第29回定期総会・刑事再審法の改正に関する決議

(第二決議)

無実の人に誤って重い刑罰が科せられていたことを国民は昨年来の二つの再審無罪判決によってあらためて知らされた。最高裁判所から再審のやり直しを命ぜられた死刑事件の審理も続けられている。


われわれは、冤罪救済にあまりにも長い時間が経過していることを甚だ遺憾とするものである。誤った確定判決の犠牲者を救済する再審制度は、より早く、より確実に機能するものでなければならない。


よって国会と政府は、日本弁護士連合会の改正提案を基調とする刑事再審法の早急な改正を実施すべきである。


右決議する。


1978年(昭和53年)5月27日
第29回定期総会 於広島市


提案理由

1.日弁連は昭和51年10月、仙台市で第19回人権擁護大会を開催し、シンポジウム「再審と人権」では、再審弁護にたずさわってきた会員や学者の参加をえて、再審をめぐる諸問題を明らかにして、その解決の方向を示した。 大会は宣言として再審制度の運用と改善の法改正の早急な実現をつぎのとおり発表した。


「冤罪を訴える声はあとをたたない。世界の裁判の歴史には重大な誤判の跡がしるされている。


誤判が正されず無実の国民が法の名において生命、自由を奪われることは、人権侵害の最たるものである。刑事再審制度は、何よりも、このような冤罪者の救済を目的とする。従って、確定判決に合理的な疑いが生じたならば、すみやかに再審を開くべきである。


しかるにわが国の再審は、確定判決を絶対視することにより、ほとんどがしりぞけられている。


われわれは、国民とともに、人権尊重の理念にのっとり刑事再審制度の運用の改善と法改正の実現を期して全力を尽すものである。」


2.日弁連は、大会宣言の執行として、法務当局に、大会宣言の早急な実現を申し入れた。すなわち、われわれは稲葉法務大臣(当時)に会って、再審裁判の現実をみれば、現在の再審制度そのものに不十分さのあることは明白であり、これを法改正をもって正さねばならない。再審法をいかに改めるべきかは裁判所や法務省の担当官が机の上で考えてもわかることではない。冤罪をそそごうと苦闘する本人と共に歩んできた日弁連こそ、その豊富な資料、経験に裏うちされた適切な改正案を提示する資格と責任をもつので、やがて公表される日弁連改正案にもとずいて改正を実現してほしいと申し入れた。


この申入れには、稲葉法相は一言も異をさしはさまず、法相は国会の場でも改正の必要を認め準備をすすめていることを明らかにしていた。


3.右昭和51年10月の第19回人権擁護大会における大会宣言と前後して、弘前事件について同年7月13日、加藤事件について同年9月18日、米谷事件について同年10月18日に再審開始決定があいつぎ、死刑再審である財田川事件は、最高裁から、また松山事件は仙台高裁から、各々棄却決定を取消され審理のやり直しを命ぜられるにいたっている。弘前事件については昭和52年2月15日、加藤事件については、同年7月7日にそれぞれ無罪判決があり、いずれも確定している。


これら無実を主張し、再審を請求してきた末、無罪判決にいたった諸事件がここにいたるまで長きにわたって苦闘を強いられてきたこと、それにもかかわらず、これら冤罪者に対して再審の門を閉ざして、再審請求に対して棄却決定が重ねられてきた事実等に鑑みるとき、いまこそ再審法の抜本的改正の早期実現を期すべきである。


4.昭和52年1月、日弁連は再審法改正案を確定し公表した。そしてこれを法務省、最高裁判所、学界、言論等の各方面に交付し、幾回となく説明会も開いている。


しかしその後、法務省のうごきはみられず法相も代ったが、再審法の改正すべきことは、法務行政の最高責任者の交代によっていささかも変るものではない。交代を理由にして、その時期を延ばしてはならない。再審請求で冤罪を訴えている人が21件にすぎなくとも、ことは正義に関わることであり、死刑の執行の危機にさらされてなお、いく度も無実を訴えつづける人間が幾人もいるというこの現実をみれば、各政党にとっても国会での再審法改正こそ現下緊急の案件でなければならない。


5.犯罪は憎むべきものであり、おそるべきものである。しかし無実を罰する判決こそ、犯罪よりも犯罪的である、とは古くから指摘されてきた真理であることを想起しよう。


再審申立の門を広めて、無実の者を誤判から救済する制度を直ちにうちたてなければならない。その時がいまやってきている。