国連の勧告から見える日本の刑事司法

国連の人権条約機関による総括所見


用語解説

人権条約は、その履行を確保するため、締約国に対し、条約の実施状況について定期的に報告書を提出し、条約機関による審査を受けることを義務づけています。委員会は、締約国から提出された報告書を検討した後、各国ごとに総括所見(Concluding Observations)を出し、条約実施状況について評価する点や懸念事項を指摘し、是正すべき点について勧告します。



1 自由権規約委員会


用語解説

arrow市民的及び政治的権利に関する国際規約(「自由権規約」)は、1966年に国連総会で採択されました。日本は1977年に批准し、1979年に効力が発生しました。


1993年11月4日付総括所見(第3回報告書審査)

第13項で、


  • 公判前の勾留が捜査活動上必要とされる場合以外にも行われていること
  • 勾留が警察の管理下に委ねられていること
  • 取調べが弁護人の立会いなしに行われていること
  • 取調べの時間を制限する規定がないこと
  • 代用監獄が警察と別の官庁の管理下にないこと
  • 弁護人が、警察の関係資料にアクセスする権利がないこと

について懸念が示されるとともに、第19項で、


  • 公判前の手続および代用監獄制度が、自由権規約第9条、第10条および第14条の要件に適合するようにすること
  • 弁護の準備のための便宜に関する全ての保障が遵守されなければならないこと

を勧告しています。


総括所見本文の抜粋

C.主な懸念事項

13.当委員会は、規約第9条、第10条及び第14条に規定される保障が、次の点において完全には守られていないことに懸念を有している。すなわち、公判前の勾留が捜査活動上必要とされる場合以外においても行われていること、勾留が迅速かつ効果的に裁判所の管理下に置かれることがなく、警察の管理下に委ねられていること、取調べはほとんどの場合に被勾留者の弁護人の立会いの下でなされておらず、取調べの時間を制限する規定が存在しないこと、そして、代用監獄制度が警察と別個の官庁の管理下にないこと、である。さらに、弁護人は、弁護の準備を可能とする警察記録にあるすべての関係資料にアクセスする権利を有していない。


E.提言と勧告

19.規約第9条、第10条及び第14条が完全に適用されることを保障する目的で、当委員会は、公判前の手続き及び代用監獄制度が、規約のすべての要件に適合するようにされなければならないこと、また、特に、弁護の準備のための便宜に関するすべての保障が遵守されなければならないこと、を勧告する。


1998年11月19日付総括所見(第4回報告書審査)

委員会は、第3回報告書審査でも懸念を示した、


  • 起訴前勾留が23日間もの長期間にわたり継続し得ること、その間警察の管理下におかれ、司法の迅速かつ効果的な司法審査が及ばないこと、起訴前保釈の権利がないこと
  • 取調べの時刻と時間を規律する規定がないこと
  • 勾留されている被疑者に国選弁護人の選任が保障されないこと
  • blank刑事訴訟法39条3項(e-Gov法令検索)により、弁護人の接見にも制限があること
  • 取調べが弁護人の立会いなしで行われること
  • 代用監獄によって、被拘禁者の権利侵害を増加させるおそれがあること

について改めて懸念を表明し、速やかに改革するよう勧告しました。


加えて、新たに次の点も勧告しています。


  • 人身保護法に基づく人身保護規則第4条が、人身保護命令書を取得するために、他のすべての救済措置を尽くしたことを要求していることが、デュープロセスに対する明白な違反であり、同規定を廃止して、人身保護請求による救済を完全に効果的なものとすること(第24項)
  • 多くの有罪判決が自白に基づくものであることに深い懸念を表明し、自白強要の可能性を排除するために、代用監獄における取調べを厳格に監視し、電磁的に記録すること(第25項)
  • 検察官による証拠開示義務がなく、弁護側にも証拠開示を求める一般的な権利がないことに懸念を表明し、自由権規約第14条3項に従い、防御権を阻害せずに弁護側がすべての関係資料にアクセスできるよう法律と実務を確保すべきこと(第26項)


