第23回定期総会・沖縄の本土復帰に関する宣言

(宣言)

沖縄県の祖国復帰は、沖縄100万の同胞にとって戦後27年にわたる最大の念願であり、また日本国民全体の強い願いであった。われわれは、異民族支配のもとにあった沖縄県民を心から暖かく迎えるものである。


しかし、復帰の実現した今日なお、沖縄県民のこうむった損害の賠償ないし損失の補償、残存する基地の本土並み縮小、経済社会の安定と復興に対する措置など、なすべき多くの問題が残されている。日本政府は、これら沖縄県民の人権にかかわる諸問題について、憲法の理念にもとづく具体的かつ迅速なる施策を推進し、沖縄県民の長年の労苦にむくい、かつ、日本国民の期待にこたえるべきである。


われわれは、新たに日本弁護士連合会に加わった沖縄の会員とともに、今後の活動において、これが実現のため最大の努力をつくすことを誓う。


右宣言する。


1972年(昭和47年)5月20日
第23回定期総会


理由

沖縄県の祖国復帰は、5月15日に実現された。沖縄県民は祖国の復帰を喜びながら、同時に、なお沖縄の現状及び将来について大きな不安をもっていることを否定することはできない。


沖縄県民は異民族の軍事占領下に久しく日本国憲法による基本的人権の保障から放置され、苦痛と屈辱を強いられてきた。県民は、巨大な軍事基地と戦争の恐怖、B52、核兵器、毒ガス等のたえざる不安の中で、つよく平和に生きる自由を求めてきた。県民は長年基地依存の経済、産業の荒廃等により社会生活をおびやかされてきた。そして祖国復帰後も沖縄には、広大な米軍の基地が安保条約下の提供施設としてほとんど大部分が残され、返還される基地は、あらたに沖縄に配備される自衛隊用地として使用され、軍事優先の色は復帰後も変らない。


また、いわゆる請求権問題に現われた従来の米軍統治と基地の存在から発生した県民に対する諸種の人権侵害に関する補償請求権は、日本政府によって放棄され、その救済措置は、ほとんどとられていない。制度や経済の変動に伴う不安と損失も、無計画にすすめられてきた本土企業による沖縄の土地買占めや公害も、無視できないものがあり、これらが県民の不安を一層深刻にしている。


われわれは、沖縄県民の願いがたんなる施政権返還にあったのではなく、名実共に日本国憲法のもとへの復帰であり、人権の回復にあったことをあらためて想起しなければならない。


本会は、多年にわたり、米軍占領下にあった沖縄県民の人権問題を中心に詳細な調査を行い、日米両政府に対しても適切な措置を講ずるよう要望してきたが、その調査の結果明かにせられた多くの問題は、沖縄の復帰によって解決せられるものでは決してなく、むしろ今後の諸施策の如何にかかわっている。 右のような状況のもとで沖縄復帰の5日後に迎えた本総会において沖縄県民の復帰を歓迎しつつ、なお残された多くの問題に対する本会の基本姿勢を宣明するため、右のとおり宣言するものである。


昭和47年5月20日
日本弁護士連合会