第28回定期総会・監獄法の改正に関する決議

(第一決議)

現在法制審議会監獄法改正部会において、監獄法改正作業が進行しているが、当連合会は受刑者の人権を保障し、その社会復帰をはかることを目的とする新行刑法の立法にむけて、次のことを要望する。


  1. 従来の規律秩序の偏重をあらため、規律秩序は所内の共同生活維持に必要な限度にとどめるとともに、鎮静衣や防声具等の非人道的戒具や懲罰手段としての運動・入浴・読書等の停止を許さないものとすること
  2. 受刑者の生活条件、労働条件は一般社会の水準と同じものを保障すること
  3. 受刑者に必要な援助を与え、その自覚に訴えて社会復帰をはかるため、広く諸種の制度を盛りこみ、受刑者の自主性を尊重した新時代の矯正、保護法としての立法をはかること
  4. 捜査官憲に被疑者、被告人の身柄を委ねる代用監獄制度は人権侵害の温床となっており、被疑者、被告人の基本的人権を保障する憲法の精神に反するとともに、当事者主義の訴訟構造とも矛盾するものであるので絶対にこれは廃止すること
  5. 今後の改正作業にあたっては、以上の点に充分留意するとともに、行刑の実態を明らかにする資料を国民の前に公開し、広く国民の意見や批判を汲みあげてゆくこと

右決議する。


1977年(昭和52年)5月30日
第28回定期総会 於東京


理由

  1. 法制審議会監獄法改正部会における監獄法改正作業は、法務省部内作成の「監獄法改正の構想」に沿って、通則部分の審議からはじめられ、現在すでに受刑者の処遇について審議中であり、又、本年3月からは部会内小委員会が設置され、要綱案の参考案起案等の作業が開始されている段階にある。
  2. 当連合会は今回の改正作業に先立って昭和50年9月には、法改正の骨子となるべき日弁連「刑事拘禁法要綱」を発表し、被収容者の人権保障、法的地位の明確化、準司法機関に対する不服申立制度の確立などを強く主張し、新しい行刑法はまず受刑者のマグナカルタであるとともに、本人の自覚に訴えて社会復帰をはかるものでなければならないとしてきた。
  3. ところが右「構想」はこのような要請を必ずしも十分充しているものとは云えず、かえって規律秩序の維持を必要以上に強調し、又代用監獄制度を存置しようとするなど反人権的な姿勢も見られるので、当連合会はとくに次のことを強く要望する次第である。
    1. 「構想」は「刑事施設の規律秩序は、適正かつ厳格に維持するものとする」とし、第三者に対する実力強制を許す規定をあらたに置くなど規律秩序の維持を必要以上に強調する一方、従来の鎮静衣・防声具等の非人道的戒具や懲罰としての読書禁止や「謹慎」(従来の軽屏禁)中の運動等の停止を排斥していない。
      規律秩序はあくまでも所内の共同生活の秩序維持に必要な限界にとどめられるべきであり、これを超えて被収容者の人権を制約してはならない。他の立法例においても、規律秩序の目的と限界についての規定を置いて、その濫用をきつく戒しめているところであり、右「構想」の姿勢はあらためられなければならない。
    2. 新行刑法においては十分な給養を保障するとともに、刑務作業に対しては一般社会における労働に対すると同様、適正な対価が保障されなければならない。
      現在受刑者に支給される作業賞与は月平均1,500円程度(50年度)であり、受刑者に懲役刑と同様に事実上財産刑を科していると批判されている。現行の作業賞与金では、社会復帰のための資金とすることも、又残された家族あるいは被害者に送金することもできない有様である。
      作業に対する対価が予算上の理由で不当に低額におさえられることの決してないように、権利として保障しなければならない。
    3. 受刑者の社会復帰のための処遇はあくまでも本人の自覚に訴え、自主性を尊重するものでなければならず、懲罰を背景に威嚇して、強制したり、所謂躾によって一定の道徳観や社会観を押しつけるというものであってはならない。そのためにはまず人的にも物的にも施設の充実がはかられなければならない。
      法務省構想はこれら社会復帰を目的とする生活指導等の処遇を強制的にできるとする反面、例えば処遇計画の策定にあたって受刑者の希望や意見を聞くことについてはまことに消極的であるなど、受刑者の自覚に訴え、その自主性を尊重してゆく姿勢に欠けていると云わざるをえない。
    4. 代用監獄については、当連合会は一貫してその廃止を求めてきたが、今回の改正作業においては法務省はこれを温存する意向である。代用監獄制度は、戦前戦後を通じて、一貫して捜査機関による人権侵犯の温床となっており、憲法の精神に真向から反し、当事者主義の訴訟構造とも矛盾するものであって、もはやいかなる理由によってもその存続は絶対に許されないものである。
      憲法の理念に適合すべき監獄法改正の中で代用監獄を温存するが如きは、法改正そのものに大きな汚点を記すものとさえ云えないであろうか。
  4. 今後の監獄法改正作業は以上の点に十分留意しつつ、広く立法例の潮流に目を開き、また国民の意見や批判に耳を傾け、新時代の行刑法にふさわしい立法をはかるものでなければならない。
    ところで、従来の監獄行政は、とかく密行主義的に運用されてきたため、学者・法曹をも含め、国民は受刑の実態についてはほとんど知ることがなく、監獄法改正作業にも国民の意見や批判が未だ十分に反映されているとは云い難い。
    法務省は処遇実態、現行の通達、規則その他の基礎資料を国民の前に公開し、率直に国民の意見を汲みあげた上で法案作成にあたることが必要である。