第31回定期総会・代用監獄廃止を求める決議

(第1決議)

人権侵害と不当捜査の温床であり、ひいては誤判の原因ともなる代用監獄は絶対に廃止すべきである。その存続を認めるべき合理的根拠は何ら存在しない。


しかるに関係当局は、現在進行中の監獄法改正作業において代用監獄を存続させようとしている。われわれは、到底これを容認することができない。


当局は、監獄法改正にあたって、まず何よりも代用監獄廃止の方針を確立し、その具体的計画を誠実かつ速やかに策定すべきである。


右決議する。


1980年(昭和55年)5月24日
日本弁護士連合会


(提案理由)

昨年、死刑確定の財田川事件、免田事件、松山事件について再審開始決定が出た。死刑囚の永年の無実の主張が、ついに再審の門を開かせた意義は大変大きい。


しかしながら、死刑が事実上執行されなかったという偶然によって、辛うじてこの朗報に接し得たという事実は、余りにも深刻である。


これら再審事件を含む多くの誤判事件は、代用監獄拘禁中の不当捜査による嘘の自白を出発点としている。代用監獄がまた、広く人権侵害の温床となっている。われわれがその廃止をくり返し主張してきたのもそのためである。このことはまた世界的世論でもある。即ち、司法官憲に引致された後の被疑者、被告人の拘禁を警察にゆだねてはならないとするデリー宣言(1959年11月、国際法曹委員会)、同旨のハンブルク決議(1979年9月、国際刑法学会)に反することは明白である。代用監獄制度は、世界の文明国にはその例を見ない。


しかるに、法制審議会監獄法改正部会は、日弁連推せん委員の廃止意見を斥け、捜査の便宜と予算上の制約を理由に、将来の廃止はおろか制限的利用さえも否定して、代用監獄制度を存続せしめる要綱案を可決し、法制審議会総会に報告した。われわれがこの改正作業を容認し得ないのは、明治41年の監獄法制定以来、変則的、暫定的制度として定められてきた代用監獄を、刑事留置場として法制上存続させようとしているからである。


警察が勾留業務を行うという代用監獄の本質に由来する諸々の弊害は、一片の改善通達や、留置場の管理部門を刑事部から総務部又は警務部に移したり(昭和55年4月1日全国一斉に実施)、施設の部分的改善によっては、決して根絶されるものではない。 捜査の便宜のために人権を侵害することは許されない。拘置所増設の予算措置が困難であるとか、われわれが提案した各簡易裁判所管轄区域ごとに一つの拘置所又は同支所の設置に80年ないし230年を要するとかの当局の弁明は、本末転倒といわねばならない。代用監獄の改修及び建築のため支出される国庫補助金を拘置施設増設のために優先的に振り向け、その他財政上の措置を講ずれば、早期に代用監獄を廃止することは現実的に可能である。一方、法務省や裁判所の庁舎建替時に高層化して併設すれば、拘置所の用地難も解消しうる。


問題は、人権尊重の思想であり、決断である。


今次、監獄法全面改正において当局は、まずこの代用監獄の廃止の方針を樹立し、その具体的計画を速やかに審議し、策定すべきである。


監獄法改正作業にあたり人権保障の観点から、ここにあらためて本決議を提案する次第である。