違法な監視カメラの設置に抗議する会長声明

 

 

大分県警が、2016年7月の参議院議員選挙の公示前後、同県別府市にある野党支援団体の選挙対策事務所の敷地内にビデオカメラを設置する目的で無断で立ち入っていたことが、8月4日の報道により明らかとなった。同県警は、他人の管理する敷地内に無断で入ったことについては謝罪する一方で、カメラの設置目的については「個別の容疑事案で特定の対象者の動向を把握するため」とだけ説明した。


しかしながら、国民には肖像権が保障されており、法律の定めや裁判官による令状がない限り、原則として警察から写真撮影されない権利がある。例外として許されるのは、現行犯的状況があり、必要性・相当性を満たす場合(最高裁昭和44年12月24日判決)や、重大犯罪の嫌疑が濃厚な被疑者の人定に必要な限度で、公共の場所等で特定の個人を対象として撮影する場合(最高裁平成20年4月15日決定)等に限定される。


殊に、宗教施設や政治団体の施設等、個人の思想・信条の自由を推知し得る施設に向けた無差別撮影・録画は、原則的に違法である。このことは、労働運動等の拠点となっている建物に向けた撮影・録画を前提とせずに単なるモニタリング(目視による監視)の目的で設置されただけの大阪府警の監視カメラの撤去を命じた大阪地裁平成6年4月27日判決(その後、最高裁で確定)からも明らかである。


報道によると、本件の被疑事実は、特定公務員による選挙運動という公職選挙法違反(第241条第2号により、長期6月以下の禁錮又は30万円以下の罰金)とされており、殺人・強盗等の重大犯罪ではないことから、大がかりな捜査の必要性があったとは言えない。本件によって、市民の政治活動の自由、表現の自由等、民主主義社会において最も尊重されるべき権利が侵害される可能性を考慮すれば、その弊害は甚大であり、今後このような違法な捜査方法が採られるべきではない。


その後、警察庁は、本年8月26日付けで、監視カメラを用いた捜査を任意捜査として、必要な範囲において、相当な方法であれば許されるという趣旨の「捜査用カメラの適正な使用の徹底について」と題する通達を発出した。


上記通達は、憲法で保障されるプライバシー権、表現の自由等を侵害する捜査方法を捜査機関の判断で自由に行うことを可能にするものであり、警察実務において人権侵害を日常化するおそれがあるから、撤回されるべきである。


当連合会は、2012年1月19日付け「監視カメラに対する法的規制に関する意見書」において、監視カメラの設置は、法律により事前に定めた要件の下でしか許されるべきではなく、捜査目的で利用する場合には、令状主義の理念に沿った実効的な規制を行う法律を制定すべきことを指摘した。


したがって、当連合会は、今般の監視カメラの設置が明らかに違法であることを指摘し、抗議するとともに、あらためて監視カメラの設置・運用に対する法律を定めるべきことを表明する。


 
       

 2016年(平成28年)9月14日

             日本弁護士連合会
           会長 中本 和洋