第24回定期総会・自動車損害賠償責任保険の引上げに関する決議

(決議)

近時における物価水準の急激な変動ならびに人身侵害に対する損害賠償額の推移に鑑み、死亡、後遺障害、傷害のそれぞれにつき、自動車損害賠償責任保険金額を現行の倍額に引き上げるよう要望する。


右決議する。


1973年(昭和48年)5月26日
第24回定期総会


理由

自賠責保険金額は昭和44年11月1日、死亡・後遺障害につき従前の300万円から500万円に増額されて以来間もなく満4年になろうとしている。その間の消費物価ならびに賃金水準の非常な高騰は周知のとおりであり、右の一事をもってしても現行保険金額再検討の時期が迫っていることは明白である。


さらに、近時の裁判例等の示す人身事故の賠償額算定基準に照らしても、生計担当者の死亡による遺族の補償金額は優に2,000万円を超えるのが通常であり、また公害等における一律的補償の場合でさえ熊本水俣病に代表される如く、死者・重病者につき2,000万円の水準に近づきつつある。このような現下の補償水準と対比するとき、現行保険金額は仮にこれを最低保障と見たとしても、余りにも不十分であり、少なくとも倍額程度の引き上げは緊急に必要とされよう。


なお、傷害に対する保険金額は、昭和44年の前示改訂の際には増額が見送られた経緯が存する。その原因は傷害事故の支払件数が多いため、その保険金額の増額が保険料率に影響するところ大であり、しかも医療費の高額化にともない増額が医療機関のみを益する結果に終り、結局被害者救済の実効をあげ得ないことが懸念されたからと思われる。だが、このため傷害の保険金額は実に7年間も据え置かれるに至った。事態はもはや放置を許されない状況にある。したがって、この際、まずは傷害の保険金額も英断をもって倍増したうえ、不当に高額な医療費の請求に対しては、査定機構の充実、適正な交通事故診療報酬基準の作成とこれに基づく査定権限の確立あるいは医療費を保険金の一部分に限定するなどの対策を早急に講ずべきである。


昭和48年5月26日
日本弁護士連合会