2011年度会務執行方針 -災害対策に全力で取り組み、第二次司法改革を進める-
2011年度会務執行方針 目次
第1 はじめに-市民の目線で第二次司法改革へ-
1 3.11東日本大震災の復興に取り組む
2011年3月11日午後2時46分、東日本大震災が発生した。マグニチュード9.0という、国内では観測史上最大の大地震であり、津波、家屋の倒壊、火災などにより、多数の死傷者が出た。また、東京電力福島第一原子力発電所では、放射性物質の多量の放出を伴う重大事故が発生した。東日本地域の電力不足も恒常化する見通しである。
この災害による被害の規模は未曾有のものであり、住居や生計の手段を失った方々の生活再建には多大な困難を伴うことが予測される。政府や自治体の支援が求められるが、被災者の方々に十分な法的支援が行き渡るよう努めることは、日弁連の重大な任務である。日弁連は震災発生当日に、会長を本部長とする災害対策本部を立ち上げ、震災直後から被災地を中心に法律相談体制を整備するなど支援活動を遂行してきた。今後も、日弁連が被災地の弁護士会を支援し、一体となって出張相談、巡回相談等の体制を強力に進める必要がある。
また、今回の極めて深刻かつ複雑な災害状況に対応して、法制度とその運用の改善が必要な分野について調査・検討し、迅速かつ適切な提言を行うことが日弁連のもう一つの任務である。
このように、日弁連は、一刻も早い復旧・復興に道が開かれるよう強く希望するとともに、法律専門家団体としての職能を活かし、全力を挙げて支援活動に取り組むべく、今般の大震災からの復旧・復興支援を2011年度の会務執行方針における重要かつ最優先の課題として位置付ける。そして、阪神・淡路大震災や新潟県中越・中越沖地震での法律相談活動などの経験を活かし、具体的な支援活動に最大限尽力するとともに、日弁連の活動全般を力強く進めていくことも震災復興支援に寄与するとの確信のもとに、会務全体を遂行する。
2 第二次司法改革を求めて
「司法制度改革審議会意見書」から10年余りが経過した。司法の役割が期待どおりに実現されたかどうかを検証し、市民の目線で司法の改革を進めることが、現在の日弁連に課せられた最も重要な任務のひとつとなっている。日弁連は2010年度会務執行方針において、「リーマンショックによる世界不況も相まって、規制緩和政策による格差が拡大し、貧困が広がっている。今や労働者のうち3人に1人以上が非正規労働者となっている。このような貧困層、派遣労働者などの不安定雇用層、外国人や障がい者などに司法による保護が及んでいるとは到底いえない実情にある。日弁連は貧困問題、不安定雇用問題に正面から取り組み、法律扶助制度の抜本的な拡大を求め、社会的な少数者を含むすべての市民の司法に対する信頼をより一層高めなければならない。(中略)2001年『司法制度改革審議会意見書』に基づき、この間取り組まれてきた司法改革を『第一次司法改革』と位置づけるならば、私たちは、これをさらに検証・発展させ、以下に示すような取組みを『第二次司法改革』として位置づけ、この実現に全力で取り組む。」とした。2011年度も引き続き「第二次司法改革」に取り組む。
第2 今こそ司法を市民に身近に、民事司法の改革を
1 民事・労働・福祉制度の改革を
(1) 貧困に司法の手を
日弁連は2010年4月に貧困と人権に関する委員会を改組し、貧困問題対策本部を立ち上げた。第二次司法改革において真っ先に取り組まなければならないことは、司法から取り残された経済的な弱者に手を差し伸べることである。日弁連の委託援助事業の中で、生活保護の申請同行などの高齢者・障がい者・ホームレス等に対する法律援助事業は2009年度で1727件に達し、弁護士が各地で積極的に貧困問題に取り組んできていることがうかがえる。
貧困問題対策本部は、格差社会の是正のため、派遣法改正と非正規雇用の法的保障などの労働法制や生活保護制度の改善、自殺対策、生活困難に陥っている個人を支える体制の確立などの総合的な貧困対策のための制度改革案を次々に立案している。また、年末の一斉相談など、生活保護と労働相談などの活動を弁護士会と他の機関・団体との連携のもとで全国で実施できる体制の確立に取り組んできた。本年度も被災者の失業、自殺、生活困難などをはじめとして全国的な経済活動の停滞が予測される中で、日弁連はキャラバン活動などを通して、各弁護士会において生活保護と労働相談を機動的に実施する体制整備を支援する。
(2) 市民がアクセスしやすい民事・行政裁判制度等への改革
第一次司法改革の中、最も実現が遅れているものは、制度的基盤の整備であり、とりわけ民事司法制度の改革である。市民が利用しやすく頼りがいのある民事司法改革を実現するには、市民目線での改革という視点に加えて、担い手である弁護士が、これらを積極的に使って市民の権利救済と社会正義を実現するという視点が重要である。
現在、民法(債権法)の改正が法制審議会で進められているが、日弁連はこのような視点から意見を述べていきたい。
民事裁判の改革については、日弁連はこれまで3回の民事裁判改革シンポジウムを行い、第24回司法シンポジウム(2010年・東京都)でも課題として取り上げた。市民の司法へのアクセスを改善するための課題としては、民事法律扶助制度の拡充、提訴手数料のさらなる低額化及び定額化、集合訴訟制度及び民事審判制度の創設、裁判官の増員と裁判所支部の充実、権利保護保険の拡充等がある。また、民事裁判を適正、迅速に運営する課題としては、証拠収集手続の拡充、損害賠償制度及び執行制度の改革がある。
また、行政訴訟の改革については、日弁連は、いきすぎた裁量行政を許さず、司法の行政に対するチェック機能を強化するため、市民に広く門戸の開かれた行政手続、行政訴訟制度、行政機関情報公開法の改革に取り組み、さらに納税者の権利を明確化した国税通則法の改正にも取り組んできた。これらの課題については一部は実現のめどが立ちつつあるが、残された課題も多い。
家事・非訟事件の制度改革については、法改正が本年の通常国会に提出されているが、日弁連はこれらを踏まえ、実務に即し、公正な制度となるよう引き続き取り組んでいく。
