっている。


また現在の司法修習制度は、量的な養成能力という点で限界に達しており、社会の隅々にまで法律実務家として存在し、法曹一元制を担うに足る数の法曹を、その質を維持しつつ養成することは、このままのシステムでは困難である。


(3) 21世紀の法曹養成制度の眼目

従って現在の法曹養成制度は、21世紀の社会と市民が求める法曹を養成できるシステムに、抜本的に改革されなければならない。


具体的には、法曹の果たすべき公益的役割と法曹の職責・倫理を自覚し、人と社会を深く理解し、法による正義の実現のために必要とされる技能を備えた法曹が、その質を維持しつつ社会が必要とするだけの数を養成できる制度とならなければならない。また、我々が法曹一元制を目指す以上、法曹養成制度は弁護士養成を眼目とするものとし、弁護士会が主体的かつ積極的にこれを担わなければならないのは当然のことである。


5. あるべき法曹養成制度としての法科大学院(仮称)構想

(1) 検討の経緯と構想案

現在、あるべき法曹養成制度として検討の対象になっている法科大学院(仮称)構想は、大学院レベルでの法理論教育と実務教育、その成果をためす司法試験、その合格後の司法(実務)修習という一連のプロセスにより法曹の選抜と養成を行うというものである。これは、少なくとも司法試験合格者が合格以前に一定の法学教育と実務教育を経ていることを保証するものであり、今日の法曹養成制度につき指摘されている種々の問題点に適切に対応して正しく制度設計がなされるならば、法曹一元制の理念に適い、現在の法曹養成システムの問題点を解消する可能性を持った制度となりうるものである。


司法制度改革審議会は、法科大学院(仮称)を中核とする新たな法曹養成制度の構想についての検討を文部省に依頼し、文部省は、大学関係者、法曹三者、文部省及び司法制度改革審議会委員による「法科大学院(仮称)構想検討会議」を設置した。検討会議は、本年8月7日、下記の概要を骨子とする中間報告書を取りまとめ、司法制度改革審議会に報告した。


A. 基本理念

豊かな人間性や感受性、幅広い教養と専門的知識、柔軟な思考力、説得・交渉の能力等の基本的資質に加えて、社会や人間関係に対する洞察力、人権感覚、先端的法分野や外国法の知見、国際的視野や語学力等を備えた者が法曹となるように、「点」のみによる選抜ではなく法学教育・司法試験・司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての法曹養成制度に変革する。


B. 法曹養成のための法学教育のあり方

理論的教育と実務的教育を架橋して、専門的法知識に対する批判的創造的視点及び法曹の人間的バックグラウンドとしての幅広い視野を身につけさせるために、学問の自由を基盤として多様な学風を持つ大学において教育を行うことが効果的である等の観点から、法科大学院(仮称)は、法曹養成に特化した実践的な教育を行う大学制度上の大学院として構想する。ただし、既存の大学を拠点としなければならないものではない。


法科大学院(仮称)には経済学や理数系など学部段階での専攻分野を問わずに受け入れ、社会人にも広く門戸を開放する。


真の教育重視への転換など、大学には変革に向けて相当な努力が求められる。


C. 基本的枠組み
(ア) 標準修業年限
3年制を基礎として短縮型としての2年制をあわせて検討する。
(イ) 教育内容・方法
基本六法科目・法曹基本科目をコア科目として、それ以外については独自性・多様性を尊重する。所定の試験を経た上で、法学既修者と認められた者については、履修免除により2年修了を可能とする。
少人数教育を基本とし、コア・カリキュラムなどについて1クラスの人数を50人程度までとする。成績評価・単位認定は公平で客観的な尺度による。
(ウ) 入学選抜・学生定員
入学選抜の基本理念として、公平性・開放性・多様性を確保する。試験の結果と学部段階での学業成績・社会人としての活動実績などを総合的に考慮して入学の可否を判断する。基本的に各大学の独自試験とするが、全国統一試験を実施するべきであるとの考え方がある。定員については別個の規制をしない。
(エ) 教員組織
多数の専任教員を必要とし、指導適格教員の基準も教育内容・方法にあわせて再検討する。専門大学院の基準の枠内で構想するかどうかは今後の検討課題である。いわゆる実務家教員が不可欠であり、その数・比率についてはカリキュラムの内容、司法(実務)修習との役割分担との関連で適正な基準を考える。
(オ) 多様な設置形態と適正配置
独立大学院、連合大学院も認め、夜間大学院などの多様な形態により、開放性・多様性の確保に努める。通信制大学院についても積極的に検討する。地域を考慮した全国的な適正配置のための政策的考慮をする。
(カ) 資力が十分でない入学者に対する援助の必要性
授業料の負担があまり重くならないよう考慮する。資力の十分でない者への格別の配慮が必要であり、奨学金、教育ローン、授業料免除制度が整備されるべきである。
(キ) 法科大学院(仮称)の財政基盤の確立
司法の人的基盤の整備の一翼を担うという公共的使命に鑑みれば、公的資金による財政支援が不可欠である。
(ク) その他
修了者には米国のジュリスドクターに相当する独自の専門職学位を授与することを検討する。
D. 法科大学院(仮称)の設置と第三者評価

