経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約第16条及び第17条に基づく第2回報告(仮訳文)
第1部 一般的コメント
「個人の尊厳」を基調とする憲法は、第14条1項において、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」と規定して、法の下の平等を保障している。「法の下の平等」は、立法府、行政府及び司法府のいずれをも拘束する原則であり、あらゆる国政の上で最大限尊重されなければならない。
1. 自決権
市民的及び政治的権利に関する国際規約第3回報告第2部第1条の項の記載を参照されたい。
2. 外国人の地位、権利
外国人についても、基本的人権尊重及び国際協調主義を基本理念とする憲法の精神に照らし、参政権等性質上日本国民のみを対象としている権利を除き、基本的人権の享有が保障されている。我が国は、本規約で認められた権利を外国人にも等しく保障するよう努めている。概要は以下のとおり。
(1) 労働の権利、職業選択の自由
我が国は、出入国管理及び難民認定法に基づき、同法が定める在留資格のいずれかに該当し、かつ、当該在留資格について定められた要件(基準)を満たしている外国人についてのみ入国・在留を認めている。このため、外国人が我が国において就労できる職種、期間等は事実上制限されることになるが、これは、外国人が我が国に在留する権利を有しないことからくる合理的帰結である。我が国に永住資格を有する外国人については、かかる制限はない。
(2) 労働条件
後述する労働基準関係法令は、我が国内の事業に使用される労働者であれば、国籍等に拘らず適用される。
(3) 社会保障
国内に適法に在住する外国人に対しては、内外人平等の原則に立ち、国籍の別なく、所要の負担の下に、国民と同様の社会保障を実施するよう努めている。例えば、以下の各制度については、国籍要件が撤廃されている
(a) 国民年金(国民年金法)
(b) 児童扶養手当(児童扶養手当法)
(c) 児童手当(児童手当法)
(d) 特別児童扶養手当、障害児福祉手当、特別障害者手当及び経過的福祉手当(特別児童扶養手当等の支給に関する法律及び国民年金法等の一部を改正する法律)
(e) 国民健康保険(国民健康保険法)
(4) 教育を受ける権利
外国人の子女が我が国の公立学校において義務教育をうけることを希望する場合(就学義務はない。)には、すべて受け入れることとしている。このため、学齢相当の外国人子女の保護者に対して就学案内を発給し、就学の機会を逸することのないようにしている。また、外国人児童・生徒が入学した場合には、授業料不徴収、教科書の無償給与、就学援助措置など、内外人平等の原則に立って、日本人と同様の取扱いを行っている。
3. 外国人の公務員への採用
(1) 我が国における外国人の公務員の採用については、公権力の行使又は公の意思の形成への参画にたずさわる公務員となるためには日本国籍を必要とするが、それ以外の公務員となるためには必ずしも日本国籍を必要としないものと解されている。
(2) 在日韓国・朝鮮人についても、基本的に上記(1)が妥当するが、特に公立学校教員への採用については、1988年以来日韓両政府で行われてきた「日韓三世協議」の結果に基づき作成された「覚書」を踏まえ、1991年3月から、在日韓国人など日本国籍を有しない者についても教員採用への途を開き、日本人と同一の試験に合格した者については、任用の期限を付さない常勤講師として採用し、身分の安定を図るとともに待遇についても配慮するようにしている
4. 国内法における差別取扱禁止規定
(1) 一般原則 憲法第14条1項
「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」
(2) 議員及び選挙人の資格について 憲法第44条
「両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならない。」
(3) 国家公務員の処遇について 国家公務員法第27条
「すべて国民は、この法律の適用について、平等に取り扱われ、人種、信条、性別、社会的身分、門地又は第38条5号に規定する場合(暴力的破壊主義政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者)を除くの外政治的意見若しくは政治的所属関係によって、差別されてはならない。」
(4)地方公務員の処遇について 地方公務員法第13条
「すべて国民は、この法律の適用について、平等に取り扱われなければならず、人種、信条、性別、社会的身分若しくは門地によって、又は第16条第5号に規定する場合(暴力的破壊主義政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者)を除く外、政治的意見若しくは政治的所属関係によって差別されてはならない。」
(5) 労働条件について 労働基準法第3条
「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。」
(6) 賃金について 労働基準法第4条
「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱をしてはならない。」
(7) 雇用における機会及び待遇について 雇用機会均等法第11条等
「事業主は、労働者の定年及び待遇について、労働者が女性であることを理由として男性と差別的取扱いをしてはならない。」等
(8) 労働組合に加入する権利について 労働組合法第5条2項4号
「何人もいかなる場合においても、人種、宗教、性別、門地又は身分によって組合員たる資格を奪われないこと」
(9) 職業紹介、職業指導等について 職業安定法第3条本文
「何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地、従前の職業、労働組合の組合員であること等を理由として、職業紹介、職業指導等について、差別的取扱を受けることがない。」
(10) 教育を受ける権利について 教育基本法第3条1項
「すべて国民は、ひとしく、その能力に応ずる教育を受ける機会を与えられなければならないものであって、人種、信条、性別、社会的身分、経済的地位又は門地によって、教育上差別されない。」
5. 他国に対する開発協力
我が国は、人権は人類共通の普遍的な価値であり、正当な国際関心事項であるとの基本的立場に立ち、開発協力も、人権の伸長と保護に資するものでなければならないと考えている。我が国が、他国における経済的、社会的及び文化的権利実現のために行っている主要な開発協力は以下のとおり。
(1) 労働の権利の実現のための援助
我が国は、開発途上国における技術・職業訓練を、開発協力の重点項目の一つとしている。人材養成の重要性については、我が国の92年6月閣議決定されたODA大綱においても明記されているが、これは、開発途上国の経済的権利を実現する上で、人造りが必要不可欠との認識による。我が国は、このような観点から、無償資金協力による職業訓練センター等の建設、相手国研修員の受入れ、機材供与、専門家や青年海外協力隊の派遣、開発調査等を通じて技術移転に努めている。
(2) 健康を享受する権利の実現のための援助
開発途上国における保健・医療の状況は劣悪であり、多くの人々が各種疾病、感染症に悩まされ、あるいは生命の危険にさらされている。また、低い生活水準、栄養不良、劣悪な衛生状態が健康に対する脅威を深刻化させている。保健・医療分野への協力は、人類共通の福祉の考え方に基づくものである。我が国は、この分野に関し、無償資金協力、有償資金協力、研修員の受入れ、専門家や青年海外協力隊の派遣による技術協力を中心とした援助を行っている。また、基礎生活分野の一環をなすものとして、上下水道、都市衛生の整備等、社会インフラ整備のためのODAを実施している。
(3) 飢餓から免れる基本的権利の実現のための援助
国民の飢餓から免れる基本的権利は、自国の農林水産業が安定することによって初めて確保される。我が国は、このような観点から、開発途上国における農村・農業開発への援助を重視し、灌漑、排水等の農業インフラストラクチャーの整備、作物栽培に関する試験研究及び普及、農村の組織化並びに農作物の流通の改善に対する援助等を行っている。この分野における我が国のODAは、無償資金協力、有償資金協力、技術協力等様々な形態で行われている。
また、一般無償、水産無償、災害無償においても、農業開発援助等により飢餓救済に寄与している。
(4) 教育の権利の実現のための援助
経済発展を目指す開発途上国にとって不可欠なのは、人的資源の育成である。しかるに、開発途上国においては、一般に社会サービス部門の整備が遅れ、とりわけ教育サービス提供の立ち遅れが顕著である。我が国では、このような教育サービスの立ち後れが、経済開発の不可欠の要素たる人的資源の育成を阻害するものであることに鑑み、ソフト・ハード両面にわたり様々な援助を実施している。
我が国は、開発途上国の人的資源の育成に資するべく我が国高等教育機関への留学生の受入れを積極的に推進している。我が国は、「国費留学制度」をはじめとする各種施策を総合的に推進しており、良質の高等教育サービスを広く世界に提供すべく努めている。また、無償並びに有償資金協力により、小・中学校の建設、社会教育施設の建設、放送教育の拡充、教員の養成・再教育等を行っているほか、89年度より、草の根無償資金協力によって、NGO等草の根レベルのプロジェクトに対する施設建設、機材供与等の協力を行っている。また、技術協力の分野においては、プロジェクト方式技術協力、青年海外協力隊による教育分野の実績が多く、特に、青年海外協力隊の活動は、我が国の援助実績が比較的限られている基礎教育分野もカバーしており、援助の相手国から高い評価を得ている。
6. 公共の福祉
憲法は、「公共の福祉」により人権が一定の制限に服する旨定めている(第12条及び第13条)が、この「公共の福祉」という概念は、各個人の基本的人権が平等に尊重されることを可能ならしめるために、基本的人権相互間の調整を図る内在的制約理念として厳格に解釈されており、人権に不合理な制限を加えるものではない。
国が人権に制限を加える場合は、法律又は法律に根拠を有する規則に基づいて行うことが必要である。また、かかる制限は、その形式を踏めば無制限に行い得るものではなく、「合理的」な制限に限られ、その合理性如何を判断する基準が「公共の福祉」である。
7. 社会的弱者対策
(1)障害者施策
障害者施策の推進については、ライフステージの全ての段階において全人間的復権を目指すリハビリテーションの理念と、障害者が障害のない者と同等に生活し、活動する社会を目指すノーマライゼーションの理念の下、1993年に策定された「障害者対策に関する新長期計画」の具体化を図るための重点施策実施計画として、次の7つの視点から1995年に「障害者プラン」を策定し、その推進を図っている。
(a)地域で共に生活するために
(b)社会的自立を促進するために
(c)バリアフリー化を促進するために
(d)生活の質(QOL)の向上を目指して
(e)安全な暮らしを確保するために
(f)心のバリアを取り除くために
(g)我が国にふさわしい国際協力・国際交流を
(2)高齢者対策
我が国は、いまや平均寿命80年という世界最長寿国になった。国立社会保障・人口問題研究所の推計人口によると、2020年には65歳以上人口の割合が26.9%になると予想されており、国民の4人に1人は高齢者という超高齢者社会を迎えることとなる。
このような21世紀の高齢社会を、すべての人々が健康で、生き甲斐を持ち、安心して生涯を過ごせるような社会とするため、現在、本格的な長寿社会にふさわしい社会・経済システムを整備していくことが緊急の課題となっている。
こうした中で、高齢者が可能な限り住み慣れた家庭や地域の中で安心して暮らし続けることができるとともに、在宅での生活が困難な場合には適切な施設が利用できるよう、高齢者の保健福祉の分野における公共サービスの計画的な基盤整備を進めるため、国において、1990年から1999年を計画期間とし、整備すべき保健福祉サービスの目標量を具体的数値で示した「高齢者保健福祉推進10か年戦略(ゴールドプラン)」を1989年に策定した。1990年以降、国の最重要課題の一つとして、ゴールドプランの推進に努めてきたところであるが、1993年に、地方公共団体における高齢者保健福祉施策を計画的に推進するために策定された地方老人保健福祉計画において、ゴールドプランを大幅に上回る高齢者保健福祉サービス整備の必要性が明らかになったことや、ゴールドプラン策定以降、各種高齢者保健福祉施策の充実が図られてきたことから、これを全面的に見直し、1994年に、新たに「新ゴールドプラン」を策定した。
新ゴールドプランでは、1999年までに整備すべきサービス基盤の目標量を引き上げ、総事業量を9兆円を上回る規模とするとともに、今後取り組むべき施策の基本的枠組みを新たに策定した。
新ゴールドプランに基づくサービス基盤の整備については、対象によって差はあるものの概ね順調に進捗している。
一方、我が国においては、急速な高齢化の進展に伴って、介護を必要とする人の数も急速に増加し、介護期間の長期化や核家族化等と相まって、介護問題は老後の生活に関して最大の不安要因となっている。
こうした状況に対応するため、福祉と医療に分かれている高齢者の介護に関する制度を再編成し、利用しやすく、公平で、統一的な社会支援システムを構築することを目的とした公的介護保険法が1997年12月に成立し、2000年の施行に向けて準備を進めているところである。
公的介護保険の導入に当たっては、在宅・施設両面にわたる介護サービス基盤の一層の整備を進め、総合的かつ適切なサービス提供を行う必要があることから、当面、新ゴールドプランを着実に実施、特に、大都市部や過疎地域などのサービス不足地域についてその基盤整備を重点的に支援していくこととしている。また、介護保険を導入した場合には、サービスに対する需要が顕在し、必要とされるサービス量が増大することが考えられるため、今後とも必要な介護サービス基盤の整備について検討していくこととしている。
(3)児童家庭施策
ここ数年、出生数及び合計特殊出生率の低下が顕著であるが、出生率の低下による少子化については、子ども同士の触れ合いの減少等により自主性や社会性が育ちにくいといった影響などが懸念されている。
このような状況を踏まえ、国や地方自治体はもとより企業・職場や地域社会などが子育て支援のための取り組みを積極的に行う「子育て支援社会」の構築に向け、1994年12月、「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について(エンゼルプラン)」を策定し、社会全体での子育て支援策を総合的・計画的に推進している。
また、エンゼルプランの一環として、近年の女性の社会進出の増加等に伴う保育需要の多様化等に対応するため、「緊急保育対策等5か年事業」を策定し、低年齢児保育や延長保育の拡大に取り組んでいる。
8. 男女共同参画社会の実現
男女共同参画社会(男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ共に責任を担うべき社会をいう。)の実現に向け、男女共同参画推進本部(本部長:内閣総理大臣、副本部長:内閣官房長官・男女共同参画担当大臣、本部員:全閣僚)において、1996年12月、新たな国内行動計画である「男女共同参画2000年プラン」を策定し、施策の総合的かつ計画的な推進を図っている。
また、1997年4月、法律に基づく男女共同参画審議会が設置され、現在、男女共同参画社会に関する基本法を含めた男女共同参画社会の実現を促進するための基本的な方策及び女性に関する暴力に関する事項についての調査審議が行われている。
9. あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約
我が国は、1995年12月15日に、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約に加入した。同条約の趣旨を踏まえ、あらゆる形態の差別をなくすべく努力を行っている。
第2部 規約の各条に対する逐条報告
第6条