本年3月27日の理事会において民事司法改革の諸課題についてグランドデザインを策定し、改革を推進すること及び取組体制を整備すること等を内容とする基本方針が承認された。日弁連は、知的財産権・独占禁止法その他の裁判制度の改革も併せて、これらの改革に取り組む。
2 司法のセーフティネットである法律扶助の飛躍的拡大を
法律扶助は、司法のセーフティネットである。日本司法支援センター(以下「法テラス」という。)の発足や日弁連の取組みを通して、法律扶助予算は大幅に増大した。また、スタッフ弁護士やひまわり基金法律事務所の弁護士をはじめとする各地の弁護士の活動によって福祉や医療関係機関との連携が進み、弁護士の活動領域が大きく拡大した。経済情勢の悪化に伴う市民生活の困窮が広がる時代にあって、消費者・高齢者・犯罪被害者・障がい者・雇用労働・家事・外国人・子ども・貧困さらに被災者など、幅広い分野で、また行政手続への拡大を図るなど法律扶助のさらなる質的な拡充が求められている。
生活保護受給者から生活保護受給者に準ずる利用者まで償還免除対象を順次拡大することも、日弁連の粘り強い働きかけによって実現しつつある。このたびの震災においても弁護士の出張相談や巡回相談への経済的支援や被災者の償還免除の実施など、法律扶助制度がさらに拡大される必要がある。その中で日弁連は、予算の飛躍的増額、扶助対象事案の拡大と給付・一部負担金制の実現を求めていく。
日弁連と各弁護士会は、刑事被疑者弁護援助、少年保護事件付添援助、犯罪被害者法律援助、難民認定に関する法律援助、外国人に対する法律援助、子どもに対する法律援助、精神障がい者に対する法律援助、心神喪失者等医療観察法法律援助、高齢者・障がい者・ホームレス等に対する法律援助のため、2010年度に約16億7000万円を支出している。この日弁連委託援助事業について、本年2月の臨時総会において特別会費の増額・新設を決めた。しかし、これらの業務は公益性が高く本来は公的資金でまかなわれるべきものである。日弁連は早期に本来事業化を実現するための活動に取り組む。
3 市民に対する法的サービス提供のための活動の充実
(1) 市民各層への法的サービスの提供を
日弁連は貧困対策だけでなく、中間所得層に対する法的サービスの提供を充実させる活動に取り組む必要がある。日弁連は、日弁連中小企業法律支援センター、高齢社会対策本部を立ち上げ、これまで必ずしも法的サービスが行き届いていなかった中小企業、高齢者に対する法的支援の拡充に取り組んできた。また、これらの中間所得層に対する法的サービスへのアクセス改善策として、権利保護保険(弁護士保険)の拡充に努めてきた。さらに、消費者被害対策、犯罪被害者支援など、幅広い市民の法的ニーズに応えるための法的サービス提供のための諸活動を充実させる必要がある。
法テラスから提起されている「初期相談構想」の問題について、日弁連はワーキンググループを立ち上げて検討を進めてきた。この問題は、弁護士会の法律相談業務に大きな影響をもたらすものである。日弁連としては、法テラスの本来的な事業である扶助の充実こそが喫緊の課題であり、現在提案されている初期相談の無料化については看過できない問題点があると考えるが、今後は、弁護士会との連携の可能性、法律扶助予算の効果的な配分などの視点から慎重にこれに対する対応の検討を継続していく。
(2) 司法アクセスに関する広報活動の強化
日弁連が法律相談センターやひまわり基金法律事務所などを通じて行っている市民のための法的サービス提供の諸活動や、弁護士の業務内容などについての広報活動を、インターネットの活用などにより、飛躍的に強化する必要がある。
また、市民が経済的理由により適切な法的サービスを受けられないことのないよう、法律扶助や法律援助のみならず、権利保護保険(弁護士保険)などについても、市民及び会員に対し、より一層積極的な広報活動を推進する。
4 裁判所と裁判官制度等の改革と弁護士任官の推進
(1) 裁判所と裁判官制度等の改革
裁判所へのアクセスの拡充は、司法改革の柱をなすものである。
弁護士人口の急増にもかかわらず、裁判官と検察官の増加は限定的で、多くの裁判所支部で労働審判や行政訴訟、裁判員裁判などを審理することができず、また常勤の裁判官のいない支部が46にも及んでいる。また、極めて多数の支部で正検事がいない状況にあり、副検事までもがいない支部もある。
司法予算そのものの飛躍的拡大と裁判官制度と検察官制度の改革を進め、地域司法の充実のために裁判官・検察官のいない裁判所・検察庁支部をなくし、裁判官・検察官の大幅増員を求めることが必要である。
このために、日弁連は自治体と連携して全国で各地のニーズに即してきめ細かく活動を展開する必要がある。
(2) 弁護士任官の推進
市民のための司法は究極的には法曹一元の実現により達成されるものであり、そのためには、弁護士任官を推進することが重要である。また、判事補、検事の弁護士職務経験制度を費用面などの改革により会員が受け入れやすい制度にしていくことにより、さらに推進し弁護士任官の補完的な役割を担わせることが必要である。裁判官制度の改革は最終的には裁判官そのものが変わることで実現されるのであり、このためには豊かな知識経験を有する弁護士が次々と任官していくことがまず出発点である。判事の増員、特例判事補制度の廃止等の実現も、本来は弁護士任官の推進によって実現しなければならない。しかし、弁護士任官がなかなか進まない背景には、弁護士業務そのものに内在する問題のほか、現在の裁判官の人事・給与などの問題もあると考えられ、その解決にも取り組む必要がある。昨年はじめてひまわり公設事務所の経験者が判事補に採用されることとなったが、今後も大いに期待することができ、ひまわり公設事務所の経験者だけでなく、法テラス4号事務所経験者からの任官も推進していきたい。
弁護士任官の推進のために非常勤裁判官制度が実施されているが、実際に非常勤裁判官から常勤裁判官任官に進む会員が増加してきている現在に於いて、この非常勤裁判官制度をさらに全国の地方裁判所・家庭裁判所で実施できるように、またその職務範囲も拡大していく必要がある。
5 弁護士過疎・偏在の解消のためのグランドデザインの立案を