一定の客観的基準を満たしたものを設置認可するものとし、広く参入を認める。ただし、設置認可基準は厳格なものとする。


法科大学院(仮称)の評価基準の策定とその実施に当たる機構を、法科大学院(仮称)・文部省関係者だけでなく法曹関係者・関係行政機関やそれ以外の学識経験者などを構成員として新たに組織し、合同で評価を実施する。認定は定期的に行い、是正勧告や認定の取り消しもあり得るものとする。


E. 法科大学院(仮称)と司法試験・司法(実務)修習

新司法試験は法科大学院(仮称)の教育内容を踏まえたものとし、法科大学院(仮称)修了者のうち相当程度が合格するものとする。


法科大学院(仮称)修了を新司法試験の受験資格とするが、その場合、開放性や公平性の徹底の見地から、入学者に対する経済的支援や夜間大学院、通信制大学院の開設などの方策を講じることが特に重要となる。3回程度の受験回数制限を設けることが合理的である。


法曹に要求される実務能力涵養のために、司法(実務)修習を実施することを前提として、法科大学院(仮称)は、実務上生起する問題の合理的解決を意識した法理論教育を中心としつつ、実務教育の導入部分をあわせて実施する。


(2) あるべき法科大学院(仮称)実現に向けた我々の課題

当連合会は、我々が新たな法曹養成制度の中心的な機関として位置づける法科大学院(仮称)がいかなるものであるべきかを本臨時総会において主文のとおり決議する。また、現行の法曹養成制度が変更されないことを前提とした1994年(平成6年)、1995年(平成7年)及び1997年(平成9年)の臨時総会決議は、本決議と抵触する限りにおいて変更することとする。


なお、法科大学院(仮称)構想検討会議の中間報告のうち、本年4月15日理事会で承認された基本方針に照らし、さらに改善を求めるべき点は、以下のとおりである。


第1に、新たな法曹養成制度は、弁護士会の関与のもとで、21世紀の社会にふさわしい質と量を備えた弁護士を養成するという、法曹一元制を支えることを目指すものでなければならないが、中間報告では実務教育の主体を司法(実務)修習にゆだねている関係で、法科大学院(仮称)では、現在の司法研修所における前期修習に相当するカリキュラムは実施されないものとされているなど、実務教育が不十分である。


第2に、設置認可手続及び第三者評価機関による設置後の評価において、弁護士会の意見が十分に反映されるものにしなければならない。


第3に、新司法試験は、法科大学院(仮称)における教育を前提として、その成果を試す試験とすべきであり、新司法試験の管理には、弁護士会の実質的関与が認められるべきである。


第4に、新司法試験合格後の司法(実務)修習の内容が明らかでない。前述のとおり、十分な実務教育を法科大学院(仮称)で行い、新司法試験後の司法(実務)修習は、法曹三者が対等な立場で運営すべきである。


第5に、公平性・開放性・多様性という法科大学院(仮称)の基本理念を真に実現するために、法科大学院(仮称)の創設・運営の各段階において、国の十分な財政措置が講じられなければならない。


6. 司法制度改革審議会に対する要望

(1) 当連合会の「基本的提言」と集中審議のとりまとめ

当連合会は、司法制度の抜本的な改革を調査審議している司法制度改革審議会に対し、当連合会のこれまでの研究や実践の成果を集約した「司法改革実現に向けての基本的提言」を提出した。


その基本理念は、司法制度の社会的機能を大きく拡大すること(大きな司法の実現)及び司法制度について主権者たる国民の主体的関わりを制度的に強化すること(市民の司法の実現)であり、その中核に位置付けられたのが、司法の民主化のための法曹一元制と陪・参審制の実現である。


これまでの司法制度改革審議会の審議においては、司法制度の人的基盤の充実・強化に関し、法曹(裁判官・検察官・弁護士)人口の大幅な増員と質の向上及び裁判所書記官など司法機関職員(裁判結果の実現に携わる職員を含む。)の質・量ともの充実・強化を図ることが合意されており、このことは、大きな司法を実現する基盤の整備の面から見て、誠に適切なものと考える。


