日弁連新聞 第423号

当面の法曹人口のあり方に関する提言

当面現状の合格者数を目安に、 慎重かつ厳格な合否判定を

3月18日の理事会で、本提言が採択された。本提言に関し、宮﨑会長はコメントを発表した。コメントの要旨は以下の通りである。


本年5月に開始される裁判員裁判と本格的被疑者国選で司法制度改革の骨格が出揃う。本提言は、同改革の歩みをさらに力強く推し進めようとする目的に基づいている。


司法制度改革では、司法・法曹への需要の変化を見据えつつ、人的基盤と制度的基盤の整備等、諸改革の統一的かつ調和のとれた具体化と実行が必要とされている。しかし、法曹の質の確保、法的需要の動向、財政措置を含む司法の制度的基盤整備の状況等、司法を取り巻く環境は、この間の弁護士人口増加の状況に比して、当初の想定に沿った進展に至っていない。


諸課題の改善・改革にはなお一定の年限が必要とされる状況に鑑みれば、2009年度以降数年間は、司法試験合格者数は現状の合格者数を目安としつつ慎重かつ厳格な合否判定によって決定されるべきであり、その後の適正な法曹人口のあり方については、諸状況の変化を踏まえあらためて検討されるべきである。


昨年7月の緊急提言に対し、裁判員裁判・被疑者国選や過疎偏在対策等に支障が生じるのではないかという懸念の声が寄せられた。


しかし、この間の大幅な法曹人口の増加に日弁連の取組が伴って、地域的偏在は解消されつつあり、裁判員裁判・被疑者国選を支える態勢も整備された。


司法アクセスの一層の改革・改善は、国の重要な責務である。増大する法曹人口を裁判官・検察官の大幅増加に結びつけ、扶助予算の抜本的拡大を含む「大きな司法」の態勢を早急に確立することを求める。


日弁連は、今後とも増加する法曹人口について、多様な市民の期待に応えられる質の高い法曹を育成し、社会のあらゆる分野に広く法曹を輩出していくため総力をあげることを決意する。


◇ ◇ ◇


なお、提言の全文については→こちらを参照されたい。


日弁連特別研修会 弁護士会照会の実務
弁護士会照会を使いこなすために 2月19日 弁護士会館

第1部は、可児晃会員(愛知県)が、「弁護士会照会の実際(審査担当の現場から)」というテーマで解説を行った。可児会員は、守秘義務を負っている照会先も、弁護士会照会に対する回答義務は当然には免除されず、個別の事例ごとに、具体的利益衡量を行う必要があると指摘した。そして、照会申出を行う会員は、照会先に対し、回答の必要性を理解させ、具体的利益衡量を行うための材料を与えるため、「照会を求める理由」をできる限り明確かつ説得的に記載すべきことなどを解説した。


第2部は、石黒清子会員(東京)が、「弁護士会照会の具体的な活用方法について」というテーマで解説を行った。ここでは、まず、弁護士会照会を有効活用した11例の報告があった。その一例として、悪徳商法の被害者が、相手方の電話番号しかわからない場合でも、電話会社に対する照会によって、相手方を特定できる可能性があることなどの紹介があった。次に、個別の照会先ごとに、照会の申出を行うに際して留意すべき事項につき、解説があった。その中で、照会先が金融機関である場合に、注目すべき判例として、「預金者の共同相続人の1人は、被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる」とした判決(最判平成21年1月22日)の紹介があった。


第3部では、石丸鐵太郎会員(兵庫県)が、弁護士法第23条の2が「報告を求めることができる」と規定し、照会先に回答義務があることが文言上明確でないことや、照会先が、形式的に個人情報の保護などを理由に回答を拒否する例が少なくないことなどを指摘した。そして、本来の制度趣旨を明らかにするため、弁護士法第23条の2を改正する必要があると述べ、改正への協力を訴えた。


