2016年度会務執行方針

はじめに

今日の日本は、人口減少と超高齢化、経済活動から市民生活に至るまでの広範なグローバル化とIT化の進展など、大きな変化の中にある一方、非正規労働の増加等による格差社会への傾斜が見られ、様々な分野で制度改革が求められています。他方、国際情勢の変化もあり、国民の間で、いかにして平和を守るか、また、憲法改正をすべきかどうか等、安全保障法制を巡って大きな議論となっています。このような中、憲法判断や政策形成に関わる判断が裁判所により示されるようになってきており、司法の役割、とりわけ日本弁護士連合会の役割は、これまで以上に重要なものになっています。

我々弁護士は、強制加入制度の下で、いかなる国家機関の監督も受けない強い自治権を有するとともに、法律事務を独占的に行うことができます。一方で、弁護士及び日弁連は弁護士法第1条によって人権擁護と社会正義の実現という使命を負っています。

このような制度の下で、これまで先輩弁護士は、人権擁護活動に数多くの成果を遂げ、各方面の司法問題に積極的に取り組んでまいりました。しかし、日弁連は、今なお、平和と人権を守る取組、民事・刑事司法改革、法曹養成制度改革、弁護士自治の維持・強化、弁護士の国際的活動の拡大等、多くの課題を抱えています。また、ここ十数年間に弁護士の人口が倍増したにもかかわらず訴訟等の件数は増えておらず、弁護士の活動領域も十分に拡がっていません。司法修習生の就職問題や弁護士の不祥事等、弁護士の活動基盤に関わる深刻な問題も生じています。今こそ日弁連は、弁護士の活動基盤を強固なものにし、これら多くの課題を改善・改革して利用しやすく頼りがいのある司法を築く必要があります。
上記の状況認識を踏まえ、以下の諸課題に全力で取り組むことを会務執行の基本方針とします。

 

第1 平和と人権を守る

弁護士の最大の使命は人権の擁護にあります。立憲主義を堅持し、基本的人権の尊重、国民主権、恒久的平和主義を基本原理とする憲法を護り、そのような憲法の下、多方面にわたる人権擁護の取組を継続します。

 

1 平和を守る、立憲主義を守る

戦争は最大の人権侵害であり、人権は平和の下でこそ守ることができます。憲法第9条が規定する恒久平和主義は、堅持されなければなりません。昨年9月に国会で採決されたいわゆる安保法制について、立憲主義と恒久平和主義の立場から、国会審議を通じて明らかになった問題点も踏まえ、その適用・運用に反対し、廃止に向けた取組を行います。国家緊急権の創設改憲の動きに対しても、立憲主義の立場から、不当な人権規制につながらないよう、慎重な姿勢で取り組みます。あわせて、憲法問題に関しては、立憲主義、基本的人権の尊重、国民主権、恒久平和主義について、市民・社会への理解を更に深め、拡げる活動を、全国の弁護士会と連携して継続します。

 

2 人権を守る

(1) 両性の平等と女性の権利

両性の実質的な平等と女性の権利の確立を目指し、選択的夫婦別姓制度の導入、再婚禁止期間の廃止等、女性を差別する民法の規定の改正を求めます。また、司法におけるジェンダーバイアスの解消、慣習の中の性別役割分担意識の解消等に取り組みます。

 

(2) 子どもの権利

少年法の成人年齢については、少年の立ち直りや再犯防止に有効であるかという観点から判断されるべきであり、その引下げに反対します。対象事件が拡大された国選付添人制度については、改正法の趣旨に沿った適正な運用を求めるとともに、身体拘束事件全体への対象の拡大実現を目指します。また、子どもの権利基本法の制定を目指し、いじめや体罰等の根絶のための取組、児童相談所の機能強化を含めた虐待防止のための取組や無戸籍解消のための取組を強め、子どもの手続代理人の費用が公費から支出されることを求めます。

 

(3) 高齢者・障がいのある人の権利

高齢者や障がいのある人が住み慣れた地域で、人とつながり、安心して自分らしい生き方を選択できるよう、これらの人々が直面している課題の解決のため、行政を含む福祉関係者との連携を構築し、成年後見制度を充実させ、「ホームロイヤー制度」の普及等に努めます。また、高齢者・障がいのある人が犯罪を繰り返さないための制度構築にも取り組みます。

 

