日弁連新聞
2005年 2月1日 第373号
弁護士の守秘義務と市民からの信頼を守るために
- 弁護士の守秘義務と市民からの信頼を守るために
- 労働審判法の研修会開催
- 中越地震被災者への法的保護を申し入れ
- ひまわり
- 新司法試験サンプル問題検証シンポジウム
- 第5回日弁連市民会議
- TAKE OFF!日本司法支援センター《2》
- 「弁護士の法的サービス推進本部」の設置と今後の運動について
- 中川了滋会員 最高裁判事に就任
- 地方紙と懇談会
- 監獄法改正 今後のスケジュール
- 「刑事裁判が変わる!新しい弁護技術研修会」開催
- 刑事手続の在り方等に関する協議会(第5回)
- 外国人の在留等に関する申請手続の弁護士代理に関する入管法規則改正が施行
- インド洋巨大津波被災国の弁護士会に対しお見舞い
- 法の支配を社会の隅々に〜ユニークな領域で活躍する弁護士たち
弁護士の守秘義務と市民からの信頼を守るために
ゲートキーパー問題対策本部を設置
従来、国際刑事立法対策委員会が検討していたゲートキーパー問題について、理事と正副会長全員を含む対策本部の設置が1月の理事会で決定された。
FATFの「40の勧告」改正によって加盟国は、弁護士等の専門職に対し、不動産売買や会社等設立運営などの特定取引について、資金洗浄やテロ資金と疑われる取引の記録保存義務、依頼者の身元確認義務及び通報義務を課すことが義務付けられた。ただし、いずれも弁護士の守秘義務の範囲内については義務が課せられていない。疑わしい取引の届出先は、金融監督機関(金融庁)または自治機関である日弁連のいずれかの選択肢がある。
日弁連は、2003年12月20日の理事会で、身元確認と記録保存については会規整備をすすめる一方、通報義務についてはあくまで反対することを決議している。
しかし、2004年12月に政府の国際組織犯罪等・国際テロ対策推進本部から出された「テロの未然防止に関する行動計画」は、FATF勧告の完全実施に向けて、2005年7月までに実施方法を検討し、法整備は2006年通常国会に、それ以外は同年上半期までに所要の整備を行うこととしている。
この切迫した状況に適切に対処するためには、全国の弁護士会での検討と連合会あげての取り組みが必要となるため、ゲートキーパー問題だけに特化した対策本部の設置が決定されたものである。
身元確認と記録保存の会規案は、2月の対策本部に提案される予定であるが、通報義務に対して日弁連としての対応を早急に決定することが必要である。
この問題に関する「Q&A」は、既に全会員に配布したほか、日弁連ホームページにも詳細な資料集とともに掲載されているので、ご検討頂きたい。
(副会長 大塚 明)
※ FATF(Financial Action Task Force)は、1989年のG7アルシュ・サミットにおいて、マネーロンダリング対策の推進を目的に招集された国際的な枠組み。
労働審判法の研修会開催
06年からの実施に向け多数の参加

東京会場の様子が全国にライブ中継された
1月15日、労働審判法のサテライト研修がクレオにて実施された。クレオの340名をはじめ、全国で1800名を超える参加者が熱心に受講した。
労働審判法は、個別労使紛争を適正・迅速に解決する制度として2004年5月に成立し、2006年4月1日から実施が予定されている。労働審判官(地裁の裁判官)1名、労働審判員(労使団体から推薦された労使関係に専門的な知識経験を有する者)2名の計3名が労働審判委員会を構成し、合議のうえ調停と審判を行うもので、3回以内の期日で調停を試み、調停が成立しない場合には審判で決定する手続である。
午前の部では、菅野和夫名誉教授(東京大学・前司法制度改革推進本部労働検討会座長)が講演を行った。続いて定塚誠東京高裁判事(前最高裁判所事務総局行政局第一課長)が、労働審判法及び同規則と労働審判制度の申し立てから審判、訴訟移行までの手続について解説した。労働審判が迅速性(speedy)、専門性(specialized)、事案に即した(suitable)解決を特徴とする制度であることが分かりやすく説明された。
