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中小企業のための ほっと通信

破綻懸念企業の事業移転について〈2〉

弁護士 大澤 康泰

■プロフィール
大澤 康泰
日弁連中小企業法律支援センター 委員(東京弁護士会 所属)

破綻懸念企業の事業移転における留意点(続き)

 破綻懸念企業の事業移転の際に特に留意すべきもう一つの点は、詐害行為取消等です。この詐害行為取消とは、債務者から弁済を得られない債権者が、債務者の行った財産処分の効果を否定できる制度です(法的整理における否認権も同様の制度です)。従前から事業譲渡は対象でしたが、会社分割についても平成24年に最高裁が対象となると判断したため、両者で違いはなくなりました。
 事業移転の対価が不相当に低い場合は当然として、相当な場合も、それが移転元企業の債権者に平等に分配される等でない限り、破綻懸念企業の事業移転は詐害行為とされ得ます。
 なお、対価の相当性を判断するにあたっては、移転先企業が引き受けた債務の額は考慮されないと考えるべきです。移転先企業から100%弁済を得られる債権者と移転元企業から一部の弁済しか得られない債権者との間に不平等が生じるからです(一時期「第二会社方式」の名の下に、破綻懸念企業を債権者に知らせないまま会社分割し、当該企業の債務を整理する方法が広まったことがありましたが、これは原則として詐害行為となります)。詐害行為とされた場合、移転先企業は、取得した資産について返還義務や価額賠償義務を負うことになります。

破綻懸念企業の事業移転におけるリスク回避の方法

 移転先企業が対抗関係や詐害行為取消で負けても、通常は移転元の破綻懸念企業からの填補は期待できません。そのため、破綻懸念企業の事業移転に際しては、そのようなリスクをいかに回避するかが重要となってきます。
 対抗要件に関しては早期具備に尽きます。ただし、契約上の地位の移転の対抗要件具備は、契約相手の事情もあって想定通りに進まないことが多々ありますので、事業移転の対価を分割払いとし、対抗要件具備の進捗に応じて支払っていく等の方法を検討すべきです。
 一方、詐害行為取消のリスクは、移転元企業に法的整理原因がある場合に生じてくることから、その回避方法は移転元企業の法的整理を見据えて検討する必要があります。そこで以下、事業移転を法的整理開始前に行う場合と開始後に行う場合に分けて検討します。

事業移転を法的整理開始前に行う場合の検討

 法的整理開始前には移転元企業の窮状は公になっていないのが通常です。従って、この段階で事業移転を行えば、事業価値の毀損は最小限に抑えられます。しかし一方、この段階では移転元企業の債権者全員の承認が得られる場合を除き、当該事業移転の詐害行為取消リスクを完全に遮断する方法はありません。そのため、事業移転の対価を相当なもの以上とし、かつ移転元企業での受領対価の不適正な費消を抑制することで、可及的にリスク回避を図ることとなります。
 つまり、事業移転の相当な対価については、移転対象資産の処分価値の合計と移転対象事業の収益還元価値のいずれか高い方を超えるものとした方がよいということです。なお、前記の通り、移転先企業による債務引受けは、資産移転に不可避的に伴うもの(抵当権付債権等)及び事業移転に不可避的に伴うもの(双務契約の履行義務等)を除き、対価の算定に際しては考慮できないと考えるのが無難です。(つづく)

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出典:帝国データバンクの情報誌『日刊 帝国ニュース』

参考ページ> 企業再生・清算

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