日弁連は「弁護士から警察への依頼者密告制度」に反対しています

日弁連は、弁護士が、「犯罪収益の移転」という違法行為に関与したり利用されたりすることがないよう努めています。また、「弁護士から警察への依頼者密告制度」に反対し、今後もそのような立法がなされないよう活動しています。


国際的な背景

OECD加盟国を中心とする34か国・地域及び2国際機関が参加する政府間機関である別のページへリンクFATF*1(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)は、2003年6月、弁護士や公認会計士などの専門職に対して、金融取引における違法な資金移動を監視させるためのゲートキーパー(門番)とするために、顧客の本人確認義務及び記録の保存義務と、マネー・ローンダリングやテロ資金の移動として疑わしい取引を各国の金融情報機関に報告する義務(依頼者密告義務)を課すことを定めて、勧告しました(第3次「40の勧告」)。

 

これにより、政府の「国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部」は、2004年12月に「別のページへリンク テロの未然防止に関する行動計画 」*2を策定し、その中で弁護士などの専門職に対する第3次「40の勧告」の完全実施を決定しました。

 

なお、FATFは2012年2月、テロ規制を含めた新たな「40の勧告」に改訂し、公表しています(別のページへリンク第4次「40の勧告」*3)。

 

 

*1 FATF(金融活動作業部会)ホームページへのリンク
*2 首相官邸ホームページへのリンク
*3 警察庁ホームページへのリンク

 

 

「弁護士による依頼者密告制度」の問題点

弁護士による依頼者密告制度は、弁護士の守秘義務に反するだけでなく、そもそも弁護士としての職務の本質を損なう重大な問題点があります。

 

弁護士には、依頼者の秘密を守る義務、すなわち「守秘義務」があります。この義務は、弁護士が職務を遂行するに当たって守らなければならない大原則であり、たとえ一部でも侵害されることがあってはなりません。

 

依頼者は、秘密を守ってもらえると思うからこそ安心して弁護士に本当のことを打ち明けることができ、弁護士も、本当のことを打ち明けてもらえるからこそ依頼者のために十分な弁護活動をすることができるのです。そして、法律を守るようアドバイスをすることができます。

 

また、国を相手取って裁判を起こす場合に、弁護士は当然、相手方となる国家権力から独立して職務を行う必要があります。よって警察への密告が義務付けられると、弁護士の独立性は損なわれることになり、弁護士の職務を全うすることができなくなります。

 

 

「犯罪収益移転防止法」の成立

政府の方針で、弁護士に、依頼者密告の義務を課す制度(ゲートキーパー制度)の提案がなされたことがありました。このとき日弁連は、弁護士の国家権力からの独立性をないがしろにして、弁護士に対する国民の信頼を裏切ることになることを、広く世論に訴えました。その結果、政府は弁護士やその他の士業に対して、依頼者密告制度で課される義務のうち、疑わしい取引の届出義務を課すことを断念しました。そして、顧客の本人確認義務及び記録の保存義務については日弁連の会則で定めるという内容の、「犯罪の収益の移転防止に関する法律案」(以下「別のページへリンク犯罪収益移転防止法」といいます。)を2007年2月に国会に提出することになりました。(2007年3月29日成立、同年3月31日公布、2008年3月1日施行)。 


「依頼者の身元確認及び記録保存等に関する規程」の制定

日弁連は、犯罪収益移転防止法の成立に先立ち、犯罪収益の移転防止等職務の適正を確保することを目的として、2007年3月1日に、「依頼者の身元確認及び記録保存等に関する規程」を制定しました(2007年7月1日施行)。

 

FATFの相互審査と政府の対応

FATFは、加盟国・地域に対し、「40の勧告」の遵守状況について相互に審査を行っています(相互審査)。2008年3月に、第3次「40の勧告」について日本国に対する相互審査を実施して、2008年10月に審査結果を公表しました。

そこでは、各勧告に関して様々な厳しい指摘がありましたが、とりわけ、顧客管理措置に関する勧告が履行されていない、という評価がなされました。

 

政府はこの評価を受けて、2011年、2014年と2回にわたって犯罪収益移転防止法を改正し、FATFの指摘に対応しました。

 

日弁連の会規改正

犯罪収益移転防止法の2回にわたる改正により、司法書士等の他の士業者が、依頼者の本人特定事項の確認について新たに求められる措置に準じて、日弁連の「依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等に関する規程」を、改正法の求めるレベルに対応させる必要が生じました。そのため、法改正にあわせて「依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等に関する規程(2015年12月4日)」(平成24年12月7日会規第95号)及び「依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等に関する規則(2016年9月16日)」(平成24年12月20日規則第154号)を改正しており、2014年の犯罪収益移転防止法改正に対応する規程及び規則の改正は2016年10月1日から施行されました。

 

今後の課題

政府は、今後も、弁護士に対するゲートキーパー制度の完全実施、すなわち、疑わしい取引の届出義務(依頼者密告義務)の立法化を目指すことが予想されます。

 

したがって、日弁連は、自ら定めた「依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等に関する規程」及び同規則を遵守するとともに、将来にわたって、警察への「依頼者密告制度」を導入する立法を阻止する必要があります。 

 

「規程及び規則」に関する研修の実施

日弁連では、「依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等に関する規程」及び同規則の会員への周知徹底を図るため、研修を実施することを重要課題としています。

 

例えば、各弁護士会及び弁護士会連合会で開催される新規登録弁護士研修や倫理研修等の際に、講師を派遣して説明をしたり、本規程や規則について解説したDVDを上映したりするなどして、会員への周知徹底を図っています。その他、eラーニングコンテンツを制作して、会員がマネー・ローンダリングに巻き込まれたり関与したりすることがないよう、注意を呼びかけています。

 

「規程及び規則」に関する研修資料・ツール等

  • チラシ兼ポスター
  • 「依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存等に関する規程」及び同規則に関する解説書について→会員の方は会員専用サイトをご覧ください。
  • 依頼者の本人特定事項の確認及び記録保存のためのモデル書式について→会員専用サイトをご覧ください。
  • マネー・ローンダリングに関するQ&A→会員の方は会員専用サイトをご覧ください。