日弁連は、1996年の定期総会において「弁護士過疎地域における法律相談体制の確立に関する宣言」(名古屋宣言)を採択し、弁護士過疎・偏在問題の解決のために全力を挙げて取り組むことを決意した。「いつでも、どこでも、だれでも良質の司法サービスが受けられる社会」の実現を目指して日弁連は過疎地法律相談センターの開設・運営資金の援助、公設事務所の設置・支援、弁護士過疎地での開業支援制度などの総合的な施策を講じてきた。これらの施策のために日弁連が2000年度から2010年度までに投じた総額は30億円を超える。今日弁護士ゼロ地域は解消され、2010年度末には弁護士ワン地域も残り3支部に減少し、本年度中には解消する見込みである。このような弁護士過疎・偏在対策は法曹人口の増加という外因だけで可能だったのではなく、日弁連の多年にわたる地道な努力、とりわけ経済的な支援によるものである。
過疎・偏在対策を巡る状況も変化しており、現状に即していかに効率的に展開していくかについて討論を深め、そのグランドデザインを立案する。
第3 法曹養成制度に生じている悪循環を是正するために
1 法曹養成制度の現在の問題点
司法は法曹によって担われている。有為な若者が法曹を一生の仕事と考え志望することがなくなれば、司法の健全な発展は大きく傷つけられる。
司法改革は法科大学院を中核とする新たな法曹養成制度を生み出した。新たな法曹養成制度には、様々な社会経験を経た有為な人材が法科大学院に集い、実務と連携した臨床法教育によって豊富な学識と人権感覚、法曹としての意欲・実務能力を備えた新法曹の輩出が大いに期待された。
しかし、実際にはこの新たな法曹養成制度には、いくつかの看過できない歪みが生じている。
法曹を目指す者の数が顕著に減少している。法科大学院適性試験の志願者数について、2003年と2010年を比較すると、日弁連法務研究財団主催の適性試験では5分の2以下、大学入試センター主催の適性試験では4分の1以下と、大きく減っている。また、法科大学院への社会人入学者の割合は、5割弱(2004年)から3割弱(2009年)へと減少している。その要因はいくつか考えられる。
第1の問題は司法試験合格率の低迷である。司法試験合格率は当初7~8割と喧伝されたが、予想を大幅に上回る法科大学院が設立され、入学者は6000名近くに上った。しかし、合格率は初年度(2006年)の48.3%を最高に、2010年には25.4%にまで低下している。こうした合格率の低迷により、法科大学院への進学は経済的コストと時間・労力に比して大きなリスクとなっており、とりわけ非法学部出身者や社会人の法曹志望者を減少させているのである。
第2の問題は、法曹養成に要する経済的なコストの問題である。日弁連が2009年11月、司法研修所入所予定者(新63期)を対象に実施したアンケート結果によれば、回答者1528名中807名(52.81%)が法科大学院で奨学金を利用したと回答し、そのうち具体的な金額を回答した783名の利用者が貸与を受けた額は、最高で合計1200万円、平均で約318万円に上った。このような経済的負担の大きさが上記の司法試験合格率の低迷とあいまって法曹への志望を断念させていると考えられる。
第3の問題は、司法修習終了後の就職難や企業・行政等への職域拡大の伸び悩みなどが敬遠されて、法曹を目指す人が減っていると考えられる。
2010年7月に公表された「法曹養成制度に関する検討ワーキングチームにおける検討結果」(法務省・文部科学省)は、その結論において、「新たな法曹養成制度は,制度全体が悪循環に陥りつつあることから,関係機関が連携し,法科大学院教育,新司法試験,司法修習の各段階の所要の見直しを行い,好循環となるよう取り組む必要がある。」としている。この悪循環の原因を見い出し、これを克服することは、司法界のみならず、国民全体にとっての喫緊の課題となっている。
2 法曹志望者に対する経済的支援の充実
(1) 司法修習給費制の継続を求めて
日弁連はこれまで一貫して司法修習費用貸与制の導入、司法修習生の給費制の廃止に強く反対してきた。給費制の廃止のような法曹志望者の減少にさらなる拍車をかける制度の実施によって、法曹養成課程が取り返しがつかないほど傷つけられてしまうのではないかと危惧したからである。
日弁連はこの課題を法律家だけの課題ではないと考え、「司法修習生に対する給与の支給継続を求める市民連絡会」や「ビギナーズ・ネット」とともに、与野党の国会議員に粘り強く働きかけ、困難な国会状況の中で2010年11月末に給費制を1年間延長する裁判所法改正法を成立させることができた。
今回の法改正の趣旨は、昨今の法曹志望者が置かれている厳しい経済状況にかんがみ、それらの者が経済的理由から法曹になることを断念することがないようにするためのものである(国会における法案趣旨説明)。この法改正に関しては、衆議院法務委員会において委員会決議がなされ、給費制が継続される1年間に、法曹養成制度に対する財政支援の在り方について政府及び最高裁判所の責務として見直しを行うこととされている。また、同決議の第2項では「法曹の養成に関する制度の在り方全体について速やかに検討を加え、その結果に基づいて順次必要な措置を講ずること」を求めている。
日弁連は、基本的人権の擁護と社会正義の実現という弁護士の公共的使命を中心とした法曹の公益性について、さらなる理解を求め、給費制を維持すべき説得力のある根拠を訴えていき給費制の維持を実現する。本年度においても、日弁連は広範な市民団体と協働して給費制の継続を勝ち取るまで全力を傾ける。
(2) 法科大学院生に対する経済的支援の充実
先にも述べたように、今日の法曹志望者の減少をもたらしている一因は法科大学院の学費と就学中の生活費などに多額の経済的負担を要することにあるものと考えられる。日弁連は2010年5月の定期総会決議において、給付制奨学金の創設、貸与制奨学金の返還免除の拡充、授業料減免制度の拡充などの法科大学院生に対する経済的支援策を充実させることを求めた。日弁連の働きかけによって文部科学省の2011年度概算要求にはこれに沿った予算要求が盛り込まれたが、このような措置は見送られた。日弁連は今年度の活動においても、このような法科大学院生に対する経済的支援の充実を強く求めていくものである。
3 法曹養成制度の陥っている悪循環を克服する
(1) 法曹養成に関するフォーラムへの取り組み
