第21回定期総会・公害の予防排除、被害救済に関する宣言

(宣言)

人類は進歩を求めるの余り、自然との調和を忘れた。その結果、大規模な自然の破壊と環境の汚染が、人々の幸福を直接に脅かしている。


公害は、今や経済の発展その他の利害を超越し、あらゆる人々の協力によって、緊急に解決されねばならない人類共通の課題である。健康で文化的な環境を求める権利は人間の基本的権利である。


われわれはこの人権擁護の立場から、公害の予防、排除、なかんずく被害の救済について、全世界の法曹の英知を結集し、その政治的、法的解決に全力をつくすことを期する。


右宣言する。


1970年(昭和45年)5月30日
第21回定期総会


理由

最近における科学技術の急速な進歩は、産業の発展、特に工業の高度成長をもたらし、これに伴なう人口の都市集中の現象が、必然的に自然の破壊と環境の汚染とをもたらした。


亜硫酸ガス、炭酸ガス、粉塵等によって汚染された大気は、その地域に住む人々の呼吸器疾患の著しい増大という直接の侵害をもたらしている。各種の有毒物を含む、おびただしい工場廃水による河川の汚濁は、既に生物生存の限界を超え、更にイタイイタイ病、水俣病にみられる人体への直接の侵害となって多くの人々の死と障害の結果をもたらしている。


このような公害は、「それは犯罪ではないか」と疑わせる程の、重大な結果をもたらしているのであるが、これは人類が進歩を求めるのあまり、自然との調和を忘れた報いであるといわねばならない。


さらに、このような公害は、一定地域に住む人々のみの問題ではない。自然の破壊に伴なう環境の汚染は、全世界の問題であり、経済の発展その他の利害を超越して、世界のすべての人々の協力により、早急に解決されねばならぬ課題であり、他面、健康で文化的な環境を求めることは、人間の基本的な権利であると言うことができる。


われわれ法曹は、各種の公害問題について、まさに右のような立場から、積極的に問題の解決に努力すべき責務を有している。


わが日弁連も、過去において、このような立場から、公害問題に真剣にとりくみ、各種の公害の予防、排除について意見を発表してきた。なかんずく、国の公害諸立法および地方公共団体の公害防止ならびに予防施策が、つねに、「経済の発展との調和」の美名のもとに企業優先に終始していることが、公害対策を微温的かつ非実効的なものに終らせている真因であることを指摘してきた。また公害による被害の救済の急務であることを強調し、これこそわれわれ法曹に課せられた今日的課題として、真剣な努力をつくしてきた。


すでに成立した公害諸立法の運用に遺憾なきを期するには、政府、地方公共団体の強力な施策が必要であるとともに、法的欠陥については新立法ないし法改正により対処すべきである。このような政治的、法的解決に全力をつくすことこそ公害対策の最善策であるといえよう。


しかも、これらの問題は、今や、わが国だけの問題でなく、全人類の共通の課題であるとの認識に立つとき、われわれは、今こそ全世界の法曹の英知を結集して、公害問題の解決に全力を挙げて努力しなければならない。


昭和45年5月30日
日本弁護士連合会