「袴田事件」再審開始決定を契機とする刑事司法改革等に向けての会長談話

 

本年3月、袴田事件第2次再審請求審において、再審開始決定が出され、袴田巖氏は47年7か月ぶりに釈放された。袴田氏、支援者の方々の長年にわたる努力と、当連合会が人権擁護活動の一環として取り組んできた再審支援が実を結んだものといえる。


同事件には、およそ刑事司法における課題が凝縮されているといっても過言ではない。事件発生から今日までの間、代用監獄を利用した密室での連日にわたる長時間の取調べ、供述の任意性、物証やDNA鑑定の信用性等、多くの問題が指摘されてきた。袴田氏が長年死刑執行の恐怖にさらされてきたことや死刑が執行されていればえん罪による死刑執行の可能性があったことなどは、死刑制度に関して明らかになった問題点である。


再審開始決定は、一審の死刑判決でも認めていた長時間の取調べによる自白の強要を認定した上で、弁護側の新証拠である5点の衣類のDNA鑑定と味噌漬け実験、更に第2次再審請求審に至ってようやく開示された証拠によって、捜査当局による多数の証拠のねつ造にまで言及し、かねてから指摘されながら、捜査機関や裁判所が否定し続けてきた問題点が存在することを明確に認定した。また、拘置の執行停止により釈放された袴田氏の現在の姿は、死刑制度に内在する問題点を突きつけている。


当連合会は、代用監獄の廃止、全事件・全過程の取調べの録音・録画等の刑事司法制度の改革とともに、えん罪原因究明のための第三者委員会の設置の必要性等を訴えてきた。また、死刑の執行を停止した上で、死刑の廃止についての全社会的議論を行うことを呼びかけてきたところである。刑事司法に携わる者として、我々は、袴田事件が明らかにしたこれらの課題を重く受け止め、袴田氏の払った犠牲が誰にも繰り返されることのないようその教訓を胸に刻んで、刑事司法の更なる改革に取り組まなければならない。


特に再審請求審の在り方に関しては、袴田事件再審開始決定後の大崎事件第2次再審請求即時抗告審において、新旧証拠を総合評価して確定判決についての重大な疑いが生じていることという白鳥・財田川事件などで示された再審開始の判断基準が活かされず、名張毒ぶどう酒事件第8次再審請求審においては、裁判所が証拠開示請求に応答しないまま判断がなされるなど、袴田事件との違いが際立つものも多い。また、袴田事件の再審開始決定も即時抗告されているが、大崎事件(第1次)、福井女子中学生殺人事件、名張毒ぶどう酒事件(第7次)でも一旦再審開始決定がなされながら、検察官の即時抗告又は即時抗告に代わる異議申立審において合理的理由が示されないまま開始決定が取り消されている。当連合会は再審事件においても全面証拠開示と、再審開始決定に対する検察官の抗告を許さない措置を求めているところであるが、再審事件における証拠開示の在り方等を見直す再審手続の改正は急務である。 

 

第57回人権擁護大会の開催に当たり、当連合会は、袴田事件の再審開始決定を契機として、再審手続を含む刑事司法改革に引き続き全力で取り組むことを決意し、また、死刑の執行の停止と死刑の廃止についての全社会的議論を改めて呼びかけるものである。

 

 


 2014年(平成26年)10月1日

  日本弁護士連合会
  会長 村 越   進