日弁連はこれまでも「新しい法曹養成制度の改善方策に関する提言」(2009年1月16日)、などの提言を行ってきたが、2010年12月には内閣に対して法曹養成制度の改善のため、その検討機関の早急な立ち上げを求めた。これを受けて近く政府内に法曹養成に関する「フォーラム」が設立される予定であり、ここでは法曹志望者に対する経済的支援のあり方、法曹養成制度のあり方、法曹人口について議論がなされることとなっている。日弁連はこのフォーラムに向けて本年3月27日に「法曹養成制度の改善に関する緊急提言」をとりまとめたところである。今後も、このフォーラムに意見や資料を提供するとともに、法曹養成制度の改善に広く市民の理解を得るための活動に取り組む必要がある。
(2) 法科大学院の定員削減・教育体制の充実
今日の法曹養成の悪循環の大きな原因が、法科大学院の乱立とその定数があまりにも多数であることにあることは明らかである。法科大学院の自主的な定員削減は進んでいるものの未だ十分とはいえない。日弁連は全国適正配置の観点を踏まえつつ、法科大学院の統廃合を含めた方策を通じた大幅な定員削減を求める。
また、法科大学院が法曹養成制度の中核にふさわしい教育体制を整備し、基本的な履修科目に関する到達目標の設定、臨床法律科目の充実、未修者教育への配慮・工夫を行うよう求めていく。
(3) 司法修習における集合的修習の実施
日弁連内のみならず、法曹関係者の中には司法研修所における前期修習の復活を望む声が強い。法科大学院における実務導入教育にばらつきが見られる現状では、司法修習の開始時に何らかの集合的修習が必要であることは司法修習関係者の等しく認めるところである。法科大学院教育と司法修習との連携のためにも、司法修習の一環として実務修習の開始前に法曹三者による集合的修習を実施することが必要である。また、日弁連は法曹の資質の向上のため、日弁連主催の司法修習前研修(事前研修)を拡大充実することに努めていく。
(4) 受験回数制限の緩和
法科大学院修了生の司法試験受験回数は5年間で3回までに制限されている。司法試験合格率が当初の想定を大幅に下回っている状況で、この回数制限は受験生の受け控えなど、受験現場に歪みを生じさせており、現在の回数制限に合理性があるかどうか疑問である。少なくとも当面は5年間に5回の受験を認めるなど、受験回数制限を緩和すべきである。
(5) 予備試験制度について
予備試験制度が2011年度から実施される。この制度については経済的事情などの理由により法科大学院を経由できない者について法曹資格取得の途を確保するという制度趣旨に沿って、法科大学院を中核とする法曹養成制度の理念を損ねることのないよう運用されるよう求めていく。
4 就職難・OJT不足の解消と業務基盤の拡充
(1) 就職難・OJT不足の解消に取り組む若手法曹サポートセンター
法曹人口の増加に伴い、司法修習終了予定者の就職は年々困難を極めている。日弁連は2010年夏に若手法曹サポートセンターを立ち上げた。同センターでは、司法修習終了後の弁護士としての経済的な自立のため新人弁護士の採用拡大と開業支援、そして法律事務所の先輩によるオン・ザ・ジョブ・トレーニング(実務を通じての研修。以下「OJT」という。)のないままに実務に取り組む若手法曹に対して、チューター制度を創設するなどの取り組みを実施している。
さらに、「法の支配」の徹底した社会を構築していくために、企業・官公庁・自治体・政策秘書、国際司法分野などへの活動領域の拡大について、弁護士会の自助努力の枠を超えてその法制度化を含めて取り組んでいく。
(2) 業務基盤の拡充
就職難などの問題を抜本的に解決するためには弁護士の業務基盤を拡充していくことが重要である。そのためには、第1に民事法律扶助等の司法予算の拡大、第2に権利保護保険の拡充による業務の拡大への取組み、第3には民事司法の改革によって市民に身近で頼りがいのある司法を構築するとともに、弁護士の業務範囲を質量ともに拡大していくことが重要である。日弁連はこれらの諸活動に取り組み、弁護士の業務基盤の拡充に努める。
第4 法曹人口の急増政策を改め、司法試験合格者を減少させ、法曹人口の増加スピードの逓減を図るべきである
1 法曹人口政策会議の立ち上げ
市民に対し良質な法的サービスを提供することは、弁護士・弁護士会の責務である。被疑者国選弁護制度の実施や弁護士過疎・偏在対策などの新たな政策は、これを担うことのできる十分な法曹の存在なしには達成できなかったものである。しかし、法曹を目指す有為な人材が減少していることは前述したとおりである。法科大学院修了生の中に実務修習を円滑に実施できる程度の能力が十分に身についていない者がみられる。さらに、新人弁護士の一部についてOJTの機会が不足している。このような実情を踏まえ、日弁連は2010年8月に全理事、弁護士会連合会代表など140名の委員からなる法曹人口政策会議を立ち上げ、精力的に意見交換を積み重ねてきた。
2 司法試験合格者数のさらなる削減を求める
同会議のとりまとめに基づき、日弁連は本年3月27日の理事会において、司法試験合格者を相当数削減することを求める意見をとりまとめた。
我々は法曹人口の減少を求めているのではなく、行き過ぎた急増の修正を求めているに過ぎない。現状の毎年2000人というペースで司法試験合格者が出る場合、法曹人口は約30年後に約8万人で平衡に達する。仮に今後の司法試験合格者を1500名に減少させたとしても、現在3万人の法曹人口は30年後には約6万人に達する。現実の司法需要を超えて法曹人口が過剰となり、またOJTが不足した場合、法曹の質を低下させ、その影響は司法の利用者である市民に及ぶことは避けられない。法曹人口増加をペースダウンさせるこの政策は現状に即した合理的なものであり、必ずや市民の理解が得られるものと確信する。日弁連はこの政策の実現のために、市民や報道機関、国会議員などとの対話を深め、この政策の実現を重点課題の一つとして取り組む。
第5 えん罪を生み出さない刑事司法への改革を
1 はじめに