1.雇用及び失業に関する基礎的データ
(1) 第2表は、我が国における有効求人倍率(有効求人数を有効求職者数で除したもの)の推移を年齢階層別にみたもの、第3表は、完全失業率(完全失業者数を労働力人口で除したもの)の推移を性・年齢別にみたものである。これらによると、1997年においては有効求人倍率は1倍を下回っており、特に、高年齢者の有効求人倍率が低水準になっているなど年齢間の格差が大きい。一方、完全失業率は全体で3.4パーセントとなっており、雇用失業情勢は厳しい状況にある。性・年齢別にみると、男女共に15〜19歳の若年層で、また、男性の60〜64歳の高年齢層で完全失業率は高い水準となっている。
(2) 第4表は、有効求人倍率及び完全失業率の推移を地域別にみたものである。これによると、南関東(東京圏)、近畿(大阪圏)などの大都市圏と北海道(本土北端)及び九州(本土南端)で完全失業率が高く、有効求人倍率も低い水準になっている。
| 有効求人倍率 | 完全失業率 | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1987 | 1992 | 1997 | 1987 | 1992 | 1997 | |
| 全国 | 0.70 | 1.08 | 0.72 | 2.8% | 2.2% | 3.4% |
| 北海道 | 0.44 | 0.66 | 0.54 | 4.2% | 2.9% | 3.8% |
| 東北 | 0.56 | 1.02 | 0.80 | 2.9% | 1.9% | 2.9% |
| 南関東 | 0.84 | 0.96 | 0.58 | 2.7% | 2.4% | 3.8% |
| 北関東・甲信 | 1.17 | 1.74 | 1.02 | 1.8% | 1.5% | 2.5% |
| 北陸 | 0.87 | 1.63 | 1.08 | 2.4% | 1.6% | 2.6% |
| 東海 | 1.12 | 1.69 | 0.96 | 2.0% | 1.6% | 2.7% |
| 近畿 | 0.55 | 0.85 | 0.60 | 3.3% | 2.5% | 4.0% |
| 中国 | 0.73 | 1.52 | 1.02 | 2.8% | 1.7% | 2.7% |
| 四国 | 0.69 | 1.20 | 0.88 | 3.3% | 2.3% | 3.2% |
| 九州 | 0.40 | 0.82 | 0.57 | 4.0% | 2.5% | 3.8% |
注1
労働省「職業安定業務統計」、総務庁統計局「労働力調査」による。
注2
北海道−北海道
東北−青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県
南関東−埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県
北関東・甲信−茨城県、栃木県、群馬県、山梨県、長野県
北陸−新潟県、富山県、石川県、福井県
東海−岐阜県、静岡県、愛知県、三重県
近畿−滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県
中国−鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県
四国−徳島県、香川県、愛媛県、高知県
九州−福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、
沖縄県
(3) 障害者については、その能力、適性等に応じたきめ細かな職業指導、紹介を行うことが特に重要であることから、公共職業安定所において求職登録制度を設けているところであり、第5表はその推移をみたものである。求職登録する障害者数は、増加する傾向にあり、それにともなって就業中の者も増加している。しかしながら、これらの伸びに比し、有効求職者の伸びが大きくなっており、雇用機会はやや滞留の動きがみられる。
| 登録者全数 | 有効求職者 | 就業中の者 | 保留中の者 | |
| 1986年3月末 | 342,179 | 47,824 | 277,570 | 16,785 |
| 1991 〃 | 341,876 | 54,276 | 272,101 | 15,499 |
| 1996 〃 | 414,735 | 88,030 | 305,239 | 21,466 |
| 1997 〃 | 426,109 | 95,515 | 307,643 | 22,951 |
注 「保留中の者」とは、現在病気等の理由により紹介斡旋の対象とならない者である。
2. 労働の権利を保障するための政策及び措置
(1) 勤労権の保障
憲法第27条1項は、「すべて国民は、勤労の権利を有する。」と定め、国民の労働の権利を認めている。国は、この勤労権を保障するため、労働者の職業の安定のための諸施策を講じる責務を負っている。職業安定行政にかかわる現行の諸法令(法令の詳細については第1回報告参照。)は、勤労権の保障を大きな柱としている。
(2) 職業選択の自由
また、憲法第22条1項は、「何人も公共の福祉に反しない限り、・・・職業選択の自由を有する。」と定めている。この権利を実質的に保障するため、我が国は、公共職業安定所を始めとする職業安定機関を整備し、積極的な求人開拓、求職者に対する情報提供、職業紹介等を実施している。他方、国が就職の機会をあっせんする(職業安定機関が職業指導、職業紹介等を行う)に当たっても、あくまで本人の自由意思を尊重すべきであり、国家権力による労務配置等は許されない。
(3) 我が国の雇用関係諸施策
このように勤労権の保障と職業選択の自由の保障は、職業安定法、雇用保険法等日本の職業安定関係法規を一貫する基本理念であるが、現在ではこれらの理念に立脚するとともに、更に進んで近代福祉国家の基本的な政策理念である「完全雇用の達成」を目標として雇用関係諸施策の総合的展開が図られている。
すなわち、雇用対策法を頂点とする日本の雇用に関する各種の法令及びこれに基づく各種諸施策は、それぞれの対象や採用する手段は異なっていても、憲法の理念の具体化や完全雇用の達成という基本的な政策目標の実現に向かって体系化されている(雇用対策法第1条第1項参照)。具体的に体系づけるとすれば、まず第1に、雇用対策法に基づく雇用安定事業等の失業防止措置があり、第2に、雇用保険等に見られる失業者の賃金喪失をカバーすべき生活保障措置があり、第3に、職業紹介、職業訓練等の失業者の就職促進のための措置があるということになる。
雇用政策の目標である完全雇用の達成とその水準の維持を実現するためには、その時々の経済や雇用の情勢に即応して的確かつ機動的な雇用対策の推進を図ることはもとより、中長期的な労働力需給構造の変化に十分対応できるよう努める必要がある。このような観点から、我が国は、1967年以降雇用対策基本計画を策定(1995年には、第8次計画を策定)し、また、当面する雇用失業情勢に的確に対応し、必要な施策を総合的、計画的に実施するための指針として、毎年度、年次雇用計画を策定することとしており、これらの計画に従って具体的な雇用政策が行われている。
3. 労働生産性の向上のための政策
労働生産性の向上は基本的に労使の自主努力の結果であるが、政府としても、労働生産性の向上に資する政策として、職業能力開発対策、省力化投資の促進等を行なっている。また、直接的には労働生産性の向上を目指したものではないが、労働時間の短縮の促進も、生産性の向上を促す契機となっている。この他、産業構造の転換策(高生産性部門へ産業雇用構造をシフトさせること)、研究開発の促進、なども労働生産性の向上に資するものといえよう。
(1) 職業能力開発対策
労働力の質の向上を図るため、政府は、民間企業における職業能力開発の促進等を図るための援助、公共職業訓練の実施、技能検定の実施等による職業能力開発システムの形成、技術革新や情報化の進展に対応したME(マイクロ・エレクトロニクス)・情報処理関連人材の養成等を図っている。
(2) 省力化投資の促進
省力化投資は、労働力を節約することによって、労働生産性の向上を図るものであるところ、政府はその促進のための援助を実施している。また、労働力不足に対応しつつ民間設備投資の促進を図るため、中小企業を始めとして省力化設備投資を行う事業者に対する融資制度等を設けている。
(3) 労働時間の短縮の促進
労働時間の短縮は、国民がゆとりある生活を営むために我が国全体として取り組むべき国民的課題となっている。政府は労働時間短縮に向け、週40時間労働制の完全定着を基盤として、年次有給休暇の完全取得の促進、長時間残業の削減を重点に労働時間対策の積極的推進に努めている。
4. 職業訓練制度
我が国の職業訓練制度の基本的枠組みは、職業能力開発促進法(1985年6月に「職業訓練法の一部を改正する法律」が公布されたことにより、第1回報告で触れた「職業訓練法」が「職業能力開発促進法」に改称された。)及びこの法律に基づき5年ごとに定められる職業能力開発基本計画によって定められている。国及び都道府県においては、これらに基づき、民間企業における教育訓練の振興を図るとともに、企業内教育訓練の機会が必ずしも十分でない労働者のために、公共職業能力開発施設を整備している。
(1) 民間企業における教育訓練の振興
民間企業における教育訓練の振興については、職業能力開発促進法に基づき、事業内職業能力開発計画の作成及びその円滑な実施を図るための職業能力開発推進者の選任を勧奨するとともに、当該計画に基づき行われる教育訓練の実施に要した経費について助成措置を講じているところである。
(2) 公共職業能力開発施設
公共職業能力開発施設における職業訓練は、習得させようとする知識及び技能の「程度」と「期間」に基づき、短期課程及び普通課程の普通職業訓練、並びに専門短期課程及び専門課程の高度職業訓練に区分されている。国及び都道府県は、職業能力開発基本計画及びこれを踏まえて定められる都道府県職業能力開発計画に基づく施策の推進に努めるとともに、各施設に労使や関係行政機関の代表等から構成される運営協議会を設置して、労働者や産業のニーズに応じた訓練を実施するなどその効果的な運営に努めている。
5. 雇用機会の均等確保
職業安定法第3条は、何人も、人種、国籍、信条、性別、社会的身分、門地等を理由として職業紹介、職業指導等について、差別的取扱いを受けることがない旨規定している。政府は、雇用機会の均等性を実質的に保障するため、以下のような施策を行なっている。
(1) 女性労働者
(a)男女雇用機会均等法及び労働基準法等の一部改正
男女間の雇用機会、労働条件の均等化を促進するため、1986年4月に「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女性労働者の福祉の増進に関する法律(男女雇用機会均等法)」を施行したほか、労働基準法及び船員法等女性保護規定を改正し、時間外労働、休日労働、深夜業、危険有害業務等における女性に対する制限を緩和した。
また、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保を確固たるものとするため、1997年に男女雇用機会均等法等が改正された。
改正男女雇用機会均等法は一部を除き、1999年4月から施行されるが、その主要な改正点は以下のとおりである。
(i)これまで事業主の努力義務となっていた募集・採用、配置・昇進について、女性に対する差別を禁止することとし、また、教育訓練について差別が禁止される対象の範囲を限定しないこととした。
(ii)これまで認められていた女性のみを募集することや女性のみを配置すること等は、女性の職域を固定化したり男女の職務分離をもたらす等の弊害が認められるため、原則として「女性に対する差別」として新たに禁止することとした。
(iii)国は男女労働者の間に事実上生じている差を解消するための取組(ポジティブ・アクション)を講じ、又は講じようとする事業主に対し、相談その他の援助を行うことができる旨の規定が新設された(但し、この規定に基づいて行われるポジティブ・アクションとしての女性のみに対する措置は上記(ii)の「女性に対する差別」には当たらないものとされる)。
(iv)女性労働者に対する差別を禁止する規定に違反している事業主がその是正を求める勧告に従わない場合には、その旨を公表する制度が創設された。
(v)調停制度については、当事者の一方からの申請により調停ができるようになった。
(vi)事業主は、職場におけるセクシュアルハラスメントを防止するため、雇用管理上必要な配慮をしなければならない旨の規定が新設された。
(vii)これまで事業主の努力義務であった妊娠中及び出産後の女性労働者の健康管理に関する措置が事業主に義務づけられた(1998年4月1日より施行)。(本報告書 第10条2母性の保護を参照)
さらに、同時に行われた労働基準法の一部改正により、満18才以上の女性労働者に係る時間外及び休日労働並びに深夜業(午後10時から午前5時までの労働)の規制を解消することとし、改正男女雇用機会均等法と併せて1999年4月から施行される。
(b)雇用管理改善に関する援助業務
募集・採用、配置・昇進などの女性の雇用管理の問題については、各都道府県に労働省の出先機関である女性少年室があり、男女雇用機会均等法のより一層の遵守とその趣旨に沿った雇用管理の実現、改正男女雇用機会均等法の周知を図るため、啓発や相談、制度改善指導、個別紛争解決のための援助業務を行っている。具体的には女性少年室には、女性労働者、事業主等から、年間2万件にのぼる相談が寄せられており、男女雇用機会均等法上問題がある企業に対しては厳正な指導を行っている。また、一方では、定期的に企業の女性の雇用管理に関する事情聴取を行い、問題を把握した場合には、厳しく是正を求めるなど積極的な指導にも努めている。さらに、男女雇用機会均等法の趣旨に沿った雇用管理の改善を促進するため、企業における自主的取組を促進している。
(c)男女雇用機会均等法の適用除外
なお、男女雇用機会均等法に基づき、募集・採用、配置・昇進に関し、労働大臣が具体的に事業主が講ずるように努めるべき措置を定めた指針について、以下のような適用除外が認められている。
(i) 芸術・芸能の分野における表現の真実性等の要請から男性に従事させることが必要な職業(俳優、男声歌手等)に従事する労働者に係る場合
(ii) 守衛、警備員等防犯上の要請から男性に従事させることが必要な職業に従事する労働者に係る場合
(iii) 業務の性質上男性に従事させることについて上記(i)及び(ii)の職業と同程度の必要性があると認められるその他の職業(宗教上、風紀上、スポーツにおける競技上の必要性等から男性でなければならないもの)に従事する労働者に係る場合
(iv) 労働基準法上の規定(女性の時間外・休日労働、深夜業の規制等)により女性の労働が制限・禁止されていることから、通常の業務を遂行するためには、女性に対し男性と均等な機会を与え又は均等な取扱いをすることが困難と認められる場合(なお、女性時間外・休日労働、深夜業の規制は1999年3月限り解消される。)
(v) 風俗、風習等の相違により女性が能力を発揮し難い海外での勤務が必要な場合等
なお、改正男女雇用機会均等法に基づき、新たな指針が策定され、1999年4月から適用される予定である。
(2) アイヌの人々、同和関係者、在日韓国・朝鮮人
公共機関が行う職業紹介、職業指導等において、アイヌの人々、同和関係者、在日韓国・朝鮮人に対し、差別的取扱いが行われることはないが、これらの者の有する歴史的経緯を考慮すれば、より安定した生活を営むことができるよう特に配慮する必要があることから、更に実質的な権利確保のため、政府としては、事業主がかかる人々に対する正しい理解と認識を深め、求職者の適性と能力に基づく公正な採用選考を行うよう、指導・啓発を行ない、もって、これらの者の就職の機会均等が確保されるように努めている。
なお、人種や国籍、社会的身分等を理由として、就職の機会均等が確保されない事例が見受けられる場合、人権擁護機関において、個別に関係者に対して職業安定法3条等の趣旨(上記5.柱書参照)の理解を求める啓発を行うこととしている。
(3) 来日外国人