用語解説

blank人身保護法(e-Gov法令検索)は、日本国憲法の精神に従い、不当に奪われている人身の自由を、司法判断によって迅速かつ容易に回復することを目的として、1948年(昭和23年)に制定された法律です。


この法律は英米法に由来します。17世紀のイギリスで、国王による専制政治の打破と宗教的自由を求めて清教徒革命が起こり、その結果、司法判断によって人身の自由を回復する手続を定めたHabeas Corpus Act 1679が成立しました。アメリカ合衆国にも受け継がれ、戦後、議員立法により我が国でも制定されるに至りました。


総括所見本文の抜粋

22.委員会は、起訴前勾留は、警察の管理下で23日間もの長期間にわたり継続し得ること、司法の管理下に迅速かつ効果的に置かれず、また、被疑者がこの23日の間、保釈される権利を与えられていないこと、取調べの時刻と時間を規律する規則がないこと、勾留されている被疑者に助言、支援する国選弁護人がないこと、刑事訴訟法第39条第3項に基づき弁護人の接見には厳しい制限があること、取調べは被疑者によって選任された弁護人の立会いなしで行われることにおいて、第9条、第10条及び第14条に規定する保障が完全に満たされていないことに深く懸念を有する。委員会は、日本の起訴前勾留制度が、規約第9条、第10条及び第14条の規定に従い、速やかに改革がされるべきことを、強く勧告する。


23.委員会は、代用監獄制度が、捜査を担当しない警察の部局の管理下にあるものの、分離された当局の管理下にないことに懸念を有する。これは、規約第9条及び第14条に基づく被拘禁者の権利について侵害の機会を増加させる可能性がある。委員会は、代用監獄制度が規約のすべての要請に合致されるべきとした日本の第3回報告の検討後に発せられたその勧告を再度表明する。


24.委員会は、人身保護法に基づく人身保護規則第4条が、人身保護命令書を取得するための理由を(a)拘束状態に置くことについての法的権限の欠如及び(b)デュー・プロセスに対する明白な違反、に限定していることに懸念を有する。また、それは他のすべての救済措置を尽くしたことを要求している。委員会は、同規則第4条が、拘束の正当性に対抗するための救済措置としての効果を損うものであり、したがって、規約第9条に適合しないと考える。委員会は、締約国が同規則第4条を廃止するとともに、人身保護請求による救済についていかなる限定や制限なしに完全に効果的なものとすることを勧告する。


25.委員会は、刑事裁判における多数の有罪判決が自白に基づくものであるという事実に深く懸念を有する。自白が強要により引き出される可能性を排除するために、委員会は、警察留置場すなわち代用監獄における被疑者への取調べが厳格に監視され、電気的手段により記録されるべきことを勧告する。


26.委員会は、刑事法の下で、検察には、公判において提出する予定であるものを除き捜査の過程で収集した証拠を開示する義務はなく、弁護側には手続の如何なる段階においても資料の開示を求める一般的な権利を有しないことに懸念を有する。委員会は、規約第14条3に規定された保障に従い、締約国が、防禦権を阻害しないために弁護側がすべての関係資料にアクセスすることができるよう、その法律と実務を確保することを勧告する。


2008年10月28日付総括所見(第5回報告書審査)

委員会は、これまでの報告書審査でも懸念を示した、代用監獄制度や、最長23日間の起訴前勾留、弁護人へのアクセスの制限、特に逮捕後最初の72時間に、自白を得る目的で、長時間に及び濫用的な方法で自白を得る目的で取調べが行われる危険があることを指摘し、これらの点について繰り返し懸念を表明しました。


また、自由権規約第14条が保障する被疑者の権利、具体的には、被疑者が取調べ中を含め弁護士と秘密に交通できる権利、逮捕された時から、犯罪嫌疑の性質に関わらず法律扶助を受けられる権利、自分の事件に関する警察記録の開示を受ける権利、医療措置を受ける権利を確保すべきであり、起訴前保釈制度を導入するよう求めました(以上、18項)。