司法改革によって導入された裁判員制度に多くの市民が参加している。足利事件、布川事件、名張事件、厚労省元局長無罪事件とこれに引き続く検察官による証拠改ざん事件などによって深刻な誤判、えん罪の実情が明らかにされた。このような事態は、市民の刑事司法制度のあり方に対する関心を飛躍的に高め、2010年11月4日、「検察の在り方検討会議」を発足させた。えん罪の起きない刑事司法を目指すことは大きな国民的合意となっており、刑事司法の全面的な改革に向け、日弁連は取り組まければならない。
2 待ったなしの取調べの可視化(取調べ全過程の録画)と検察官手持ち証拠の全面開示
2010年12月24日、最高検察庁は、厚労省元局長無罪事件に関する検証結果報告書を公表した。
この報告は、検察による逮捕・起訴の過程に問題があったことを認めたものの、事実関係の究明においても内部調査の限界を露呈しており、再発防止策としても極めて不十分なものであった。
検察の在り方検討会議は本年3月31日に提言「検察の再生に向けて」を公表した。同会議には、過去の多くのえん罪事件や厚労省元局長無罪事件のような悲劇を二度と起こさないために、世界の多くの国で既に実施されている取調べ全過程の録画の制度化に向けた明確な提言が求められていた。しかし、提言の結論に、この点が盛り込まれなかったことは遺憾である。他方で、取調べの録音・録画について、今後、より一層その範囲を拡大するべきであるとされ、とりわけ、知的障がいなどコミュニケーション能力に問題のある被疑者や特捜事件については全過程を含む広範囲の録音・録画を行うことが盛り込まれた。日弁連はこの提言を受け、供述弱者や特捜事件を手始めに検察における取調べの全過程の録画を推し進め、今後設けられる新たな検討の場における最終答申を待たずして、まず取調べの可視化の制度化を先行することを政府に強く求める。
3 検察官倫理の制定と検察官に対する懲戒制度の整備
この提言は、「有罪判決の獲得のみを目的とすることなく、公正な裁判の実現に努めなければならない」という検察官の基本的使命を示すとともに、検察官について策定されるべき職務に関する基本規程についても、「誠実に証拠を開示するべき」ことなど、その方向性を示している。その具体化にあたっては、実効性を持たせるために、既に世界各国で定められている検察官の倫理規程を参考に、検察官の具体的な行動規範を示す職務基本規程として策定すべきである。
検察官適格審査制度は永年にわたって十分に機能してこなかった。弁護士会の懲戒制度などにならって、職務基本規程に違反した検察官を適正に処分する懲戒制度や外部監察制度などを早急に整備することも必要である。
4 えん罪原因究明のための独立機関の設立
日弁連はえん罪の発生原因を究明する第三者機関を政府から独立した機関として設置する必要性を訴えてきた。本年1月の理事会では、このような機関を国権の最高機関である国会あるいは内閣に付属させることを求める意見が採択された。繰り返されるえん罪の反省を言葉だけで終わらせることなく、今こそ、えん罪を繰り返させないための具体的な方策として、独立調査機関の設立を強く求める。
5 すべての身体拘束者に対する逮捕直後からの国選弁護の実現
20年に及ぶ当番弁護士活動の成果の上に立って、2009年5月から被疑者国選弁護制度が第2段階に拡大された。国選弁護事件の報酬基準については、これまで6回にわたり大きな改正がなされてきたものの、いまだに労力に見合った報酬というにはほど遠い状況にあり、適正な報酬・費用を実現する活動は継続されなければならない。残された制度課題は、必要的弁護事件に限定されている被疑者国選弁護制度の対象事件の身体拘束全事件への拡大と勾留決定前(逮捕段階)の公的弁護制度の実現の2点である。
2010年12月の国選弁護シンポジウムではこの問題を集中討議した。弁護士会側の対応態勢は、この間の弁護士人口の急激な増加もあって整いつつあり、被疑者国選弁護制度の対象を身体拘束全事件に速やかに拡大すべきである。また、逮捕段階への拡大については、その制度主体のあり方と当番弁護制度との関連など細部の制度設計を固めて法改正を求めて行く。
6 全面的な国選付添人制度の実現
2007年の少年法「改正」で、裁量的国選付添人制度が導入されたが、その対象事件は、重大事件に限定されている。日弁連は、2007年11月の人権擁護大会決議で、全面的な国選付添人制度の実現を求めた。さらに、2008年12月の臨時総会において、「少年・刑事財政基金」の創設を決定し、全面的国選付添人制度の実現まで少年保護事件付添援助制度事業の財源を確保することとした。
2009年5月から被疑者国選弁護制度の対象事件が拡大され、捜査段階では多くの事件について国選弁護人が選任されるようになったが、国選付添人制度の対象事件は重大事件に限定されたままであり、国選弁護人が付されて家庭裁判所に送致された少年事件の多くで国選付添人が選任されず、弁護の空白が生じる事態となっている。家庭裁判所送致後の付添人については、日弁連から法テラスへの委託援助制度によってまかなわれ、このために日弁連は年間約7億円の会費を投じている。全面的な国選付添人制度の実現は、約10億円の国費によって実現可能であり、緊急課題として取り組みたい。
7 裁判員制度の定着と3年後見直しに向けて
2009年5月から実施された裁判員制度は、市民の間に定着しつつあり、また、調書裁判・自白中心主義といわれてきた刑事裁判を、裁判員裁判対象外の事件も含め、変貌させつつある。他方で一定の事件の量刑が非常に重くなっているのではないか、必要な公判審理期間が保障されていないのではないかなどの疑問も提起されている。
日弁連は、裁判員裁判の運用状況や各地の事例に関する情報を収集・分析し、「裁判員裁判に関する経験交流会」を企画・実施し、有効な弁護活動を展開していくための成果を会員ホームページにおいて定期的に提供している。また、法廷で裁判員が「見て、聞いて、わかる」弁護を実現するための研修を実施してきた。最近の無罪判決や弁護側に有利な量刑判決などの成果はこのような地道な活動の成果であると評価できる。
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の附則第9条には、裁判員制度施行3年経過後に必要な検討を行うとされている。日弁連では2010年7月にこの見直しのための小委員会を裁判員本部のもとに設置し、刑事関係の委員会から幅広い委員の参加を得て、議論を深めている。
