第27回定期総会・少年法「改正」反対に関する決議

(第二決議)

現在、法制審議会少年部会において何等の緊急性がないにもかかわらず、審議を充分に尽すことなく「植松部会長試案」による拘束を最大限生かし、審議の決着をつけるべく少年法の「改正」作業が進められている。


この試案は、警察・検察の権限拡張を内容とするもので、その結果、憲法の要請に基づき少年の健全育成と人権保障の確立を目指す現行少年法の理念と基本構造を覆し、これを警察・検察による取締りの法へと変質させ、国民の人権と、我が国の民主主義の土台をゆるがす危険が大きいものである。


よって、我々は、法務当局に対し、かかる「改正」作業に抗議するとともに、植松部会長試案にそう少年法「改正」の危険性を広く国民に訴え、国民とともにこの「改正」に強く反対していくものである。


右決議する。


1976年(昭和51年)5月22日
第27回定期総会


提案理由

法制審議会少年法部会の少年法「改正」審議については、諮問が必要性のない一方的なものであり、部会構成が偏っており、審議内容も国民に知らされないものとして問題とされてきた。また、同部会の少年法「改正」作業は、少年の健全育成を犠牲にし、国民の人権に重大な影響をもたらす方向での「改正」作業として批判されてきた。同部会では、法務省当局に具体化を一任する目的で抽象的に構成された「植松部会長試案」を押しつけ、その1、2項の強行採決にみられるように、部会の審議すら尽さぬまま「改正」を押し通そうとしている。このまま推移するならば、右試案全体が可決され、さらにこれに基づく少年法「改正」法案が国会に上程されるおそれがある。


現行少年法は、少年の処遇決定に関し、警察・検察の影響を排除することを基本としている。これは、すべての少年がその人格を正しく健全に発達させる権利を有するとした憲法の要請に基づくもので、少年の生活と成長が、これらの権力的な行政機関の影響下に置かれることを避けるとともに、このことを通じて、国民が自由に主権を行使する基盤を確保しようとするためのものであった。


試案は、諮問された要綱と同様、警察・検察官への処分権限付与、検察官の審判関与と抗告権付与、執行機関の少年に対する拘束力の強化を内容とするもので、捜査・審判・執行の全過程を通じて警察・検察とこれにつながる機関の影響力の貫徹を目指している。これこそ、現行少年法が憲法の要請に基づき確立した、警察・検察の影響排除の基本構造を崩壊させ、ひいては少年の権利保障と健全育成の理念そのものを放棄させるものといわなければならない。


さらに、この「改正」は、現在市民生活のすみずみにまで取締りの体制を及ぼしつつある少年警察の活動から家庭裁判所の抑制という歯止めをはずし、あるいは検察官の関与・抗告を通じて家庭裁判所の抑制そのものを弱めるものである。このことは制度的に防禦の手段が制限されざるを得ない少年を取締当局の攻撃に無防備でさらすこととなり、人権侵害の事態が憂慮される。


そればかりか「改正」は、取締当局が、権限を口実として、少年の生活や活動を統制・指導し、さらに進んで、市民生活全体に介入する事態へ途を開くおそれが強く、刑法「改正」とともに、国民の人権と民主主義の土台をゆるがす結果をもたらす危険が大きいといわなければならない。


我々は、このような結果をもたらす現在の「改正」作業に抗議するとともに、この問題が広く知られていないことが少年法「改正」作業の進行を許す原因となっていることにかんがみ、「改正」の危険を国民全体に訴え、国民とともに一体となってこの「改正」を許さぬようあらゆる努力を尽す決意を表明するものである。