また、前回の報告書審査でも懸念が示された自白に基づく高い有罪率について、死刑事件にも当てはまることから深刻な懸念があるとし、虚偽自白を防止して被疑者の権利を確保するために、取調べに対する厳格な時間制限とそれに従わない場合の制裁措置の法定、取調べの全過程の録音録画、弁護人の取調べへの立会いの保障を求めました。さらに、「刑事捜査における警察の役割は、真実を確定することではなく、裁判のために証拠を収集することであることを認識し、被疑者による黙秘は有罪の根拠とされないことを確保し、裁判所に対して、警察における取調べ中になされた自白よりも現代的な科学的な証拠に依拠することを奨励するべきである」としました(19項)。


総括所見本文の抜粋

18.委員会は、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律のもとで、捜査と拘禁の警察機能が正式に分離されたにもかかわらず、代替収容制度(代用監獄)は、そのもとで、捜査を容易にするため被疑者を最長23日間にわたって警察の拘禁施設に拘禁することが可能であり、その間保釈の可能性はなく、また弁護士へのアクセスも限定され、特に逮捕後最初の72時間はそうであって、自白を得る目的での長期に及ぶ取調べ及び濫用的な取調方法の危険を増加させていることについて、懸念を繰り返し表明する(7条、9条、10条及び14条)。


締約国は、代用監獄制度を廃止すべきであり、あるいは、規約第14条に含まれるすべての保障に完全に適合させることを確保すべきである。締約国は、すべての被疑者が取調べ中を含め弁護士と秘密に交通できる権利、逮捕されたその時から、かつ、犯罪嫌疑の性質に関わりなく法律扶助が受けられる権利、自分の事件と関連するすべての警察記録の開示を受ける権利及び医療措置を受ける権利を確保すべきである。締約国は、また、起訴前保釈制度も導入すべきである。


19.委員会は、警察内部の規則に含まれる、被疑者の取調べ時間についての不十分な制限、取調べに弁護人が立ち会うことが、真実を明らかにするよう被疑者を説得するという取調べの機能を減殺するとの前提のもと、弁護人の立会いが取調べから排除されていること、取調べ中の電子的監視方法が散発的、かつ、選択的に用いられ、被疑者による自白の記録にしばしば限定されていることを、懸念を持って留意する。委員会は、また、主として自白に基づく非常に高い有罪率についても、懸念を繰り返し表明する。この懸念は、こうした有罪の宣告に死刑判決も含まれることに関して、さらに深刻なものとなる。


締約国は、虚偽自白を防止し、規約第14条に基づく被疑者の権利を確保するために、被疑者の取調べ時間に対する厳格な時間制限や、これに従わない場合の制裁措置を規定する法律を採択し、取調べの全過程における録画機器の組織的な使用を確保し、取調べ中に弁護人が立会う権利を全被疑者に保障しなければならない。締約国は、また、刑事捜査における警察の役割は、真実を確定することではなく、裁判のために証拠を収集することであることを認識し、被疑者による黙秘は有罪の根拠とされないことを確保し、裁判所に対して、警察における取調べ中になされた自白よりも現代的な科学的な証拠に依拠することを奨励するべきである。


2014年8月20日付総括所見(第6回報告書審査)

これまで繰り返し是正を勧告されてきた、代用監獄が変わらず用いられていることを遺憾であるとし、起訴前保釈の権利や国選弁護人の援助を受ける権利がないために、自白強要の危険が強まること、取調べの録音録画の範囲が限定的であることの問題を指摘した上で、次の事項を保障するよう求めました。


  • 起訴前保釈をはじめ、起訴前の身体拘束に代わる措置を考慮すること
  • すべての被疑者が、身体拘束の瞬間から弁護人の援助を受ける権利を保障され、かつ弁護人が取調べに立ち会うこと
  • 取調べの方法や時間制限、全過程の録音録画を定める立法
  • 取調べ中の拷問や不当な取り扱いについて、迅速、普遍公平かつ効果的に調査する権限を有する、独立した不服審査制度の見直し


総括所見本文の抜粋

代替収容制度(代用監獄)と強制された自白


18.委員会は、締約国が、利用可能な資源が不足していること及びこの制度が犯罪捜査にとって効率的であることを理由として、代用監獄の使用を相変わらず正当化していることを遺憾とする。委員会は、起訴前に、保釈の権利がないこと、また国選弁護人の援助を受ける権利がないことが、代用監獄において強制的な自白を引き出す危険を強めていることを依然として懸念する。