我が国において就労することを目的として来日する外国人のうち、専門的な技術、技能又は知識を必要とする業務に従事しようとする人及び一般の日本人では代替することのできない外国の文化に基盤を有する思考又は感受性を必要とする業務に従事しようとする人の受入れについては、適切な入国・在留管理が行われる限り、国内の雇用への悪影響その他の社会問題を生じるおそれは少なく、我が国の経済及び社会の発展に資するところが大であると考えられる。
我が国は、このような観点から、専門的技術等を必要とする業務に従事する労働者については、可能な限り受け入れる方向で対処することとしており、我が国に入国、在留を認められた外国人については、在留資格の範囲内で全国の公共職業安定所において、我が国民と同様に職業紹介を行い、雇用機会の確保に努めている。
第7条
1.賃金
(1) 賃金の決定方法
我が国では、憲法第28条により、勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利が保障されているところ、賃金は、労使の話し合い又は団体交渉によって決定されるのが原則である。憲法の規定を受けて、労働組合法、国営企業労働関係法等が、賃金をはじめとする労働条件について労働協約を締結する権利を認めている。
ただし、国家公務員は、その地位の特殊性と職務の公共性から、労働基本権が制約されており、国営企業職員を除く一般職の国家公務員は、給与等の勤務条件について労働協約を締結することができない。このような一般職の国家公務員の給与は、法律によって定められ、その改定は、社会一般の情勢に適応するよう、独立した第三者機関である人事院の国会及び内閣への勧告に基づき、法改正によって行われる(国家公務員法第28条、一般職の職員の給与に関する法律第2条)。例えば、1997年4月において、非現業の一般職国家公務員のうち、行政職職員(平均年齢39.8歳)の平均給与月額は35万6,424円であり、他方行政職に類似すると認められる民間企業従業者の平均給与月額は36万56円であった。このため、人事院は、国家公務員給与と民間賃金との較差を解消することを基本として、国家公務員給与を改定するよう勧告を行った。これを受けて、内閣は、労働基本権の制約の代償措置である人事院勧告制度を尊重するとの基本姿勢の下、国政全般との関連等を考慮しつつ、国家公務員給与の取扱いを検討した結果、指定職俸給表の適用を受ける職員(以下、指定職職員)の給与を除き、一般職の国家公務員の給与について人事院勧告どおり改定を行う方針を決定し、「一般職の職員の給与に関する法律及び一般職の任期付研究員の採用、給与及び勤務時間の特例に関する法律の一部を改正する法律案」を国会に提出した。同法案は、政府原案どおり成立し、1997年4月に遡って、指定職職員を除く一般職国家公務員の給与改定が実施された。また、指定職職員については1998年4月1日より給与改定が実施された。
地方公務員(企業職員及び単純労務職員を除く)の給与も、ほぼこれに対応する 手続によって定められる(地方公務員法第24条、第26条)。
(2) 最低賃金
(a) 労働者の生活の安定、労働力の質的向上等を目的として、最低賃金法により最低賃金が保障されている。最低賃金は、労働大臣又は都道府県労働基準局長が、一定の産業、職業又は地域について、賃金の低廉な労働者の労働条件の改善を図るため必要があると認めるときに、公益、労働者及び使用者の各側を代表する同数の委員で構成される中央又は都道府県最低賃金審議会に調査審議を求め(諮問)、その意見(答申)を尊重して決定する。最低賃金審議会の調査審議に基づく最低賃金には、地域別最低賃金(産業や職種に関りなく、都道府県のすべての労働者に適用されるもの)と産業別最低賃金(特定の産業の労働者に適用されるもの)がある。この他に、労働協約に基づいて決定される地域的最低賃金がある。
1997年3月31日現在決定されている最低賃金を決定方式別に示すと、第6表のとおりである。
1997.3.31現在)
| 決定方式 | 決定件数 | 適用労働者数 |
|---|---|---|
| 調査審議に基づく最低賃金 | 301 | 47,863,100 |
| うち地域別最低賃金 | 47 | 43,088,600 |
| うち産業別最低賃金 | 254 | 4,774,500 |
| うち労働大臣決定分 | 3 | 4,300 |
| うち労働基準局長決定分 | 251 | 4,770,200 |
| 労働協約に基づく地域的最低賃金 | 2 | 600 |
| 合計 | 303 | 47,863,700 |
注 2以上の最低賃金が適用される労働者については、
金額の高い最低賃金の適用労働者として計上。
(b) 最低賃金は、一般職の公務員等、他の法律等で規定されている者を除き、常用、臨時、パートタイム等すべての労働者に適用される。ただし、軽易な業務に従事する者等については、都道府県労働基準局長の許可を条件に、個別の適用除外が認められる。
(c) 最低賃金の水準は、最低賃金審議会における調査審議を経た結論を尊重して労働大臣又は都道府県労働基準局長が決定する。最低賃金法では、労働者の生計費、類似労働者の賃金及び通常の事業の賃金支払能力の3要素を総合的に勘案して定めることとされている。最低賃金審議会の審議に当たっては、対象となる労働者の賃金実態についての調査結果等を検討するとともに、最低賃金審議会の委員自らが事業場等に赴き、作業実態、賃金実態等を実地に視察した上で、関係労働者や使用者からも意見を聞くなどして金額の検討が進められる。その上で、地域の生計費、学卒初任給、労使間で協定した企業内の最低賃金、賃金階級別の労働者分布、あるいは決定しようとする金額未満の賃金を支給されている労働者数から見た影響の度合等を考慮した上で結論が出される。
我が国における常用労働者一人平均の月額賃金は第7表のとおりであり、地域別・産業別最低賃金の全国平均日額は第8表のとおりである。
(単位:円)
| 現金給与総額 | 所定内給与 | 超過労働給与 | 特別給与 | |
|---|---|---|---|---|
| 1985 | 317,091 | 214,255 | 22,332 | 80,504 |
| 1990 | 370,169 | 244,373 | 27,123 | 98,673 |
| 1995 | 408,864 | 284,040 | 23,983 | 100,841 |
| 1996 | 413,096 | 286,853 | 25,181 | 161,062 |
注1 労働省「毎月勤労統計調査」による。
注2 事業所規模30人以上を対象としている。
| 地域別最低賃金 | 産業別最低賃金 | |
|---|---|---|
| 1985 | 3,478 | 3,834 |
| 1990 | 4,117 | 4,377 |
| 1995 | 4,866 | 5,521 |
| 1996 | 4,969 | 5,650 |
注 適用労働者数による加重平均額である。
(d) 最低賃金を決定したときは、官報に掲載して公示するほか、労働基準監督機関において、関係労使に対しリーフレットを配布し、あるいは説明会を開催するなどの方法により周知徹底に努めるとともに、労働基準監督機関による監督指導を全国的に実施し、違反事業場に対しては、その是正を求めているところである。
(e) 使用者は労働者に対し、最低賃金以上の賃金を支払う義務を有し、これに違反した者は、最低賃金法により処罰される。また、最低賃金に達しない賃金を労使間で合意しても、法律上無効とされ、最低賃金額と同額の定めをしたものとみなされる(最低賃金法第5条)。
最低賃金法違反の罪については、労働基準監督機関に配置された労働基準監督官が、刑事訴訟法上の司法警察員の職務(捜査)を行う。
(f)なお、我が国は、1971年4月、ILO第26号条約(最低賃金決定制度の創設に関する条約)及び第131号条約(開発途上にある国を特に考慮した最低賃金の決定に関する条約)を批准しており、これに適合する法制度を確保している。ILO第26号条約につき1976年に、ILO第131号条約につき1997年に、最新の報告書をILOに提出した。
2.均等待遇
労働基準法は、第3条において「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。」と規定している。また、我が国は、1967年7月、ILO第100号条約(同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約)を批准しており、これに適合するよう法制度の確保を図っている。
(1) 女性労働者の待遇
男女雇用機会均等法の施行後10年を経過し、この間企業における雇用管理の改善が進み、法の趣旨は着実に浸透してきている。1995年に行われた「女子雇用管理基本調査」によれば、部長相当職の女性のいる企業は14.3パーセント、課長相当職は30.6パーセント、係長相当職は72.1パーセントである。また、男女別定年制及び結婚・妊娠・出産退職制については、制度上は解消している。国家公務員に関しても、人事院規則の改正により国家公務員採用試験における女性の受験資格の制限を撤廃しており、現在、一般職国家公務員の採用において、女性に対する制限、差別はない。
(2) 労働組合法第7条において、労働組合の組合員であること、労働組合に加入し若しくはこれを結成しようとしたこと又は労働組合の正当な行為をしたことの故をもって、その労働者に対して不利益な取扱いをすることを不当労働行為として禁じている。
(3) 公共・民間の両セクターの相互に似通った職務の報酬の比較については、上記1.(1)を参照されたい。
3.安全かつ健康な作業状態
(1) 主要法令等
(a) 労働者の職場における安全及び衛生を確保するため、「労働安全衛生法」、「じん肺法」等の法律及び「労働安全衛生規則」、「ボイラー及び圧力容器安全規則」、「有機溶剤中毒予防規則」等の関係規則を制定、施行している。
(b) 船員法の適用を受ける船員や鉱山保安法第2条2項の規定による鉱山における労働者にかかる保安については、労働安全衛生法の適用が除外されているが、それぞれ、船員法及びその関係規則、鉱山保安法及びその関係規則により、労働衛生・安全が確保されている。
(c) 我が国は、1953年10月、ILO第81号条約(工業及び商業における労働監督に関する条約)を批准しており、これに基づく労働基準監督機関の活動を確保している。この条約の実施状況については、1997年ILOに提出した報告書を参照されたい。
(2) 労働災害
(a) 我が国の労働災害(業務災害、通勤災害、業務上疾病)による死傷者数は、1961年をピークとしてその後減少を続けている(但し1975〜77年は一時的に増加した。)ところ、第1回報告以降も同様の傾向にある(第9表参照)。
| 死傷者数 | 死亡者数 | 度数率 | 強度率 | |
|---|---|---|---|---|
| 1983 | 930,000 | 2,588 | 3.03 | 0.30 |
| 1984 | 921,000 | 2,635 | 2.77 | 0.34 |
| 1985 | 902,000 | 2,572 | 2.52 | 0.29 |
| 1986 | 859,000 | 2,318 | 2.37 | 0.22 |
| 1987 | 847,000 | 2,342 | 2.22 | 0.20 |
| 1988 | 832,000 | 2,549 | 2.09 | 0.20 |
| 1989 | 818,000 | 2,419 | 2.05 | 0.20 |
| 1990 | 798,000 | 2,550 | 1.95 | 0.18 |
| 1991 | 765,000 | 2,489 | 1.92 | 0.17 |
| 1992 | 726,000 | 2,354 | 2.13 | 0.15 |
| 1993 | 696,000 | 2,245 | 2.07 | 0.18 |
| 1994 | 675,000 | 2,301 | 2.00 | 0.20 |
| 1995 | 645,000 | 2,348 | 1.88 | 0.19 |
| 1996 | 621,000 | 2,363 | 1.89 | 0.16 |
注1 死傷者数は,労災保険の新規受給者数により推定。
注2 度数率とは,100万延べ労働時間当たりの死傷者数である。
注2 強度率とは,1000延べ労働時間当たりの労働損失日数である
(b) 但し、労働災害の多くは、中小規模事業場において発生しており、また、工場、建設現場等における労働災害が依然として多い状況に対応するため、1992年労働安全衛生法を改正し、中小規模建設現場における安全衛生管理体制の整備を図るとともに、建設工事の計画段階での安全確保対策の充実を図った。
(3) 職業性疾病
職業性疾病の発生件数は、1980年代前半には年間1万5,000件〜1万8,000件程度であったものが、1996年においては9,250件と減少している。
1996年に発生した職業性疾病についてみると、負傷に起因する疾病が70パーセント、じん肺症及びじん肺合併症が約16パーセントを占めている。
労働安全衛生法に基づく有害業務従事者を対象とした特殊健康診断にかかる有所見者率は、1996年には、3.1パーセントとなっている。
4.休息、余暇、労働時間の制限及び有給休暇
公正かつ良好な労働条件の一部として、休憩、休日、労働時間の制限及び有給休暇については、「労働基準法」等においてその最低基準を定め、労働基準監督機関によってその遵守の確保を図っている。
(1) 休日
労働基準法においては、労働者は毎週少なくとも1回又は4週間を通じ4日以上の休日が与えられなければならないとされている(同法第35条)
(2) 所定労働時間と残業時間
1987年及び1993年の労働基準法等の改正により、それまで1週48時間とされていた労働時間の最高限度が、段階的に1週40時間へと短縮された。この法定労働時間を超えて労働させることができるのは、非常災害の場合(第33条)、又は、労使が書面で時間外労働に関して協定を行い、これを行政官庁に届け出た場合(第36条)に限られる。
(3) 有給休暇
1993年に労働基準法第39条が改正され、従来1年とされていた年次有給休暇の初年度継続勤務要件が、6か月に短縮された。
(4) 公の休日についての報酬
前回報告したとおり、我が国は、「公の休日についての報酬」に拘束されない権利を留保している。これは、我が国では、現実に労働しない国民の祝日についても賃金を支払う賃金体系を採っている企業の割合が少なく、また、国民の祝日に賃金を支払うという社会的合意が無いことなどから、国民の祝日について報酬を支払うか否かは、労使間の合意にゆだねることが適当と考えられるためである。
(5) 農業及び水産等の事業に従事する労働者に対する制限
労働基準法において、その性質又は態様が法定労働時間や週休制を適用するに適しない事業又は業務に従事する労働者(農業及び水産等の事業に従事する労働者)については、労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用しないこととされている(第41条)。
(6) 船員に対する制限
船員の労働時間等については、その職務の特殊性等から、一般の労働者とは別の「船員法」等により規制されている(第116条)。
5.休息、余暇、労働時間の合理的制限、定期的な有給休暇及び公の休日に係る 報酬に関する我が国の法律及び慣行につき権利の実現の程度に影響を与えてい る要因及び障害
(1) 一般に、中小企業においては、経営基盤の脆弱さ、代替要員の確保の難しさ等から、大企業に比べ労働時間の短縮が困難となっている。
また、年次有給休暇については、労働者が病気等有事への備えを重視する傾向があること等の要因から、必ずしも完全取得されない場合が多い。
(2) 管理監督者等の労働時間、休憩及び休日については、労働基準法の規定は適用されない。また、これについて特段の措置はとられていない。
第8条
第1回報告からの変更点は、以下のとおり。
(1)労働組合を結成し又はこれに加入する権利の保障
我が国に存在する産業別の労働組合の数及び組合員数は、第10表のとおりである。
(2)日本専売公社の民営化
日本専売公社を民営化し、日本たばこ産業株式会社に改組するとともに、公共企業体等労働関係法の適用範囲から日本専売公社を除外し、改組後の日本たばこ産業株式会社の従業員に一般の民間労働者と同様に労働組合法を完全に適用すること等を内容とする法律が1985年4月1日から施行された。