(4) 外国人の権利

外国人に対するヘイトスピーチなど、外国人に対する差別を解消し、外国人の基本的人権を確立するため一層の取組を行います。外国人技能実習制度が人権侵害の温床となっていることから、早急な廃止を求めます。難民認定がほとんど認められない現状がありますが、独立した難民認定機関の設立、適正手続の保障、難民申請者への法的支援の充実や地位の改善を目指します。

 

(5) 消費者の権利

消費者の権利を確立・充実させるため、消費者基本計画への適時適切な対応、消費者契約法、特定商取引法及び割賦販売法の改正、インターネット取引被害の救済・防止と決済システムの規制、詐欺的投資勧誘対策などの課題に引き続き取り組みます。また、本年10月に施行される集団的消費者被害回復訴訟制度の適正な運用に取り組みます。消費者庁を地方に移転する提案に対しては、同庁の司令塔機能を喪失し、緊急事態への対処に支障を来す上、消費者行政の機能の発揮、発展に支障が生じることになるので反対します。

 

(6) 労働者の権利・貧困問題への取組

労働者の権利については、労働時間法制の不当な規制緩和に反対し、長時間労働の規制の実現を求めるとともに、派遣労働の固定化の見直しを求めます。
市民が健康で文化的な生活を送ることができるよう、生活保護基準の切下げに反対し、生活保護に関する取組みを進めます。貧困の連鎖を断ち切るため、奨学金制度の充実を求めるとともに、子どもの貧困対策、女性の貧困対策、自殺対策に取り組みます。

 

(7) 犯罪被害者の人権

性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターが全国で設置されるよう、各自治体・相談センターの取組に関する情報収集・情報提供・協力・支援等を行うとともに、政府に対し財政的な支援を求めます。また、犯罪被害者を総合的に支援するための被害者庁の設立を視野に入れ、調査・研究を深化させます。犯罪被害者法律援助制度の国費化に向けた取組も一層強めます。

 

(8) 民事介入暴力の排除と暴力追放

暴力団対策法をはじめとする法律、条例や制度を利用し、あるいは違法収益などの剥奪等に関して新たな制度を提言するなどして、市民や企業、行政に対する暴力団等による被害の防止、救済を図るとともに、潜在化、匿名化、不透明化する暴力団等の活動の排除に取り組みます。

 

(9) 個人情報の保護と報道による人権侵害の救済

公権力などによる違法・不当な個人情報の収集・利用が行われないよう、個人情報保護法の改正やマイナンバー制度の運用状況等を厳しく監視・検証し、必要な改善提言をしていきます。

報道される人の名誉・プライバシーを守り、報道による人権侵害を救済するための取組を継続します。 

 

(10) 国際基準による人権保障

国際基準に照らした人権の擁護のために、国際人権規約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約、人種差別撤廃条約、拷問等禁止条約などの人権条約に附帯する、国連の各人権条約機関への個人通報制度の導入に取り組みます。また、政府から独立した国内人権機関の設立について、国連諸機関から再三勧告を受けているところであり、早急な実現に向けて引き続き取り組みます。

 

(11) 特定秘密保護法の抜本的見直し

2014年12月に施行された特定秘密保護法は、国民の知る権利に重大な制約を加えるおそれがあることから、今後も引き続き、その廃止を含めた抜本的見直しを実現するための取組を進めます。あわせて、同法の運用状況を厳しく監視して問題点を指摘するとともに、公文書管理法の見直しや、公的情報の公開・保存・取得に関する基本理念等を定める情報自由基本法の制定を求めていきます。

 

(12) 共謀罪法案への反対

2015年11月パリで発生した同時多発テロを契機に、既に3回廃案となった共謀罪法案が改めて秋の臨時国会に提案され、場合によっては「共謀罪」という名称や法案の内容を変更して提案される可能性があります。共謀罪は、行為ではなく合意するだけで処罰するという点に大きな問題があります。全国の弁護士会にも呼びかけ、テロ対策の一環として共謀罪法案が提案されることに反対する取組を強化します。

 

(13) 死刑廃止に関する検討

死刑制度に対する考え方は様々ですが、先進国で死刑制度を存置している国は少数となっています。袴田事件の再審開始決定(2014年3月)により死刑制度に関する社会的関心が高まりつつあることから、私たちはまずは政府に対し、死刑の執行の停止と死刑に関する情報の公開を求めるとともに、死刑廃止についての全社会的議論を広く呼びかけます。そして、本年10月に開催する人権擁護大会においても死刑廃止と拘禁刑の改革に関する問題をテーマとして取り上げ、様々な角度から検討を更に深化させます。

 