委員会は、その上さらに、尋問行動について厳格な規則が存在しないことに懸念を表明し、2014年の「改革プラン」(訳者注―2014年7月9日法制審議会新時代の刑事司法特別部会「新たな刑事司法制度の構築についての調査審議の結果」を指す)において提案されている取調べのビデオ録画の義務付けられた範囲が限られたものであることを遺憾とする(第7条、第9条、第10条及び14条)。


締約国は、代替収容制度を廃止するためにあらゆる手段を講じること、すなわち、特に下記の事項を保障することによって、規約第9条及び規約第14条におけるすべての保障の完全な遵守を確保しなければならない。


(a)起訴前の拘禁中に、保釈など、勾留に代わる措置を、当然考慮すること。

(b)すべての被疑者が身体拘束の瞬間から弁護人の援助を受ける権利を保障され、かつ、弁護人が取調べに立ち会うこと。

(c)尋問の方法、尋問継続時間の厳格なタイムリミットと完全なビデオ録画を定める立法措置がされなければならない。

(d)都道府県公安委員会から独立し、かつ、取調べ中に行われた拷問や不当な取扱いの申立てについて迅速、不偏公平かつ効果的に調査する権限を持つ不服審査のメカニズムに向けた見直し。


2022年11月30日付総括所見(第7回報告書審査)

委員会は、起訴前保釈制度がないこと、国選弁護人選任の権利が尊重されていないこと、勾留の延長や(事実上の)再延長の要求が高い確率で許可されることにより、国内法で想定された期間を超えて公判前勾留がなされていること、取調べの実施に関する厳しい規制がないこと、取調べのビデオ録画が義務付けられる範囲が限定的であること、被拘禁者に対する適切な医療サービスへのアクセスの欠如、弁護士へのアクセスや家族との連絡などの手続保障の否定、投票権の否定に懸念を表明しました(以上、26項)。


また、自由権規約9条および14条が保障する被疑者の権利を確保するとともに、被拘禁者の処遇を国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルール)に完全に適合させるよう、必要な措置を採用するよう求めました。さらに、逮捕前も含めて取調べを全て録音録画すること、公判前勾留が過剰な長期勾留とならないよう所定期間を確保すること、起訴前勾留について保釈などの身体拘束の代替措置を確保すること、独居拘禁の合計期間を見直すこと、取調べの際の拷問や虐待の申立てについて独立の申立審査機関を利用できるようにすること、有罪判決を受けた受刑者の投票権の否定を見直すことを求めました(以上、27項)。


総括所見本文の抜粋

刑事手続及び刑事拘禁


26.刑事拘禁制度に関して締約国から提供された情報に留意しつつも、委員会は、自由の剥奪の当初から保釈の権利が認められていないこと、国選弁護人選任の権利が尊重されていないこと、及び締約国が起訴前保釈制度の実施は不要であると表明していることに引き続き懸念を抱いている。また、勾留の延長や(事実上の)再延長の要求が高い確率で許可されることにより、国内法で想定された期間を超えて公判前勾留がなされているとの報告や、実務上、取調べの実施に関する厳しい規制がないこと、取調べのビデオ録画が義務付けられる範囲が限定的であるとの報告について懸念する。さらに、委員会は、刑事拘禁における処遇、特に長期の独居房の使用と被拘禁者に対する適切な医療サービスへのアクセスの欠如、並びに弁護士へのアクセスや家族との連絡といった手続保障の否定、投票権の否定にも引き続き懸念を表明するものである(第7条、第9条、第10条、第14条及び第25条)。


27.委員会の前回の勧告に従って、締約国は、逮捕又は拘禁された者が、自由を奪われた当初から、規約第9条及び第14条に規定されている全ての基本的な法的セーフガードを実際に享受することを保障するため、並びに、弁護士へのアクセス、家族と連絡する権利及び必要な時に治療を受けられることなど、刑事拘禁者の処遇を国連被拘禁者処遇最低基準規則(マンデラ・ルール)に完全に適合させるために、必要な措置を採用するべきである。また、


