第26回定期総会・犯罪被害補償制度の確立に関する決議

(決議)

犯罪行為により、生命・身体に被害をうけたにかかわらず、賠償をうけることもなく放置され、被害者またはその家族が悲惨な状態におかれている事実は、人権の保障上ゆるがせにできない。


当連合会は、すでに昭和35年11月第3回人権擁護大会決議において、国に対し、犯罪被害者らの補償のための立法などを含む適切な措置をとるべきことを要望した。しかるに、15年経過した今日に至るもその実現を見ないことは、はなはだ遺憾である。


当連合会は、近時被害者救済を求める世論が昂揚し、諸外国においてもその立法化が進んでいる状況にかんがみ、憲法に保障する生存権と、福祉社会における人道主義とを基調とする国民の連帯共助の観点に立ち、政府に対し、すみやかに犯罪被害者補償制度を確立するよう強く要望する。


右決議する。


1975年(昭和50年)5月24日
第26回定期総会


理由

他人の犯罪行為により、生命・身体に被害をうけた被害者またはその家族が、多くの場合、経済的、精神的に重大な打撃をうけたまま、賠償をうけることなく放置され、悲惨な状態におかれていることは、人権の保障上まことに由々しい問題である。


当連合会は、昭和35年11月、第3回人権擁護大会で、これにつき国による救済を求め、被害補償の立法化等を含む適切な措置を講ずべきことを要望したが、今日に至るもその実現をみていない。


最近、被害者・遺族が救済措置の立法化を求め、被害者補償制度を促進する会を結成し、昭和49年12月15日稲葉法務大臣に左の要望書を提出した。


『犯罪被害者は、いわれなき殺人や重傷害によって、経済的、精神的にいいつくせない苦しみをあじわわされている。このことは、ひとえに、国が形だけの損害賠償制度を置くだけで、犯罪被害者を全く無視してきたことにもとづく。国は、犯罪の発生について大なり小なり責任があるのみならず、現状のままでは、犯罪被害者が救済されることは永久にありえないのであるから、被害者の悲惨な状況を直視し、すみやかに殺人の遺族、重傷害の被害者や家族の救済措置を講ずるよう強く要望する。』


この要望書は、加害者が不明であるとか、支払能力がないなどにより、損害賠償制度の機能が生かされていない実情を訴えて、国による救済方の実現を願っているのである。


そしてまた、いまや世界各国においても逐次救済立法がなされつつあり、学界においても関心がたかまっている。このような法制定は、憲法に保障する生存権と福祉社会における人道主義とを基調とする国民の連帯共助の観点から当然認められなければならない。


法制化に当り、


  1. 犯罪行為という概念は、単に犯罪構成要件に該当する有責違法の行為だけでなく、緊急避難とか、心神に異常をきたしている者の行為なども含む。
  2. 行為は、殺人・傷害の故意犯は勿論、過失犯でも傷害致死傷事件に該当する行為を含む。
  3. 加害者が行方不明などの場合にも救済する。
  4. 補償をうけられるべきものは、単に民法上の相続関係に基くものではなく、現実の生活の実情に重点をおくこと。
  5. 補償の内容は、財産上の損害だけでなく、精神的損害も含む。
  6. 著しく正義に反する場合以外は補償の除外制限をしない。
  7. 補償認定機関としては、弁護士による中央認定委員会、地方認定委員会の制度を設け、弁護士が社会正義と人権擁護の見地からその認定に当る。
  8. 補償の認定は、刑事裁判手続と関係なく行う。
  9. 加害者に対する求償権は、加害者に賠償能力がないと認められる場合及び加害者の社会復帰に支障を来たすものと認められる場合には行使しない。
  10. 遡及については可能なかぎり被害者又はその家族が本法による補償の利益がえられるようにする。

等の各点が配慮されなければならない。


当連合会は、ここにあらためて国内外の世論をふまえ、あるべき具体的制度の内容を附してその実現を強く求めるものである