東住吉事件再審開始に関する会長声明

 

本日、大阪高等裁判所第4刑事部は、いわゆる東住吉事件に関する再審請求事件(請求人朴龍晧氏及び青木惠子氏)について、2012年(平成24年)3月7日に大阪地方裁判所第15刑事部が行った再審開始決定を維持し、検察官の即時抗告を棄却するとともに、請求人両名の刑の執行を本年10月26日午後2時から停止する旨の決定をした。

 

本件は、1995年(平成7年)7月22日、大阪市東住吉区内の家屋で火災が発生し、同家屋に居住する小学6年生の女児が亡くなった事件であり、女児の母親とその内縁の夫が保険金目的による放火殺人の被疑者として逮捕・起訴され、2006年(平成18年)11月から12月にかけて、いずれも現住建造物等放火、殺人、詐欺未遂の罪で無期懲役の判決が確定していた。

 

これに対し、請求人両名は、本件火災は放火ではなく火災事故によるものであるとして、犯人性はもとより、事件性そのものを争っており、2009年(平成21年)7月から8月にかけて再審請求の申立てを行っていた。

 

原審は、再審請求後に新たに実施された燃焼再現実験の結果を踏まえて、請求人朴龍晧氏の自白は、放火方法という自白の核心部分の信用性に疑問があることなどを指摘した上で、新旧全証拠を総合評価した結果、本件放火の直接証拠である請求人両名の自白の信用性には疑問が生じており、自白以外の情況証拠によっても請求人両名を犯人と認定することはできないとして、再審開始を決定した。そして、当連合会も、2012年(平成24年)7月から本件の再審請求を支援してきた。

  

本日の決定は、即時抗告審に提出された車両からのガソリン漏出に関する実例や各種の実験結果、専門家の意見なども踏まえ、車庫内に駐車していた車両の給油口から相当量の液体ガソリンが漏出し、風呂釜種火から液体ガソリン及び気化したガソリン蒸気に引火して本件火災に発展した可能性を指摘し、それは本件火災について認められる客観的な事実や証拠とも整合又は符合するとして、自然発火の具体的な可能性を認めた。そして、このような本件火災原因に関する事実は、請求人朴龍晧氏の自白を裏付け又は支えるものとはいえず、同人の自白に高い信用性を認める前提がなくなったとして、放火したとする同人の捜査段階の自白について高い証拠価値を認める前提が失われたと判断した。その上で、即時抗告審において検察官が実施した燃焼実験の結果や、検察官から新たに開示された取調日誌の内容なども踏まえ、請求人朴龍晧氏の自白には、請求人両名が共謀して放火殺人をした犯人であることを合理的な疑いを容れない程度に認定するだけの証明力がないと判断した原決定の判断を正当なものとして是認した。さらに、請求人両名の自白の採取過程の問題点をも指摘し、請求人両名の放火行為によって本件火災が発生したとの確定判決の有罪認定には合理的な疑いが残るとして、原審の再審開始決定を維持した。

 

このように、裁判所は、即時抗告審に提出された証拠の内容を的確に判断し、火災事故によって本件火災が発生した可能性があることを具体的に指摘するとともに、自白の信用性を否定するのみならず、自白の採取過程の問題点が自白の任意性判断に影響を与える可能性まで指摘しており、検察官の即時抗告から3年以上を要したという点で遅きに失したとはいえ、正義が実現されたことは評価できる。

 

他方、検察官は、即時抗告審において実施した燃焼実験の結果、請求人両名の自白が信用できないことが明らかとなった後も、新たな主張立証を行うなどして請求人両名の有罪立証に固執していた。しかも、即時抗告審において開示された証拠によって新たな事実も判明するなど、検察官による証拠開示の遅れが本件の真相究明を遅らせたことは否定できない。このような検察官の対応は、誠に遺憾である。

 

当連合会は、検察官に対し、本日の決定を尊重して、刑の執行停止決定に基づき請求人両名を釈放するとともに、即時抗告棄却決定に対する特別抗告を断念し、本件を速やかに再審公判に移行させるよう求める。

 

また、当連合会は、今後も請求人両名が再審無罪判決を勝ち取るまで支援を続けるとともに、全ての事件における取調べの全過程の可視化、全面的証拠開示の実現と再審における証拠開示制度の整備、身体拘束制度の抜本的な改善など、えん罪を防止するための制度改革に向けて全力で取り組む所存である。

 

2015年(平成27年)10月23日

日本弁護士連合会

会長 村 越   進