弁護人へのデータ提供を検討
「音声認識システム」実演見学

裁判員裁判では、連日的審理の後、速やかに評議が行われる。裁判所は、この評議の場において法廷における証言内容について映像・音声により記憶を喚起するためのシステムを開発した。このシステムは、音声認識技術によって証言等の音声を文字データに変換した上、文字データと映像データ、音声データを一体化し、証言中に出てきた単語や発言時間、発言者等の情報で、証言のうち評議に必要な部分の映像・音声を速やかに検索・再生できるというシステムである。裁判所は、弁護人および検察官から希望があれば、映像データを除いた音声データと文字データ等、検索機能のついた音声認識再生ソフトを提供する予定であるとのことである。


2月20日に東京地裁で行われた実演では、法廷で検察官役と証人役とが模擬尋問を行い、これを本システムを用いて録画・録音した後、評議の場面を想定した検索・再生のデモを行ったところ、尋問での発言が文字データに変換され、録画とリンクした形で発言者や時間とともにモニターに表示された。証言内容に含まれる単語や発言者あるいは時間で検索することができ、たとえば、「血痕」と入力して検索すると、その該当箇所が一覧で示される。その一つを選択すると、該当箇所の映像と音声が再生される。実演ではその様子が確認できた。


実演では、一定程度の単語について誤変換があったが、映像・音声の検索のツールとしては、十分実用に耐えるものと思われる。裁判所から本データ等の提供を受けられれば、裁判員裁判の証言内容についての記憶喚起のツールとして弁護人の弁護活動にも有益と思われる。


ひまわり

弁護士を長い間していると、街角で「先生」という呼び声を聞いて思わず振り返ってしまい、自分ではないと気づいて一人赤面することがある。弁護士や教員は、お互いに「先生」と呼び合うことが多く、これに慣れすぎているように思う。しかし、自分の大先輩でも恩人でも教師でもない方を「先生」と呼ぶのは、本来の用法を離れたものだろう▼古典落語の枕に「先生と呼ばれるほどの莫迦じゃなし」という川柳を引いて、先生と呼ばれる職業の人を揶揄する話がある。今時先生と言われて威張っている人はいないだろうが、先生と呼び合っているうちに、市民の感覚と離れてしまわないか心配だ▼そこで、みんなが「さん」付けで呼び合うよう提案したい。すでに実践している委員会もある。不快に思う人もいるかと思うと勇気が要るが、臆せず進めたい▼多様な人材を育てる法科大学院の教員は、同僚をどう呼んでいるのだろうか。ぜひ「さん」付けで呼んでほしい。それが新しい法曹を育てるためにも有益であろう▼ただ、困ったことに筆者は記憶力が低く、外出先で出会った弁護士の名前を思い出せずに、「先生」と呼んでごまかすことがたびたびある。「先生」の便利さに頼らず、名前がすぐ言えるようにすることも肝に銘じなければと思う。(M・K)


2009年度役員紹介

3月13日に開催された代議員会(本人出席324名、代理出席306名)において、2009年度役員が選出された。就任にあたり、13名の副会長と、理事および監事の氏名を紹介する。


  • 山岸 憲司(やまぎし けんじ)(東京・25期)
  • 田中 等(たなか ひとし)(第一東京・28期)
  • 川崎 達也(かわさき たつや)(第二東京・27期)
  • 足立 勇人(あだち ゆんど)(茨城県・37期)
  • 小林 優公(こばやし まさひと)(群馬・28期)
  • 畑 守人(はた もりと)(大阪・24期)
  • 有田 佳秀(ありた よしひで)(和歌山・34期)
  • 細井 土夫(ほそい つちお)(愛知県・29期)
  • 武井 康年(たけい やすとし)(広島・31期)
  • 塚本 侃(つかもと つよし)(熊本県・33期)
  • 荒 中(あら ただし)(仙台・34期)
  • 藤本 明(ふじもと あきら)(札幌・33期)
  • 行田 博文(こうだ ひろふみ)(高知・34期)