第2 利用しやすく、頼りがいのある民事司法の実現

民事司法の改革は、司法の役割を大きくし、弁護士の活躍の場を拡げ、市民にとって身近で利用しやすい司法を実現するために重要な課題です。2011年5月の「民事司法改革と司法基盤整備の推進に関する決議」に基づく取組を継続します。
司法アクセス促進の諸施策にもかかわらず、我が国の民事裁判事件数は全体としてほとんど増えておらず、訴訟提起や弁護士への依頼を断念する市民・企業が今なお数多く存在しています。これらの現実にしっかりと目を向け、司法に助力を求める者が利用しやすく頼りがいのある民事司法制度を実現するために、とりわけ下記に掲げる諸課題につき、2014年9月から昨年度にかけて行われた最高裁判所との協議の成果等も踏まえ、引き続き会内議論を深めて意見集約を図りながら、更なる検討及び必要な取組を進めていきます。
また、民法(債権法関係)改正については、国会での審議状況を見据えつつ、昨年度に引き続き、調査研究、会員への周知、研修の実施など、改正法に対応した諸準備を進めます。そのほか法制審議会で議論されている相続法制の改正問題についても、議論・検討を進めます。

 

1 証拠収集制度の拡充

市民にとって身近で利用しやすく、頼りがいのある民事司法を実現するためには、弁護士会照会制度、当事者照会制度及び文書提出義務の強化など、証拠収集制度の拡充が必須と考え、日弁連の立法提言に基づき、取組を進めます。

 

2 被害回復と再発防止に役立つ損害賠償制度

損害額が低額に過ぎるために「費用倒れ」をおそれて訴訟提起を躊躇したり断念してしまうことがないよう、抑止的付加金制度の導入を含め、司法に助力を求める者が報われるような損害賠償制度の構築に向け、議論・検討を進めます。

 

3 実効性のある強制執行制度

債権者が債務者の財産を正確に把握できないために、確定判決を執行しても権利の満足が図れないケースが多々見られます。そこで、財産開示制度の改正や第三者から財産情報を取得する制度の導入などを含め、日弁連の立法提言に基づき、強制執行制度の実効性を高めるための取組を進めます。同時に、いわゆる「過酷執行」への配慮についても議論・検討を進めます。

 

4 頼りがいのある家庭裁判所に

近時、家事事件は増加傾向にあり、今後、更なる高齢化、家族や親子関係の在り方の変化、国際化の進展に伴って、家事事件の多様化・複雑化、国際的な要素を持つ家事事件の増加が一層進むと考えられます。このような変化に応えるため、家事事件手続法の適正な運用を見守るとともに、家庭裁判所の裁判官・調査官の増員、家事調停官制度実施庁の拡大、子どもの手続代理人制度の公費負担の実現などの人的・物的基盤の充実に向けて取り組みます。

 

5 行政訴訟の改革

行政訴訟は、年間3000件弱程度と、諸外国と比べて極端に少ない状況です。これは、勝訴率の低さ、原告適格の狭さ、広範な行政裁量などが訴訟提起を躊躇させる原因と考えられます。司法による行政チェック機能を実効あるものとするために、行政訴訟制度の改革に向けた検討を進めます。

 

6 提訴手数料の低額・定額化

我が国の提訴手数料は、諸外国と比較してあまりにも高額であり、その傾向は訴額が高額な事件において顕著です。民事裁判を利用しやすくするために、提訴手数料を抜本的に低額・定額化するために、日弁連の提言に基づき取組を進めます。

 

7 権利保護保険(弁護士保険)の拡充

費用の面で弁護士へのアクセスをサポートし、「利用しやすい民事司法」を実現するため、権利保護保険(弁護士保険)の一層の普及と案件の対象や利用主体の拡大を図ります。また、権利保護保険制度の信頼性を向上するため、日弁連LACシステムにより紹介される弁護士の質の確保や保険を巡る紛争解決のための取組を進めます。

 

第3 司法アクセスの改善及び司法基盤整備

1 法律相談の活性化

法律相談は、紛争や法律問題を抱えた市民に法的な解決の道筋を提供するものであり、市民の司法へのアクセスを保障する重要なチャンネルです。弁護士・弁護士会は、市民が全国であまねく法律相談を受けることができるよう法律相談センターの設置などの取組を進めてきました。
近年、弁護士会の法律相談件数が減少していますが、その要因の分析と対策についての提言をまとめました。この提言に基づき、弁護士会と連携して、「ひまわりお悩み110番」や「ひまわり相談ネット」の認知度向上のための広報活動を推進しながら、法律相談の活性化・再生に全力で取り組みます。

