第38回定期総会・弁護士倫理の確立と綱紀粛正に関する宣言

(宣言)

われわれ弁護士は、人権擁護と社会正義の実現のため、たゆまざる努力を重ね、社会的評価を得てきた。しかるに一部において弁護士の使命に反する行動が社会的批判の対象となる例がみられるのは、誠に遺憾である。


また、本年度から、外国弁護士制度が導入され、弁護士の業務広告規制も一部解除されることとなった。これら新制度の運用に際し、適正を欠くようなことがあれば、弁護士に対する国民の信頼を損うことにもなりかねない。


このようなときにあたり、われわれ弁護士は、職業倫理の確立が一段と重要性を増したことを自覚し、ともに相戒め、国民のための弁護士という目標に向けて、さらに前進することを誓うものである。


右宣言する。


1987年(昭和62年)5月30日
日本弁護士連合会


(提案理由)

われわれ弁護士は、先達たちの築いた100年の歴史のなかで、その業務を通じて人権の擁護と社会正義の実現のため、たゆまざる努力を重ねている。 その結果、国民から、法曹三者の一翼を担うものとしての社会的評価を得てきている。


しかるに近時において、一部会員の中に、その使命に違反して、社会から非難されるような行為があることは、われわれ100年の歴史に汚点を残すこととなり、誠に遺憾とするところである。


日弁連は、昭和60年12月の臨時総会において「国際的法律事務の円滑・適正な処理のための『外国弁護士』制度の基本方針」を決議し、更に翌年3月、「外国弁護士による法律事務の取扱いに関する特別措置法」が制定されたことは、つとに、周知されているところである。


しかして、本年1月、日弁連は、臨時総会を開催し、会則一部改正、外国特別会員基本規程等を制定し、本格的に外国弁護士受入れの態勢を整備するに至り、4月から実施されることとなった。


外国の弁護士資格者を、一定の条件を付したうえとはいえ、これを受入れることは、わが国弁護士制度発足以来、画期的な出来事である。しかし、国際的経済活動の中心にあるわが国が、海外に対する経済的不均衡是正の一つとして、法律業務の分野においても国際的対応を図ることは当然のことであり、更に、このことは、新たな世紀に向けての弁護士制度改革の第一歩として評価すべきことである。


また、本年3月開催の臨時総会においては、弁護士制度発足以来、規制されてきた業務広告の一部解除を承認し、昭和53年以来、検討してきた懸案の課題に決着をみることとなり、奇しくも外国弁護士制度の導入と時を同じくして4月1日からスタートすることとなった。今更、弁護士倫理を繙くまでもなく、これまで弁護士は自らを広告することを禁じ、情報化社会といわれる現代においていわば孤高を守ってきたが、しかし、それは、弁護士は高邁なプロフェッションとして自己を宣伝することになじまないという理由からだけにすぎず、法的サービスを求める国民の立場からは、企業であれ、個人であれ、ニーズに適応した弁護士についての情報をほとんど持ちえないという偏頗な現状にあった。


遅まきながらも、外的要因にもよるとはいえ、外国弁護士制度の導入を契機として、一旦はその論議を保留された広告問題が、ここにおいて一部ながら解禁されたことは、大いなる前進であるといってよい。


しかしながら、弁護士制度100年の歴史の中に同時に導入しようとするこの二つの制度は、ある意味においては、これまでの制度と比較したとき、それぞれ異質の要素を含むものであることも、異論のないところである。外国弁護士制度についてみるならば、法文上は、日本の弁護士と同じく、その職責は人権の擁護と社会正義の実現とされているが、実際には限られた分野で、かつ短期間の活動の中で、その実行を求めることは容易ではない。また、広告についてみるならば、反対論にも指摘されたように、自己を売込もうとするあまりその職責を忘れ、過当競争に走り、やがては弁護士としての品位を失うおそれなしとしない。


きびしい経済情況の中で、ともすれば荒波に足をすくわれかねない現時点において、かりにも、新しい制度の運用を誤るようなことがあれば、本来の弁護士制度との融和を図るどころか、制度自体をそこなうことにもなりかねない。古き革袋に新しい酒を盛る如くに、古き良き制度を更に良くするための導入とするのでなければ、これまでの幾多の労苦も水泡と期するおそれがある。


ここにおいて、われわれは、温故知新の例にならって、われわれの先達が100年の昔、苦難の果てに築いた代言人制度発足の当時に思いを至し、古くして新しい弁護士倫理の精神を正しく理解するために、その一語一語を熟読玩味しなければならない。そうすることによって、100年昔の先達たちが辛酸をなめた苦難の一端に触れ、現在、別な意味でわれわれが遭遇している諸々の困難について、解決の糸口を見出すことができるであろう。かくして、われわれが究極の理念とする「国民によって信頼され、かつ、国民のための弁護士像」に一歩でも近づくことができると考える。


ここに、外国弁護士制度の導入と弁護士の業務広告の一部解禁にあたって、われわれ弁護士が職業倫理の確立をめざし、綱紀の粛正をはかるべく、右宣言を提案するものである。