理事

  • 小林 行雄(東京)
  • 和田 光弘(新潟県)
  • 金弘 正則(福岡県)
  • 鈴木 大祐(東京)
  • 金子 武嗣(大阪)
  • 東島 浩幸(佐賀県)
  • 髙岡 信男(東京)
  • 福原 哲晃(大阪)
  • 原  章夫(長崎県)
  • 高橋 輝美(東京)
  • 福田 健次(大阪)
  • 清源善二郎(大分県)
  • 矢吹 公敏(東京)
  • 村井 豊明(京都)
  • 成瀨 公博(熊本県)
  • 山根 祥利(東京)
  • 福井 啓介(京都)
  • 森  雅美(鹿児島県)
  • 吉峯 康博(東京)
  • 春名 一典(兵庫県)
  • 松田 公利(宮崎県)
  • 木津川迪洽(第一東京)
  • 正木 靖子(兵庫県)
  • 玉城 辰彦(沖縄)
  • 塚田成四郎(第一東京)
  • 藤井 茂久(奈良)
  • 我妻  崇(仙台)
  • 板澤 幸雄(第一東京)
  • 平井 建志(滋賀)
  • 平松 敏郎(福島県)
  • 齋藤晴太郎(第二東京)
  • 月山 純典(和歌山)
  • 半田  稔(山形県)
  • 櫻井 光政(第二東京)
  • 入谷 正章(愛知県)
  • 川上 博基(岩手)
  • 西本 邦男(第二東京)
  • 齋藤  勉(愛知県)
  • 伊勢 昌弘(秋田)
  • 水口 洋介(第二東京)
  • 森川  仁(三重)
  • 沼田  徹(青森県)
  • 岡部 光平(横浜)
  • 鷲見 和人(岐阜県)
  • 三木 正俊(札幌)
  • 武井 共夫(横浜)
  • 黛 千恵子(福井)
  • 髙崎  暢(札幌)
  • 小出 重義(埼玉)
  • 北川 忠夫(金沢)
  • 室田 則之(函館)
  • 佐野 善房(千葉県)
  • 本多 利光(富山県)
  • 富川 泰志(旭川)
  • 荒川 誠司(茨城県)
  • 山下 哲夫(広島)
  • 永井 哲男(釧路)
  • 田島二三夫(栃木県)
  • 山元  浩(山口県)
  • 藤本 邦人(香川県)
  • 鈴木 克昌(群馬)
  • 東  隆司(岡山)
  • 吉成  務(徳島)
  • 鈴木 敏弘(静岡県)
  • 寺垣 琢生(鳥取県)
  • 参田  敦(高知)
  • 平嶋 育造(山梨県)
  • 大野 敏之(島根県)
  • 今川 正章(愛媛)
  • 森泉 邦夫(長野県)
  • 池永  満(福岡県)

監事

  • 小林 芳夫(東京)
  • 脇 奈穂子(第一東京)
  • 石割  誠(静岡県)
  • 岡田 春夫(大阪)
  • 北岡 雅之(三重)

新事務次長紹介

3月31日をもって、菰田優事務次長(第一東京)が退任し、後任には、相原佳子会員(第一東京)が就任した。


相原佳子会員

相原 佳子(あいばら よしこ)(第一東京・43期)
大きな変革を迎え、また厳しい社会状況の中、弁護士、弁護士会への期待に応えるべく、微力ですが全力を尽くします。


深刻な貧困に適切な支援を
女性と貧困 母子家庭―福祉と自立のはざまで
3月7日 弁護士会館

基調報告で島尾恵理会員(大阪)は、母子家庭の母親の84.5%が就労する一方、平均年収は213万円に過ぎず、生活が苦しいと回答した者が85%に上ることを報告した。そして、母子家庭への所得保障中心から就労支援中心への転換や生活保護母子加算の段階的廃止といった改革に対し、「自立を支えるために児童扶養手当等の充実が必要」と訴えた。


続いて、母子加算の減額で生活が困窮し、毎日入浴できなくなったなどの当事者の声が紹介された。


次に、阿部彩氏(国立社会保障・人口問題研究所)が特別講演を行い、わが国の母子家庭の貧困率は主要23か国中ワースト2位であり、子どもの貧困率は13%程度と比較的高いと述べ、「医療や基本的衣食住、高校教育等をすべての子どもが享受できるよう、子ども対策をすべき」と訴えた。


