第39回定期総会・弁護士業務の拡充・業務内容及び弁護士報酬に関する広報の充実に関する宣言

(宣言)

弁護士法は、われわれ弁護士に法律事務の独占を認めているが、このことは、弁護士が、あらゆる法律事務を取り扱う権限を与えられていると同時に、市民の法的ニーズにくまなく対応すべき責務を課せられていることを意味する。


これまでの弁護士は主として訴訟中心の業務を行い、具体的事件の紛争解決により正義を実現してきたが、長年にわたる経済社会の大きな変動と価値観の多様化にともなって、市民は弁護士・弁護士会に対し単に現実に生起している紛争の解決のみではなく、将来の法律的紛争に対する予防、その他市民生活のあらゆる場面での法的なアドバイスの提供を求めるに至っている。


しかし、現在の弁護士・弁護士会の実情は、この問題について積極的に取り組み、十分に市民の負託にこたえているとは言いがたい。かかる反省の上に立って、われわれはここに、


  1. 裁判外業務の拡充
  2. 法律扶助制度の充実と少額事件処理制度の確立
  3. 法律問題の多様化、高度化に対応し得るための知識、能力の向上
  4. 業務内容及び弁護士報酬に関する広報の充実

の課題に向かって努力することを決意し、誓うものである。


右宣言する。


1988年(昭和63年)5月28日
日本弁護士連合会


(提案理由)

1.戦後40年、わが国は世界有数の経済大国へと発展し、国民の多くは財形的資産の保有を生活基盤とする中産階級意識を持つといわれている。しかし、一面において豊田商事・霊感商法・国利民福の会等広く一般市民を被害者に巻き込む事件も跡を絶たない。それは、経済的に豊かになったとはいえ、これに伴う十分な法的ガードを持たない結果である。


他方、日弁連弁護士業務対策委員会の法的ニーズに関する調査によれば、市民の間に発生した法律問題のうち、弁護士が相談を受けた件数はごく僅かにすぎない。


したがって、もし、われわれ弁護士がもっと市民にとって身近な存在であり、市民が気軽に弁護士に相談するシステムが整っていたならば、おそらくこれら市民の被害の大部分は未然に防止されたであろう。まさに、われわれ弁護士が市民から求められているのは、開かれた窓口とあらゆる法的ニーズに的確に対応し得る態勢である。


2.われわれは、従来ややもすれば法廷活動に重きをおき、紛争予防を中心とする裁判業務についてはこれをなおざりにしてきた傾向にあるが、今後は市民の法的ニーズにきめ細かく対応すべく、裁判外業務を拡充することが必要である。


例えば、前記のような消費者被害事件については、相談窓口の拡充や救済を目的とするセンターの開設、近時の地価暴騰と老齢者社会への対応としては、遺言の作成・執行についての総合窓口の設置が考えられる。このような消費者問題や遺産についての紛争を未然に予防する業務を拡充すべきである。


また、市民がいかなる法律問題についても気軽に法的サービスを受けるためには、法律扶助制度の充実と少額事件処理制度の確立とが不可欠である(前者については、昨年の定期総会で決議され、後者については、昭和47年に日弁連が「少額事件の処理に関する実施要綱」を策定しているが、いずれもその後あまり進展が見られない。)。


さらに、最近の技術革新やこれに伴う社会の情報化は、法律問題をますます多様化、高度化させているほか、わが国の国際化は市民の海外進出により、商取引の分野のみならず、市民生活にまで及んできている。


このような状況下にあって、弁護士が市民のあらゆる法的ニーズに対応し得るためには、より一層の知識、能力の向上をはからねばならず、弁護士研修も、より多面的ならしめ、水準を高めなければならない。


3.日弁連は昭和62年3月の臨時総会で会則を改正し、日弁連及び単位会に対し「業務について広報すること」を義務づけているが、その後の業務に関する広報活動は必ずしも十分とは言えない。


昭和59年度以降毎年開催されてきた弁護士業務対策シンポジウムの結果、市民の弁護士への接近を妨げているものの一つは、弁護士業務の具体的内容と報酬に関する広報活動の不足であることが明らかとなった。したがって、日弁連としては、今後特に右二点に関する広報を充実させていかねばならない。