他方、法曹一元制については、集中審議において、法曹一元の根底にある考え方に基づいて裁判官制度の改革を行っていくとして、(1)裁判官の給源の多様性、多元性を図る、(2)裁判官の任命のあり方について工夫する、(3)裁判官の人事制度の透明性、客観性を付与する工夫を行う、など司法の民主化を図る方向性を示し、今後その具体像を審議検討するとされたものの、その核心部分である判事補制度の廃止に踏み込まないなど、いまだ極めて不十分な結果となっている。


(2) 今後の審議に対する要望

当連合会は、今後の司法制度改革審議会の審議において、当連合会の上記「市民の司法」実現の視点から、以下のような抜本的改革の方向が打ち出されることを強く要望する。


A. 第一は、判事補制度の廃止の方向性を示すことにより、法曹一元制の実現への道筋を明確化することである。


すでに集中審議において、前記のとおり現行の裁判官制度における裁判官の給源のあり方、任用方法、人事制度のあり方について、いずれも大きな問題のあることが指摘され、その改善の具体像を検討するとされている。


当連合会は、ここで指摘されている我が国裁判官制度の問題点の根源が、判事補からの任用を基本とした、いわゆる職業裁判官制度(キャリアシステム)及び、その中央集権的司法行政による不透明かつ不公正な運用にあると考える。これに対して国民の視点に立ったメスを入れ、裁判官制度を抜本的に改革することは、全ての制度運営の官僚制を廃し、透明性・公正さを高める、あるべき21世紀社会実現の方向性に合致するものである。


集中審議でとりまとめられた裁判官のあり方についての制度改革は、さらに判事補制度の廃止への方向性を明確にすることによって、21世紀の我が国においてあるべき裁判官制度を実現する真の抜本的な改革案となる。またそれこそが、我々の求める法曹一元制である。


法曹一元制については、臨時司法制度調査会をはじめ、望ましい制度としての評価が定着している。司法制度改革審議会の地方公聴会でも、その実現を求める公述人が圧倒的に多数であったし、最近の新聞の論説でも、法曹一元制へ踏み切るべきことを主張するものが相次いでいる。


司法制度改革審議会が同じ集中審議で打ち出した法曹人口の大幅増員の方向は、法曹一元制実現の最も重要な基盤を形成するものである。また現在進行中の法律事務所の法人化の立法や、法科大学院(仮称)構想によって法曹の質の維持、向上が検討されていることも、法曹一元制実現の条件を整備するものであり、その実現の方向性を示すべき機は熟している。


抜本的な制度改革が一朝一夕にしてなし得ないことはもちろんであるが、当連合会は、今次改革において、司法制度改革審議会が、判事補制度廃止を含む法曹一元制実現の方向性を明確に提示し、これに基づき法曹三者を含めた国民的議論によりその具体化を図り、そのために必要な諸課題を実践して行くことが、望ましい制度を実現するための道筋であると確信する。


B.第二は、陪審制度の早期実現である。


当連合会は、司法制度改革審議会に対し、陪・参審制度の導入についても、提言を提出している。


とりわけ陪審制度は、国民が司法制度に対して直接かつ主体的に関わるものであり(国民の司法参加)、その制度の実現はまさしく司法の民主化を象徴する意義を有している。また、これが実施された場合の国民の主体意識の涵養に対する教育的効果の大きさは、計り知れない。さらに、刑事陪審制度は、戦前において既に実施され、その効用を認められたもので、戦時体制下の情勢の困難を理由として一時停止をされているという経緯がある。また、戦後、沖縄においても陪審制が実施された経緯もある。このように陪審制度は、我が国にとってなじみのある制度であり、民主主義が発展した現在において、その再実施に困難があるはずはない。スペインのように、一旦廃止された陪審制度が、民主制の復活にともない再実施されている例があることは、あるべき改革の方向を指し示していると言うべきである。 


これらのことから、少なくとも刑事重罪否認事件についての選択的陪審制度の導入をすることには何らの支障もなく、また、制度の基本に関わる抜本改革として、その導入の意義は、誠に大きなものがある。


(3) 国民が求める司法改革

法曹一元制と陪審制の実現は、司法制度改革審議会が、国民の要望を徴するため実施された各地方における公聴会においても、多数の公述人から強く求められたところである。また、当連合会が実施した、司法制度改革を求める署名運動においても、既に司法制度改革審議会に提出した200万人を超える膨大な署名に、国民の声として反映されている。


従って、これらの制度改革を具体化することこそが、国民の視点から今次改革を調査審議するという司法制度改革審議会の責務といえる。


(4) 当連合会の実践と決意

当連合会は、当番弁護士制度の創設と全国完全実施、財団法人法律扶助協会による被疑者弁護援助制度への全面協力、全国的な法律相談センターの展開、仲裁センターの設立及び司法過疎地での公設事務所の開設など、司法制度の改革に関わる自主的実践に全力をあげてきた。その上でなお、「司法改革実現に向けての基本的提言」において、国民と司法をつなぐ接点である弁護士の活動が、国の全ての地域、社会生活の全ての分野・領域で旺盛になされるべきであるという点で、これまで必ずしも十全とはいえなかったという反省に立って、弁護士のあり方についての自己改革を進めている。