その後のパネルディスカッションで、「生活保障と職業訓練をセットで行うべき」(赤石千衣子氏、NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事)、「母子家庭の問題を子どもの権利という視点で考えてほしい」(阿部氏)、「労働施策と住宅施策を連動させるべき」(下田千枝美氏、東京都母子家庭等就業・自立支援センター)、「性別役割分業意識等の偏見をなくさなければならない」(円より子参議院議員)といった発言があった。


カウントダウン! 裁判員裁判〈16〉 あと1か月

『裁判員裁判における弁護活動 -その思想と戦略』の意義

『裁判員裁判における弁護活動-その思想と戦略』(日本評論社)が1月21日に発行された。


裁判員裁判に向けた弁護活動の基礎的な解説書としては、これまで(1)「公判前整理手続を活かすPart2(実践編)」(現代人文社)、(2)「法廷弁護技術」(日本評論社)が発行されている。前者は、公判前整理手続に必要な知識と豊富なモデル書面を掲載したものである。後者は、口頭による法廷における説得の技術を習得しようとするものである。本書は基礎的な解説書の3冊目である。


被告人の望む結論を獲得するためには、どのようにして裁判員等を説得するのかという「戦略」を持たなければならない。そして、求められる戦略は、裁判員裁判での弁護活動のあり方についての「思想」から導かれるはずである。


このような視点から、全国で実施されてきた模擬裁判などを研究、分析して『自由と正義』に連載してきた。これらをまとめ、若干の項目と記述を追加したのが本書である。


集中審理において裁判員等を説得するには、「何を」主張・立証するかを考え抜かなければならない。冒頭手続、冒頭陳述、証拠調べおよび最終弁論を通じた目標を明確にした上で、各手続での陳述や尋問の目標とポイントを具体的に設定する計画を持つことが有効であり必要である。


これを「戦略」と呼び、戦略を確立するために公判前整理手続を活用する方法を、模擬裁判の「高橋一郎事件」を素材にして具体的に論述している。公判前整理手続に振り回されるのではなく、これを弁護のために活用することに本書が役立てばうれしい。


その他、模擬裁判の「鈴木太朗事件」を素材にして情状弁護の課題を検討したもの、「責任能力」を争う事件での弁護や「被害者参加」への対応なども盛り込んである。


裁判員制度実施本部のチームでは、(1)『公判前整理手続を活かすPart2』、(2)『法廷弁護技術』、(3)『裁判員裁判における弁護活動』の3冊を裁判員裁判に向けた基本セットと考えている。


まだ誰も裁判員裁判を経験していない。したがって、それぞれの論稿も試論の域を出ないものであるが、この3冊があれば会員の創意工夫と実践の助けになると思っている。


(裁判員制度実施本部委員 神山啓史)


個人再生シンポジウム ~個人再生の理論と実務~
2月7日 弁護士会館

積極的な活用を

「シンプルな事案から挑戦してほしい」と千綿会員

個人再生の新受件数は、2008年以降はやや減少しているものの、制度が始まった2001年から2007年までは増加傾向にあった。しかし、東京では利用が伸び悩んでいる。各地でどのような運用がなされ、より利用しやすい手続にするにはどうすればよいのか、議論を行った。


パネリストは、中西正教授(神戸大学)、高見澤重昭会員(第一東京)、小松陽一郎会員(大阪)、千綿俊一郎会員(福岡県)、阿部弘樹会員(仙台)の五氏。


第1部では、「個人再生は使いやすい手続か?」と題してディスカッションを行った。阿部会員は、「実務マニュアルがあり、一度使ってみると使いやすいと感じる」と話した。小松会員は、「たこ焼き屋をモデルに親しみやすい広報を行い、書式も破産を基準にしてとっつきやすいものにした」と大阪での工夫を紹介した。


