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ひまわりほっと法律相談室 第24回

中小企業におけるコンプライアンスとCSR

弁護士 飯田 隆

■プロフィール
飯田 隆
日弁連中小企業法律支援センター 副本部長(第二東京弁護士会 所属)
Q.今月の相談

 最近、コンプライアンスとかCSR(企業の社会的責任)ということをよく耳にします。これらは、これまで大企業の世界の事柄のように受けとめていたのですが、中小企業にも関係があるのでしょうか。そもそも、どういった内容なのでしょうか。中小企業としては、どういった点に注意し、どのようなことをすればよいのでしょうか。

 中小企業にも適用されます。重大な問題ケースでは、市場からの退場を余儀なくされるということもありえますので、要注意です。

解 説

1.中小企業とコンプライアンス

(1) コンプライアンスとは
 一般的には、「法令遵守」と呼ばれています。「法令」には、条例や規則等、法令と同レベルの法規範も含まれますし、社会規範のうち社会の要請の特に強いものは、法令に準じるものとして扱われます。企業も社会の一員である以上、法令遵守義務を負うのは当然ですし、その点で、大企業であるか中小企業であるかによって、差異はありません。
 分野としては、主として、環境、雇用・労働、人権、消費者、公正競争、企業統治・内部統制があげられます。質的な重要性の点からは、「生命・身体、健康、安全」に関する法規制が重視されます。
 会社法第355条は、「取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。」と規定し、取締役の法令遵守義務を明確に定めており、この点においても、大企業と中小企業で差異はありません。

(2) コンプライアンス違反に対する制裁
 民事上の制裁としては、損害賠償や差止めの対象となりますし、また、重要なコンプライアンス違反の場合には、取引契約上も、契約解除・取引停止等の制裁がありえます。刑事上の制裁としては、刑罰、行政上の制裁としては、行政処分、行政罰の各対象となります。
 これらの制裁は、重畳的に課されることがあります。そして、制裁の結果、会社に損害が発生した場合には、会社法第423条に基づき、取締役は無過失でない限り会社に対して損害賠償責任を負うことになります。
 さらに、重要なコンプライアンス違反が発生した場合、特にそれが「生命・身体、健康、安全」にかかわるような場合には、その制裁も大きくなり、場合によっては、一発でアウト(会社は市場からの退場を余儀なくされる)という重大な結果を招来することもありえますので、ご留意ください。

(3) コンプライアンス違反を惹起しないようにするために
 自社の業務に関連する法令、特に業法その他の規制関連法規を把握していることが出発点になります。「生命・身体、健康、安全」に関連する規制が特に重要です。兼務でもよいので、コンプライアンス担当を決め、関連法令に関する情報を集約するとともに、必要なチェックをさせるべきです。そして、誰でも必要な時にかかる情報へアクセスできるように、その担当者をアクセス・ポイントにしましょう。経営者や経営幹部は、グレーゾーンと思われる事態に直面したときには、少なくとも、「あたらずといえども遠からず」の判断が下せるように、日頃から関連情報の入手に努め、センスを磨いておくことが必要です。
 そして、不幸にも重要なコンプライアンス違反が発生したという局面に直面した場合には、まず何よりも、弁護士と相談することをお勧めしますが、徹底的にコンプライアンス(法令遵守)対応をすべきです。非コンプライアンス対応をとった場合、傷を大きくし、会社の損害を拡大する可能性が大きく、場合によっては市場からの退場を余儀なくされることも起こりえます。

2.中小企業とCSR

(1) CSRとは
 Corporate Social Responsibilityの略で、「企業の社会的責任」とも呼ばれます。企業には、さまざまなステークホルダー(利害関係者)がいます。株主、役員、従業員、取引先(仕入・納入)、金融機関、投資家、消費者、地域社会、環境、行政・自治体等々です。
 CSRにおいては、コンプライアンスは当然の前提となります。これに加えて、企業を取り巻く多くの多様なステークホルダーを意識しながら、社会や環境に配慮した企業活動が、今、求められています。そうすることによって、企業の安定的な発展と持続可能性がより確保される―これがCSR経営です。