 

2 ひまわり基金法律事務所、都市型公設事務所の支援

ひまわり基金法律事務所と都市型(過疎地派遣型)公設事務所は司法過疎対策として設けられ、実績を上げてきたものですが、都市型公設事務所の多くが財政上の問題を抱えています。引き続き弁護士過疎・偏在対策を進めるために、事務所の在り方や支援策について検討します。また、都市型公設事務所については、弁護士任官を支援するための役割が期待されることから、同事務所を活用したモデル事業の策定を進めます。

 

3 裁判所支部機能の充実と司法予算の拡大

あらゆる地域の人が平等な司法サービスを受けることができるよう、裁判所支部における裁判官の常駐化、労働審判をはじめとする裁判所支部機能を充実させる取組を進めるとともに、裁判所の人的・物的態勢の強化に必要な司法予算の増額を訴えていきます。

 

4 依頼者と弁護士の通信秘密保護

依頼者が弁護士の法的助言を受けるための弁護士との間の通信内容の開示を強制されない権利を確立し、民事・刑事等訴訟手続、行政手続等のいずれの手続においてもそれを保障する適切な措置を講ずるための取組を行います。

 

第4 えん罪を生まない刑事裁判の実現

1 裁判員裁判制度の更なる改革

従前から、公判廷での弁護人の活動が、検察官の活動に比べて分かりにくいとの指摘を受けています。実演型の研修をさらに積極的に行い、当該研修受講を裁判員裁判の国選弁護人候補者名簿の登載要件とするなどの取組を進めます。公判前整理手続の長期化については、長期化事例や争点整理に問題があった事例を把握して、的確にその原因や改善策を検討する必要があります。また、裁判員裁判における直接主義・口頭主義は、裁判員裁判対象外事件においても実現されなければなりません。

 

2 取調べの全件・全過程の可視化及び弁護人立会権の実現

法制審議会「新時代の刑事司法制度特別部会」における議論の経緯を踏まえ、取調べの録音・録画の運用(最高検察庁の依命通知に基づく運用を含む。)の状況を監視し、全件・全過程の可視化実現のための立法事実となるべき事例を的確に把握するための体制を継続的に整備することが必要です。録画媒体を実質証拠として用いるなど、可視化の下での捜査機関側の動きに対応して、新たな弁護実践の充実強化を図る必要もあります。また、可視化の拡大に伴い、初回の取調べ前に弁護士の助言を受ける必要性が大きくなっています。逮捕された被疑者が公費による弁護士の派遣を請求できる制度を創設するとともに、弁護人立会権の実現に向けた取組を強化する必要があります。

 

3 全面的証拠開示の実現

えん罪を生まない刑事司法制度を確立するために、全面的証拠開示の実現が不可欠です。度重なる再審無罪事件をはじめ、全面的証拠開示の立法事実となるべき事例を把握して分析し、それに基づく議論を展開することによって、実現に向けた取組を続けることが必要です。また、再審が無辜の救済のための制度であることに鑑み、再審における証拠開示制度の法的整備も急務の課題です。

 

4 努力が報われる国選弁護制度

国選弁護報酬の基準は、ほぼ毎年にわたり改定されていますが、弁護活動を適切に評価しきれていない点が残されています。弁護活動の成果が正当に評価されるように、弁護活動の独立性への配慮を行いながら、裁量的評価の検討も視野に入れた国選報酬の増額に向けた取組を行います。

 

5 いわゆる「司法取引」制度への対策

新たに導入される捜査公判協力型協議・合意制度については、引き込み等の危険に留意しつつ、新たな制度が誤判原因とならないように慎重に対応しなければなりません。そこで、合意をする可能性のある被疑者の供述経過を正確に記録するため、身体を拘束された被疑者であるか否かにかかわらず、取調べの全過程を録音・録画するよう捜査機関に求めることなど、弁護実践が重要になります。そのための研修、経験交流等を充実させることが必要です。

 

6 「人質司法」を打破するために

今般の刑事司法改革においても「人質司法」の実態は放置されたままです。裁判官が、被疑者又は被告人の身体の拘束に係る判断に当たって、否認や黙秘をしていること又は検察官請求証拠について不同意とすることについて、不当に不利益な扱いを行った事例を把握するなどの取組を行うことが必要です。また、国際人権法の要請を踏まえ、勾留代替制度の創設に向けた取組を行います。

 