第2部では、「清算価値保障原則」をテーマにし、99万円以下の現金・普通預金、過払金の取扱い等について各地の運用を報告した。


第3部では、「再生計画案と履行可能性」をテーマに、債権者平等の意義、履行可能性の判定時期や方法等について議論を行った。


第4部では、「住宅資金特別条項」を取り上げた。千綿会員は、「申立前に金融機関に条件返済の見直しを依頼し、見直した償還表を添付して申立をしている」と工夫を語った。このほか、住宅ローン以外の後順位担保権者の取扱いや、保証会社による代位弁済をなかったものとみなす、いわゆる巻き戻し条項等について報告や議論を行った。


第5部では、個人再生委員について、全件選任のメリットやデメリット等を議論した。東京での全件選任は費用高額化の点で利用を阻害しているのではないかとの指摘があった。


第6部では、事業者の個人再生について、取引債権の取扱いや、リース債権と弁済協定等について議論を行った。


各地で利用促進のための工夫がなされている。積極的に活用していただきたい。


国際機関で働こう!

国際平和構築のために働く法曹の育成を

魅力的な事業内容に活発な質疑応答がなされた

2月17日、弁護士会館で、国際機関人事情報セミナー第四弾「平和構築分野の人材育成事業に関するセミナー」が開催された。


まず、篠田英朗氏(広島平和構築人材育成センター事務局長・広島大学准教授)が、2007年・2008年度に広島大学が、外務省から委託を受け行っている平和構築分野の人材育成のためのパイロット事業について報告を行い、次に中込正志氏(外務省総合外交政策局国際平和協力室長)が、この平和構築分野の人材育成事業の概略につき説明を行った。


同事業の本コース(ほかに就職支援は行わないシニアコースもある)では、選抜された日本人15人と他のアジア地域の15人からなる研修員が、1か月半の国内研修を受けた後、実際に海外の国際機関で6か月の実務研修を行う。さらに、修了後の研修員に対しては、就職支援も行われるのが大きな特徴で、実際にほとんどの研修員が国際機関に就職し活躍しているという。報告の中では、「研修を通じて国際機関に就職するためのさまざまなネットワークができてよかった」等の研修員の感想も紹介された。


大谷美紀子国際人権問題委員会委員(東京)は、「いろいろなかたちで国際平和に貢献することはできる。日本の法曹も、この研修に応募してぜひトレーニングを受けてみてほしい。また、日弁連の国際人権活動にも力を貸してほしい」と述べた。


本年の募集は、5月頃の予定。また、本年から、海外研修が12か月に延長される。当初は30万円の研修費がかかるが、海外研修中には、着任手当や生活・住居手当等も支給される(諸条件により異なるが目安として4万米ドル)。詳細は、→外務省ホームページを参照されたい。


JFBA PRESS -ジャフバプレス- Vol.30

暴力(DV)に苦しむ大人や子どもたちのために~
NPO法人いくの学園

渡辺理事長(右)と雪田副理事長

DV防止の取組等を市町村に求めることや保護命令制度の拡充を柱とした、いわゆる改正DV防止法が、2008年1月から施行されています。DVで追い詰められた人々が駆け込むDVシェルターとはどのようなところで、弁護士にどのような役割が期待されているのか。大阪府にあるNPO法人いくの学園を訪れ、スタッフの方々と理事長の渡辺和恵会員(大阪)、副理事長の雪田樹理会員(大阪)にお話を伺いました。


(広報室嘱託 西浄聖子)


公設からNPO法人へ

1951年、大阪府は売春防止を目的に「生野学園」を設立し、1957年から売春防止法上の婦人保護施設となった。時代とともに売防法上の入所者は減少していたが、そのほかの女性の相談は増加していた。