(3)日本電信電話公社の民営化
日本電信電話公社を民営化し、日本電信電話株式会社に改組するとともに、公共企業体等労働関係法の適用範囲から日本電信電話公社を除外し、改組後の日本電信電話株式会社の従業員に一般の民間労働者と同様に労働組合法を完全に適用すること等を内容とする法律が1985年4月1日から施行された。
(4)日本国有鉄道の民営化
日本国有鉄道の民営化に伴い、公共企業体等労働関係法の適用対象から日本国有鉄道を除外すること、公共企業体に該当するものがなくなるため「公共企業体等労働関係法」の名称を「国営企業労働関係法」と変更すること等を内容とする法律が1987年4月1日から施行された。この結果、民営化後の旅客鉄道株式会社等の職員に、一般の民間労働者と同様に労働組合法が完全に適用されることとなった。
第9条
我が国は、医療、傷病給付、出産給付、老齢年金給付、障害給付、遺族給付、家族給付、業務災害給付、失業給付のすべての分野において社会保障を実施している。我が国は、1974年6月にILO第121号条約(業務災害の場合における給付に関する条約)を批准し、また、1976年2月にILO第102号条約(社会保障の最低基準に関する条約)を批准(傷病給付、失業給付、老齢給付、業務災害給付について義務受諾)している。両条約の実施状況については、第102号条約につき1996年、第121号条約につき1993年に報告書を提出しているので参照されたい。
1.医療、傷病給付、出産給付
医療、傷病給付、出産給付は、医療保険制度によってカバーされているが、その他に、国及び地方自治体の一般財源による公的扶助制度(生活保護)がある。
(1) 医療保険制度の内容
現行の医療保険制度は、医療保険が雇用部門や地域を単位として形成されてきたことを反映して、6つの異なる制度から成っている。すなわち、被用者及びその家族のための被用者保険(健康保険、船員保険並びに国家公務員、地方公務員及び私立学校教職員のための3つの共済制度)とその他の人々のための地域保険(国民健康保険)である。地域保険は、被用者保険のいずれによってもカバーされない人々を対象とするものであり、市町村、または医師や大工など同業に従事する者のグループによって構成される国民健康保険組合によって運営される。以下、人口の大部分をカバーしている健康保険と国民健康保険につき、制度の概要を記述する(基本的には第1回報告時と同様であるが、その後の法改正により、自己負担割合、給付期間等に変更がある。)。
(a) 医療
両制度の下で給付される医療には、治療、外科手術、病院及び診療所への入院、看護、歯科治療、薬剤等が含まれる。医療費のうち、健康保険制度においては2割(被用者の家族の場合は3割(入院の場合は2割))、国民健康保険制度においては3割が患者の自己負担となる。ただし、患者の一月の自己負担額が6万3千6百円を超える場合には、その超える額を支給すること等を内容とする高額療養費制度が設けられている。
(b) 傷病給付
傷病により就労不能となった場合、健康保険においては、4日目から18ヶ月目まで、標準報酬(被保険者の毎月の基礎的賃金あるいは俸給に基づき定められる)の60パーセントが傷病手当金として給付される。国民健康保険においては、これらの給付は、法律上任意給付となっており、国民健康保険組合の多くは同様の給付を行っている。
(c) 出産給付
出産の場合にも、健康保険においては、分娩の日以前42日から分娩の日後56日までの範囲内で、標準報酬の60パーセントの出産手当金が支給される他、出産育児一時金(配偶者については、配偶者出産育児一時金)として、定額30万円が支給される。国民健康保険では、給付内容は、各市町村の条例等によるが、殆どの市町村において出産育児一時金として30万円を支給している。
(2) 医療保険制度の財政構造
(a) 健康保険
個人の保険料は、その者の標準報酬月額に保険料率をかけた額であり、事業主と被保険者で折半負担されるのが原則である。1997年3月末現在における政府管掌健康保険の保険料率は8.2パーセントであり、1997年3月末現在における組合管掌健康保険制度の平均保険料率は8.394パーセントであった。
これらの制度に要する事務費は、政府が負担している。政府管掌健康保険においては、さらに、療養の給付、家族療養費、傷病手当金、出産手当金及び高額療養費(家族のための同様の給付を含む)等の保険給付に要する費用の13パーセントが国庫負担でまかなわれている。
(b) 国民健康保険
保険料は、被保険者が属する世帯の世帯主が支払う。その額は、原則として、所得割+資産割+被保険者均等割(世帯の員数に応じて課される)+世帯別平等割(一律)によって算出されるが、保険料は1世帯当たり年間53万円を超えることはできない。給付費等の50パーセントが国庫負担である他、地方自治体の財政を援助するための補助金など幾つかの補助金制度がある。
(c) 老人保健
老人保健法は、高齢化の進展に伴い、国民の自助と連帯の精神に基づき、国民の老後における健康の保持と適切な医療の確保を図るため、疾病の予防から治療、機能訓練にいたる保健事業を総合的に行うことを目的としている。これらの保健事業は、地域住民に最も身近な市町村が一体的に実施しているが、その費用は、患者の一部負担金、公費負担及び各医療保険の保険者からの拠出金により賄われ、国民全体で公平に負担することとしている。
その一方で、急速な高齢化の進展等に伴う老人医療費の増大と経済成長の低迷が続く中、若年世代の負担は過重なものとなってきており、老人の心身の特性に応じた適切な保健医療サービスの提供を確保しつつ、世代間負担の公平化、老人医療費の適正化・効率化等の観点から、必要な制度の見直しに取り組んでいるところである。
2.老齢給付、障害給付、遺族給付
老齢給付、障害給付、遺族給付は、公的年金制度によりカバーされている。公的年金制度は、国内に適法に居住するすべての者に適用されるものである(国籍要件は1982年1月に撤廃された。)。この他に、職域、地域等によっては、企業年金・個人年金等も行われている。公的年金が、国民の老後生活の主柱として老後生活の基本的部分を確実に保障することを目的とするものであるのに対し、これらは、老後生活をより豊かに生きるための自助努力の手段として行われているものであり、相互に補完性を有する。
公的年金制度には、全対象者共通の基礎年金を支給する国民年金制度と、これに上乗せして報酬比例の年金を支給する被用者年金制度(一般の被用者を対象とする厚生年金保険制度及び幾つかの職域−国家公務員、地方公務員、私立学校教職員、農林漁業団体職員等−のための共済年金制度)がある。以下、すべての者に適用される国民年金及び被用者の約85パーセントが加入している厚生年金制度について、制度の概要を記述する。基本的には第1回報告時と同様であるが、1985年、1989年及び1994年の年金制度改正により、各制度を通じた給付と負担の公平化及び婦人の年金権の確立(すべての婦人に自己名義の基礎年金を保障)等の改善が行われた。
(1) 国民年金制度
(a) 被保険者は、国内に居住する20歳以上60歳未満のすべての者である。被用者年金制度の加入者の配偶者(専業主婦等)も独立して被保険者となる。
(b) 給付には、i)加入期間25年を満たした65歳以上の者に支給される老齢基礎年金(1998年4月からの月額66,625円)、ii) 障害の度合に応じて支給される障害基礎年金(1998年4月からの月額1級83,283円、2級66,625円)、iii)被保険者または老齢基礎年金の資格期間を満たした者が死亡した場合にその遺族に支給される遺族基礎年金(1998年4月からの月額66,625円+子の人数に応じ加算)がある。
(c) 財源は、保険料(1998年度の月額13,300円)、被用者年金制度からの拠出金及び国庫負担金(原則として給付費の3分の1)である。
(2) 厚生年金保険制度
(a) 被保険者は、民間被用者である。
(b) 給付には、i)加入期間25年を満たした60歳以上の者(女性は59歳以上の者)に支給される老齢厚生年金(支給額は、年齢、平均報酬月額、加入月数並びに配偶者及び子の有無によって定まる。)、ii) 加入期間中の傷病による障害に対して支給される障害厚生年金(支給額は、平均標準報酬月額、被保険者月数及び障害の度合によって定まるが、月額49,967円の最低保障がある。)、iii)被保険者または老齢基礎年金の資格期間を満たした者等が死亡した場合にその遺族に支給される遺族厚生年金(支給額は、平均標準報酬月額及び被保険者月数によって定まる。)がある。
(c) 財源は、労使折半の保険料である。保険料率は17.35パーセント(1996年10月より)。
3.家族給付
家族の生活の安定と児童の健全な育成を促進することを目的として、1972年1月、児童手当法に基づき児童手当制度が創設された。手当の受給者数は、1997年2月現在、200万1,864人である。制度の概要は、第1回報告で述べたとおりであるが、その後の改正で以下の点に変更がある(費用負担については従前どおり)。
(a) 日本に住所を有する者(国籍要件は1982年1月に撤廃された。)で、支給対象児童を監護し、かつ、その生計を維持する者に対して支給される。ただし、前年の所得が政令で定める額(扶養親族が3人の場合、所得239.6万円)以上の者に対しては支給されない。
支給対象児童の範囲については、従来「義務教育終了前の児童(16歳未満)を含む3人以上の18歳未満の児童」とされていたが、1991年の児童手当法の改正により、「3歳未満の児童」に変更された。
(b) 支給額は、第1子、第2子が各5,000円、第3子以降は10,000円である。
(c) また、所得制限により児童手当を受けられない被用者又は公務員であって、その者の前年の所得が政令で定める額(扶養親族が3人の場合、所得417.8万円)未満の者に対し、全額事業主(公務員においては所属庁)負担による特例給付(児童手当と同額)が支給される。
4.労働災害給付
労働者の業務上災害(通勤災害を含む)に対する保険給付は、労働者災害補償保険法により行われている。
(1) 労働者災害補償保険は、国籍を問わず、すべての労働者(事業主に雇用され、かつ、賃金の支払いを受ける者)を対象としており、労働者を使用するすべての事業に適用される。1997年3月現在の適用事業所数は約268万事業場、適用労働者数は約4,790万人である。
(2) 業務上の事由又は通勤により、労働者が負傷、疾病、障害を負い、又は死亡した場合、労働者又はその遺族に対し、以下のような保険給付が行われる。
(a) 療養(補償)給付(療養を要する場合)
(b) 休業(補償)給付(療養のため休業し賃金を受けない場合(休業する日の4日目から支給))
(c) 傷病(補償)年金(療養開始後1年6ヶ月を経過しても傷病が治ゆせず、その障害の程度が傷病等級に該当する場合)
(d) 障害(補償)給付(傷病が治ゆした後、身体に一定の障害が残った場合)
(e) 遺族(補償)給付及び葬祭料(葬祭給付)(死亡した場合)
(f) 介護(補償)給付(障害(補償)年金又は傷病(補償)年金を受けており、常時又は随時介護が必要な状態で、現に介護を受けている場合)
さらに、これらの保険給付に加えて労働福祉事業としての特別支給金が支給される。これら保険給付の水準は、ILO第121号勧告の水準に達している。
(3) 労働者災害補償保険は政府が管掌する保険であり、これに要する費用は原則として、事業主の負担する保険料によって賄われている。保険料は、事業主の支払う賃金総額に保険料率を乗じて算出される。保険料率は、過去の災害率その他の要因を考慮して業種別に定められており、現在は、最低が0.6パーセント、最高が13.4パーセントである。
5.失業等給付
失業した、及び雇用の継続が困難となる事由が生じた労働者に対しては、労働者の生活、雇用の安定及び就職の促進のため、雇用保険法に基づき、失業等給付が支給される
(1) 雇用保険は、労働者を使用するすべての事業に適用されており、そこに雇用される労働者は、一定の者(船員保険の被保険者及び65歳に達した日以降に雇用される者等)を除き、被保険者とされる。1996年3月末現在の雇用保険の適用事業数は約196万ヶ所、被保険者数は約3,377万人である。
(2) 失業等給付には、失業中の労働者の生活の安定を図ることを主たる目的とする求職者給付と、失業中の労働者の再就職の促進を図ることを主たる目的とする就職促進給付及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行うことにより、雇用の安定を図ることを目的とした雇用継続給付の3種類がある。求職者給付のうち、一般の被保険者に対して支給される基本手当の給付水準は、失業前の賃金日額と年齢及び被保険者であった期間によって定まるところ、1997年の日額の最低は2,580円、最高は10,790円であり、給付日数の最低は90日、最高は300日である。
(3) 失業等給付の財源は、労使が負担する雇用保険料(賃金総額の0.8パーセントで労使が折半)と国庫負担により賄われている。
6.社会保障関係費の推移
近年、人口の高齢化等に伴い、社会保障関係費が国家予算や国民経済に占める割合は増加の傾向にある(第11表参照)。
(単位:億円)
| GNP(名目) | 一般歳出 | 社会保障関係費 | 割合 | |
|---|---|---|---|---|
| 1980年度 | 2,453,600 | 307,332 | 82,124 | 26.7% |
| 1985年度 | 3,255,011 | 325,854 | 95,736 | 29.4% |
| 1990年度 | 4,415,891 | 353,731 | 116,154 | 32.8% |
| 1995年度 | 4,927,803 | 421,417 | 139,244 | 33.0% |
第10条
1.家族の保護
(1) 家族及び扶養児童の概念
(a) 家族
我が国の民事基本法である民法は、特に「家族」の概念及び範囲についての定義規定を設けず、夫婦及び親子並びに夫又は妻と一定の血族関係にある者の相互の間における法律関係を個別に規定することを通じて、間接的に「家族」の概念及び範囲を定める方法を採用している。
上記の関係にある者の法律関係のうち、特に個人の生計の維持又は扶養(扶助を含む。)に関する規制の骨子は、次のとおりである。
(i) 夫婦については、同居・協力・扶助の義務を負う(第752条)とされているが、この義務は、相手の生活を自己の生活と同一の内容及び程度のものとして保障するという高度の義務と解されている。また、日常の家事に関して生じた債務を夫婦が連帯して負担することとされ(第761条)、夫婦の一方が禁治産宣告を受けた場合は他方がその後見人となる(第840条)などの権利義務が定められているほか、相続においても配偶者は常に相続人となることとされている(第890条)。
(ii) 親子については、子が未成年である間は、両親が親権を行使して(第818条)、監護教育を行い(第820条)、その居所を定める(第821条)と共に、配偶者に対すると同様の高度の扶養義務を負うと解されている。更に、子は、親との関係で第1順位の相続権を与えられている。
(iii) これに対し、兄弟姉妹及び一定範囲の血族又は姻族は、扶養を要する者に配偶者又は親がないか、あってもその者の資力では十分な扶養がなされない時に扶養の義務を負うのみであるなど、その義務の程度は比較的軽いものとなっている。
以上の規制から、民法は、夫婦及びその間の未成年の子から成る集団を、生活共同体という意味における「家族」の基本的な単位としているものと解される。
(b) 児童
民法は、満20年をもって成年とすると定め(第3条)、未成年者の私法上の行為能力を制限している(第4条)ほか、未成年の子は父母の親権に服する旨規定している(第818条)。親権者は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負っている(第820条)。なお、20歳未満の者であっても婚姻をしたときは、私法上成年に達したものとみなされる(第753条)。
また、児童の健全な育成を目的とする児童福祉法において「児童」とは、「満18歳に満たない者」と定義されている。
