第23回定期総会・裁判官の再任・新任拒否等に関する決議

(決議)

昨年4月、最高裁判所がとった一連の措置に対する裁判所内外からの批判の高まりの中で、最高裁判所は本年3月、14期出身裁判官全員の再任を決定した。しかしながら、今回の再任決定の経過をみるに、最高裁判所は依然として裁判官の思想・信条・団体加入を問題視していることがうかがわれる。われわれは、最高裁判所が昨年5月8日の臨時総会決議によるわれわれの要望にこたえようとしないことや、宮本康昭裁判官の再度の再任願が容れられなかったこと、また、24期司法修習生任官志望者の新任決定の経過などをあわせ考えるとき、最高裁判所の基本的な態度について、なおひきつづき深い危惧の念を払拭することができない。


このときにあたり、われわれは、最高裁判所が、何よりも先ずすみやかに宮本康昭裁判官を再任し、再・新任基準の明確化など適正手続を確立して、いやしくも思想・信条・団体加入を実質的理由とした再任・新任拒否を今後絶対行なわないようにするとともに、昨年の新任拒否に関連して処分を受けた阪口徳雄君にすみやかに法曹資格を認める措置をとるよう強く要望する。


右決議する。


1972年(昭和47年)5月20日
第23回定期総会


理由

昨年4月、最高裁判所によってなされた宮本康昭裁判官の再任拒否、23期司法修習生7名に対する任官拒否とこれに関連する阪口徳雄君の罷免処分という事態は、われわれ在野法曹をはじめ国民各層の間に、裁判官の身分保障と司法の独立をおびやかす重大問題であり、国民の基本的人権と民主主義の危機ともいうべきものであるとの認識を広めた。


われわれは昨年5月8日の日本弁護士連合会臨時総会決議、5月29日の同定時総会宣言等において、最高裁判所のこれらの措置を批判し、すみやかに再・新任すべきことを要望した。また、本年4月の再任期を前に、最高裁判所に対し、宮本裁判官の再任と、思想・信条・団体加入を実質的な理由とする14期裁判官、24期任官志望者の再・新任拒否反対・並びに阪口君の法曹資格を認める措置を求める弁護士の署名は4,000名をこえるにいたった。


この間、司法の独立と民主主義を守る国民運動はかつてない広がりと高まりをみせ、裁判所内部においても宮本裁判官に対する再任拒否の再考、再任拒否理由の公開、再任基準の明確化等を求めて500名をこえる裁判官が最高裁判所に要望書を提出し、250名をこえる裁判官が二度にわたって集会をもった。


このような裁判所内外の世論の高まりの中で、本年3月最高裁判所は再任を希望した14期裁判官については全員再任の決定をした。


しかしながら宮本裁判官の再任拒否、23期修習生の新任拒否、阪口君の罷免処分については、多くの批判・要望にもかかわらず、最高裁判所は依然として態度を変えていないばかりか、昨年以来の最高裁判所の措置が司法の独立に関して国民にあたえる大きな疑惑・裁判官の身分保障に及ぼした深刻な影響等については、今日なお解決の措置がとられず、再任基準は何ら明確化されていない。


このような事態のもとで、われわれはあらためて日本弁護士連合会がこれまでに行なってきた司法の独立に関する諸決議・宣言の趣旨を再確認し、最高裁判所に対して、裁判官の再新任基準の明確化など適正手続を確立して、いやしくも思想・信条・団体加入を実質的理由とする再任・新任拒否を今後絶対に行なわないこと、並びにすみやかに宮本裁判官を再任し、阪口君に法曹資格を認める措置をとるよう要望すべく本決議案を提案するものである。


右請求する。


昭和47年4月10日
発議者 会員 津谷 信治
外 1,165名(連署)