午後の部では、労働検討会委員を務めた鵜飼良昭会員(横浜)と石嵜信憲会員(第一東京)から、それぞれ労働者側代理人、使用者側代理人から見た労働審判の説明が加えられた。特に、3回の手続で個別労働紛争を解決するためには、労使双方の代理人が発想を転換する必要があると強調された。
解説をふまえ、会場と全国から寄せられた質問に答える形で4名の座談会が行われた。審判の対象となる事件の範囲や審判での人証調べの方法、審判の内容、訴訟への移行の問題など、実務的な問題について回答があり、それぞれ議論が展開された。
本研修は参加者には大変好評であった。今後も引き続き、労働審判法を活用するための研修を行う予定である。
(労働法制委員会委員 水口洋介)
中越地震被災者への法的保護を申し入れ
日弁連、関東弁護士会連合会と新潟県弁護士会は、1月12日、北側一雄国土交通大臣と南野知恵子法務大臣に「罹災都市借地借家臨時処理法」(罹災都市法)と「特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律」(特別措置法)を新潟中越地震被災地に適用するよう申し入れた。
新潟中越地震では、死者40人、負傷者2500人のほか、居住用建物の全壊2850棟、半壊等9万9000棟、道路被害6000か所、河川被害230か所などの被害が発生した(2004年12月末現在の集計)。山古志村などは、立入りが困難であるため、物的被害がまだ認定されていない。
新潟県弁護士会は対策本部を設置し、震災にまつわる法律相談などを実施してきた。日弁連と関弁連も対策本部を設置した。新潟県弁護士会が地震発生後、昨年12月末までに行った震災相談(541件)では、住居の損傷や境界問題など隣人間の問題が158件(29%)を占めた。今後5000棟近くの新築・改築が、春以降本格的に着手されるとみられる。境界問題や隣人間のトラブル、建物の滅失・明渡しをめぐる紛争の発生も予想される。
申し入れは、震災被害によって発生する借地借家問題について罹災都市法の適用により解決を図り、また、特別措置法の適用により隣人間のトラブルについての調停申立手数料免除などの措置を講ずることを求めたもの。対象地域は新潟県内35の市町村。
法務省は、被害実態を調査し、罹災都市法ならびに特別措置法の適用の必要性を判断するとしている。
ひまわり
メイリングリストという言葉を日弁連に来て始めて聞いた。日弁連の委員会等では、このメイリングリストを利用して、委員間の意見交換が活発になされている。情報をすばやく共有するという意味で、このシステムはすこぶる有用である▼しかし、複数のメイリングリストに所属している結果、毎日のメールの数は恐ろしいものになる。情報の洪水の中からの取捨選択は相当困難で、却って情報をないがしろにしているのではないかとの恐怖感に駆られることもある。メールを送ってあるから見た筈だと思われているに違いないと考えるとメールのチェックをおろそかにはできず、かなりの時間をこれに充てることになってしまう▼以前、隣の席の同僚と口をきかずメールで会話をするというエピソードを聞き、そんなことがあるのかと驚いたことがあるが、いつの間にか自分もその域に入ってしまっているような気がする。直接会うことをせず、メールのやりとりで法律相談を行う場合もある▼本当は、直に接することで相手方の表情の変化や仕草から考えを読みとりたいと思う。しかし便利さに負けてメールを使うからには、意思疎通のレヴェルを上げるため、その文面の後ろにある「人の心」を読みとる想像力を育てる必要があると思っている。(Y・M)
新司法試験サンプル問題検証シンポジウム
新司法試験のあるべき姿とは

1月15日、弁護士会館クレオにおいて標記シンポジウムが開催され、全国の法科大学院教員を中心に251名が参加した。
法科大学院修了者を対象とする新司法試験(06年開始)のサンプル問題は、新司法試験問題検討会での検討を経て、昨年11月に必須科目、12月に選択科目が司法試験委員会より公表された。本シンポジウムは、公法系・民事系・刑事系の各科目ごとにパネルディスカッションと会場からの質疑応答を行うという形式で実施された。
開催に先立ち、早稲田大学、中央大学の法科大学院生と04年度司法試験合格者の協力を得て、サンプル問題を実際に解答した答案が提供された。これらは全て参加者に配付され、今後、各所で行われるであろうサンプル問題の検証のための貴重な資料となると考えられる。