(2) 家族に対する援助
(a) 児童の養育にかかる経済的援助
児童を養育する父母等に対する経済的援助として、児童手当法に基づく児童手当、児童扶養手当法に基づく児童扶養手当、特別児童扶養手当等の支給に関する法律に基づく特別児童扶養手当がある。
(i) 児童手当については、本報告書中第9条3を参照。
(ii) 児童扶養手当は、父と生計を同じくしていない児童を監護する母等に対し支給されるものである。支給月額は児童一人の場合、41,390円(1997年4月現在、児童の数に応じ加算あり)、受給者数 は62万4,101人(1997年3月末現在)である。
(iii) 特別児童扶養手当は、精神又は身体に障害を有する児童を監護養育する父母等に対して支給されるものである。支給月額は1級の障害を有する児童一人につき50,350円(1997年4月現在)、受給者数は13万人(1997年3月末現在)である。
(b) 保育サービス
保護者の就労、疾病等のため保育に欠ける乳幼児については、児童福祉法に基づき保育サービスが行われている。1997年4月現在、全国で約2万2,400ヶ所の保育所において、約165万人の乳幼児(全乳幼児の約2割に相当)が保育されている。保育所における乳幼児の保育に要する費用は、国及び地方公共団体が負担する公費と、保護者の負担能力に応じて徴収される保育料で賄われている。また、国は、保育所の施設整備費の補助等の諸施策を講じている。
(c) 育児休業
1992年4月より施行されていた「育児休業等に関する法律」は、1995年6月に「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下「育児・介護休業法」という。)へと改正され、同年10月より一部を除き施行されている。
育児・介護休業法では、1歳に満たない子を養育する労働者は事業主に申し出ることにより育児休業を取得することができ、事業主は要件を満たした労働者の申出を拒否することができないと規定している。
また、事業主は、休業を取得せずに1歳に満たない子を養育する労働者について、勤務時間の短縮等就労しつつ子を養育することを容易にするための措置を講じなければならない(第19条第1項)とされている。
さらに、事業主は、1歳から小学校の始期に達するまでの子を養育する労働者について、育児休業制度又は勤務時間の短縮その他の就業しつつ子を養育することを容易にする措置に準じて、必要な措置を講ずるよう努力しなければならない(第20条第1項)旨も規定されている。
(d) 介護休業
育児・介護休業法により、1995年10月から事業主はできる限り早く法に沿った介護休業制度及び家族の介護のための勤務時間の短縮等の措置を設けるよう努力することが求められており、1999年4月から介護休業制度は一律に事業主の義務となる。
同法では、要介護状態(2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態)にある対象家族(配偶者・父母及び子・配偶者の父母・同居し、かつ扶養している祖父母、兄弟姉妹及び孫)を介護する労働者が、事業主に申し出ることにより連続する3月の期間を限度として介護休業を取得することができ、事業主は要件を満たした労働者の申出を拒否することはできないと規定している。
また、事業主は、休業を取得せずに要介護状態にある対象家族を介護する労働者について、就業しつつ対象家族の介護を行うことを容易にする措置として、連続する3月以上の期間における勤務時間の短縮等の措置を講じなければならない(第19条第2項)とされている。
さらに、事業主は、家族を介護する労働者について、介護休業制度又は勤務時間の短縮等の措置に準じて、その介護を必要とする期間、回数等に配慮した必要な措置を講ずるよう努力しなければならない(第20条第2項)旨も規定されている。
(e) 深夜業を行う労働者への配慮
1997年に行われた労働基準法の一部改正によって、女性の時間外及び休日労働並びに深夜業(午後10時から午前5時までの間の労働)の規制が解消されることとなった(本報告書第6条5雇用機会の均等(1)女性労働者の項参照)ことと併せて、育児・介護休業法の一部改正が行われ、育児又は家族の介護を行う一定の労働者の深夜業(午後10時から午前5時までの間の労働)の制限の制度が創設された。この改正は1999年4月より施行される。
(3) 婚姻の自由
(1) (a)で述べたとおり、我が国における家族の基本的な単位は、夫婦及びその間の未成年から成る集団であるので、婚姻は、我が国における家族の核を成す制度である。憲法第24条第1項は、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」と規定している。民法上、成人の男女の婚姻は、当事者双方が一定の方式の届出を行うことによって成立するものとされ、重婚の禁止、近親婚の禁止等の合理的な理由に基づく規制が設けられている以外には、婚姻の自由に対する法律上の制限はない(未成年者であっても、18歳以上の男性及び16歳以上の女性は、父母の同意を得て、成人と同様に婚姻をすることができる。)。
ただし、いまだ一部に、婚姻に際して家柄や社会的身分などを問題とするような前近代的な態度、習慣が残っていることは否めない。我が国の人権擁護機関は、このような態度や慣習を解消するため、各種の啓発活動を行い、憲法第24条の趣旨が国民の間により一層浸透するよう努めている。
2.母性の保護
(1) 妊産婦・乳幼児の健康確保
母子保健法に基づき、妊産婦・乳幼児に対する健康診査、妊産婦・乳幼児の保護者に対する保健指導、妊娠又は出産に支障を及ぼすおそれがある疾病を有する妊産婦に対する援助、病院等に入院することを要する未熟児に対する医療給付、母子保健に関する各種の相談事業、妊産婦や乳幼児の保健指導を行うための母子健康センターの設置等を行っている。
また、児童福祉法に基づき、身体に障害のある児童に対する育成医療の給付及び補装具の交付、結核児童に対する療養の給付並びに小児がん等小児慢性特定疾患に罹患している児童に対する医療費の援助を行っている。さらに、経済的理由により入院助産を受けることができない妊産婦を入所させるための助産施設も設置されている。
(2) 出産にかかる経済的援助
健康保険の被保険者が分娩した場合には(被保険者の被扶養者である配偶者が分娩した場合は、配偶者出産育児一時金として)、30万円が支給される。
また、母子及び寡婦の自立促進対策として、母子相談員による相談指導、疾病等の際の居宅介護等事業、公共施設内における売店等の設置の優先許可、母子福祉施設の設置等を行っている。
国民健康保険(健康保険と国民健康保険の異同については、本報告書中第9条1(1)を参照)においても、被保険者が分娩した場合に、出産育児一時金が支払われる。
(3) 母子家庭等に対する援助
母子及び寡婦福祉法に基づき、母子家庭及び寡婦に対し、無利子又は低利で事業開始資金、修学資金等の貸し付けを行っている。1996年度の貸し付け実績は、およそ6万件、206億7,000万円にのぼっている。
また、母子及び寡婦の自立促進対策として、母子相談員による相談指導、疾病等の際の居宅介護等事業、公共施設内における売店等の設置の優先許可、母子福祉施設の設置等を行っている。
(4) 労働基準法及び男女雇用機会均等法等における母性保護措置
(a) 労働基準法においては、以下のような母性保護措置が規定されており、すべての労働者について適用される。
(i) 妊産婦等の坑内労働の禁止(第64条の4)
(ii) 妊産婦等に対する危険有害業務の就業制限(第64条の5)
(iii) 出産前6週間及び出産後8週間の就業制限。但し多胎妊娠の場合は出産前14週間、出産後10週間の就業制限(第65条)
(iv) 妊産婦が請求した場合の変形労働時間制の適用の制限、時間外労働、休日労働又は深夜業の禁止(第66条)
(v) 生後満1年に達しない生児を育てる女性の育児時間の権利(第67条)
(b) また、1997年に成立した改正男女雇用機会均等法(本報告書第6条5雇用機会の均等(1)女性労働者の項参照)において、これまで事業主の努力義務であった妊娠中及び出産後の女性労働者の健康管理に関する措置が義務づけられた。義務づけとなった措置は以下のとおりであり、この部分については1998年4月より施行される。
(i) 保健指導又は健康診査を受けるために必要な時間の確保ができるようにすること
(ii) 保健指導又は健康診査による指導事項を守ることができるようにするための措置の実施
(c) 政府は、これらの規定を受けて母性健康管理指導基準を策定し、事業主に対し、その基準が履行されるよう指導を行っている。
(d) なお、船員法においても同様の保護規定がある。
(5) 自由刑の執行停止
自由刑の執行の場面において、言渡しを受けた者が受胎後150日以上であること及び出産後60日を経過していないことを任意的執行停止事由として、母性の保護を図っている。
3.児童の保護
我が国は、1994年4月に児童の権利に関する条約を批准しており、同条約の実施状況については、右条約第1回報告書を提出しているのでこれを参照されたい。
(1) 障害児の保護
心身障害については、その発生予防、早期発見、早期治療に努めているほか、障害児を精神薄弱児施設、精神薄弱児通園施設、肢体不自由児施設、盲ろうあ児施設及び重症心身障害児施設へ入所又は通所させ、療育、保護を行っている。さらに、児童相談所での相談・指導、ホームヘルパーの派遣等の在宅福祉施策についても積極的に推進を図っている。1996年10月現在、障害児施設は816ヶ所、利用人員は約3万8千人である。
(2) 保護を要する児童の養護
保護者がいないか又はいても保護者に養育されることが適当でないなど保護を要する児童に対しては、乳児院又は児童養護施設に入所させる集団的養護あるいは里親又は保護受託者に預ける個別的養護を行っている。
(3) 非行児童等の保護
非行児童等の保護を要する児童については、児童相談所が、関係機関との連携の下に児童の指導、健全化を図っている。また、児童自立支援施設においては、不良行為を行ったり、そのおそれがあるため保護者に監護させることが不適当な児童を入所させ、自立支援を行っている。
また、非行を犯した少年(20歳未満の者)に対し、その性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行うための特別の措置を定めるものとして、少年法がある。
(4) 経済的搾取からの保護
(a) 労働基準法は、満15歳未満の者を労働者として使用することを原則として禁止している(第56条)。例外的に使用できるのは以下の場合に限られる。
(i) 非製造業にかかる職業で、児童の健康及び福祉に有害でなく、かつその労働が軽易なものについて、行政官庁の許可を受けた12歳以上の者を使用する場合。
(ii) 映画の制作又は演劇の事業で、児童の健康及び福祉に有害でなくかつ労働が軽易なものについて、行政官庁の許可を受けた場合。
1996年1月から12月において、満15歳未満の児童の使用許可件数(人数)は、3,784件である。
(b) さらに労働基準法は、満18歳未満の者を危険有害業務及び坑内労働に就かせることを禁止している(第62条及び第63条)。
(c) 1987年9月の労働基準法改正により、満15歳未満の者の労働時間は、「修学時間と通算して1週間40時間」に短縮された(第60条第2項)。
(5) 児童売買等の処罰
刑法第224条ないし第228条、第228条の3によって、未成年者の略取誘拐、営利目的誘拐、国外移送目的誘拐、国外移送目的人身売買等の行為が処罰の対象となっており、また、同法第217条、第218条、第219条によって保護を要する年少者を遺棄し、又はその生存に必要な保護をしない行為が処罰の対象となっている。
また、児童福祉法第34条によって児童の心身に有害な影響を与えるおそれのある行為(児童からの搾取となるおそれのある行為を含む。)が禁止され、同法第60条によってこれに違反した者は処罰されることになっている。
(6) 児童の人権の擁護
我が国の人権擁護機関では、1994年から児童の人権問題を専門的に取り扱う「子どもの人権専門委員」制度を発足させ、児童の人権が侵害されないように監視し、もし、これが侵害された場合は、その救済のため、速やかに適切な措置をとるとともに、児童の人権擁護のための啓発活動を行っている。
第11条
憲法第25条は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と規定している。
1.相当な生活水準についての権利
(1) 国民の生活水準に関するデータ
第12表は、「全国消費実態調査報告」により、年間収入階級別の収入及び消費支出の推移をみたものである。これによると、年間収入及び消費支出は、すべての収入階級で増加傾向にある。
(2) 貧困層に対する援助
(a) 貧困層に関するデータ
収入階級別のGNPは作成していないので、最貧40パーセントの一人当たりのデータはない。また、我が国において「貧困線」は設定されていない。
(b) 生活保護
生活に困窮する日本国民に対しては、生活保護法により、生活扶助、教育扶助、住宅扶助、医療扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助を行っている。保護の基準は毎年改定されているが、1986年度から1996年度の1級地−1(東京、大阪等の大都市)における標準3人世帯(夫婦、子一人)に対する生活扶助基準額(月額)の推移は第13表のとおりである。
(単位:円)
| 年度 | 基準額 |
|---|---|
| 1986 | 126,977 |
| 1987 | 129,136 |
| 1988 | 130,944 |
| 1989 | 136,444 |
| 1990 | 140,674 |
| 1991 | 145,457 |
| 1992 | 149,966 |
| 1993 | 153,265 |
| 1994 | 155,717 |
| 1995 | 157,274 |
| 1996 | 158,375 |
| 1997 | 161,859 |
(3) 物質的な生活水準の指数
月々の1世帯当たりの消費支出額を一定の世帯員(4人)及び日数(1ヶ月30.4日)の支出額に調整した後、これを1995年平均を基準として指数化し、さらに消費者物価指数で除することにより実質化した数字(「消費水準指数」)が、第14表である。
(1995年=100)
| 年 | 指数 |
|---|---|
| 1985 | 91.1 |
| 1986 | 91.9 |
| 1987 | 93.8 |
| 1988 | 96.7 |
| 1989 | 97.7 |
| 1990 | 98.9 |
| 1991 | 100.6 |
| 1992 | 101.2 |
| 1993 | 101.3 |
| 1994 | 100.6 |
| 1995 | 100.0 |
| 1996 | 100.6 |
注 総務庁統計局「家計調査年報」により作成。
2.相当な食料についての権利
(1) 概観
食料は、国民にとって最も基礎的な物資であり、これを安定的に供給することは国政の基本ともいうべき重要課題である。このため我が国は、食料の安定的供給を図るため、国内生産においては、農業生産性の向上、農業構造の改善、流通・加工の合理化、農産物価格の安定等について必要な施策を総合的に推進すると共に、海外からの供給に依存する農産物について、輸入の安定確保に努めてきたほか、不測の事態に備えて適切な備蓄の確保を図ってきたところである。また、健康で豊かな食生活を図る観点から各種の消費対策を実施してきたところである。その結果、我が国では食料の適正な供給が実現されている。
(2) 食料の適正な供給のための我が国の農業施策
(a) 農用地の整備・開発及び利用の促進
狭い国土の中で、食料の安定的な供給を図るため、農業生産の基盤となる優良な農用地を開発・改良するとともに、その効率的な利用を進めている。
(b) 地力増進
地力増進法等により、農業生産性の向上や食料の安定的な供給に大きな影響を与える農地の地力の維持・増進を図っている。
(c) 農業生産資材の導入・利用
農業の機械化、肥料の品質の保全、農薬の適正な使用の確保等により、農業生産性の向上や安全な食料の供給に努めている。