第5 東日本大震災及び福島第一原子力発電所事故により被害を受けた人々の生活の回復

1 被災者・被害者への支援活動の充実・強化

東日本大震災及び福島第一原子力発電所事故の発生から5年を超える期間が経過する現在においてもなお多くの人々が避難生活を送るなど、生活再建への道筋を見いだせないまま過酷な生活を強いられています。そこで、法的支援を必要とする被災者・被害者が迅速かつ適切な支援を受けられるよう、震災関連死や二重ローン問題等の課題について必要な法制度の創設を提言し、積極的にその役割を担っていきます。
また、弁護士会等と連携しながら、復興支援活動に取り組み、震災の被災者、原発事故の被害者の救済が完全に達成されるまで全力で取り組んでいきます。

 

2 災害復興法制の改正と生活再建支援施策の見直し

復興の主体は被災者・被害者であり、復興は人々の失われた基本的権利を回復する「人間の復興」でなければなりません。この理念に基づき、災害復興法制の改正や生活再建支援制度の抜本的改善に向けた取組を更に強化します。
また、今後起こりうる災害時の二重ローン問題(個人向け)の立法化や、住居・就労・健康などの側面における十分な支援施策の策定を求め、更には被災者生活再建支援法の改正や恒久法としての復興基本法の制定に向けた検討を行います。

 

3 原発被害者への早期かつ完全な賠償の実現

原発事故による損害の完全な賠償を実現するため、被害者への支援、賠償基準等についての意見表明、原子力損害賠償紛争解決センターの運営への協力などの活動に引き続き取り組みます。また、同センター仲介委員の提示する和解案を東京電力が尊重するよう引き続き求めていきます。
さらに、健康調査の対象者及び調査項目の双方を大幅に拡充して健康被害の正確な把握を求めるとともに、事故再発防止及び損害賠償実現のためには事故状況及び事故原因の徹底的な究明が必須であると考え、継続的な取組を求めます。

 

4 自治体、隣接士業などとの緊密な連帯関係の構築

被災者・被害者の救済のため、自治体その他関係諸機関や隣接士業などの専門家団体、更にはNPO団体などとの連携・協働を図るべく、緊密なネットワークを構築するよう努めます。

 

5 放射能被害の拡大を防ぐための制度整備と脱原発への取組

広範な地域に深刻な放射能汚染の被害をもたらした福島第一原子力発電所事故を踏まえ、我が国の原子力推進政策を抜本的に見直し、原子力発電と核燃料サイクルから撤退し、再生可能エネルギーの推進、省エネルギー及びエネルギー利用の効率化と低炭素化を中核とするエネルギー政策の構築に向けて行動します。

 

第6 日本司法支援センター(法テラス)事業に関する取組

1 民事法律扶助の拡充と適切な運用

日本司法支援センター(法テラス)と連携し、予算の増額、対象事件の拡大、一部負担金制の導入、弁護士業務の実情にも見合った立替基準の適正化、DV事案などの困難案件における複数受任や償還免除の活用・拡大等に取り組みます。
国会で審議中の総合法律支援法改正案が成立した後は、その適正な運用の実現を目指します。

 

2 法テラスの事業の拡充

法律援助事業として、勾留されている全被疑者について国選弁護制度が拡大されることが具体化しつつあります。これを含め、国選付添人制度の対象範囲拡大や、人権分野の法律援助7事業の本来事業化等、法テラス事業の拡充を目指します。

 

3 法テラスと弁護士会の適切な関係の維持

総合法律支援の理念の実現のため、法テラスとの適切な関係を維持しながら、引き続き十分な連携・協議を行っていきます。 

 

第7 法曹養成制度の改革

2016年3月11日の臨時総会において成立した「法曹養成制度改革の確実な実現のために力を合わせて取り組む決議」に基づき、政府の法曹養成制度改革推進会議決定(2015年6月30日)で示された諸課題につき、その改革の進展状況を厳しく注視しつつ、それにとどまらない法曹養成制度を巡る改革諸課題全般について、これを自らの後継者育成に関わる最重要の課題と捉え、関係諸機関・諸団体とも協力しながら、主体的かつ積極的に取り組みます。

 

1 法曹人口

市民のための司法を確立する責務を担うとの立場から、責任を持って若手会員にオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)の機会を確保することができるよう、まず、司法試験合格者数を早期に年間1500人とすることの実現に向け、弁護士会と一丸となって全力で取り組みます。
並行して、関係諸機関・諸団体とも協力しながら、司法基盤整備の推進、司法アクセスの拡充、弁護士の活動領域の拡大のための取組とともに、法曹養成制度を巡る諸課題を克服すべく必要な取組を行います。
これらの取組を総合的に推し進めることにより、より多くの有為の人材が法曹を志望し、社会の様々な分野において質の高い法曹が活躍できるような環境整備に努めます。