各パネルにおける討論では、短答式・論文式双方の問題を対象として、新司法試験では何を問うべきか、今回の問題はそれにふさわしいものなのか、問題の水準は相当か、採点方法はどうあるべきか、などが議論された。その後の質疑応答では、各問題に込められた出題者の意図はどのようなものか、このような問題に対処するための法科大学院教育はどうあるべきか、要件事実論はどう扱われるべきかなどについて、活発な意見が交わされた。
新司法試験の姿は、今後の法科大学院教育に大きな影響を及ぼす重要な課題であり、日弁連は、今後も新司法試験に関する問題に積極的に取り組んでいく予定である。サンプル問題や本年七月に予定されているプレテスト問題などについて、実務家教員をはじめ、会員諸兄からも様々な意見をお寄せ頂きたい。
(法曹養成対策室嘱託 石井邦尚)
第5回日弁連市民会議
市民からの苦情処理システム等について活発な議論

1月17日、宮本一子議長ほか九名の委員の出席を得て、第5回日弁連市民会議が開催された。今回は、前回に引き続き「法廷での被告人の服装について」が議論され、また新たな議題として「依頼者からの苦情処理システムについて」が取り上げられた。
最初に、法廷での被告人の服装問題について、海渡雄一会員(刑事拘禁制度改革実現本部事務局長代行)より、「裁判員制度においては、法廷における被告人の外見的印象は、事実認定を行う裁判員の心理に大きな影響を及ぼす。市民会議でも取り上げていただき、日弁連での検討も進んでいる。刑事手続の在り方等に関する法曹三者の協議会でも意見を述べた」との報告がなされた。委員からは、「女性被告人が髪を染めることができず別人のようになってしまっていたが、理美容についてはどうなっているのか」「最初からあきらめてしまっている被告人もいるのではないか。何が可能か周知されているのか」「現状は有罪推定としか思えない。中立的環境を作る工夫が必要」「未決勾留者の問題についてもっと議論してもらいたい」「公判前整理手続が行われることで、未決の期間が長期化することを心配している」「逃走防止というのであれば、技術の進歩によりいくらでも工夫ができるのではないか」「第三者が問題点を指摘する仕組みを作ることはできないか」等々活発な意見交換がなされた。服装問題に止まらず、腰縄手錠の問題や法廷での被告人の着席位置等法廷における被告人の地位についても議論は及び、その上で、今後これらの問題について日弁連に対する提言をまとめることとなった。
続いて第二議題に関し、藤井篤事務次長から、弁護士会の市民窓口が設立された経緯、苦情の件数・種類・傾向、これに対する弁護士会の対応、綱紀懲戒制度の概要等について説明がなされた。委員からは、「市民の側からは弁護士に対し不満をなかなか表明できない」「消費者団体や市民団体がアンケート調査によって弁護士のサービスを監視するという欧米の制度を参考にできないか」「医者の場合、問題を繰り返す者の氏名を公開している。弁護士もトラブル再発防止の方策を考えてもらいたい」等の厳しい意見が出された。また、「消費者が賢くなるために、相談時に弁護士に対しどういう質問をすればよいか示してもらいたい」「問題を繰り返し起こす弁護士については処分の加重制度を考えられないか」等の積極的な意見も出された。この問題には、「市民の立場に立った苦情処理」と「弁護士のサービス向上」という二つの側面があり、さらに議論を深めるため、次回も議題に取り上げることとなった。
TAKE OFF!日本司法支援センター《2》
スタッフ弁護士養成事務所
力のある常勤スタッフ弁護士を必要な人数確保するには、ただ応募者を待っているだけでは足りません。そこで、新人弁護士を採用し、1年ないし2年間教育して司法支援センターに送り出す役割を果たすのが、スタッフ弁護士養成事務所です。
現在までに全国で40以上の事務所が養成事務所に名乗りを上げていますが、毎年数十名規模で新人弁護士を育成しなければならないことを考えれば、まだまだ足りません。
また、新人弁護士の就職希望が集中する東京に、都市型公設事務所を含めても10程度しか養成事務所がないことも問題です。大都市圏を中心に更に多くの養成事務所を作っていく必要があるでしょう。