(a)取調べにおいて、正式な逮捕前も含めて全て録音録画されること、及び全ての刑事事件で取調べの録音録画が適用されることを確保するべきである。

(b)過剰な長期勾留を防ぐため、公判前勾留の所定期間を確保するべきである。

(c)起訴前の勾留において、保釈などの非拘束的な代替措置を確保するべきである。

(d)最後の手段として使用される場合でも、未決被拘禁者に対して許容される独居拘禁の合計期間を見直すべきであるとともに、更なる独居拘禁の削減と必要に応じた代替措置の策定を行うという観点から、独居拘禁の効果を定期的に評価するべきである。

(e)取調べの際の拷問や虐待の申立てについて、迅速、公平かつ効果的に調査する権限を持つ、都道府県公安委員会から独立した申立審査機関を利用可能とするべきである。

(f)(公務への参加と投票権に関する)委員会の一般的意見第25号(1996年)に照らして、有罪判決を受けた受刑者の投票権を否定する法律の見直しを検討するべきである。


2 拷問禁止委員会

arrow拷問等禁止条約は、1984年に国連総会で採択され、日本は1997年に加入しました。


blank2007年8月7日付総括所見(第1回報告書審査)(外務省ウェブサイト)

委員会は、逮捕から起訴前までの間、長期(最長23日間)にわたる勾留が広く利用されていることを深く懸念し、勾留下の手続の保障が十分でないことも相まって、被勾留者の権利が侵害され、無罪の推定や黙秘権、防御権という原則が尊重されない可能性があるとして、起訴前保釈制度がないことや、弁護人の取調べの立会いがないこと、接見指定制度、警察の有する資料へのアクセス制限、証拠開示の範囲の制約をはじめとする問題に対し、深刻な懸念を表明し、これらの問題を是正するよう勧告しました(第15項)。


さらに、取調べや自白の問題として、


  • 公判前勾留に対して司法審査が効果的に機能せず、無罪判決に比べて有罪判決の数が不均衡に高いことにかんがみ、自白に基づく有罪判決の数が多いこと
  • 警察に身柄を拘束されている間に被拘禁者の取調べが適切に行われているか否かを確かめる手段がないこと
  • 取調べの継続時間に厳格な時間制限が定められていないこと
  • すべての取調べに弁護人の立会いが義務付けられていないこと
  • 国内法や条約に適合しない形でなされた取調べの結果として得られた自白も証拠として許容される可能性があり、拷問等禁止条約第15条に違反すること

に対して懸念を表明しました。


その上で、これらの問題点を改善するために、取調べの録音録画や、弁護人の取調べ立会い、証拠へのアクセスの保障、取調べの時間制限などをはじめ、拷問等禁止条約第15条に適合するよう、刑事訴訟法を改正すべきであるとしました。


総括所見本文の抜粋

代用監獄(代用の監獄における拘禁制度)


15.委員会は、代用監獄という監獄の代用制度が、裁判所に出頭後、起訴に至るまで、被逮捕者を長期にわたって勾留しておくために、広範かつ組織的に利用されていることを深く懸念する。この制度は、被留置者の勾留及び取調べに関する手続上の保障が十分でないこととも相まって、被留置者の権利が侵害される可能性を増加させ、また、無罪の推定、黙秘権及び防御権といった諸原則が事実上尊重されないようになる可能性がある。特に、委員会は、以下の事項につき深刻に懸念する:


a)過度に多数の人々が、捜査中及び起訴に至るまでの間、特に捜査段階における取調べが行なわれている間、拘置所ではなく留置施設に勾留されていること。

b)捜査機能と留置機能が十分に分離されていないため、捜査員が被留置者の護送にかかわり、その後、同案件の捜査の担当となる可能性があること。

c)留置施設は長期にわたる勾留に使用するには不適当であること、また、被留置者に対して、適切かつ迅速な医療措置が施されていないこと。

d)公判前に留置施設に勾留される期間が、起訴前で、一事案につき最大で23日にも及び得ること。

e)留置施設における公判前勾留に関して、裁判所が勾留状を発付する件数が非常に多いことからも分かるように、司法による効果的な監督や裁判所による審査が行われていないこと。

