第43回定期総会・核兵器の廃絶と被爆者援護法の制定を求める宣言

(核兵器の廃絶と被爆者援護法の制定を求める宣言)

核兵器を廃絶し、恒久平和を確立することは、生きとし生けるものすべての悲願である。


今、この願いを実現する絶好の機会が到来している。核兵器による恐怖の均衡を柱とした東西冷戦の構造は崩壊し、軍縮に向かって時代は大きく動いている。


しかるに、核保有国は核兵器の削減を唱えても廃絶をしようとはせず、一方、核兵器の拡散、流出、管理等新たな問題が発生して、世界に不安を広げている。


また、原爆投下後半世紀を経過しようとしている今日においても、被爆者の苦しみはなお続いており、その対策は充分とは言えない現状にある。


われわれは、日本国政府に対し、わが国が世界で唯一の被爆国であることに深く思いをいたし、非核三原則を堅持して核兵器の廃絶に向けて、世界の先頭に立って指導的役割を果たすとともに、国内においては国家補償の理念に基づいた被爆者援護法をすみやかに制定することを強く求める。


われわれも、世界の平和を愛する人たちと連帯し、核兵器廃絶のための一層の努力をすることを誓う。


人類史上初の原爆の惨禍を受けたこの広島の地において改めて宣言をする。


1992年(平成4年)5月29日
日本弁護士連合会


提案理由

1950年(昭和25年)5月、日本弁護士連合会は、当地広島において、第1回定期総会とこれに引き続き、全国弁護士平和大会を開き、次のような「平和宣言」をした。即ち、「日本国憲法は世界に率先して戦争を放棄した。われらはこの崇高な精神に徹して、地上から戦争の害悪を根絶し、各個人が人種国籍を超越し、自由平等で且つ欠乏と恐怖のない平和な世界の実現を期する」という内容である。


しかし、第二次世界大戦後のいわゆる東西対立による冷戦構造のもと、互いに軍事ブロック体制を土台として、核軍拡競争が設けられた。その結果、核兵器は、世界の人類を数十回殺りくしてもなお余りある程、大量に製造、蓄積され、核兵器が現実に使用される危険性が日々増大し、世界の平和を脅かしつづけてきた。わが日本弁護士連合会は、先の第1回総会の際の「平和宣言」をはじめ、1954年(昭和29年)第5回定期総会における原子爆弾等の凶悪な兵器の製造ならびに使用禁止を求める宣言、1964年(昭和39年)における二度目の「平和宣言」をし、その他総会において、核兵器の廃絶に向けて宣言や決議を重ねてきた。とりわけ、1978年(昭和53年)当地広島における第29回定期総会において、核兵器の廃絶は、人類の悲願であり、核兵器の完全禁止をめざす第一歩として、世界の諸国間に、核兵器の使用・威嚇・運搬を禁止する国際条約が締結されるよう提言することを決議した。


1990年代に入り、東欧諸国の変化、東西ドイツの統一、そして、ソビエト連邦の崩壊と、国際情勢は急激に変化した。このため、東西対立による従来の冷戦構造は崩壊した。このようなときこそ人類の生存と繁栄に対する最大の現実的脅威である核兵器を廃絶する絶好の機会である。


しかし、核兵器を含む軍備縮小の機運が高まり、国際協定による一部核兵器の廃棄が実現したとはいえ、戦後の国際政治の内部に深く根をおろした核抑止論はまだ解消しておらず核兵器廃絶の合意も成立していない。核戦争の危機はいまだ去ってはいない。


また、旧ソ連邦に存在している核兵器について、領域内での拡散、他国への流出などその管理が大きな問題となっている。また、従来の核保有国以外の国が、新たに、核兵器の開発、製造を行おうとしており、それに対する国際的な監視・査察体制のあり方についても現実的かつ効果的方策は講じられていない。新しい核兵器の恐怖と不安が世界を覆っているのである。このようなときにこそ世界は核兵器の全面的な廃絶に向けて確たる国際協定とその現実に向けての行動を必要としている。


一方、被爆後47年を経過しようとしている今日、被爆者の苦しみはなお続いているばかりか、その多くは高齢化するとともに、寝たきりや一人ぐらしの中で、健康や生活の不安を訴え続けている。この被爆者の願いに応えるため、われわれは、国家補償の理念に立脚した被爆者援護法の制定を求め続けてきた。


わが国は、当地広島と、そして長崎において、世界で唯一、原子爆弾の被害を蒙っており、そのため、国民の核兵器廃絶に対する希求は大なるものがある。また、わが国政府は、「核兵器を作らず、持たず、持ち込ませず」の非核三原則の堅持を表明してきている。このような点から核兵器廃絶に向けて、わが国は世界に対し、率先して指導的役割を果たすべきであり、またすみやかに被爆者援護法を制定して、すべての被爆者に対する補償を実施すべきである。さらに、われわれ法律家も、世界の平和を愛する人たちと手を取り合いながら、全世界から一切の核兵器をなくすよう一層努力することをここに誓い、この宣言を提案する。