 

2 法科大学院制度について

法曹養成制度改革推進会議決定において平成30年度までの期間が法科大学院集中改革期間とされています。法曹養成の中核としての法科大学院制度については、法曹志望者の減少を真摯に受け止め、法科大学院の規模を適正化し、その教育の質を向上させ、法科大学院生の多様性の確保、経済的・時間的負担の軽減を図るなど、同制度の改善のための取組を進めます。
併せて、予備試験については、経済的事情や既に実社会で十分な経験を積んでいるなどの理由により法科大学院を経由しない者にも法曹資格取得のための途を確保するとの制度趣旨を踏まえた運用となるよう、取り組みます。

 

3 司法修習の充実・司法修習生に対する経済的支援

法曹の実務に必要な能力を習得させるという司法修習の重要な役割に照らし、司法修習の更なる充実に引き続き取り組みます。また、司法修習生が安心して修習に専念できる環境を整え、法曹志望者が経済的事情によって法曹への道を断念する事態が生ずることがないよう、司法修習生に対する給費の実現・修習手当の創設を内容とする給付型の経済的支援の速やかな実現のために取り組みます。

 

第8 弁護士の業務拡充と活動領域の拡大

1 国、自治体に対する法的支援等

国、自治体への弁護士の任用促進、行政連携、公金債権の管理・回収や包括外部監査、条例制定支援等の各分野における弁護士、弁護士会による法的支援の拡充に向けた各種の取組を一層進めていきます。
併せて、高齢者・障がいのある人、生活困窮者、子ども等に関する福祉の分野においても、自治体等への法的支援の拡充を目指して、取組を進めます。

 

  2 中小企業に対する法的支援

中小企業の中には、弁護士による処理が必要な法的課題を抱えているにもかかわらず、弁護士に相談せずに、自ら、あるいは他のいわゆる隣接士業等に依頼した結果、適切な解決が行われず、かえって問題を深刻化させることが少なくありません。
そこで、日弁連では、これまで、弁護士の有用性をアピールする広報、事業者向け相談受付専用ダイヤル「ひまわりほっとダイヤル」の普及活動、全国キャラバンによる各地の中小企業団体や支援団体と弁護士会との交流などを行ってきましたが、今後も、これらに関する検証も踏まえつつ、弁護士の利用を一層促進する取組を進めます。
また、中小企業のニーズに応えるべく、事業再生、事業承継、創業支援、海外展開支援等、現在指摘されている中小企業の課題やその解決のためのスキームの研究を行うとともに、経営の実情を踏まえた研修を引き続き実施します。

 

3 企業活動のモニタリングの役割

会社法改正やコーポレートガバナンス・コードの策定等、企業活動を巡る法制度・実務は大きく変化しつつあります。弁護士は、企業の諸活動及びコーポレートガバナンスにおいて、企業活動の適法性を確保するにとどまらない重要な役割を果たし得るものと考えられます。
今後、例えば、上場企業の社外役員として弁護士を選任することの推奨等、国等に対して、法律・制度の改正を積極的に働きかけていきます。
 

4 組織内弁護士の拡大・支援

任期付公務員である弁護士は、2015年6月1日現在、国と地方公共団体を合わせて187人、企業内弁護士は、2016年1月7日現在、1,639人に達しており、弁護士にとって新たな活動の場になっています。
日弁連は、今後も、法の支配を社会の隅々まで浸透させるべく、その担い手である弁護士が組織内においても活躍できるよう、司法修習生や弁護士への情報提供とともに、関係機関に対して活用に向けた働きかけをしていきます。また、組織内弁護士を支援する態勢を整えるとともに、弁護士が採用側の組織が求める資質・能力を身に付け、活躍するために必要となる研修等を実施します。

 

5 国際的な業務の推進

日弁連は、関連機関・団体と連携し、中小企業の海外展開支援、在留邦人・在日外国人への法的支援等の拡充や、こうした分野にふさわしい人材養成を進めるなど、国際業務を推進するための総合的なプログラムに幅広く取り組んでいきます。

 

6 会員によるインターネットを用いた情報発信の適正化

現在、インターネットは、市民が法的情報や弁護士に関する情報を入手するための主要な手段となっています。そこで、日弁連では、弁護士に対する市民のニーズに応えるため、会員からインターネットを用いた情報発信が適正に行われるよう、「業務広告に関する指針」の改訂等も視野に入れて、その環境整備を進めます。