(2) CSRの中小企業にとっての意義
 大企業にはCSRに取り組める余力があるが、中小企業は日々厳しい生存競争の只中にあり、とてもそれだけの余力はないという声をよく耳にします。確かに、一昔前は、本業と関係なく社会貢献が強調され、自社のビジネスとの関係は希薄でした。しかし、現在のCSRは、自社のビジネスとの関係は緊密で、本業を通しての社会貢献、それによって、本業の差別化・競争上の優位性・アピールポイントの達成を目指すという戦略性を有しており、中小企業にとっても、CSRは重要な意義があります。企業にとって利益の追求は不可欠ですが、利益追求のみでは、企業のサスティナビリティ(持続可能性)の確保は期し難いというのが、今日における社会の要請というべきでしょう。CSRの主な分野と質的重要性の尺度は、先ほど述べたコンプライアンスの場合とほぼ同様です。

(3) 攻めのCSRと守りのCSR
 社会規範の多くは、社会の要請として、CSRの対象となりますが、前述のごとく、社会規範のうち社会の要請の特に強いものは、法令に準じるものとして、コンプライアンスに取り込まれていきます。激動する社会・経済の中で、社会の要請やその強さも絶えず動いています。コンプライアンスとCSRは非連続ではなく、連続しており、しかも、その境界は動いているのです。また、社会の要請が動くことによって、プラス評価が高まる場面と、マイナス評価が強まる場面の両面がありえます。前者の局面では、戦略的に攻めのCSRを推進できます。後者の局面では、社会の要請の強まりが、状況によっては、コンプライアンス違反に準ずる評価を受ける危険、そして、その結果として、場合によっては市場からの退場を余儀なくされる可能性も起こりえます。「CSRは究極の危機対応である」と言われるゆえんです。経営者・経営幹部は、社会の要請とその動きに対して、鋭敏なセンスを磨きつづける必要があるのです。

(4) グローバル時代のCSR
  経済のグローバル化の進展は著しいものがあります。昨年の東日本大震災やタイの大洪水では、サプライチェーンがグローバルに張りめぐらされている現実を如実に示しました。超円高ということもあり、中小企業の海外展開とその支援は、我が国の重要な国家政策です。日本弁護士連合会でも、「中小企業海外展開支援弁護士紹介制度」(https://www.nichibenren.or.jp/news/year/2012/120601.html)を設けて、相談体制を強化しています。
 2010年2月には、国際標準化機構は、ISO26000(社会的責任に関する国際規格)を発行し、これを受けて、2011年4月には、経済同友会は、「グローバル時代のCSR―変化する社会の期待に応え、競争力を高める」を発表しました。
 日本からインドまでの東アジア・東南アジア・南アジアは、40億の人口を擁し、生産拠点であるだけでなく、大消費マーケットとして、世界経済の中核的地位を占めつつあり、日本経済も、かかるアジアとの緊密な結びつきが不可欠とされています。このことは、中小企業にもより一層あてはまります。
 サプライチェーンは国境を幾重にも越えていますが、そのことは極端な場合、A国で適法に生産された物品であっても、B国では不適法あるいはこれに準じる評価を受けて、受入拒否をされ、サプライチェーンがストップしてしまうという事態も想定されるのです。
 このようなグローバル時代に、日本国のみを前提としたコンプライアンスだけでは、余りにも狭く、かつ、リスキーです。ステークホルダーとして、多くの国々それ自体と、そこにおける多様な利害関係者が登場し、このような広汎なステークホルダーへの配慮が欠かせません。コンプライアンスを踏まえながらも、もっとフロントで対応する必要があります。
 グローバル時代には、国境を越えた多くの多様なステークホルダーへの配慮を経営に取り入れるCSR経営が必要です。

 

※本連載は今回が最終回です。2010年10月号から今回までのバックナンバーは、上記の日弁連ひまわり中小企業センターホームページでご覧いただけます。

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