ところが、1981年、大阪府は同学園を含む3か所の婦人保護施設の統廃合を決定し、16年に及ぶ反対運動が行われたが、1997年、同学園は廃止された。


しかし、反対運動を担った人々が中心となって1998年に民間シェルターを立ち上げ、2001年、NPO法人格を取得した。


現状と役割

いくの学園には、現在、3名の常勤スタッフがいるほか、ボランティアや726名の「いくの学園を支える会」会員が運営を支えている。ボランティアには、弁護士のほか、司法書士やカウンセラー、保健師、保育士等さまざまな人たちがおり、電話相談、法律相談、カウンセリング、育児・健康相談、DV学習、親子心理サポートプログラム等を行っている。2002年から、いくの学園は大阪府や他の自治体からの一時保護を受託し、高齢者虐待案件や外国人のサポート等もしている。


「民間」のメリット

民間シェルターのメリットは、本人の心身の状況やペースに合わせて、必要な期間今後の生活再建を一緒に考えていくことができることにある。DV被害者が心身に傷を負い、追い詰められた状況から自分のペースで回復し、今後の人生を考えていく場として、きめ細かく柔軟な対応が求められている。その中で、過酷なDV環境を生き抜いた人たちは、本来の力をまた発揮できるようになっていくという。


課題

いくの学園では、一時保護委託された人については委託費が出、カウンセラー派遣事業があるものの、学園の運営費等については公的補助は一切なく、会費や利用者からの利用料、寄付等に頼っている。一時保護委託の期間が原則二週間であるため、それよりゆっくりとしたペースで利用したい人や働きに出たい人、現行のDV法の対象外となっている親や子ども、恋人からのDV被害者などは、利用料を払い、自由契約で3か月以内の一時緊急保護や2年以内のステップハウス利用をしている。しかし、無一文で家を飛び出してきた被害女性にとって、1日1500円の利用料(米や調味料等の食材提供有)の負担は大きい。他府県では、行政が民間シェルターの家賃や同行支援費などの運営費を補助している自治体がある。全国で統一的に行政による民間シェルターへの運営費補助が行われなければ成り立たない現状がある。


弁護士の役割

DV被害に遭ってシェルターに駆け込んできた被害者たちは、非常に傷ついている上、経済的に苦しく、それでも子どもや今後の生活を考えなければならないという追い詰められた状態にある人が多い。弁護士が保護命令や離婚調停等を通じてかかわり、盾や味方となってくれるというだけで、被害者は非常な安心感を得るのだという。


他方、強い味方だと思っているだけに、弁護士の言葉による二次被害の痛手は極めて大きい。近時は、弁護士会でもさまざまなDV研修が行われているが、弁護士がDV事件の研修を受けて実態を知り、対応を学ぶことは、二次被害防止のためにも必要であろう。「普通の離婚事件や借金問題と思われる案件の陰に、隠れたDV被害が数多くあると思います。それを見抜く目を持つべく、DV問題への理解を深めていただきたい」と雪田会員は語る。


さらに、渡辺会員と雪田会員は、DV被害者本人による保護命令申立に対して、裁判所が取下げを促す等、不適切な運用がなされていないかと心配する。DV事件に弁護士が積極的にかかわることで、DV被害者の声を裁判所に反映させ、DV被害者の救済を万全のものとし、さらには改正に繋げていくことなど、弁護士に期待されている役割は大きいと訴える。


日弁連委員会めぐり 26

住宅紛争処理機関検討委員会

山本委員長(右)と高岡事務局長

「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)に基づく瑕疵担保責任の履行を確保するために、新築住宅の売主等に保険加入や供託を義務づける「特定住宅瑕疵担保責任の履行の確保等に関する法律」(履行確保法)が制定され、本年10月から全面施行されます。両法律への対応に取り組んでいる本委員会の山本卓也委員長(第一東京)と髙岡信男事務局長(東京)にお話を伺いました。


(広報室長 中田 貴)


本委員会は、品確法への対応を目的に設置された。委員は、全国52の弁護士会から最低1人が選任されている。全体委員会は年3回開催し、全国から委員が集まる。本年3月の全体委員会には代理出席を含めて50人が参加した。個別の問題については、随時プロジェクトチームを立ち上げて対応している。