スタッフ弁護士の養成というとさぞ大変と思われるかもしれませんが、基本的には一般の法律事務所が扱う種々の事件を新人に担当させて育てて頂ければよく、通常のイソ弁を教育するのと大きな差はありません。強いて言えば、赴任までの1年ないし2年の間に多くの種類の事件を経験させておくことが望ましいということくらいでしょうか。是非スタッフ弁護士の養成に参加して下さるようお願いします。
他方、地域によっては自前で当地のスタッフ弁護士を養成したいという意向があるのではないかと思います。このような意向も当然尊重されるべきです。地元で育った新人弁護士が、スタッフ弁護士として地元に赴任し、扶助事件や国選事件の担い手になるということは、地元の事情に通じているという意味からも望ましいことですし、そうであれば地方でもスタッフ弁護士の養成に一層意欲が湧くでしょう。スタッフ弁護士としばしば比較されるひまわり公設事務所の人材育成についても、従前は東京などで養成された新人が過疎地に赴任するのが一般的でしたが、最近では札幌で養成された新人が道内の過疎地に赴くケースが出てきているようです。
なお、スタッフの任期は従前三年から五年とされていましたが、実際には3年(再任可)となる見通しが濃厚です。せっかく育てた弁護士を五年も外に出すのは躊躇するという事務所でも、3年であれば、検討の余地があるのではないでしょうか。
(日本司法支援センター推進本部事務局次長 櫻井光政)
「弁護士の法的サービス推進本部」の設置と今後の運動について
法科大学院、捜査の可視化などについて意見交換
1月20日の第20回理事会で「弁護士の法的サービス推進本部」の設置が承認された。
名称からは直ちに趣旨が分かりにくいが、要するに弁護士法72条等(以下「72条」)により法律事務の独占を認められ、在野法曹の中核にある我々弁護士が、国民に対し質の高い法的サービスを提供するため、72条の存在意義を改めて考え、その堅持を求めて、会を挙げて積極的に運動を展開して行こう、という目的で設置されたものである。
72条問題については、近時、隣接法律専門職種(他士業)について、簡易裁判所・特許等特定侵害訴訟・ADR等に関し一定の限度で代理業務が認められ、他方で非弁類似行為等が横行し、72条は空洞化されつつある。
これらの問題に対しては、これまで関連委員会が随時、個別的に対応してきたが、日弁連全体として有機的・統一的に取り組むという体制にはなかった。
そこで今般、委員総数150名の本推進本部を理事会内に設置することにより、弁護士会(理事)、本部(運営委員会・事務局)、執行部及び関連委員会を有機的に結び、情報交換や認識の共通化を図るとともに、業際問題・非弁対策問題等に対し適時に適切な対処を行い、国会対策など必要な運動を日弁連全体として行うことができるようにしたものである。
承認翌日の第21回理事会で、第1回推進本部全体会議が開催され、本部長代行に吉岡桂輔会員(東京)、事務局長に高中正彦会員(東京)が選任された。
第2回全体会議は、次回理事会が開催される2月18日に予定されている。
(副会長 木村 謙)
中川了滋会員 最高裁判事に就任
1月14日付で定年退官した梶谷玄最高裁判事の後任として、1月19日付で中川了滋会員(第一東京)が任命された。
中川判事は、97年度の日弁連副会長、第一東京弁護士会会長などを務めた。
- 主な担当委員会
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- 拘禁二法案対策本部副本部長(97年〜98年)
- 情報公開法・民訴法問題対策本部副本部長(97年〜98年)
- 最高裁判所裁判官推薦諮問委員会委員(98年〜99年)
- 外国法事務弁護士登録審査会委員(99年〜02年)
地方紙と懇談会
裁判員制度、司法支援センター構想について地域からの情報発信を要請

1月13日、24日、27日の3回にわたり、有力地方紙の東京支社編集部長と日弁連の懇談会が開催された。2003年7月の開催に続く二度目の試みであり、梶谷会長の「改革の時代は地域・地方の時代」という方針に広報の観点からアプローチするもの。参加新聞社は計29社にのぼり「裁判員制度」「司法支援センター構想」をテーマに活発な意見交換が行われた。
