第43回定期総会・弁護士任官推進に関する決議

(弁護士任官推進に関する決議)

日本弁護士連合会は、1990年(平成2年)第41回、1991年(平成3年)第42回定期総会において「司法改革に関する宣言」を採択し、市民に開かれた司法を目指して、市民とともに司法の改革を進め、同時に弁護士と弁護士会のあり方をも改革する、との強い決意を表明した。


弁護士任官は、この決意表明に基づく司法改革の具体的方策の一つとして取り上げられた。これは市民感覚ゆたかで、人権意識に富む弁護士が多数任官することにより裁判官と検察官の質と量を充実させ、官僚司法の弊害を是正するとともに、法曹一元制度に近づけることを目指したものである。世論もこれを高く評価して、その推進を求めている。


そこで当連合会は、最高裁判所と法務省との協議をつくし、その選考要領で合意に達し、各弁護士会もまた積極的に努力した結果、きわめて短期間であったにもかかわらず、当連合会を経由する弁護士任官制度の確立に向けて意義ある一歩を踏み出すことができた。


しかし、平成3年度の状況をみるかぎり、より多くの弁護士会からより多くの応募者を得るには、任官者への支援をはじめとして今後検討されるべき諸課題が残されている。


この制度を定着、前進させるためには、当連合会における一層きめ細かな具体的取組みはもちろんのこと、最高裁判所と法務省に対し、さらに積極的な対応を求めていくことが必要である。


ここにわれわれは、弁護士任官を司法改革の一環として位置づけ、応募者の継続的確保とその任官の実現に向け、さらに努力することを表明するものである。


以上のとおり決議する。


1992年(平成4年)5月29日
日本弁護士連合会


提案理由

1.当連合会は、一昨年の第41回と昨年の第42回の定期総会において、二度にわたり「司法改革に関する宣言」を採択した。これは今日の司法が法的紛争の適正かつ迅速な解決、人権保障、行政権のチェックなどの面においてその機能を十分に果たしているとはいえず、「二割司法」とか「国民の司法離れ」と呼ばれる危機的状況にあるとの認識によるものであり、その抜本的改革に向けての決意を表明したものである。また市民の側からも、このような裁判の形骸化を是正するだけでなく、消費者問題、公害問題に典型的にみられるような経済社会の歪みから発生する新しい法的紛争の続発に対し、司法がこれらの問題に積極的にかかわり、これを適正かつ迅速に解決する機能を果たしてもらいたいという期待も高まっている。


2.司法がこのような市民の期待に応えるためには、何よりもこれを担うものが、質、量ともに充実していることが求められる。ところが裁判官、検察官は、いずれも官僚司法制度によって枠付けされており、いきおい市民感覚、人権意識が希薄化し、その結果、訴訟運営や判決内容において当事者のみならず市民の健全な常識から遊離した硬直性が指摘されるにいたっている。また司法試験改革問題の論議の過程で明らかになったように、裁判官、検察官はいずれもその数が不足しており、十全な司法救済を実現するのに程遠い状況にある。


3.このような問題を根本的に解決するためには、官僚司法制度を抜本的に改革し、すべての裁判官を弁護士の中から選任する法曹一元制度の実現が必要であると考えられる。しかしこれが一朝一夕に実現する情勢にない現状のもとでは、キャリアシステム下の裁判所、検察庁であっても、市民感覚ゆたかで、人権擁護活動の実績を有する弁護士が一人でも多く裁判官や検察官になっていくことは重要な意義を有すると考えられる。


当連合会は、昨年度、最高裁及び法務省と協議のうえ、弁護士からの裁判官、検察官への任官に関し、裁判官については弁護士経験5年以上で裁判官として少なくとも5年程度は勤務しうるものであって年令55歳以下の者、検察官への任官に関しては弁護士経験が概ね3年ないし15年程度の者であって、検事として少なくとも3年程度は勤務しうる者を対象とし応募者が当連合会を経由して応募することを認める新たな選考要領を回答として得た。


これは、当連合会の要望を容れて当連合会を経由しての応募を認めたこと、選考対象者の範囲を拡張したこと、比較的短期の任官を認めたことなどにおいて従来の制度にない特徴を有するものである。当連合会は理事会の決議に基づいて各弁護士会に対し、新しい選考要領の会員への周知徹底を要望し、応募者確保への特段の配慮のうえに立って応募者の取りまとめを依頼した。このような取組みの結果、昨年度末には裁判官に8名、検察官に3名の応募者を得て、各庁にこれを伝達し、現在、最終的な決定を待つ状況にある。


4.この新たな弁護士任官制度は法曹一元制度に直結するものではないにせよ、裁判所や検察庁に新たな風を送りこみ、本当に市民から親しまれる司法を実現していくための貴重な第一歩である。そのためには、もっと多くの弁護士会から、もっと多くの人たちが応募できるような環境と条件を作っていくことがわれわれに課せられた責務である。その意味で今回の状況をみるとき、きわめて短期間であったにもかかわらず、これだけの応募を得たことは重要な成果であったが、弁護士任官の意義についてもっと会員の理解を得るうえで、また一定の期間であれ、新しい仕事につく人たちの法律事務所のあり方をも含めた諸条件の整備をはかるうえでも、多くの検討課題を残したといえる。


5.当連合会は、本年4月、司法改革推進本部を設置し、司法改革を全会挙げて推進する体制を整えた。その当面の課題の一つとしてこの「弁護士任官の推進」が掲げられており、現在推進本部においてその新たな取組みを開始した。今後この制度を定着させ、前進させるためには、当連合会及び各弁護士会において、応募者を継続的に確保し、その採用の実現をはかるために、法律事務所のあり方、事件や事務職員の引継体制、待遇、任地、配属、退官後の生活保障問題に対する対応等、より一層きめ細かい具体的対策にただちに着手しなければならない。また非常勤裁判官制度などについても調査、研究し、弁護士がより任官しやすい方策を追求していく必要がある。


当連合会は今後も司法改革を実現するために全会を挙げて取り組むものであり、弁護士任官制度もその重要な一環として位置づけ、その発展を期するものである。


このようなわれわれの決意を改めて確認するために、本決議を提案する。