2011年度には、裁判員制度と公判前整理手続の実態の検証に基づいて制度改善のための意見をとりまとめ、その実現のための活動を強める。
8 今こそ人質司法の打破を
今日のえん罪事件での虚偽自白発生の根本原因は、起訴前の保釈なき長期勾留と長期間・長時間継続される代用監獄での取調べにある。可視化の実現は、虚偽自白を防止するための対策の第一歩ではあるが、その効果は万能ではなく、人質司法を打破するための取組みを強める必要がある。そのために、日弁連は、権利保釈除外事由を厳格化し、起訴前の保釈を実現すること、勾留に代わる出頭等確保措置制度の導入、代用監獄制度を廃止し、勾留決定後の拘禁場所を拘置所に移し、長期間・長時間に及ぶ捜査機関の取調べを規制し、弁護人の立会いを実現することなどを求めてきた。また、日弁連は、保釈における貧困を理由とする差別を解消するために、立法措置を採ることなく実現可能な保釈保証制度の創設を推進してきた。立法課題については、新たな国民的な討議の場を設けて改革案を討議する仕組みが必要である。
日弁連はまず取調べの可視化を実現させ、その次のステップで刑事司法制度の全面的な改革の実現を目指し、その実現のための会内の組織体制の確立を図る。
第6 市民とともに人権保障の制度的改革を
1 日弁連が直面する人権課題
(1) 格差社会の中で
今日、「9.11(アメリカ同時多発テロ事件)」後のテロ対策の名の下に監視社会化が強められ、人身の自由や表現の自由など人権保障の基本原則を脅かすような事態が日本ばかりでなく世界各国で発生している。またセーフティネットの構築を図ることなく規制緩和を進めてきた結果、格差社会が進行し、非正規雇用が増加し、深刻な貧困問題の解決が大きな社会的課題となっている。経済的な格差によって子どもたちの進路までが左右されるような事態は重大な人権問題である。
(2) 両性の平等と男女共同参画
夫婦同姓を強制している現行民法の規定は、個人のアイデンティティや多様な生き方を尊重するものではなく、国際的な動向にも適合していない。国連からも再三の勧告を受けている選択的夫婦別姓、婚外子差別や婚姻可能年齢の差別の撤廃等が可及的速やかに実現されるよう、民法(家族法)改正は重要課題である。離婚後の子どもの親権については、子どもの最善の利益の観点からの議論がさらに深められるべきである。さらに、男女差別賃金の是正等の職場における実質的男女平等の実現、セクシャル・ハラスメント、ドメスティック・バイオレンス(DV)その他の女性に対する暴力について、その防止及び被害救済の充実、支援弁護士の研修の充実等を目指す。
また、会内においては、地域における女性弁護士偏在の解消等を含む男女共同参画推進基本計画における2012年度までに取り組むべき12の施策を推進するとともに、取組み状況の検証と見直しを行っていく。
(3) 子どもの人権保障
子どもの権利条約に基づく人権保障に取り組んできたが周知が進んでいないことから、子どもが権利の主体であること、成長発達権や意見表明権を有することなどを明記した「子どもの権利基本法」の制定を目指す。さらに教育、児童福祉、少年司法などのあらゆる分野において、子どもの人権保障が全うされる社会を実現するための活動に取り組む。
親権制度の見直しに伴う制度運用の工夫や周知、子どもの代理人制度、未成年後見制度、司法面接などについて速やかに検討を進める。
(4) 高齢者・障がい者が安心して主体的に暮らす社会を目指して
日弁連は、障がい者の権利条約の早期批准と共生社会を目指す障害者基本法の制定に強く関与してきたが、2010年12月にとりまとめられた「障害者制度改革の推進のための第二次意見」は、当事者参加のもとで策定された画期的な内容を持つものであった。日弁連は本年2月に同意見に沿った障害者基本法の改正を強く求める会長声明を発している。今後もこれらの活動を継続するとともに、要介護高齢者や、障がい者の「地域で暮らす権利」を保障するため、所得保障、医療、住まい、防災など生活全般に関する地域の特性と当事者のニーズに応じた、公的責任における総合的・継続的支援と体制の整備に取り組む必要がある。
また、最高裁判所提案の「後見制度支援信託」に対抗しうる成年後見制度の改善提言、高齢者虐待防止法をより実効あるものとするための公的支援の強化、障がい者への虐待を防止する法律の制定、罪を犯した高齢者や障がい者に対する公的責任における福祉的支援などの権利擁護制度の実現を目指すものである。
さらに、障害者自立支援法の速やかな廃止及び、これに代わる新たな総合的障がい者福祉法制の整備を求めていく。
(5) 犯罪被害者の支援に取り組む
犯罪被害者が被害を受けたときから再び平穏な生活を営むことができるようになるまで、必要な支援が途切れなく受けられるようにすることを目指し、被害回復を求める権利、物質的・精神的・心理的・社会的支援を受ける権利のための制度の充実を求める。
(6) あらゆる少数者への差別の撤廃
外国人、難民、民族的少数者、性的マイノリティなどのあらゆる少数者に対する差別をなくし、これらの人々に対する社会的な支援を充実していくことは大きな課題となっている。
外国人について、定住外国人の地方参政権、公務就任における国籍条件の見直し、難民認定手続の適正化等も急務である。
(7) 消費者被害の根絶を目指して
日弁連は、悪徳商法等から消費者の権利を守り、消費者が、その消費生活のすべての場面で、安全及び公正を求める権利が保障され、その実現に参加できる権利を確立するため活動を続けてきた。また、消費者庁・消費者委員会や国民生活センターに弁護士を送り、その活動を支えてきた。しかしながら、特に地方消費者行政の拡充については前進が認められない状況にあるなど期待した成果が十分表れていない。日弁連は、消費者被害のない安全で公正な社会、消費者目線に徹した消費者行政を実現していくために、新たに発足した消費者庁・消費者委員会の活動を厳しく監視していく必要がある。
また、2010年6月にはグレーゾーン金利の廃止を含む上限金利規制や総量規制を盛り込んだ改正貸金業法の完全施行が実施され、多重債務問題解決の大きな一歩を踏み出すことができた。
