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ひまわりほっと法律相談室 第2回

民事再生手続と債権者の対応

弁護士 渡邉 敦子

■プロフィール
渡邉 敦子 
日弁連中小企業法律支援センター 事務局委員(東京弁護士会 所属)

1 民事再生とは

  民事再生手続とは、「経済的に窮境にある債務者について、債権者の多数の同意を得て、かつ、裁判所の認可を受けた再生計画を定めること等によって、当該債務者と債権者間の民事上の権利関係を適切に調整し、債務者の事業や経済生活の再建を目的とする。」法的手続です(民事再生法(以下、法律名がない場合はすべて同法を指します)第1条)。最近の事例としては、日本振興銀行株式会社(負債6194億7110万円(帝国データバンク大型倒産速報による)、平成22年9月13日民事再生手続開始決定)があります。
  民事再生は、個人、法人を問わず、利用可能な手続であり、上記のような大型案件に限らず、中小零細企業の再建手続として利用されています。もうひとつの再建型の法的倒産手続である会社更生手続の事例としては、武富士や日本航空(JAL)があります。会社更生手続を利用できるのは株式会社に限定されますが、民事再生手続は、法人の種類による制限はなく、株式会社のみならず、医療法人、社会福祉法人、学校法人などの再建手続としても利用されます。
  本稿では、再建型の手続である民事再生について、その手続の流れと取引先が民事再生を行った場合の売掛債権等の回収に関わる注意事項について解説します。

2 民事再生手続の概要

①民事再生申立て
  民事再生申立ては、再生手続開始原因である「債務者に破産手続開始の原因となる事実の生じるおそれがある」または、「債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができない」ことを疎明して行います(第21条、第23条第1項)。
②保全処分発令と監督委員の選任
  民事再生の申立てを行うと、多くの場合、債務者に対して、弁済禁止の保全処分が発令され、監督委員が選任されます。弁済禁止の保全処分は、債務者に対して、申立て前までの原因により生じた債務の弁済を禁止するものです(第30条第1項)。よって、借入金の返済、手形決済、買掛金等の支払いができなくなります。
  また、監督委員は、再生債務者が行う一定の重要な行為について、同意を与えるか否かを判断したり(第54条第2項)、再生債務者の業務や財産の状況についての調査権を有します(第59条)。債務者は、民事再生開始後も、法人の財産管理処分権を引き続き保有して、経営を継続しますが(第36条第1項)、監督委員の権限の範囲で制約を受けることになります。
③再生手続開始決定
  民事再生申立て後、裁判所が再生手続開始原因の疎明があると判断すると、1週間程度で再生手続開始決定がなされます(第33条第1項)。再生手続開始決定時に、債権届出期間や債権調査期間が定められます(第34条第1項)。債権者には、上記の情報を知らせる開始決定の通知書と債権届出書類一式が郵送されます(第35条第3項)。
④再生計画案の作成と提出
  倒産原因の解明、再生債権の確定、財産評定等を前提に、どのように倒産原因を除去し、再生債権について、何割の額を、どのような期間で支払うのかを定めるのが再生計画案です。再生債務者は民事再生申立てから一般的に約3カ月をかけて作成します。
⑤再生計画案の可決要件と認可決定
  再生計画案の可決要件は、(ア)議決権者の過半数の同意と、(イ)議決権者の議決権総額の2分の1以上の同意です(第172条の3第1項)。再生計画案が可決された場合には、裁判所は再生計画不認可事由がない限り、再生計画認可決定を行います(第174条)。再生計画認可決定が確定すると(第176条)、再生債権は再生計画の定めに従って、減免され(第178条、第179条)、再生債務者は再生計画の定めに従って、弁済を履行します(第186条)。
  また、再生計画案が債権者集会で否決された場合、裁判所は、職権で再生手続廃止決定を行い(第191条第3号)、職権で破産手続開始決定がされる場合があります(第250条第1項)。