 

7 ニーズに応えられるスキルの養成

弁護士のスキルの向上のためには研修が重要であることに照らし、会員の要望に応え、市民の弁護士に対する信頼を高めるため、研修をさらに充実させます。また、ライブ実務研修やeラーニングのみならず、各弁護士会にて日弁連の研修コンテンツを利用した会場研修を実施できるよう、DVD貸出等の支援を行います。
また、市民が専門性のある弁護士に相談することができるよう、特に専門研修を充実させるとともに、弁護士会の体制を整備します。

 

第9 若手会員への支援

1 OJTの実践例の拡大と支援体制の強化

事務所内外で先輩弁護士に相談できる機会を得にくい若手会員が増加していることに鑑み、一部の弁護士会において実施されている若手会員向けの相談窓口やチューター弁護士(弁護士として活動する上で一般的なアドバイス等を行う先輩弁護士)制度等を全国に広めるために有用な情報の収集と共有化に努めます。更に、「弁護士業務支援ホットライン」をパイロット事業として展開し、若手会員の業務支援を行います。

 

2 若手会員向け研修の充実、実践基本ゼミの開催などへの支援

若手会員の要望に応じて基礎から応用までの研修コンテンツを充実させ、eラーニングの利用等の促進を図ります。

 

3 経験や情報交換のためのネットワークの拡充と支援

若手会員にとって、先輩会員の経験、業務に必要なノウハウや情報を速やかに得られるためのネットワークの構築が有用です。そこで、このようなネットワーク構築に向けて情報を提供し、支援を行います。

 

4 就業支援・独立開業支援、孤立化防止

司法修習生・若手会員に対する就業支援及び独立開業支援を継続して行います。また、会員数の増加により、他の会員との関係が希薄化しつつある若手会員の孤立化を防止すべく、一部の弁護士会で実施されている独立開業支援のチューター制度や指導委託弁護士制度、クラス別研修制度、グループ別交流会制度などの情報を提供し、総合的な支援を行います。

 

5 若手会員の経済的支援、業務拡大支援の方策の検討と実践

各弁護士会でも会館負担金の減額や延納制度を実施・検討しているところですが、日弁連会費の更なる減額を検討します。また、柔軟性に富み活力に満ちた若手会員とともに、生活困窮者自立支援事業に関する取組など、社会の変化に対応した人権擁護活動を経済的裏付けのある形で実施する「事業モデル」を発案し、その実現に向けて諸制度を整備します。

 

第10 男女共同参画の推進

第二次日本弁護士連合会男女共同参画推進基本計画に基づき、具体的な施策を進めます。
男女共同参画の推進のためには、会員各自が男女共同参画の意識を高めることが不可欠であり、そのための研修・啓発活動に積極的に取り組みます。
また、日弁連の政策・方針決定過程への女性会員の参画拡大を目指し、理事者に占める女性会員の割合を計画的に高めていくための副会長及び理事の選任方法について検討を進めます。
さらに、社会のダイバーシティを推進するために、企業に対して女性会員の社外役員などへの登用を積極的に働きかけるなど、男女間格差を解消する取組を進めます。育児期間中の会費免除制度が活用されるよう、引き続き周知に努めるとともに、ワーク・ライフ・バランスを支援する制度の検討に取り組みます。

 

第11 法教育の充実

市民に自由で公正な民主主義社会の担い手としての法的な考え方を身につけてもらうことを内容とする法教育は、学習指導要領に一部取り入れられるなど、徐々に広まりつつあると言えますが、未だ全国あまねく実施されているとは言えません。一方で、選挙権年齢が18歳以上へと引き下げられたことに伴い、法教育や、教育現場における弁護士の関わりの重要性が、ますます高まっていると言えます。さらに、市民、とりわけ子どもたちとの接点が多い法教育の活動は、将来の司法基盤を支える活動とも言え、司法アクセスの促進などにもつながり得る、大変重要な取組と評価することができます。
このような問題意識のもと、教員向け・学生向けの各種イベントの企画、教材の開発、政策提言や学校派遣事業といった各種の取組を、より一層推進します。

 

