第18回定期総会・公害対策樹立に関する決議

(第一決議)

近時、大気の汚染、水の汚濁、騒音、振動などの公害が激化し、国民の生命と福祉に重大な脅威を与えている。


政府は、一部の反対意見にまどわされることなく、速やかに、国民の健康、生活環境および財産を公害から保護し、公共の福祉に資することを目的とする公害対策を樹立し、これを強力に推進して、国民の生活を擁護すべきである。


右決議する。

1967年(昭和42年)5月27日
第18回定期総会


提案理由(議事録より)

公害問題は目下われわれ国民の健康と生活をおびやかし公共の福祉に脅威を与えておる重大にして深刻なる社会問題であると考えます。


そのような公害の原因は戦後における経済の不健全な発展に基くものであるが、これはすべて社会的責任の自覚に乏しい企業経営者と今日迄これを放置して対策を講じなかった歴代内閣の責任であると私は考えます。


先般来現内閣は甚だ遅ればせでありましたけれども、この問題に取り組み公害対策基本法の成立を今国会における最重要案件の一つとして揚げておることは誠に時宣に適したものとは思います。われわれ国民は大いに期待と関心をもってその成果を見まもっておるところであります。


しかしながら、最近現内閣の公害問題解決についての熱意と努力については大いに多とするところでありますが、反面甚だ遺憾でありまた憂慮すべき事実も存することを我々は最近知ったのであります。


即ちこの問題について当初厚生省の公害対策基本法試案要綱において、この法案の目的を「国民の健康、生活環境、及び財産を公害から保護し公共の福祉に資すると云うふうに定めてあったのでありますが、このようにして当初は国民の生命と健康を他のすべてに優先してまもることを至上目的として揚げておったのでありました。問題の本質を正に適確に把握していたのでありましたが、その後現内閣は最終法案においてその目的を次ぎのように変更したのであります。「公害対策の総合的推進を図りもって国民の健康を保護するとともに経済の健全な発展との調和を図りつつ生活環境を保全すること」と云うふうに改めたのであります。


これは考えまするのに、現内閣が産業界からの反対運動と圧力に屈したものと謂うべきでありまして、甚だ遺憾に存ずるものであります。


又法案の目的以外の各事項につきましても、現内閣が当初に示した公害防除への熱意が薄らぎ、施策の面においても一歩も二歩も後退しておるということが窺われるのでありまして、これ又産業界と妥協したものと考えられ誠に憂慮に堪えないものがあるのであります。


このように現内閣が今後とも産業界の反対運動と圧力に屈しまして、人間尊重の至上目的を忘れて従らに経済の発展のみを重視して御座なりの公害対策を考えるならば、たとえ今回の法案が国会を通過したとしても 畢竟公害対策基本法は既に一部において言われておりますような「ザル法」と化しまして、公害は益々増大し激化することは必定であると言うふうに考えるのであります。基本的人権を擁護し、社会正義の実現を使命とするわれわれ弁護士は本日この総会において、以上のべた公害問題について現内閣を始め関係機関に対しまして更に積極的態度と熱意をもって国民の健康と生活及び財産を公害から保護し公共の福祉に資することを目的とする完全なる公害対策を樹立しまして、これを強力に推進することを要望いたしまして本決議案を上程したものであります。