3 取引先が民事再生を申し立てた場合の対応

取引先が民事再生の申立てを行った場合、自社の売掛債権や請負代金債権などの支払いはどのようになるのか、回収方法はあるのかについて解説します。

(1) 売掛金等の債権の民事再生手続における取扱
  民事再生の申立て後に発令された弁済禁止の保全処分により、再生債務者は申立て前に負担した債務の支払いが法律上できなくなります。再生手続開始決定がなされた場合も同様です。したがって、売掛金等の支払いを受けることもできなくなり、債務者から振出しを受けていた支払手形も決済されませんので、再生債務者からの支払いを予定していた自社の資金繰りにおいて支障を来すことにもなりかねません。特に、すでに債務者振出しの支払手形を割り引いていたり、回し手形として支払いに供していた場合などは、債務者は手形決済ができないので、買戻しを要求されることになります。よって、その買戻資金を調達する必要が生じます。
  これらの資金調達について自己資金で賄うことができない場合には、中小企業倒産防止共済制度や、セーフティネット保証制度(中小企業信用保険法)などを利用して資金調達することも検討しなければなりません。なお、あくまで、再生債務者から回収を図ろうとして、訴訟提起したり、仮差押えなどの手続きをしても、民事再生手続の開始決定がなされると、訴訟手続きは中断し(第40条第1項)、仮差押えは失効するので(第39条第1項)、費用と労力を使って法的手続を行うか否かは慎重に検討すべきです。

(2) 民事再生手続きによる制約を受けない債権の回収方法
  それでは、取引先が民事再生の申立てをした場合の売掛債権等の回収の方法としてはどのようなものがあるでしょうか。

ア 原則的な取扱い
  売掛債権等のいわゆる再生債権は、再生手続の中で届け出、調査、確定の手続きを経て、最終的には再生計画の定めに従って弁済されます(同85条第1項)。再生計画について裁判所の認可決定がなされるのは、申立てから半年程度後のことですので、少なくともその間は支払いを受けることはできませんし、再生計画は、債権の減額や分割払いが定められていますので、回収できる債権は相当に少なくなり、かつ、一括で支払われるとも限りません。

イ 優先的に回収する方法
  そこで、再生計画による平等弁済に甘んじることなく、自社の債権の回収率を高める手段として、次の方法を検討することになります。

①担保権の実行

  民事再生法上、担保権は別除権として、原則として、再生手続による制約を受けることがありません(第53条)。したがって、不動産に設定した抵当権、根抵当権、株式等の有価証券の質権の実行、売掛債権譲渡担保権の実行により、債権の回収を図ります。日常の取引の際にも、売上げが増えているような事情もないのに、急に自社との取引額が増えたとか、支払いが遅れるようになったなどの債権管理上の危険事象が生じたときには、担保権の取得あるいは追加担保の取得を心がけ、これを取得しておけば、有事の際の優先回収が可能になります。
  このような担保権を設定していなかった場合には、動産売買先取特権に基づく物上代位権が行使できないか検討してみましょう(民法第311条、第304条)。再生債務者が商品を転売しているような場合に再生債務者の転売先に対する売掛金債権を裁判所の債権差押命令により、差し押さえる方法によって回収します。これも法律が認めた担保物権ですので、原則として民事再生手続による制約を受けず、優先的な回収が可能になります。

②相殺による債権回収

  取引先が民事再生を申し立てた場合、自社の債権について、その内容を集計することが大事であることもちろんのこと、再生債務者に対して、支払うべき債務を負っていないかを支店や他の営業所の取引を含めて洗い出し作業をすることが自社の債権回収の上でも重要です。すなわち、再生債務者と相互に売り買いの取引をしているような場合、こちらも再生債務者に対して、買掛債務等を負担している場合があります。その場合、相互の債権債務を相殺して再生債権を回収することができます。民事再生法上、相殺権(第92条)と呼ばれています。相殺権の行使は、再生債務者に対して相殺の意思表示(後日の証拠を残すために、内容証明郵便で通知することもあります)をすれば足りるので(民法第506条)、極めて簡易な債権回収手段となります。もし、この相殺権を行使しなければ、自社の債権は再生計画により減額されたり、分割払いなどとされるのに対して、自社の債務は約定どおり、再生債務者に全額支払わなければならないので、債権回収のチャンスを逃すことになってしまいます。この点、注意すべきは、この相殺権の行使は再生債権届け出期間内に行わなければならないことです(第92条第1項)。仮に、債務を負担していたとしても、期間内に相殺をしなければ、相殺はできません。

③ 保証人等からの債権回収

  主債務者が民事再生手続を行ったとしても、連帯保証人や物上保証人との関係には影響がありません。再生計画により、主たる債務者に対する債権が減額になったとしても、連帯保証人や物上保証人の責任が減少するわけではありませんので(第177条第2項)、主債務者からの回収ができないとしても、連帯保証人に対しては法的手続きによる回収が可能です。連帯保証人の財産に対する仮差押や訴訟提起を検討することになりますし、物上保証人が提供した担保物に対する担保権を実行することにより、回収を図ります。

参考ページ> 企業再生・清算

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