司法支援センター構想に関しては、日弁連としても市民への広報が不十分であると認識しており、地方紙からの情報発信を要請するとともに、財政基盤の確保や利用しやすい組織体制整備に関してマスコミの視点からの提言を求めた。司法過疎問題については関心の高いメディアも多く、「センターとひまわり公設との関係はどうなるのか」という質問に対しては、「公設事務所設置活動は今後も継続し、センターがどこに事務所を設置するかについても法務省と協議していく」と回答した。その他「若手弁護士だけに負担がかからないよう配慮すべき」「『司法ネット』という名称からは制度がイメージしにくい」などの意見が出された。
裁判員制度に関しては日弁連側出席者から、制度自体の周知のための広報が必要であることはもちろん、迅速で分かり易い審理のためにも可視化の導入が不可欠であり、この点の理解を得るための活動も重要であると説明がなされた。参加者からは「五年の周知期間で国民の理解を得るには相当な意識改革が必要」「裁判自体が国民になじみがなく、基本的なところから丁寧に解説していくべき」などの意見が出された。これに対し日弁連からは「現段階で市民の相当数が消極的であることは認識しており、法曹三者で広報のあり方を協議している」「日弁連としては、模擬裁判の実施や、メディアとの勉強会に講師派遣するなど『人材を提供する』という形で努力していきたい」などと現在の取り組みを説明した。
監獄法改正 今後のスケジュール
監獄法改正については、受刑者に関する法案が今通常国会に提出される予定である。
具体的には、法務省は行刑改革推進委員会顧問会議(元行刑改革会議委員)への説明(2月2日)、法制審議会での報告(2月9日)を経た上で、3月中旬頃には同法案を国会に提出するものと思われる。
すでに日弁連は法務省と、受刑者処遇勉強会運営委員会の場において協議を進めているが、最終的な法務省提出法案の概要が明らかになり次第、各弁護士会に検討を要請するとともに、刑事拘禁制度改革実現本部事務局において、早急に意見書案を作成し、2月14日に開催する同本部全体会議の討議に付することを考えている。そこで全国の意見を集約し、成案をまとめて2月理事会にはかり、意見書を公表する予定である。きわめてタイトなスケジュールであるが、ご協力をお願いしたい。
警察留置場に収容された者を含む未決拘禁者(死刑確定者を含む)については、法務省・警察庁は2006年通常国会に法案を提出する意向である。既決法案の国会上程が予想される本年3月以降、検討の動きが本格化するであろう。未決問題に関する三者協議会の再開時期は未定。
日弁連では、未決についても行刑改革会議のような審議機関の設置を求めている。
(刑事拘禁制度改革実現本部事務局次長 下林秀人)
「刑事裁判が変わる!新しい弁護技術研修会」開催

今年11月までに施行される公判前整理手続と、4年後までに施行される裁判員裁判をシミュレーションし、具体的なイメージをもとに研修するという企画。全国で2000人以上が参加した。
第一部「公判前整理手続を活かす」では、大阪弁護士会刑事弁護委員会の「裁判員制度対応プロジェクトチーム」のメンバーが講師を担当し、公判前整理手続の最重要課題である証拠開示や争点整理の方法について、弁護活動の「良い例」と「悪い例」をあげて、運用をシミュレーションした。
第2部「裁判員の心をつかむ」では、会場に裁判員裁判の模擬法廷を作り、裁判員役に市民6名の参加を得て、被告人入廷からの一連の流れを再現した。高野隆会員(第二東京)を講師に、会場の参加者が冒頭陳述や証人尋問をその場で実践し、裁判員役の市民からの率直なコメントを交えながら進められた。
本研修のコンセプトは、「具体的に考える」「即、使える」の2点。施行が迫る公判前整理手続ですぐに役立つ情報や、裁判員裁判における法廷活動のイメージを提供することに主眼を置いた。公判前整理手続も裁判員裁判も、誰も経験のない未知の世界。いわば、個々の弁護士が担当する具体的弁護活動の中で作り上げていくものである。本研修で提供したイメージは、試行錯誤の第1ステップにすぎない。今後こうしたイメージを土台に、全国の弁護士が検討を重ね、弁護技術を高めていかなければならない。
日弁連では、今年夏頃までに制定される公判前整理手続に関する刑事訴訟規則の研修も予定している。
