第29回定期総会・核兵器の完全禁止に関する決議

(第一決議)

核兵器の廃絶は人類の悲願である。


広島・長崎・ビキニにおいて死の灰の洗礼を受けた日本国民は、その深刻な被害の救済と、核兵器の完全禁止を世界に訴えてきた。


しかるに核軍拡競争はたえまなくつづけられ、ICBM、巡航ミサイルなどの運搬手段と相まって、多弾頭核兵器や中性子爆弾を生み出した。これらの核兵器は、人類を10数回みな殺しにしてなお余りある量に達している。


かくして、核兵器が使用される危険性は現実のものとなっている。


時恰も国連軍縮特別総会が開催されるに当り、唯一の被爆国の在野法曹であるわれわれは、核兵器の完全禁止をめざす第一歩として、世界の諸国間に、核兵器の使用・威嚇・運搬を禁止する国際条約が締結されるよう提言する。


非核三原則を国是とするわが国政府がこれを請けてこのような国際条約が締結されるよう積極的な外交を展開し、もって世界の恒久平和に歴史的な役割を果すよう強く要望する。


右決議する。


1978年(昭和53年)5月27日
第29回定期総会 於広島市


提案理由

1945年8月、広島と長崎は人類史上初めて核兵器の惨禍に見舞われた。引きつづく5年間の犠牲者を含めて死亡者約51万人、現在なお約35万人の人々がその後遺症に苦しんでいる。


1954年3月には、日本漁船第五福竜丸が南太平洋のビキニで米国の水爆実験による死の灰をあび、乗組員久保山愛吉氏が死亡した。


この日本国民の原水爆の被害が平和運動の原点となり、世界に向けて核兵器の非人道性を訴え、ふたたびあやまちをくり返さないために核兵器の完全禁止を叫びつづけてきた。核兵器の使用が国際法規に違反するものであることは明確になっている。


たとえば、無差別砲爆撃禁止の国際法の原則、有毒兵器の使用を禁止したハーグ陸戦規則23条(a)および1925年のジュネーブ議定書、不必要な苦痛を与える兵器を禁止したハーグ陸戦規則23条(e)および1868年のセント・ペテルスブルグ宣言にそれぞれ違反する。このことは、かの原爆訴訟判決(1963年12月7日東京地裁判決)においても確認されている。


のみならず、核兵器の使用は、人道に対する罪と集団殺害罪を構成する、といわねばならない。


国連総会においても、非同盟諸国などの提案により、1961年決議1653(XVI)は、核兵器の使用は国連憲章に違反し、人類と文明に対する犯罪であることを宣言している。


しかるに、核兵器開発競争はとめどなくつづけられてきた。


核兵器を保有すること自体が戦争を抑止することになるという考えは、その後の核の大量の製造と運搬手段の技術の高度化により、相手方の核基地をいかに有効に破壊するかという核戦略に変わった。核運搬手段としてICBM、潜水艦発射弾道ミサイル、巡航ミサイル、核積載戦略爆撃機などが開発され、さらに核弾頭自体原爆から水爆へ、1個の弾頭から多弾頭へと破壊力を競った。


核兵器開発競争の結果、地球上の核は、人類を十数回も抹殺する恐るべき量に達している。


こうして、一たび核戦争が起れば、全人類の滅亡が必至となる情況が生じている。それでもなお、相手方の大量報復をさけつつ局地戦闘を有利に展開する手段として中性子爆弾などが開発されている。


核兵器は、いまや抑止の手段から現実に使用可能な兵器へと進んでいるのである。まさに人類の危機といわねばならない。軍縮と核兵器禁止に向けて、さまざまな国際的努力がつづけられてきたが、核保有国の利害が優先し、且つ窮極目標たる核兵器の廃絶に至るプロセスの複雑、困難さの故に、いまだ核兵器禁止を目ざす効果的な条約はない。


われわれは、唯一の被爆国日本の在野法律家団体として、1950年の第一回定期総会の平和宣言以来、定期総会あるいは人権擁護大会において、数次に亘り戦争の根絶なかんずく人類を絶滅に追いやる核戦争の根絶を目ざす宣言決議を繰り返し、調査研究を継続して来たが、そのためにはなによりもまず、核兵器の使用が違法であり犯罪であることを実定法上確認し、核兵器の使用及び威嚇さらに核兵器の移動をも禁止する条約を締結しなければならないこと、これは人類の平和と先にみた国際法の原則にかなうものであり、この条約を足がかりに、核兵器の実験・製造・貯蔵禁止、そして廃棄へとたどりつくことがもっとも現実的であるとの結論に達した。


時恰かも、非核保有国と民間の平和団体、人権擁護団体が推進した国連軍縮特別総会がニューヨークにおいて開催されている。


われわれは、原爆の惨禍を蒙り、核兵器の廃絶を悲願とする日本国民の総意を代表し、非核三原則を国是とする我国政府がこの国連軍縮特別総会をも契機として、世界の諸国間に、我々が提案するような核兵器使用禁止条約の締結をみるよう呼びかけ、その実現のために積極的な外交活動を展開することが緊要であると考え、本決議に及ぶ次第である。