f)起訴前保釈制度がないこと。

g)嫌疑がかけられている犯罪の種類にかかわらず起訴前のすべての被疑者に対する国選弁護制度がなく、右は現在重罪案件のみに限られていること。

h)公判前勾留されている被留置者が弁護人にアクセスする機会が限られていること、特に、弁護人と被留置者との面会について特定の日時を指定する自由裁量権が検察官に認められており、右は取調べの際に弁護人が同席しないことにつながっていること。

i)警察記録のうちすべての関連資料を法的代理人が閲覧する権利が制限されていること、特に、起訴に当たりどの証拠を開示するかを判断する権限が検察官に与えられていること。

j)留置施設にいる被留置者が利用できる、独立した効果的な調査及び不服申立て制度がないこと。

k)刑事施設において使用が廃止されたこととは対照的に、留置施設においては防声具(gags)が使用されていること。


締約国は、公判前勾留が国際的な最低水準に合致するよう、迅速かつ効果的な手段を採るべきである。特に、締約国は、公判前に留置施設を使用することを制限するため、2006年の監獄法を改正すべきである。優先事項として、締約国は、以下の事項に取り組むべきである。


a)留置担当官を捜査から排除し、また、捜査員を被留置者の留置にかかわる事項から排除することにより、捜査機能と留置機能(護送業務を含む)の完全な分離を確保するよう法改正を行う。

b)国際的な最低水準に合致するよう、被留置者が留置施設に身柄を拘束され得る期間に上限を設けるべきである。

c)被留置者及び弁護人が防御の準備を行うことができるようにするために、被留置者が逮捕された直後から弁護を受けられること、弁護人が被留置者の取り調べに同席できるようにすること、さらに、被留置者及び弁護人が関係する警察記録を起訴後に閲覧できることを確保すべきである。同様に、身柄を拘束中も適切な医療措置を迅速に受けられることを確保すべきである。

d)都道府県警察本部が2007年6月に設置される予定の「留置施設視察委員会」の委員に、弁護士会が推薦する弁護士を含めることを確保するなどの措置により、警察による身柄拘束の外部監視の独立性を保障すべきである。

e)被留置者が申し立てた不服の審査のために、公安委員会から独立した形で、有効な不服申立制度を設置すべきである。

f)公判前段階における身柄拘束について現行とは別の措置の採用を検討すべきである。

g)留置施設における防声具(gags)の使用を撤廃すべきである。



取調べに関する規則及び自白


16.委員会は、特に、公判前勾留の実施について司法による効果的な監督がないこと、及び無罪判決に比べ有罪判決の数が不均衡に高いことにかんがみ、刑事裁判において自白に基づく有罪判決の数が多いことを深く懸念する。委員会は、また、警察に身柄を拘束されている間に被拘禁者の取調べが適切に行われているか否かを確かめる手段がないこと、また特に、取調べの継続時間に厳格な時間制限が定められていないこと、及びすべての取調べに弁護人の立会いが義務付けられていないことを懸念する。加えて、委員会は、国内法において、条約に適合しない形でなされた取調べの結果として得られた自白も法廷において許容される可能性があり、右は条約第15条に違反することを懸念する。


締約国は、警察に身柄を拘束されている又は代用監獄にいる被留置者の取調べが、すべての取調べの電子的及びビデオによる記録、取調べへの弁護人のアクセス及び立会い等の措置によって組織的に監視されること、並びにこれらの記録が刑事裁判における利用に供されることを確保すべきである。また、締約国は、取調べの時間的長さについての厳格な規則を、この違反に対する適切な制裁と共に、迅速に採用すべきである。締約国は、条約第15条に完全に適合するよう、刑事訴訟法を改正すべきである。締約国は、強制、拷問若しくは脅迫、又は長期にわたる逮捕若しくは勾留の末になされた自白で、証拠として認められなかったものの件数に関する情報を、委員会に提供すべきである。


2013年6月29日付総括所見(第2回報告書審査)