裁判員裁判についても、今後引き続き研修が求められる。書面審理に慣れた我々が、口頭による弁論で裁判官や市民を説得する方式に転換するのは容易ではない。本研修をきっかけに、明日の裁判から自らを変えていく気概と研究が必要である。
本研修はほんの第一歩。これからが本番である。
(裁判員制度実施本部事務局次長 工藤 美香)
刑事手続の在り方等に関する協議会(第5回)
1月27日、刑事手続の在り方等に関する協議会(第5回)が開催された。
冒頭、日弁連からは、(1)執務時間外・休日接見、(2)裁判所構内における接見、(3)身体拘束中の事件関係者との接見、(4)公判廷における被告人の着席位置、(5)公判廷における被告人と弁護人とのメモの授受、(6)被告人の服装の各課題について、刑訴法・刑事規則等の改正提案を含む具体的な改革提案を行った。このうち「被告人の服装問題」は、日弁連市民会議からの問題提起を契機として検討を始め、今回の改革提案に至ったものである。
これに対し、最高裁・法務省とも、日弁連の問題意識については概ね理解した模様。しかし「裁判所構内における接見」に関しては、「事件数、接見設備やその利用状況、裁判所と拘置所との距離などは全国で様々であることから、全国一律に、日弁連の求める裁判所構内の接見設備の拡充や整備が必要であるという認識には至っていない。各地の実情に応じ、具体的な必要性を示して欲しい」という発言が最高裁協議員からなされた。今後、全国の実情を確認し、更に具体的な提案・要求に高めていく。
また「被告人の服装問題」についても、勾留中の被告人のジャージ姿が裁判員の心証に大きな影響を与えることについては異論がなく、法務省協議員から、改善策につき工夫しなければならない問題であるという認識が示された。
外国人の在留等に関する申請手続の弁護士代理に関する入管法規則改正が施行
今般の出入国管理及び難民認定法施行規則改正によって、地方入国管理局長への届出を行った弁護士が代理を務める場合には、申請時の本人出頭を要しない扱いとする旨が明記されることとなり、1月31日より施行された。
入国管理局長への届出手続は、各弁護士会において受付を行うこととなっており、代理業務を希望する場合、以下の流れで届出をすることになる。
- 届出を希望する会員は、所属弁護士会に入国・在留手続申請代理届出願を提出する。
- 会員からの届出願を受理した弁護士会は、届出名簿をとりまとめて地方入国管理局長へ提出する。
- 弁護士会からの届出名簿を受理した地方入国管理局長は、各届出者に届出済証を発行し、弁護士会を通じて会員へ交付する。
※ 届出済証の交付を受けた会員は、これを提示することにより、いずれの入国管理局においても代理業務を行うことができる。
インド洋巨大津波被災国の弁護士会に対しお見舞い
スマトラ沖地震により発生したインド洋巨大津波は、未曾有の被害をもたらした。日弁連では、梶谷会長がインドネシア、タイなど被災国の弁護士会に対し、被害の状況について哀悼の意を表明するとともに、早期の復興を祈るお見舞い状を発信した。これに対し、「日弁連の会員の方々に深く感謝申し上げる。悲しみを乗り越え、被災に打ち勝つ勇気を与えて頂きました」(インド弁護士会)という趣旨の礼状が寄せられている。
被災国では、法的問題が急増しており、弁護士会が法的援助の拡大に向けて動きだした。タイのプーケットでは、1月13日、14日の両日、津波から派生した法的問題に関するワークショップが開催された。またインドでは、弁護士会が救済ファンド創設の運動を開始しているという。日弁連は、3月に開催されるアジア弁護士会会長会(POLA)において、この種の被害に対する協力の実現に向けて検討を求めている。
法の支配を社会の隅々に〜ユニークな領域で活躍する弁護士たち
その3 非常勤裁判官(2)
今回は、2004年1月の制度発足時に非常勤裁判官に就任した紙子達子会員(26期・東京家庭裁判所)、山崎惠会員(31期・東京地方裁判所)、瀬古賢二会員(42期・名古屋簡易裁判所)へのインタビューをもとに、非常勤裁判官制度の運用状況を紹介します。
(広報室嘱託 生田康介 兼川真紀 五三智仁)
一度現地で調停を開催してみませんか