(d) 農業に関する試験研究の推進及び技術の普及
農業に関する試験研究の充実により技術開発を促進するとともに、農業技術を迅速かつ適確に普及することにより、農業の生産性の向上や農産物の品質の向上を図っている。
(e) 食料に係る流通の合理化
食料に係る品質表示の適正化、生鮮食料品等の卸売市場の建設整備、流通部門の構造改善の促進等により、食料の品質の向上を図るとともに、流通の適正化及び円滑化を図っている。
(f) 主要食糧の安定供給
米・麦等の主要食糧については、これまでは、食糧管理法に基づき、需給の管理及び価格の安定を図ることにより、国民に対する主要食糧の安定的な供給を実現していたが、WTO協定の実施等のための国内制度の改正として、1994年12月に、主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(以下、「食糧法」という。)が成立し、食糧管理法は廃止された。現在は、食糧法により、国民に対する米・麦等の主要食糧の安定的な供給を図っている。
(g) 農産物の価格安定について
農産物価格の過度の変動による悪影響から国民生活を守るため、主要な農産物についてそれぞれの特性に応じた価格安定制度を設け、安定した価格による食料の供給を実現している。
(h) 植物防疫及び動物検疫
植物に有害な動植物の駆除・まん延防止により、農業生産の安全及び助長を図るとともに、家畜伝染性疾病の発生を予防し、及びまん延を防止すること等により畜産の振興を図っている。
(3) 前記施策の環境及び食料生産資源に対する影響
我が国の農地の中心である水田は、一定の環境保全効果を有しており、我が国では、これまで、資材投入の増加による環境への影響は顕在化していない。しかし、高度成長期以降、肥料、農薬等外部からの資材の投入が増加したことにより、農産物の生産性を向上させるという利益を生む反面で、これらが過剰に投入される場合には、環境への負荷を増大させることが懸念される。例えば、農地から流入する窒素分やリン分が湖沼の水質への負荷の一つになっている事例がある。
また、区画整理や農業用の用排水施設の整備といった農地改良のための事業は、労働生産性を向上させ、農地としての土地利用を継続させるという点において農業の環境保全機能の維持に資するが、さらに農地の生態系の豊かさに配慮した事業の実施が求められているところである。
農業の有する環境保全機能を維持・増進させつつ、農業生産を持続的、安定的に行っていくためには、農業分野におけるリサイクル利用の推進を含め、環境に与える負荷を極力少なくすることによって、調和のとれた環境保全型農業を確立することが重要であると認識している。
(4) 農地制度の改革
我が国は、第2次世界大戦後、自作農を急速・広範に創設し農業生産力の発展と農村の民主化を図るため、1945年から46年にかけて農地調整法を施行するとともに、46年には自作農創設特別措置法を制定し、徹底した農地改革を実施した。
これらの法律に基づき、政府は、地主の所有する小作地の相当部分を強制的に直接買収して小作農に売り渡したほか、小作料の金納化を図った。また、賃貸借契約の解約等を許可性にするとともに小作料の減額請求権を認めるなど小作農の権利の強化を図った。さらに、農地改革推進の中心的役割を担う行政機関とされた市町村及び都道府県の農地委員会についても制度を改正し、従来の官選を改め選挙制度を導入したほか、小作農の意見が十分尊重されるよう委員構成を変更し、民主的な農地改革の実現を図った。
これらの措置の結果、1950年までに約193万ヘクタールの農地が開放され、農地改革前には46パーセントであった小作地比率が10パーセント未満となるに至り、地主的土地所有制度の解体に成功した。
その後、1952年に、農地改革の成果の恒久的な維持を直接の目的として農地法を制定して現在に至っている。我が国は、農地法に基づき、農地の権利移動規制、小作地所有制限、農地の賃借人の地位の安定のための制度等により、耕作者の地位の安定と農業生産力の増進とを図っているところである。
(5) 食料の安全性に対する配慮
食品等の安全性を確保するため、食品衛生法に基づいて、以下の措置が講じられている。
(a) 食品、添加物、器具及び容器包装等の規格基準の設定
(b) 食品衛生監視員による監視及び指導
(c) 食品衛生管理者による自主的管理体制の整備
(d) 飲食店等の34の業種についての営業許可制度
(6) 国民の栄養に対する配慮
(a) 我が国の食生活は、従来の米、魚、野菜を中心とした伝統的な食生活パターンに肉類、牛乳・乳製品、果実などが加わったことにより、平均的には、多様でありかつバランスのとれたものとなっている。もっとも、最近は、PFC供給熱量比率における脂質のウェイトが適正水準を上回るおそれがあるほか、個人や年齢別に見ると、栄養バランスのくずれも指摘されている。このため、バランスのとれた望ましい食生活を実現するよう、「日本型食生活新指針」を策定し(1990年)、その普及に努めている。
(b) また、国民の栄養改善のため、栄養改善法に基づき、毎年国民栄養調査を実施し、国民の栄養素等の摂取状態を把握する一方、5年ごとに栄養所要量を改正している。また、資格のある栄養士を各保健所に配置し、個人、集団給食施設等に対する指導を行っている。市町村においても、40歳以上の地域住民に対し、老人保健法に基づく事業の一環として、健康教育、健康相談の中で栄養指導が行われている。
(c) その他、栄養の原則についての知識の普及を進めるため、食生活上の留意点を国民一般にわかりやすい形で「健康づくりのための食生活指針」として取りまとめ、広く普及に努めている。
さらに、近年、国民が外食や加工食品を利用する機会が増えたことに対応するため、飲食店や加工業者等における栄養成分表示の実施を推進している。
(7) 世界の食料供給の公平な分配を確保するためにとった措置
開発途上国の一部には、今なお低所得国を中心に相当な栄養不足人口を抱える国もある。
このため我が国は、開発途上国に対し、農業分野をはじめとして、食料安定供給確保のための国際協力を積極的に推進してきたところであり、開発途上国の食料不足の解消や人口の大半を占める農民の生活の安定と向上等に寄与してきた。
特に、農林水産業分野においては、開発途上地域の農林水産業に関する試験研究等を行う国立機関として国際農林水産業研究センター(JIRCAS)を設置し、研究者の派遣や招へいによる国際研究協力を実施している。
3.相当な住居についての権利
(1) 住宅に関する統計的データ
| 戸数(1988年) | |
|---|---|
| 住宅総数 | 37,413,000 (100.0%) |
| 浴室のない住宅 | 2,837,000 (7.6%) |
| 危険又は修理不可能な住宅 | 133,000 (0.4%) |
注 総務庁統計局の「住宅統計調査」による。
なお、ホームレス、違法居住者及び追立てに関する統計的なデータはない。
また、政府の設定した住居費の負担能力限度というものはない。
(2) 住宅・居住に関する法律
(a) 居住に関する権利を規定する法律
所有権、賃借権の内容については民法が規定しているほか、特に建物に係る賃借権に関しては借地借家法が特別の定めを置いている(「借地借家法」は、従来の「借地法」、「借家法」「建物保護ニ関スル法律」を一本化したもので、1992年8月1日に施行された。)。
(b) 住宅に関する法律
国民の住生活の向上に関しては、住宅建設の促進及び住宅ストックの向上等を図るため、住宅建設計画法に基づき策定される5か年毎の総合的な住宅建設計画のもと、以下のような法律に基づき各種の施策が講じられてきている。
(i) 「公営住宅法」 国及び地方公共団体が協力して住宅に困窮する低額所得者に低廉な家賃の賃貸住宅を供給することを目的としている。
(ii) 「住宅・都市整備公団法」 住宅事情の改善を特に必要とする大都市地域その他の都市地域において集団住宅及び宅地の大規模な供給と都市の再開発を行う住宅・都市整備公団の設立等について定めている。
(iii) 「地方住宅供給公社法」 住宅を必要とする勤労者の資金を受け入れ、これをその他の資金とあわせて活用して、当該勤労者に対し居住環境の良好な住宅及びその用に供する宅地の供給を行う地方住宅供給公社の設立等について定めている。
(iv) 「住宅金融公庫法」 住宅の建設等に必要な資金で、銀行その他一般の金融機関が融通することを困難とするものを長期・低利で融通することを目的とする住宅金融公庫の設立等について定めている。
(v) 「住宅地区改良法」 不良住宅が密集する地区の環境の整備改善を図るための改良事業について定めている。
(vi) 「特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律」 土地所有者等が建設する良質な賃貸住宅について、助成措置を行うこと等により、中堅所得者層の居住の用に供する賃貸住宅の供給を促進することを目的とする。
(c) 土地利用に関する法律
国土利用計画法に基づき、国より全国的な「国土利用計画」が、また、都道府県知事により都市地域、農業地域、自然保全地域等の指定を含む「土地利用基本計画」が定めらている。
(d) 賃借人の権利に関する法律
借地借家法は、借地権の最低存続期間を法定するとともに、地権者・賃貸人が借地・借家契約の更新を拒絶できる場合、建物賃貸人が建物の明渡しを請求できる場合等を限定している。また、この法律の規定に反する特約で借地・借家人に不利なものは無効とする(片面的強行規定)など、借地・借家人の保護に留意したものとなっている。
また、住宅金融公庫法は、住宅金融公庫の融資を受けて建設された賃貸住宅については、その家賃を同法の定めるところに従って算出した額以下にしなければならないことを定めている。
(e) 土地への投機を制限する法律
土地基本法は、土地が投機的取引の対象とされてはならない旨を定めている。また、国土利用計画法は、土地の投機的取引及び地価の高騰が国民生活に及ぼす弊害を除去するため、土地取引の規制に関して講ずべき措置を規定している。
(f) 建築規制、建築基準等に関する法律
建築基準法は、国民の生命、健康及び財産の保護を図ることを目的として、建築物の敷地、構造、設備及び用途について確保すべき最低の基準を定めている。
(g) 住居及び居住地における環境計画及び衛生に関する法律
住宅建設計画法は、良質な居住水準と良好な住環境を備えた住宅の建設を促進するため5か年毎の総合的な住宅建設計画を策定すること等を定めている。また、建築物における衛生的環境の確保に関する法律は、多数の者が使用し又は利用する店舗、共同住宅等の建築物の維持管理に関し、衛生的な環境の確保を図ることを目的として、建築物環境衛生管理技術者が一定の基準に従って建築物の維持管理を行うべきことを定めている。
(3) 居住についての権利を実現するためにとられたその他の措置
(a) 地域住民を基盤とする組織に対する助成
地区住民による自主的な住環境の整備・改善を支援することを目的とする地区住環境総合整備事業において、地区住民によって構成される住環境整備組合が狭隘道路の拡張等地区設備の整備を行う際の補助を行っている。
(b) 住宅建設促進のためにとっている措置
前記(2)(b)に記載した各法律に基づく施策のほか、住宅建設五箇年計画(現在は第七期)に基づき、公営、公団等公共賃貸住宅の的確な供給、住宅取得のための融資、利子補給等による良質な民間賃貸住宅の供給の促進等、総合的な住宅対策を推進している。
(c) 住宅に困窮する居住者に対する措置
不良住宅の密集する地区の整備改善を図る住宅地区改良事業、不良住宅が集合していること、小規模な敷地が連たんしていること等により住環境の劣っている地区の住宅事情の改善と環境の整備を行うコミュニティ住環境整備事業等において、事業の実施により住宅に困窮する居住者のための改良住宅等を地方公共団体が供給している。
(d) 遊休土地を解放するためにとっている措置
国土利用計画法により、助言、勧告、土地買取り協議等を通じて遊休土地の有効かつ適切な利用の促進を図っている。
(e) 住宅に関する国の予算措置
1996年度の住宅対策の予算は、1兆1612億8,800万円であり、一般会計に占める割合は約1.5パーセントである。
第12条
1.国民の健康状況に関するデータ
WHO Regional Office for the Western Pacific, "Western Pacific Region Data Bank on Socioeconomic and Health Indicators Dec.1995"を参照されたい。
2.我が国の保健政策
(1) 疾病の予防、治療及び抑制
(a) 感染症対策
感染症の予防のため、伝染病予防法により医師の患者発生の届出義務、健康診断、収容、汚染物件の消毒・処分等の感染源対策及び感染経路対策が行われている。また、予防接種法により、急性灰白髄炎、ジフテリア等7種の伝染病について、定期、臨時の予防接種を実施している。
これらの対策の結果、腸チフス、パラチフス等の疾病は1950年以降で最も発生の多かった年に比べて20分の1以下に減少した。特に急性灰白髄炎の発生は、ほぼ制圧されている。
国内に常住しない伝染病の病原体が、わが国に侵入することを防止するため、検疫法に基づき検疫を実施している。
結核について、政府は、健康診断、予防接種、特定業種への従業禁止、命令による療養所への収容等により、その防止を図っている。その結果、新規の患者数は年間4万2千人程度に減少している。
エイズについては、我が国における感染はなお少数にとどまってはいるが、感染者数は着実に増加している。政府は、「エイズ問題総合対策大綱」(1987年2月24日関係閣僚会議決定(1992年3月19日改正))に基づき、正しい知識の普及等の対策を講じ、感染拡大防止に努めている。
(b) 成人病対策
循環器疾患、がん、糖尿病等の予防のため、1983年2月に施行された老人保健法により、保健事業を行っている。この保健事業においては、健康教育、健康相談、健康診査その他種々の事業を行っている。
(c) 職業病の予防のための措置
職業性疾病防止のため、1953年以来、労働災害防止計画を策定し、職業性疾病防止のため種々の対策を推進してきたところである。第8次労働災害防止計画(1993年度から1997年度まで)においては、
(i) 化学物質等の有害物による健康障害の防止対策
(ii) 電離放射線等の物理的因子及び作業態様による健康障害の防止対策諸施策を講じることとしている。
(2) 適切な医療サービスの保障
(a) 医療供給体制
我が国の医療供給体制については、患者の心身の状況に応じた良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制が確保されるよう、その整備が進められ、全国的にみると、病床数、医師数等の量的な面では必要な整備がなされている。
また、1986年度より、都道府県において、医療関係者等の協力の下に地域の実情に応じた医療計画を作成することとし、その具体的な推進を図っているところである。
なお、医師、看護婦をはじめとする医療関係職種については、その資格制度を定めることなどを通じてその養成・確保を進めている。また、医師については、全人的な診療のできる資質の高い医師の養成を図るべく、医師免許取得者の臨床研修の充実にも努めている。
へき地・救急・がん・小児医療等の不採算医療または高度な医療を提供している病院に対しては、必要な助成を行っている。
へき地における医療の確保を図るため1956年度以来、年次計画により、へき地中核病院、へき地医療支援病院及びへき地診療所の整備、へき地巡回診療の実施、へき地勤務医師の確保、患者搬送体制の整備等の各種施策を推進している。
休日・夜間における地域住民の救急医療を確保するため、1977年度から初期救急医療体制、第二次救急医療体制及び第三次救急医療体制並びに救急医療情報センターの計画的かつ体系的整備を推進するとともに、1991年度には、救急救命士制度を創設するなど、救急現場及び搬送途上における医療の確保に努めている。
我が国における医師、病院及びベッド数の推移は、第19表のとおり。
(b) 医療保障制度