加えて、法曹人口の質・量ともの充実・強化が必要であるという司法制度改革審議会の指摘についても、当連合会はこれを真摯に受け止め、継続的倫理研修の義務化、新規登録弁護士研修制度の創設など、既に実施済みの方策に加え、国民の権利擁護という職務を果たすに足る質をもった弁護士を増大させていくための法曹養成制度の改革にも、主体的かつ積極的に取り組む所存である。


あわせて、司法制度改革審議会において、法曹一元制や陪審制の導入という、21世紀の我が国の司法としてあるべき抜本的制度改革が打ち出される場合には、当連合会は、そのスムーズな移行のため、法曹三者間の協力を万全に行うことはもとより、自らに課せられる課題を果たすために、全力を尽くす決意を有している。


以上のとおり、当連合会は、司法制度改革審議会に対し、国民の負託に応えて、法曹一元制と陪審制の実現の道筋を具体化することにより、司法制度の抜本的な改革を実現されるよう、強く求めるものである。


7. 21世紀にむけての宣明

法曹人口を増加させながら、我々弁護士に対する専門家としての信頼を維持していくことは決して容易なことではない。しかし、まさに法律事務を担うために養成されて、その業務に携わっている我々が、総力を挙げて前向きに立ち向かうならば、弁護士の社会的役割を飛躍的に増大させる改革は可能であり、将来への道を開くことができる。


他方、現在進められている司法制度改革について、これを抜本的なものとせず、部分的な改良に留めるならば、キャリア裁判官制度とそれを基礎とする小さな司法という現状を温存することになり、司法制度改革審議会設置法第2条に定められた「審議会は、二十一世紀の我が国社会において司法が果たすべき役割を明らかにし」、「司法制度の改革と基盤整備に関し必要な基本的施策について調査審議する。」という所掌事務及びその「論点整理」において高らかに宣言された「来るべき新時代の要請に応える司法制度の実現に向けて、不退転の決意で審議に臨む」という方向に反することになる。 


我々弁護士も、21世紀の社会で司法が大きな役割を果たすため、それを可能にする質の向上と量の拡大を指向する決意とそれにふさわしい法曹養成制度の構築にむけ行動することをあらためて宣明するとともに、司法制度改革審議会に対し、法曹一元制と陪審制の実施への方向性を示すという抜本的な改革をなすことを要望し、本決議を行う。



  

日本弁護士連合会
2000年11月1日臨時総会 関連決議


(主文)

当連合会は、弁護士自治の維持・発展に努め、その重要性を広く訴える。


(理由)

  1. 司法制度改革審議会は、裁判官・検察官等の増員を含む司法容量の拡大、法律扶助の拡充、公費による被疑者弁護制度の創設等の方向で議論がなされている。その中で、夏期集中審議を経て、「法曹人口について、現在検討中の法科大学院(仮称)構想を含む新たな法曹養成制度の整備状況を見定めつつ、計画的に、できるだけ早期に年間3000人程度の新規法曹の確保を目指すこと」とする取りまとめが行なわれた。
  2. 現行の年間1000人から3000人程度への法曹人口増と、「現在検討中の法科大学院構想」に対しては、人権擁護と社会正義の実現のために活動する弁護士の在り方を変容させる可能性を指摘する声もある。これまで弁護士は、この社会において人権擁護と社会正義の実現のために様々な活動に取り組んできたが、そのような活動を、今後も維持し発展させることが出来るか否かについて危惧を持つ会員も多い。
  3. 現行弁護士制度の理念は、人権擁護と社会正義を実現することにあり、弁護士自治がその制度的保障として確立された。在野にある弁護士の在り方を確認し、人権擁護活動を維持・向上させることは、個々の弁護士の不断の努力に求められるとともに、弁護士会の重要な責務の一つでもあることはいうまでもない。
  4. 弁護士自治の制度は、弁護士が、権力に干渉されることなく、市民の人権を守り、国家権力の横暴に市民と共に対峙し、活動するという崇高な使命を保障するものである。
    弁護士の活動が市民の権利を十分に擁護し、日本国憲法が定める人間の尊厳、個人の尊重という理念を実現するためにも、弁護士自治の維持・発展は欠かすことができない。
  5. 今次の司法改革論議の中で、当連合会は、弁護士自治を維持・発展させ、弁護士自治がこの国の人権擁護と社会正義の実現にとって不可欠の要素であることを広く訴え、広範な理解が得られるよう、全力を尽くすものである。