借家の明渡調停。相手方は第1回調停期日に出頭しなかった。「何か話し合いを妨げる事情があるのではないか」と考えた担当調停官の瀬古会員は「一度現地で調停を開催してみませんか」と調停委員に伝えた。
現地に赴いて話を聞くと、当初仲介に入っていた業者との間に問題があり、当事者双方の希望が相手に伝えられていないことが分かった。「わざわざ裁判官が来てくれた」という思いは当事者を動かし、次回以降は相手方が調停に出席するようになり、ほどなく相手方は借家を引き払い、親戚方に身を寄せるという方向で、無事調停が成立した。
瀬古会員は「『出頭しないから調停不成立』では解決にならない。調停事件の記録は薄いが、その背景にある様々な思惑を読み取る力が、弁護士経験により培われており、それを活かすことが求められている」と語る。
当事者の気持ちをくみ取るノウハウ

紙子達子会員
紙子会員は、午前・午後それぞれ3〜4件程度の調停事件を担当する。調停が始まる30分位前から調停室を回り、調停委員との事前評議に臨む。それぞれの事件のポイントを押さえながら、当日の方針と立会のタイミングを決める。「過去の弁護士経験から、当事者がどんなことを言いたいのか、気持ちのくみ上げ方が分かる。特に家裁では当事者本人のみが出頭することが多いので、そのようなノウハウが役立つ」という。
調停がまとまらなくても手続に活かせるように

山崎 惠会員
山崎会員は、東京地裁民事22部(建築紛争集中部)に配属され、建築瑕疵事件などの付調停事件を中心に約20件を担当する。「調停官となると事件処理そのものの流れを考える。付調停事件の場合、調停が不成立となったとき、事件が訴訟に戻るので、調停がまとまらなくても、その時の審議が後の手続きに活かせるよう意識している」と、調停の主宰者としての心構えを語る。
基本は「人の話をよく聞く」こと
調停の進め方についてはそれぞれのスタンスがあるが、非常勤裁判官に必要な資質については「人の話をよく聞くこと」と口を揃える。また、多様な事件に対応し、調停委員とも円滑に連携するためには、ある程度の弁護士経験年数も必要なようだ。
受け入れ側の裁判所の雰囲気は、「どんどん調停室に入って、弁護士の特徴を活かした調停を進めてほしいと感じられる」(紙子会員・山崎会員)という。非常勤裁判官について担当事件を固定し、事件の始めから終わりまで担当する配慮もされている。
苦労はあるが得がたい経験
もちろん、弁護士業務との両立については「週1日は弁護士業務を全くできないのだから、それなりの手配や準備が必要になる」(紙子会員)、「裁判所の懇親会や各地のシンポジウムでの講演など、業務以外で時間をとられる機会も増えた」(瀬古会員)などの苦労もある。
とはいえ「多様な経験ができる」「視野が広がる」「是非手を挙げてみては」など、それぞれ非常勤裁判官の経験を得がたいものとして、肯定的に捉えている点では共通するようだ。
常勤裁判官との関連性には評価が分かれる面も
このように、調停の充実という非常勤裁判官制度の目的は達成されつつあるが、もう一つの目的である「常勤任官へのステップ」については「裁判所の弁護士に対する親近感も出ており、中二階的な橋渡しができると思う」(山崎会員)という声がある一方、「仕事の内容や勤務形態も全く違うので、必ずしも関連性があるとはいいきれない」(紙子会員)という見方もある。第一期の非常勤裁判官の任期が満了する2005年末に向けて、もう少し推移を見守る必要があるようだ。
市民に一番近い制度の充実のために

瀬古賢二会員
瀬古会員は「裁判所の人的・物的資源は、最高裁を頂点に市民から遠いところほど手厚くなっている。本来、市民に一番近い調停の場こそ充実が図られるべき。特に人材が不足しがちな中・小規模庁において非常勤裁判官の活用が望まれる」と語る。実際、名古屋簡裁では本制度の成功を機に、裁判官による調停にも担当事件制が導入されるなど、調停制度の運用全体に影響を与えるまでになってきている。
今後、非常勤裁判官の権限や人数を拡大することができれば、調停制度について市民の利便性が増すとともに、そこから常勤任官に進む人数の増加も期待できる。非常勤裁判官制度は、調停という限られた分野での改革に過ぎないと捉える向きも多いが、現在までの成功をみると、今後質量ともに発展していく可能性は十分にある。