我が国の医療保険制度の概要については、本報告書中第9条に関する部分を参照されたい。国民のすべてが何らかの医療保険制度により給付を受けることになっている。ここでは、我が国の医療保障制度のもう一つの柱である公費医療について述べる。
(i) 生活保護法の医療扶助
我が国の公的扶助法である生活保護法の医療扶助により、財政的事情により扶助を要する者に対し、入院、診察、投薬、注射、手術等の給付を行っている。医療扶助による医療給付は、国民健康保険法、老人保健法の診療方針によることとなっており、医療保険による給付内容とほぼ同等の医療が保障されている。
(ii) 難病に対する医療扶助
政府は、1972年に定められた難病対策要綱に基づき、現時点で効果的な治療法の発見されていないベーチェット病、重症筋無力症等の難病に関し、広範な調査研究を推進している。
このほか、難病患者の医療費については、自己負担の軽減を図っている。また、児童については、治療が長期にわたり、医療費の負担も高額となるなど、児童の健全な育成を阻害する特定の慢性疾患について、治療研究事業として医療費を援助し、医療の確立と普及を図っている。
(iii) 精神保健福祉対策
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づき、措置入院患者及び通院患者の医療費の全額又は一部を公費で負担している。
我が国の精神保健福祉対策は、「精神病院における入院中心の治療体制から地域におけるケア体制へ」という流れに沿って展開されている。1988年には、精神障害者の一層の擁護とその社会復帰を目的として、従来の精神衛生法に代えて精神保健法が施行され、また、1995年には、精神障害者の福祉施策や地域精神保健の施策の充実、適正な精神医療の確保等を図るための法改正を行い、法律の題名を「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」に改めたところである。
精神障害者の社会復帰対策については、精神障害者社会復帰施設の整備、保健 所及び精神保健福祉センターにおける相談事業等により推進されている。
(iv) 結核医療
結核予防法に基づき、健康診断、予防接種、患者管理、結核医療の実施を中心に結核予防及び治療のための対策を講じている。わが国の結核患者は、新規患者登録制度を実施した1961年以来、年々減少している。
(v) 身体障害者医療等
身体機能に障害を持つ人に対しては、身体障害者福祉法に基づき、その障害を除去し、又は軽減して職業能力を増進し、又は、日常生活を容易にするために更生医療が給付されている。また、身体に障害を持っている児童や放置すると将来障害を残すような疾患を持つ児童に対して、治療によって障害の除去又は軽減といった治療効果が期待できる場合は、児童福祉法に基づき、育成医療の給付を行っている。
(vi) その他
上記の他、公費による医療保障制度として、原子爆弾被爆者に対する擁護に関する法律による被爆者医療、伝染病予防法による伝染病治療等がある。
(3) 健康増進
(a) 国民健康づくり運動
1988年度から、従来の施策に、健康づくりのための運動を日常生活上習慣化するための施策や休養対策などを加え、栄養、運動、休養の各方面で健康的な生活習慣の確立をめざした国民健康づくり運動(アクティブ80ヘルスプラン)を推進してきたところである。
(b) 健康増進疾病対策中長期計画
健康寿命の延長及びQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上を目指した健康増進疾病対策中長期計画を、1998、1999年度において策定することとしている。
(c) 老人保健法による保健事業
国民の老後の健康を保障するため、1983年2月に施行された老人保健法により、40才以上の者を対象に、予防から治療、機能訓練に至る保健事業を総合的に実施しているところである。
この保健事業は、第1次及び第2次5ヶ年計画に基づいて実施されてきたところであり、1992年よりは、がん、心臓病、脳卒中の三大成人病による死亡率の大幅な低減と寝たきり老人を大幅に減少させることを目指した保健事業第3次計画を策定し、保健事業を一層効果的に実施している。
(d) 医療保険の保険者による保健事業
健康保険をはじめとする医療保険の各保険者は、健康教育、健康相談、健康診査その他被保険者等の健康の保持増進に必要な事業(保健事業)を積極的に実施している。
(4) 環境衛生の向上
(a) 廃棄物処理
廃棄物の処理及び清掃に関する法律において、放射性廃棄物を除いたすべての固形状及び液状の廃棄物は、一般廃棄物と産業廃棄物の2つに分類されている。
し尿を含む一般廃棄物については、市町村がその管理と処理につき責任を有し、当該地域内における一般廃棄物処理計画を策定している。
産業廃棄物の処理と適正な管理は原則として排出者の責任であるが、各都道府県知事は産業廃棄物処理計画を策定して、その処理の適正を期している。
廃棄物の収集、運搬、中間処理及び最終処分といったすべての処理は、法によって定められた基準に適合しなければならない。政府は地方自治体に対し、一般廃棄物処理施設の整備につき財政的援助・技術的援助を行っている。
(b) 水道整備
下水道法において、下水道の建設及び維持管理は市町村及び都道府県等の地方自治体が行うこととされている。
下水道は生活、産業活動に伴って生じる汚水を速やかに排除し、環境衛生の確保を図っている。また、全ての下水は下水処理場により処理することが義務づけられており、公共用水域の水質の保全を図っている。
また、下水道は内水の排除という役割を持っており、浸水による被害から都市を守る役割を果たしている。
下水道の建設には多額の費用を要することから、政府として下水道の建設を行う地方自治体に対し財政的・技術的援助を行っている。
(5) 産業衛生の向上
労働安全衛生法、作業環境測定法、じん肺法等の法律及びこれらの法律に基づく労働安全衛生規則、有機溶剤中毒予防規則、特定化学物質等障害予防規則、酸素欠乏症等予防規則等の関係規則により、職場における労働者の健康を確保し、快適な職場環境の形成を図っている。
3.国際支援
保健医療分野における国際協力は、開発途上国の基本的生活要件に対する援助であり、我が国の国際協力の重要な柱として位置づけられている。我が国としては、専門家の派遣、研修員の受け入れ等技術協力を中心に相手国の人づくりに貢献し、無償資金協力、有償資金協力を通じてハード面を主とした支援を行っているほか、WHOなど国際機関との連携により、多国間協力においても積極的な役割を果たしている。
第13条
1.教育についての権利
(1) 初等教育及び前期中等教育
我が国においては、初等教育及び前期中等教育は義務制である。すなわち、憲法第26条、教育基本法第4条及び学校教育法第6条、第22条、第39条により、はじめの9年間(6年間の初等教育と3年間の前期中等教育)の普通教育が義務づけられている。国公立の学校における義務教育は無償である。
国の教育水準を維持するため、学校教育の各段階の目標が学校教育法において定められており、また、小・中学校における教育内容の基準が国により設けられている(学校教育法施行規則及び学習指導要領)。小・中学校における授業時間については、学校教育法施行規則の中で、各教科ごとの標準の年間授業時数が定められている。
義務教育において使用される教科書は、国公立のみならず、私立の小・中学校の児童・生徒に対しても、国が無償で給与している(義務教育諸学校の教科用図書の無償に関する法律)。
家庭の経済状況等により義務教育の履修に困難を生ずる恐れのある者に対しては、市町村は学用品・通学費・修学旅行費・学校給食費等の必要な就学援助を行い、国はこれに対して補助を行うことにより、児童生徒の就学を保障し義務教育の円滑な実施を図っているところである。
また、全国すべての公立義務教育諸学校に必要な教職員を確保するとともに、都道府県の教職員配置や給与水準の不均衡をなくすため、国は、公立義務教育諸学校の学級編成の標準とこれに基づく教職員数の標準を法律で定めるとともに、教職員の給与費について、国が原則としてその2分の1を負担し、教育の機会均等と全国的な教育水準の維持向上を図っているところである。
これらの措置の結果、初等教育及び前期中等教育を受けている者は、該当年齢人口の99.98パーセント(1997年5月現在)である。
また、我が国に居住するすべての外国人の児童も、日本人と同様に初等教育及び前期中等教育を受ける機会を有し、国公立学校の場合には無償である。1997年5月現在、全国の小・中学校に在籍する外国人児童・生徒の数は76,260人であり、このうち73,607人が公立の学校で教育を受けている。
外国人の子女が我が国の学校教育を受ける場合には、日本語教育を充実することが重要である。1997年9月の調査によると、全国の公立小・中・高等学校において日本語教育が必要な外国人児童・生徒の数は17,296人であるが、これらの者に対しては、特別な日本語指導などの強化措置を講じているところである。なお、外国人の母国語の学習等は、小・中学校における正規の教科としては認められていないが、任意の課外活動として行われることは差し支えなく、実際に行われている例もある。
(2) 後期中等教育
我が国において、後期中等教育(技術的及び職業的教育を含む)は、すべての者に一般的に利用可能であり、かつ、機会が与えられている。
学校教育法の下、中学校若しくはこれに準ずる学校を卒業した者又は監督庁の定めるところによりこれと同等以上の学力があると認められた者は、すべて性、人種、国籍等によるいかなる差別もなく、高等学校への入学資格が認められている。1997年の中学校から高等学校への進学率は、96.8パーセントに達している。なお、高等学校における教育内容の基準は、小・中学校と同様に国より定められている。
高等学校においては、生徒の能力、適性、関心、進路等の多様な分化に適合するよう、教育内容についても工夫が払われている。一部の高等学校においては、中等の技術、職業教育を実施している。また、年齢を問わず働く青少年のために、定時制及び通信制の課程も提供されている。
後期中等教育の無償化については、下記2を参照されたい。
(3) 高等教育
我が国において、高等教育を利用する機会は、すべての者に対して均等に与えられている。
高等教育機関である大学への入学資格は、学校教育法により、高等学校を卒業した者、若しくは、通常の課程による12年の学校教育を終了した者又は監督庁の定めるところによりこれと同等以上の学力があると認められた者に対して、性、人種、国籍等いかなる差別もなく認められている。
また、放送等を効果的に活用した新しい教育システムの大学教育を推進することによって、レベルの高い教育、学習の機会を広く国民に提供することを目的として、1983年に放送大学が設立され、テレビ・ラジオを中心とした多様なメディアを効果的に利用した高等教育を実施している。
さらに、大学の定期的な公開講座等により、すべての人に対して広く教育の機会が認められている。
能力を有しながら経済的理由により修学困難な者のために、日本育英会法に基づき、日本育英会が奨学金の貸与を行っている。また、日本育英会のほか、地方公共団体、公益法人等が奨学事業を行っている。さらに、国公私立の大学では、学生の経済的状況等により、授業料の減免が行われている。
高等教育の無償化については、下記2を参照されたい。
(4) 基礎教育
我が国では、通常の学校に通うことのできないごく少数の病弱者を除くすべての者が普通教育を受けているので、基礎教育の分野での特別の措置は特段必要とされていない。通常の課程を完了しなかった者が病気の快復等により上級の学校に入学することを希望する場合には、認定試験制度によりその機会を保障している。
なお、我が国においては、非識字人口を全国的に直接把握した数字はないが、極めて低いものと予想される。
2.後期中等教育及び高等教育の無償化等
後期中等教育及び高等教育について私立学校の占める割合の大きい我が国においては、負担衡平の観点から、公立学校進学者についても相当程度の負担を求めることとしている。私学を含めた無償教育の導入は、私学制度の根本原則にも関わる問題であり、我が国としては、第13条2(b)及び(c)にある「特に、無償教育の漸進的な導入により」との規定に拘束されない旨留保したところである。
しかしながら、教育を受ける機会の確保を図るため、経済的な理由により修学困難の者に対しては、日本育英会及び地方公共団体において奨学金の支給事業が行われるとともに、授業料減免措置が講じられているところである。
なお、1995年の我が国における国と地方の歳出合計のうちの16.55パーセントが教育に費やされている。
3.教職員の待遇
学校教育が十分その機能を発揮するためには、最終的には一人一人の教員の力によるところが大きいとの普遍的な認識の下に、教職に魅力をもたせ、優れた人材を確保するため、1974年に「学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法」が制定され、義務教育諸学校の教員の給与については、一般の公務員の給与水準に比較して必要な優遇措置を講じることとされ、この法律に基づき、1974年から1979年までに計画的な改善を行い、その後も、所要の改善を行っている。
また、交通条件及び自然的・経済的・文化的諸条件に恵まれない山間地・離島・その他の地域に所在するへき地学校に勤務する教職員については、へき地教育振興法により、地方公共団体がへき地における教育の振興を図るために必要な措置を講ずることとされており、国はこれらに必要な経費の一部について補助を行っている。
4.私立学校
学校教育法は、私立の大学等の設置を認めている。我が国の4年制大学のうち、私立学校の占める割合は、73.7パーセント(1994年現在)である。私立学校は、学校法人が設置することとされており、学校法人の設立と大学の設置は、文部大臣の認可が必要とされている。上記1で述べたとおり、公立・私立を通じて高等教育機関への入学資格は、高等学校を卒業した者等に対して性、人種、国籍等いかなる差別もなく認められている。また、能力を有しながら経済的理由により修学困難な者のために、日本育英会をはじめとして、地方公共団体、公益法人等においても奨学事業を行っている。さらに、私立の大学では、学生の経済状況等により、授業料の減免が行われている。このほか、国は、1970年以降、私立大学(短大を含む)に対する経費補助を行っており、これらの学校の水準向上に役立ち、授業料の高騰を抑えるものとなっている。
5.教育分野における国際協力
教育分野における国際協力の推進は、我が国と諸外国相互の教育・研究水準の向上、国際理解・国際協調の精神の醸成、諸外国の人材育成に資する等、極めて重要な意義を有する。
我が国では、教育分野における国際協力を進めるために、開発途上国の人的資源の育成に資するべく我が国高等教育機関への留学生の受け入れを積極的に推進するとともに、ユネスコの事業への協力、無償資金協力及び有償資金協力によるハード面中心の支援のほか、JICA(国際協力事業団)や国際交流基金事業を通じて、大学教官等の派遣、外国人研究員の受け入れ、女性の教育行政担当官を対象とした研修などを実施しているところである。
第14条
第13条に関する報告の部分で述べたとおり、我が国における初等教育の無償化・義務化は、憲法、教育基本法及び学校教育法により保障されており、既に長い歴史を有している。
第15条
1.文化的な生活に参加する権利
我が国においては、国民の文化的諸活動の助長、奨励のための国家政策として、芸術・文化の振興、文化財の保護、アイヌ文化の振興、社会教育の振興のための施策を積極的に講じている。関連法令としては、特に音楽文化の振興を図るため、音楽文化の振興のための学習環境の整備等に関する法律を制定するとともに、文化的な活動を奨励し、芸術文化の向上に功績のあった者を顕彰するため、文化功労者年金法及び文化勲章令を制定し、また、文化財の保護のため文化財保護法を、さらに、アイヌ文化の振興等のため、アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律を定めている。さらに、社会教育法を制定して、学校教育以外の場において、主として、青少年及び成人に対して行われる組織的な教育活動の振興に努めており、この社会教育法を受けて、図書館法および博物館法を定めている。具体的には、すべての者が文化生活に参加する権利を実現するために、以下のような施策を講じている。
