第47回定期総会・国民のための公開原則に立つ情報公開法の制定を求める決議

国民の「知る権利」は民主主義の根幹である。


国等が保有する国政その他に関する諸情報は膨大な量に及ぶ。それは本来主権者である国民のものであり、民主主義はこれら諸情報が国民に対し正確かつ充分に提供されることによって確保されるものである。


しかし、わが国においては、国民による行政等に関する諸情報の開示請求に対し、行政機関の秘密主義の故に国民の生活と生存にかかわる重大な情報も行政の恣意により非公開とされることがまかり通り、公正であるべき行政をゆがめてきた。HIV事件における厚生省、高速増殖原形炉「もんじゅ」の事故における動力炉・核燃料開発事業団、住宅金融専門会社問題における大蔵省などの各対応はまさにこのことを示した。


さらに、本年4月24日に公表された行政改革委員会行政情報公開部会の「情報公開法要綱案(中間報告)」は、従来の行政機関の秘密主義を改めるには、極めて不十分なものである。


日本弁護士連合会は、国民の「知る権利」の実質的保障の見地から情報公開法の制定を求め、1994年7月「情報公開法大綱」を発表し、真の情報公開法の制定を強く求めてきたが、ここに改めて、情報公開法が行政機関による情報の独占を排し、「知る権利」を実質的に保障するものとなるよう、以下の点を強く要望する。


  1. 情報公開請求権は、国民の「知る権利」に基づく基本的権利であることを明記し、何人にも公開を認めるものとする。
  2. すべての行政機関、特殊法人等政府関係法人を制度の対象機関とし、職員が職務上作成、取得した情報はすべて公開の対象とする。
  3. すべての情報は、公開を原則とし、例外的に公開しないことができる情報(適用除外)は必要最小限の範囲とし、明確に定める。非公開の理由は個別具体的に明示し、適用除外事由に該当することの立証責任は実施機関が負う。
  4. 人の生命・身体の安全、健康の保持、環境の保全に関する情報、消費生活に重大な影響を与える情報、並びにこれらの事項に関する合議制機関の情報は、絶対的公開とする。また、非公開約束の下に入手した情報について全て非公開とする制度は採用しない。
  5. 対象機関は、情報を管理・保存する義務を負い、不存在を理由に開示請求を拒否しない。また、存在・不存在を明らかにできない対象外情報を無条件に認めない。
  6. 請求者が誰でも迅速、容易に情報を入手できる制度として手続きや費用を定める。
  7. 非公開処分について、迅速・公正な審査を行う独立の救済機関を設置し、地方の居住者にも不服申立の便宜を図り、かつ請求者の居住地で司法救済を容易に受けられるよう裁判管轄を定める。

以上のとおり決議する。


1996(平成8)年5月24日
  日本弁護士連合会


提案理由

1.国民の「知る権利」に基づく情報公開制度の確立の要望の声が国民各層から高まってき たことを受け、行政改革委員会行政情報公開部会において情報公開法制定の審議が行われてきた。


しかし、同要綱案は、以下の多くの問題がある。


第1に、法の目的に「知る権利」が明記されていないこと。

第2に、対照機関に国民生活センターや動力炉・核燃料開発事業団など特殊法人その他の政府関係機関が含まれていないこと。

第3に、不開示情報に関し、個人情報について、プライバシー情報型(他人に知られたくない情報等)を採用せず、より広く個人識別可能情報型(当該個人を単に識別できる情報等)を採用していること。

第4に、同じく法人情報について、秘密約束のもとに提供された情報は非公開としていること。

第5に、同じく行政関連情報について、「率直な意見の交換若しくは意思決定の中立性が不当に損われるおそれ、不当に国民に誤解を与え若しくは不利益を及ぼすおそれがあるもの」、「当該事務若しくは事業又は将来の同種の事務若しくは事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」を非公開としていること。

第6に、存在・不存在すら明示しない対象外情報を認めていること。

第7に、開示請求に関する手数料の定め方につき、大量請求を不当に抑制することとなること。

第8に、大量請求に対して何ら決定することなく開示しないことができるとしていること。

第9に、非公開決定に対する不服申立につき、地方住民による地元機関への申立制度が確保されておらず、各地に三番管轄を認める定めがないこと。


など、「知る権利」を実質的に保障する見地からは明らかに不十分である。


2.当連合会は、1980年11月8日人権擁護大会において国等による情報独占を排し、国民の「知る権利」を制度的に保障するために情報公開法が制定されなければならない、との決議を採択した。


上記決議を受け、当連合会は真の情報公開制度の確立に向けての具体的提案をするため、「情報公開法大綱」の検討に着手し、1994年7月に同大綱を発表した。


同大綱は、第一に何人に対しても「知る権利」に基づく情報公開請求権を認めたこと、第二に情報公開法を情報公開に関する基本法と位置付けたこと、第三に行政機関の全ての 情報を対象としたこと、第四に情報公開を原則とし、例外としての非公開事由を最小限のものに限定したこと、第五に情報の閲覧は無料とし、謄写はできる限り低額にすること、第六に、不服申立手続等につき情報公開を請求する者に利用しやすい独立の不服申立機関を設置するものとしたこと等、従来の行政機関の秘密主義を打破し、真の情報公開を実現 するために不可欠な規定を盛り込んでいる。


3.他方、政府情報の取扱いについては、HIV事件における厚生省の資料隠匿、高速増殖原型炉「もんじゅ」の事故における動力炉・核燃料開発事業団のビデオ・テープ隠匿、住宅金融専門会社問題についての大蔵省の資料隠匿等、国等の情報の独占及び秘匿行為が国民に不利益を及ぼし、その権利を侵害している事例が後を絶たない。


4.このような現状において、情報公開法が同要綱案のような内容を持つものとして制定されたならば、国民の努力の結集により公開されたHIV事件の厚生省の資料さえも非公開とされる可能性があり、国民が期待する情報の公開が実現するか疑問とせざるを得ない。


5.同大綱発表後も、当連合会は、1996年2月15日、情報公開シンポジウムを開催するなど、制定される情報公開法は真の情報公開を目指すものでなければならず、国民の「知る権利」に基づく情報公開請求権の存在を明記すべきものであること等同大綱に示した提言が法案に盛り込まれるよう強く求めていくことを国民に呼び掛けている。


6.そこで、我々は国民の「知る権利」を実質的に保障するために、国における情報公開の制度化にあたって本決議の(1)ないし(7)記載の内容が情報公開法に盛り込まれるよう強く要望するものである。


以上