第10項で、逮捕から72時間は弁護士へのアクセスが制限されていることや、起訴前保釈なしでの最長23日間の起訴前勾留に対して、深刻な懸念を表明し、前回と同じ勧告を繰り返しました。


また、取調べと自白の問題について、日本国の司法制度が実務上、自白に依存しており、弁護人不在で自白が得られていることなどに対して深く懸念するとしました。詳細は、本文を参照してください。


総括所見本文の抜粋

代用監獄


10.刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律の下で、警察の捜査と拘禁の機能が正式に分離されていることに留意しつつも、委員会は、代用監獄制度にセーフガードが欠如し、締約国の条約上の義務遵守を低下させていることに深刻な懸念を表明する。特に、この制度の下で、被疑者が、とりわけ逮捕から最初の72時間は弁護士へのアクセスが制限され、保釈の可能性がない状態で最長23日間、拘禁されうることを深く遺憾に思う。警察留置場での起訴前拘禁に対する効果的な司法的統制の欠如、独立した効果的な査察及び不服申立メカニズムの欠如もまた、深刻な懸念事項である。さらに、委員会は、こうした起訴前拘禁制度の廃止ないし改革は必要ではないとの締約国の立場(A/HRC/22/14/Add.1、パラグラフ147.116)を遺憾とする(第2条及び第16条)。


委員会は前回の勧告(パラグラフ15)を繰り返す。すなわち締約国は;


(a).捜査と拘禁の機能の分離を実際上も確保するため、立法その他の措置をとり;

(b).被拘禁者が警察留置場において拘禁されうる最長期間を限定し;

(c).起訴前拘禁におかれたすべての被疑者に、独立した医療的援助を受ける権利及び親族と接触する権利のみならず、取調べの過程を通じて弁護人に秘密にアクセスする権利、逮捕時点から法律扶助を受ける権利、自己の事件に関する全ての警察記録にアクセスする権利を含め、すべての基本的な法的保護措置を保障し;

(d).締約国の法と実務を国際基準に完全に合致させるため、代用監獄制度の廃止を検討するべきである。



取調べ及び自白


11.委員会は、有罪判決は自白だけに基づくものではなく、取調べの指針が、確実に被疑者が犯罪について自白を強要されないようにしているという締約国の発言に加え、拷問及び虐待のもとで獲得された自白が法廷で証拠として許容されないことを規定する日本国憲法第38条第2項及び刑事訴訟法第319条第1項について留意する。しかしながら、委員会は以下の事項について依然として深刻な懸念を抱いている;


(a).締約国の司法制度が、実務上、自白に強く依存しており、自白はしばしば弁護士がいない状態で代用監獄での拘禁中に獲得される。委員会は、叩く、脅す、眠らせない、休憩なしの長時間の取調べといった虐待について報告を受けている;

(b).すべての取調べの間、弁護人を立ち会わせることが義務的とされていないこと;

(c).警察拘禁中の被拘禁者の取調べが適切な行為であることを証明するための手段が欠けていること、特に、連続的な取調べの持続に対して厳格な時間制限がないこと;

(d).被疑者及びその弁護士から検察官に申し立てられた取調べに関する141件の苦情のうち、一件も訴訟に至っていないこと(第2条及び第15条)。


委員会は、締約国が、条約第15条はもとより、日本国憲法第38条第2項、刑事訴訟法第319条第1項に従い、拷問及び虐待のもとで獲得された自白が法廷における証拠として許容されないことを実務上確実にするために、すべての必要な手段をとるべきであるという、前回の勧告(パラグラフ16)を繰り返す。とりわけ以下の措置をとるべきである


(a).取調べ時間の長さについて規程を設け、その不遵守に対しては適切な制裁を設けること;

(b).刑事訴追における立証の第一次的かつ中心的な要素として自白に依拠する実務を終わらせるために、犯罪捜査手法を改善すること;

(c).取調べの全過程の電子的記録といった保護措置を実施し、その記録が法廷で利用可能とされることを確実にすること;

(d).委員会に対し、強制・拷問もしくは脅しのもとでの自白、あるいは長時間の逮捕ないし拘禁の後においてなされた自白であって、刑事訴訟法第319条第1項に基づき証拠として許容されなかった自白の数を通知すること。