政府から提起されている国民生活センターの業務・事業の見直しについては、消費者委員会が、国及び地方自治体の消費者行政をさらに強化する観点から、地方消費者行政関係者や消費者の意見を踏まえて審議を尽くしたうえで、最終的には国会における慎重な審議により方針を決定すべきである。
(8) 環境保護と安全な医療
地球温暖化や生物多様性への脅威など、世界規模での環境問題は人類の生存をも脅かしかねない危機をもたらしており、CO2排出を確実に削減させる地球温暖化対策の確立と新たな公害被害の発生と環境破壊を防止するためには、予防原則に立った環境政策と実効性ある環境影響評価制度の実現が不可欠である。昨年も公害対策・環境保全委員会は多くの意見をまとめ公表したが、2010年10月の人権擁護大会ではシンポジウム「廃棄物公害の根絶をめざして」を開催した。
本年3月11日に発生した東日本大震災により、東京電力福島第一原子力発電所では、放射性物質が環境中に放出される深刻な事故が発生した。日弁連はこの事故による被災者に対して十分な支援と補償を行うことを求めるとともに、原子力発電所に頼ってきた従来のエネルギー政策を抜本的に見直し、エネルギーの消費削減と再生可能エネルギーなど他のエネルギー源への転換を速やかに図りつつ、原子力発電所の新増設を停止し、既存の原子力発電所については電力需給を勘案しつつ、危険性の高いものから段階的に停止することを求める。
また、患者の権利を確立し、医薬品被害の防止など安全で質の高い医療を実現することは重要な人権保障の課題である。
(9) 憲法と平和の問題に取り組む
上述の人権擁護大会では核兵器廃絶を求める宣言を採択した。今後とも憲法改正問題や日米地位協定、沖縄などに集中する米軍基地をめぐる人権問題などの憲法と平和の問題にも法律家集団として取り組む。
2 人権の視点から刑罰制度の在り方を見直す
(1) 死刑制度の存廃について国民的議論を
日弁連は政府に対し、死刑廃止を前向きに検討することを求めている国連機関・人権条約機関による勧告を誠実に受けとめ、死刑の執行を停止し、死刑制度の存廃について国民的議論を行うべきだという見解を公式に示している。
最近では2010年12月に国連総会で死刑の停止を求める決議が賛成109、反対41、棄権35で可決された。2009年中に死刑を執行した国はわずか18か国である。国際人権保障のシステムを強く支持してきた日弁連は、死刑制度について国際社会からの問題提起にも真摯に応えなければならない。日弁連は本年の人権擁護大会において死刑制度を含む刑罰制度の在り方について取り上げる。これを契機に死刑制度について国民的な議論を喚起し、その前提として死刑執行停止の法制化の実現に取り組む。
(2) 刑事被収容者処遇法の見直しを
本年は2006年施行の刑事被収容者処遇法の附則に定められた法制度等の見直しの時期に当たる。日弁連は2010年11月17日に「刑事被収容者処遇法『5年後見直し』に向けての改革提言」をまとめた。日弁連はこの提言の趣旨に則り、外部交通、独居拘禁、医療、死刑確定者の処遇などをはじめ被拘禁者から不服の集中している問題を中心に法制度の改正を目指していく。また、日弁連は同年12月17日に「無期刑受刑者に対する仮釈放制度の改善を求める意見書」として、仮釈放が著しく困難となっている無期懲役受刑者の仮釈放制度の改善と刑余者の社会復帰支援の充実などについても意見をとりまとめているが、その実現を求めていく。
3 市民と共に「人権行動宣言」の着実な実現を目指す
人権のための行動宣言2009(以下「人権行動宣言」という。)について、2010年度には、これを解説した書籍を発行し、人権擁護大会時に初の試みとして「人権関連委員会委員長会議」を開催した。
この宣言が「行動宣言」と名付けられているのは、弁護士会は意見書や決議・宣言を発表するだけでなく、このような新たな人権課題に果敢に挑戦し、広く市民へ呼びかけ市民の共鳴・共感を得て、市民とともに弁護士・弁護士会自らが人権保障の確立と発展のために行動することを明らかにするためである。日弁連としては、本年1月に立ち上げた「人権行動宣言推進会議」を軸として、人権行動宣言の達成度と解決すべき課題を定期的に検証していく。
4 人権の制度的保障を担保する国際人権保障システムの確立を
日弁連は人権保障のシステムを国際人権水準に沿い、漸進的であっても持続的に人権状況の改善を実現していくことができるシステムへと改革するため、3つの制度的保障を確立することが喫緊の課題であると考える。
第1の課題は、「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」に準拠し、政府から真に独立し広範な人権侵害に対応できる国内人権機関を早期に設立することである。日弁連は既に要綱を公表しているが、2010年6月には法務省からも、この機関を内閣府に置くことを検討するという注目すべき見解が示されている。日弁連は法務省など関連機関と協議を継続して早期の設立を期したい。
第2の課題は、自由権規約、女性差別撤廃条約の選択議定書など、国連人権条約に基づく個人通報制度の実現である。この問題についても外務省内に対応組織が立ち上げられるなど注目すべき進展がある。日弁連としてはできる限り早期の批准を目指したい。
日本の人権状況を根底から改善していくためには、この2つの課題を早期に実現していくことが、極めて重要である。
第3の課題は、あらゆる拘禁施設の定期的な訪問のための国際機関である国連拷問防止小委員会と国内拷問防止メカニズムの協同システムの構築を求める拷問等禁止条約選択議定書の批准である。日弁連は、日本政府にこの議定書の批准を求め、新たに設立が求められている国内人権機関と刑事・留置施設、入管施設、さらには少年拘禁施設に設置され、あるいは設置される予定の各視察委員会との協同による国内拷問防止メカニズムの設立を目指す。
5 国際人権機関からの勧告の実現
国際人権基準から乖離しているわが国の人権状況を改革するため、自由権規約委員会が2008年10月に発表した総括所見と勧告など、国際人権機関の勧告内容の実現に取り組む。
6 様々な利益が対立する領域に関する課題
(1) 地域主権改革とナショナルミニマム