第12 司法及び弁護士の国際化の推進

1 日弁連の国際交流の推進

日弁連は、国際司法支援活動、国際交流活動、国際法律業務の発展に向けた活動など幅広い国際活動を積極的に展開しています。本年2月には日弁連の国際戦略を策定し、グローバル化・国際化の中で、個々の会員が効果的に公益活動を行うとともに、法律サービスを展開できるよう制度的な支援を行っていきます。
来年夏から秋にかけてはLAWASIA(アジア太平洋法律家協会)年次大会、AIJA(若手法曹国際協会)年次大会がそれぞれ日本で開催されることから、日弁連の国際的プレゼンスの更なる向上を目指し活動します。

 

2 中小企業の海外進出支援

中小企業の海外展開については、法的なトラブルに直面するリスクが高い上、紛争が生ずるとそのための費用も高額となる傾向にあります。そこで、中小企業が不測の損害を被らないようにするため、前もって弁護士による法的な助言等を受けることの重要性について、広く周知をしていきます。
また、日弁連は、日本貿易振興機構(JETRO)、東京商工会議所、日本政策金融公庫、国際協力銀行、信金中央金庫と連携し、高等裁判所所在地に神奈川県、京都府、新潟県を加えた11か所を拠点として、中小企業海外展開支援弁護士紹介制度を運営していますが、これを今後も拡充する等して、中小企業の海外展開におけるリスクの軽減に向けて活動します。
加えて、多くの弁護士が中小企業の海外展開に対応できるようにするため、eラーニングやライブ実務研修等の研修を充実させていきます。

 

3 国際紛争解決ADRのインフラ整備

グローバル化の進展により国際取引が増加する中、取引を巡り紛争が生じた際に、日本企業が裁判外で国際的紛争を迅速適正に解決し得るような人的・物的インフラ整備についての検討を、関係機関と連携しつつ進めます。

 

4 ハーグ条約事件等渉外家事事件についての取組

2014年にハーグ条約が我が国において発効し、国際結婚の離婚に伴う子どもの引き渡しなど、様々な渉外家事事件の増加が見込まれます。こうした渉外家事事件に対応できる人材を育成するとともに、渉外家事事件の相談窓口の整備や、在外公館における情報提供などの支援を検討します。

 

第13 広報の充実

昨年度に続き、新聞、TV等のメディアで日弁連の意見や活動を報道していただくため、適時、適切な発信を行うことに力を注ぐとともに、日弁連ホームページ等の媒体を一層充実させ、各種の意見書、活動、イベント等を効果的に広報することに努めます。
また、昨年度に企画した弁護士・弁護士会のイメージアップ広報を全国で引き続き展開するとともに、各地の弁護士会の広報担当者との連携を促進し、日弁連の広報戦略を全国に共有する努力を進めます。
さらに、各種パンフレットの活用、出版企画などを進め、より分かりやすい媒体を通じて、弁護士の仕事や役割について広く社会に理解をいただくことを目指します。

 

第14 弁護士自治を堅持する方策

1 不祥事対策

日弁連は、不祥事対策として「預り金等の取扱いに関する規程」を制定しましたが、今後は、その適正な運用のほか、不祥事防止のためのマネジメント研修を推進するとともに、悩みを抱えた会員の業務やメンタルヘルス相談窓口など弁護士の職務・業務の円滑かつ適切な遂行に資するための会員サポート制度、弁護士会における市民窓口・紛議調停制度や懲戒手続の円滑適切な運用を実現するための全国協議会の開催など、様々な施策を継続し、発展させていきます。
また、これらに加え、被害者保護制度や懲戒事例データベースの整備と会員への公開などの取組を推進します。

 

2 弁護士職務基本規程の見直し

弁護士の「倫理と行為規範」を定めた弁護士職務基本規程は、施行後10年を経過しました。これを機に、急増する組織内弁護士を巡る規範の在り方など、同規程が新たな時代にマッチしたものとなっているか、改めて見直すとともに、会内論議を深め、必要な改正を検討します。

 

3 適正な会財政と組織改革の検討

日弁連が基本的に会費によって運営されていることを踏まえ、会務の発展と弁護士会・会員への支援の充実を図りつつ、財政の見直しと経費削減を行うとともに、組織の合理化を進めます。

 

4 弁護士法第72条と隣接士業との協働

弁護士法第72条は、高い法的素養と倫理観を備えた弁護士に法律事務を独占させる制度を採用することで、市民の権利保護を確保するものです。同条の趣旨が他の法律により浸食されることがないよう注意を払うとともに、その解釈適用問題については引き続き検討・議論を進めます。また、同条の違反事例についての情報を収集・集約し、違反に適切に対処する仕組みを検討します。
隣接士業と適切な連携を図ることに関しては、それが市民の権利・利益に合致するか否かという観点に基づいて対応します。