弁護士会、国交省、支援センターの連携を図る

品確法の紛争処理機関として、全国の弁護士会に住宅紛争審査会(審査会)が設置されている。本委員会は、これに先立ち、審査会の体制や運営等を検討し、関係機関へ働きかけて、審査会の体制等に関する日弁連意見の実現に努めた。審査会発足後は、弁護士会の代表として審査会の抱える問題等を訴えながら、品確法を所管する国土交通省や、紛争処理機関をサポートする「財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センター」(支援センター)との連携を図る役割を担っている。


履行確保法への対応

その後制定された履行確保法の保険付き住宅に関する紛争も審査会で扱うことになったため、本委員会は審査会の関連諸規則の改正モデル案を作成した。さらに、保険付き住宅に関する紛争終了後に発生する保険法人と事業者間での保険金支払いをめぐる紛争も、審査会で扱うことにした。この紛争の処理については法律に規定がなく、審査会と保険法人とで紛争処理委託契約を締結することが前提となるため、本委員会で契約書モデル案を作成している。


審査会での相談業務を試行

評価住宅および保険付き住宅に関する相談は、まず支援センターの職員が対応し、専門家相談を希望する者は、東京の支援センターに来訪して弁護士等に相談しなければならない。しかし、これでは地方在住者が利用することは困難なため、各地の審査会で専門家相談を受ける試みを行っている。当初の福島県、仙台、兵庫県、福岡県に静岡県を加えた五弁護士会で、2010年度まで試行する。


山本委員長と髙岡事務局長は、「建築紛争に興味を持つ会員が増えてほしい。審査会を積極的に利用し、できれば審査会に参加してもらいたい」と述べた。


ブックセンターベストセラー(2009年2月・六法、手帳は除く) 
協力:弁護士会館ブックセンター

順位 書籍 著者・編者 出版社
会社法コンメンタール8 ―機関(2)§§348~395 落合誠一 編 商事法務
労働相談実践マニュアル Ver.5 ―労働契約法対応 日本労働弁護団 著 日本労働弁護団
裁判員裁判における弁護活動 ―その思想と戦略 日本弁護士連合会 編 日本評論社
M&Aを成功に導く 法務デューデリジェンスの実務(第2版) 長島・大野・常松法律事務所 編 中央経済社
商取引法〔第五版〕法律学講座双書 江頭憲治郎 著 弘文堂
刑事弁護ビギナーズ(季刊刑事弁護増刊)   現代人文社
個人再生の実務Q&A100問 ―全倒ネットメーリングリストの質疑から― 全国倒産処理弁護士ネットワーク 編著 きんざい
量刑調査報告集2 2008年7月 第一東京弁護士会刑事弁護委員会 編 第一東京弁護士会
  モンスタークレーマー対策の実務と法【法律と接客のプロによる徹底対談】 升田 純・関根眞一 著 民事法研究会
10 別冊商事法務 No.327 株主総会想定問答集 平成21年版 河村 貢・豊泉貫太郎・河和哲雄・蜂須優二・岡野谷知宏 著 商事法務
10 クレジット・サラ金処理の手引 四訂版増刷CD-ROM付き 東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会 編著 東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会

編集後記

先日、耐震強度偽装事件で、建築確認をした県の法的責任を認め、損害賠償を命じる判決が出ました。この事件をめぐっては、構造計算書を偽装した建築士は実刑となり、分譲業者は破産に追い込まれ、分譲業者元社長(上告中)らは有罪判決を受けています。しかし、問題発覚から4年以上が経過しましたが、いまだ被害救済は十分になされていません。返済にほぼ一生かかるローンを組んで念願のマイホームを手に入れた人たちが、耐震偽装を知ったときの衝撃はいかほどのものだったか、察するに余りあります。この問題を契機に、二度と同じ被害を繰り返さないよう建築基準法が改正され、また、被害救済を十全化するために履行確保法が制定されました。しかし、被害救済を実現するのは紛争処理機関であり、住宅紛争審査会の重要性は今後ますます高まると、今回の取材を通して実感しました。(T・N)