できるだけ地方自治体で住民の生活に関することを決めようという地域主権改革は、地方自治の理念に沿うものといえるだろう。しかし、その地方自治体では住民の生活に直結する部分が切り下げられ、結果としてナショナルミニマムの切り下げにつながるという懸念が噴出している。非常に広範な事項を取り扱う法律案に関する議論であり、日弁連では様々な委員会がこの難問に取り組んできた。日弁連として全体像を描くには至っていないが、一定の基準を定立し、一つひとつの問題が地域主体で決めることが適切か、国の基準に留保すべきかの議論を積み重ね、ナショナルミニマムの切り下げにつながらない地域主権改革の方向性を明らかにしていく。
(2) ハーグ条約に対する対応
この条約は国境を越えて突然子どもを連れ去られたら、一旦元の国に戻して親権・監護権の在り方を決めるという考え方に立っている。しかし、国際結婚をした日本人妻が子どもを連れて日本に帰る場合には、夫の妻子へのDVという難しい問題が内在することが少なくない。このような中で、欧米諸国からの締結に向けた圧力は強まるばかりである。そして条約を締結した場合も、DVや子どもの権利について十分考慮された実務を定着させなければならない。日弁連は本年2月の理事会で、締結に際して必要とされる検討事項を明らかにした意見書を採択した。懸念される弊害の発生を最小限に留めるための国内手続を定めた国内法を制定し、条約締結に伴う問題点を乗り越える方策を検討し、その提案をしていく。
第7 市民から信頼される弁護士活動の確立と業務妨害対策の強化
1 市民の信頼は確実な業務の積み重ねから
弁護士に対する市民の信頼の根源は、弁護士倫理に則った日常の業務処理の積み重ねと、懲戒、紛議調停事件などの公正な処理である。これらの営みは弁護士自治の根幹でもある。
2 債務整理事件についての新規定の制定
日弁連は本年2月の臨時総会において債務整理事件について新たな職務規程を制定し、受任の際の個別面談・事情聴取義務及び報酬の上限規制などを導入した。一部の弁護士による業務処理と高額報酬に対する市民からの苦情の増加に対応したものである。この規程の実効性を確保し、弁護士業務に対する市民の信頼を確実なものとするように努める。
3 弁護士研修の充実
国際化・多様化・複雑化が進行する社会において、市民の求める多様な法的サービスに十分応えるべき質を確保することが、我々弁護士に求められている。日弁連は弁護士の大量増員という状況を踏まえ、新人に対するOJTだけでなく、弁護士全体の弁護士倫理及び専門研修等の弁護士研修の更なる充実に取り組む。
4 隣接士業問題への的確な対応
隣接士業と弁護士の関係については、弁護士が法律事務を独占し、あらゆる法的ニーズに応える責任があること、市民ないし利用者にとってどのような制度が最も利益にかなうかとの視点から政策を組み立てる必要がある。
そのような視点から、日弁連は認定司法書士の制約なき相談権、行政書士の行政不服審査手続における一般的な代理権などの、隣接士業によるさらなる権限拡大要求は、市民ないし利用者の利益に沿うものではないとし、これに反対していく。
5 国際交流活動の促進など
国際化時代を迎える司法の中で、国際交流活動、国際人権活動を担う人材を育成するため、他国の弁護士会や国際法曹団体との交流をより一層促進する必要がある。日弁連は外務省、法務省などと協力し、2010年8月に3日間にわたり「国際分野のスペシャリストを目指す法律家のためのセミナー」を開催し、多くの弁護士・司法修習生・法科大学院生の参加を得た。
また、外国法事務弁護士等にかかる新法人制度の法制化の動きを受けて、日弁連は会則・会規の適切かつ迅速な整備の準備を終えている。しかし、同法案は国会情勢の影響から提出が遅れており、2011年通常国会にも国会提出が見送られる見通しである。
IP(インターナショナル・パートナーシップ)については、その必要性と我が国の弁護士制度に与える影響を慎重に見極め、今後の方向性を議論していく必要がある。
6 2件の弁護士殺害事件を受け、業務妨害対策を強める
2010年6月2日には、横浜弁護士会所属の前野義広弁護士が事務所で、同年11月4日には秋田弁護士会所属の津谷裕貴弁護士が自宅で、いずれも受任していた離婚事件の相手方から刺殺されるという痛ましい事件が発生した。このように近年、弁護士が依頼事件の相手方などから攻撃を加えられる事例が跡を絶たない。
弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命としている。弁護士に課せられているこのような使命は、主として個別事件に対する具体的対応をとおして実現されるものである。しかし、このことは、弁護士活動の安全が確保され、自由な弁護士活動を行うことができる環境が前提となるべきである。
弁護士が、受任事件に関連して、その相手方などから生命・身体に危害を加えられることは、弁護士制度及び司法制度に対する重大な挑戦であり、日弁連は、このような凶行に、組織を挙げて立ち向かうとともに、事務所や自宅のセキュリティの向上など弁護士業務妨害の排除と予防策の徹底に取り組む。
第8 日弁連事務局機構の強化と働きやすい職場環境の整備
日弁連の諸活動は約130の委員会・ワーキンググループ等、約5000人の委員、約200人の職員、約70人の弁護士嘱託によって担われている。会務の基本は、弁護士委員の自発的な活動と事務局の献身的な職務によって支えられている。また、会務は3万人を超える会員の会費によって運営されており、その視点から経費の節減、会内組織の合理化に取り組み、会内に新たな組織を作るときには他の組織の統廃合を条件とするなど、組織の肥大化を防ぐ措置を講じてきた。また、2010年度は任務の重なる組織の統合を進め、任務に区切りのついた組織を関連組織に統合するなど組織の合理化に努めた。
また、一定の部署で職員の長時間にわたる時間外労働が常態化するなど、その健康への影響が危惧されたため、2010年度は「計画的ノー残業デー」制度を導入し、時間外労働を大幅に削減することができた。
日弁連で働く弁護士嘱託の採用につき、近時は可能な場合には公募を行うようにし、透明化に努めている。
今後とも会務の無駄を是正し、経費を切り詰めるとともに、今般の大震災に伴う復興支援や法曹養成制度改革などその時々の重点的な政策には思い切った資源が投入できるよう機動的な会組織と会財政を築いていく。