(1) 文化の発展及び文化生活への大衆参加を促進するための資金面での措置
(a) アーツプラン21による支援
(b) 芸術文化振興基金による芸術文化活動に対する助成
(c) 芸術文化の普及向上に関する業を主たる目的とする公益法人のうち、特に助成金の支給を行うものの設立許可
(d) 国民文化祭や全国高等学校総合文化祭の開催
(2) 文化施設の設置
(a) 地方公共団体が行う文化施設の整備に対して補助金を交付し、国は、公民館、公立博物館(美術館を含む)及び公立図書館の設備整備に要する経費の一部を補助している。1996年現在、公民館の数は17,819、博物館の数は986、図書館の数は2,396、文化会館の数は1,549となっている。)
(b) 優れた美術作品、その他の資料を収集して公衆の観覧に供し、あわせてこれに関連する調査研究及び事業を行うことを目的として、国立美術館4館(東京国立近代美術館、京都国立近代美術館、国立西洋美術館、国立国際美術館)を設置
(c) 現代舞台芸術の創造、振興及び普及を図ることを目的とする新国立劇場を設置
(3) 文化的アイデンティティの確立の助長
地域的な特色のある民俗芸能等を重要有形又は無形民俗文化財として指定し、用具の修理・新調や記録等その保存と活用に係る活動に対し、補助を行っている。
(4) アイヌ文化の振興等
アイヌの民俗文化財の保存と伝承のため、有形及び無形の民俗文化財のうち重要なものについて、重要有形民俗文化財又は重要無形民俗文化財の指定等を行うとともに、北海道教育委員会に対して、アイヌの民俗文化財の調査・映像記録作成、伝承活動等を行う上での必要な経費を助成している。
また、1995年3月、内閣官房長官の下に設置された「ウタリ対策のあり方に関する有識者懇談会」は、約1年にわたる総合的な検討の結果、1996年4月に国が行うアイヌに関する新たな施策の必要性等を提言した報告書を取りまとめた。それを受けて新たな施策の具体化等の検討が進められ、1997年5月、アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律が成立し、同年7月から施行された。
なお、同年6月には、アイヌ文化の振興等を図るための事業を実施する「財団法人アイヌ文化振興・研究推進機構」が設立され、同年11月、同法人を同法に基づく指定法人に指定した。
アイヌ文化の振興等を図るため、1997年度からは、同法人に対する支援を通じて、アイヌ文化の振興等の施策を積極的に推進することにより、アイヌの人々の民族としての誇りが尊重される社会の実現と我が国の多様な文化の発展に寄与するよう努めているところである。
(5) マスメディア及び通信メディアの役割
国民の支払う受信料によって運営されている日本放送協会では、その有するチャンネルのひとつ(「NHK教育」)を、学校教育及び社会教育のプログラムにも充てている。
(6) 文化遺産の保護
文化財保護法では、有形文化財、無形文化財、民俗文化財、記念物及び伝統的建造物群の5分野を文化財として定義するとともに、これらの文化財の保存に必要な技術及び埋蔵文化財も保護の対象としている。
国においては、これらの文化財のうち重要なものを、国宝、重要文化財、史跡、名勝、天然記念物等として指定等するとともに、有形の文化財の場合にはその保存修理、公有化等に対して補助しており、また、無形の文化財の場合は、その伝承者の養成、記録の作成等に対し補助するなど、その保護に必要な措置を講じている。
また、1992年に締結した「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」に基づく世界遺産一覧表に、文化遺産として「姫路城」「法隆寺地域の仏教建造物」、「古都京都の文化財(京都市、宇治市、大津市)」、「白川郷・五箇山の合掌造り集落」、「原爆ドーム」、「厳島神社」が現在までに記載されており、その保護に必要な措置を講じてきている。
(7) 文化及び芸術の分野の専門教育
大学、短期大学等において、芸術に関する種々の専門教育が行われている。1997年現在、大学における芸術学部、音楽学部等、芸術に関する学部等の数は52、これらに在籍する学生数は約6万2,000人であり、短期大学における芸術に関する学科の数は81、これらに在籍する学生数は約2万2,000人となっている。
(8) 文化の保護、発展及び普及のためにとられているその他の措置
(a) 芸術家の研修等の実施
(b) 芸術文化活動指導者の派遣事業、公立文化施設職員等に対する研修の実施
(c) 芸術文化の発展に関し優れた功績を挙げた者に対する顕彰・優遇(叙勲褒章、地域文化功労者表彰、文化庁長官表彰、文部大臣奨励賞、日本芸術院の設置等)
(d) 芸術鑑賞機会の提供(各種巡回公演事業、国立博物館・美術館巡回展等)
(e) 優れた芸術文化活動及び文化財保護活動等文化の振興に資すると考えられる事業等に対する後援名義の付与
(f) 芸術文化関係の公益法人等に対する税制上の優遇措置
(g) 国指定文化財に対する税制上の優遇措置
2.科学の進歩及びその応用による利益を享受する権利
(1) 科学技術の振興
学術研究を真に実りあるものにするためには、研究者の独立性を最大限に尊重することが不可欠であり、憲法第21条(表現の自由)及び第23条(学問の自由)は、研究、発表、教授の権利を保障している。
我が国における学術研究の中心は大学であるが、国立学校設置法に基づき、国立大学、国立大学附置研究所、学部附属教育研究施設等や大学共同利用機関が設置されているほか、私立学校振興助成法及び私立大学の研究設備に対する国の補助に関する法律に基づき、私立大学等の研究費等の一部を国が補助している。
その他、国は、学術研究の振興のための基幹的研究費である科学研究費補助金の拡充や学術研究を推進する事業に対して日本学術振興会への出資金を活用する制度の創設、研究者の養成を担う大学院の整備充実やポストドクター(博士課程修了者)等1万人支援計画に沿ったフェローシップ制度の充実をはじめとした若手研究者の養成・確保、基礎研究の重点的推進、研究設備の整備・充実、学術情報センターを中心とした学術情報システムの整備充実、研究者交流をはじめとした国際学術交流など、学術研究の振興のための多面的な施策を展開している。また、新技術の創出を目指した基礎研究の推進の一環として、科学技術振興事業団への出資を活用し、国立試験研究機関、大学等の研究者を対象とした競争的資金による公募型の基礎研究推進制度を創設し、その拡充を図っている。その他、国立試験研究機関等を対象とした国際研究交流として、科学技術振興調整費により国際共同研究等を実施するとともに、科学技術振興事業団においてSTAフェローシップ制度等の事業を推進している。
また、日本学術振興会法により設置された特殊法人である日本学術振興会は、学術研究の助成、研究者に対する援助、学術に関する国際協力の実施の促進、その他学術の振興に関する各種事業を行っている。
さらに、1996年5月には、日本学術振興会法の改正を行い、新たに学術の応用に関する研究を政府出資金により行う業務が開始された。
加えて、国は、学術上功績顕著な科学者を優遇するための機関として設けられた日本学士院に対する財政措置を講じている。
(2) 関連情報の流通促進
学術研究の成果は、学会等において発表され、その結果、産業界ほか実際的な応用分野で広く活用されている。
国としても、学会が発行する学術に関する各種定期刊行物、青少年及び一般社会人を対象とした講演会の開催等への補助を通じて、学術に関する情報の普及に努めている。科学技術振興事業団(JST。1996年10月1日に日本科学技術情報センター(JICST)と新技術事業団を統合して設立。)においては、日本科学技術情報センターから日本の科学技術情報に関する中枢的機関としての役割を引き継ぎ、科学技術の情報の流通促進を図るため、オンラインによる情報提供サービス等を実施している。また、1987年に開設した、米国のケミカルアブストラクツサービス(CAS)及びドイツのFIZカールスルーエと日本科学技術情報センターとの間の国際科学技術情報ネットワーク(STN−International)を引き継ぐなど、国際間での科学技術情報流通の基盤整備を推進するとともに、1996年5月には日米科学技術協力協定の下で米国内に科学技術日本文献機械翻訳センターを開設し、さらに、アジア・太平洋諸国に向けて国内の科学技術に関する研究情報の発信を予定するなど、海外への積極的な情報発信に取り組ん・
また、国立科学博物館、国立民族学博物館及び国立歴史民俗博物館等において、関連分野に係る調査研究並びに資料の収集、保管、公衆への供覧・展示による情報提供の促進に努めている。
(3) 自然遺産の保護
我が国では、自然環境を適正に保全するため、自然環境保全法に基づき、全国で自然環境の現況把握を進め、併せて優れた自然環境を有する地域を自然環境保全地域等として指定、管理を行っている。
また、学術的価値の高い地域を含む傑出した自然の風景地の保護と利用を図るため自然公園法に基づき自然公園の指定、管理を行ってきており、1994年現在、その合計面積は533万ヘクタールで国土面積の14パーセントを占める。
さらに、国有林野においては、原生的な天然林を保存することにより、自然環境の維持、動植物の保護等に資するため、森林生態系保護地域等保護林の設定、管理を行っている。
特に、1992年に締結した「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」に基づく世界遺産一覧表に、自然遺産として「屋久島」(ヤクスギをはじめとする特異な生物相、植生の典型的な垂直分布)及び「白神山地」(すぐれた原生状態が保存され、動植物相が多様な森林であり、氷河期以降の新しいブナ林の東アジアにおける代表的なもの)が記載されており、1995年に策定した管理計画に基づき、各種制度の運用及び各種事業を推進し、その保護に必要な措置を講じてきている。
また、動植物種及び生態系を中心とした我が国を代表する自然を保全するために、動植物、地質鉱物等で学術上価値の高いものを「天然記念物」に指定し、現状変更等を制限している。
(4)科学技術の普及発展のためにとられている措置
(a)青少年の科学技術への興味、関心を高めるために地方公共団体が行う「先端科学技術体験センター」の整備の支援
(b)科学技術振興事業団による、仮想的に科学技術を体験するバーチャル科学館の開発、魅力ある展示物の試作、セミナー等の開催
(c)科学技術の普及啓発に寄与する活動に対する後援名義の付与
(d)科学技術の普及啓発関係の公益法人に対する税制上の優遇措置
(e)科学技術に関し優れた功績を挙げたものに対する顕彰(叙勲褒章、科学技術庁長官表彰、注目発明)等
3.創作者の権利の保護
(1) 科学の分野における精神的及び物質的利益の保護
我が国では、人間の精神的活動により生じる知的所有権のうち、科学の分野において精神的及び物質的利益を生む可能性がある知的創作物についての権利については、発明(自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。)、考案(自然法則を利用した技術的思想の創作で、物品の形状、構造又は組合せに係るものに限るが、高度であることを要しない。)、意匠(物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。)として、それぞれ特許法、実用新案法、意匠法により保護されている。
ところで、知的創作活動の中心的な担い手である大学の研究者のこれら権利の保護については、法律上保護の対象とはされてきたものの、大学における研究活動と大学研究者の発明の態様が様々であり、特許法で想定している職務発明に該当する使用者と従業者との関係にそぐわないこと等から、統一的な取扱いが困難であった。このため、文部大臣の諮問機関である学術審議会は、1977年の答申「大学教員等の発明に係る特許等の取扱いについて」でその基本的な考え方を明らかにし、統一的な基準を示した。現在では、この答申に基づき、大学における学術研究から生じる発明についても適切な取扱いが行われている。
(2) 文学及び芸術の分野における精神的及び物質的利益の保護
我が国では、著作権法その他の関係法令により、著作者の精神的・物質的利益を保護している。また我が国は、ベルヌ条約、万国著作権条約及びTRIPS協定等の条約を締結しており、これらの条約によって負う義務を越えた保護を行っている。
著作権、著作者人格権が十分に保護されるためには、国民がこれらの権利についてより深い知識・理解を有することが必要である。したがって、著作権思想の一層の普及を図るために、教員、都道府県職員、図書館等の職員及び一般社会人を対象とした各種の講習会等を実施するとともに、著作権法の概要につき分かりやすく解説した出版物の発行等を行っている。
また、これらの権利を実効的に行使するため設立された著作権の管理団体が著作権者の権利保護に努めている。このような団体として、日本音楽著作権協会、日本文芸著作権保護同盟、日本脚本家連盟、日本シナリオ作家協会があり、文化庁長官の監督の下にそれぞれの分野で役割を果たしている。
4.国際交流及び協力の奨励・発展
(1) 科学の分野における国際交流及び協力
科学の進歩のためには、国境を越えた研究者の知的交流が不可欠であり、そのための支援は重要である。
我が国は、国際的な会議、シンポジウム等に参加を希望する研究者に対し、旅費等の支給を行うなど国際交流のための種々の施策を講じている。また、日本学術振興会は、学術研究の助成、研究者に対する援助、学術に関する国際協力の実施の促進等の事業活動を行っている。また、我が国は、ユネスコの活動に積極的に協力しており、信託基金の拠出による地球環境事業をはじめとした開発途上国への科学協力事業等を実施している。
1991年度からは、科学技術協力協定等において政策的に重要と認められた分野において、国際研究交流促進のための情報交換、方策の検討を目的とした国際ワークショップを開催している。
(2) 文化の分野における国際交流及び協力
我が国は、国際文化交流事業を効率的に行い、もって世界の文化の向上及び人類の福祉に貢献することを目的とする国際交流基金を設立し、様々な文化交流事業(芸術家の派遣、各分野の文化人の国際会議やシンポジウムへの派遣、多くの芸術家やその他異なる文化領域で活躍している人々の海外からの招へい、美術展や講演等の開催等)を行うとともに、民間の文化交流団体に対して助成等を通じ支援を行っている。
また、政府は、開発途上国の文化・教育の振興のため、1975年度以降の予算措置により、文化無償協力として、文化財及び文化遺跡の保存・活用、文化関係の公演及び展示等の開催、並びに教育及び研究の振興のために使用する資機材を購入するための資金を贈与しており、これまで、100ヶ国以上に対し、計853件、1996年度までに、348億2,450万円の実績がある。また、有償資金協力においても、1979年、1982年、1991年に途上国の文化遺産史跡、遺跡の維持のための事業に対し、計66億9,000万円を供与している。
また、前述のとおり、ユネスコの「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」を1992年に締結し、条約に基づいた世界遺産の保護を行い、政府は、世界遺産基金に拠出している。
更に、政府は、人類共通の貴重な財産である世界の遺跡の保存・修復への協力を目的として、1989年、ユネスコ内に文化遺産保存日本信託基金を設立し、1997年度までに2,615万ドルの拠出を行った。また、中国敦煌莫高窟壁画等の保存修復に関する共同研究、アジア太平洋地域の文化財建造物の保存修復協力、アンコール文化遺産保護に関する研究協力、海外にある日本古美術品に対する保存修復協力、アジア文化財保存セミナーの実施などを行ってきたところである。また、文化財保存分野での国際協力を実施するための拠点として、国際共同研究・情報の収集と提供・人材の養成を柱とした「国際文化財保存修復協力センター」を1995年度に設置した。
無形文化財の保存・振興に対しても、1993年より、ユネスコ無形文化財保存振興日本信託基金に拠出を行ない、主にアジアの無形文化財の保存・振興に協力を行ってきている。