精神科病院の病床を居住系施設に転換することに反対する会長声明

 

厚生労働省は「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会」(以下「検討会」という。)において、精神病床を削減した病棟を入院患者の居住系施設として再利用し、あるいは、精神科病院の敷地内に退院支援施設、地域移行型ホーム等の施設を設置する計画を進めており、第3回検討会(本年6月17日)において「具体的方策の在り方(今後の方向性)」について取りまとめをするとしている。

 

当連合会は、本年2月7日付けの「良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針案に関する意見書」において、病床転換型居住系施設は従前の収容型医療の名前を変えた形だけの地域移行になるおそれがあることを指摘したが、これが具体化されるおそれが高まっている今、改めて、この政策に反対する。

 

本年1月に批准され2月に発効した障害者の権利に関する条約は、障がい者が他の市民と平等の機会をもって地域社会に包容されて社会参加し、自立した生活ができるようにする措置を締約国の義務としている。これに対して、収容型医療の中心的役割を果たしてきた精神科病院の病床の一部を、そのまま居住系施設に転換して入院患者の退院先とする今回の計画は、精神障がい者を地域から分離して生活させる政策を存続させるものにすぎず、同条約が求める「自立した生活及び地域社会への包容」のための締約国としての義務に逆行するものと言わなければならない。仮に病床転換型居住系施設について一時的にあるいは中間的に用いる目的であるとの説明がなされたとしても、国が費用を補助して建設させた多数の精神病床を減少させることが、いかに難航しているかという日本の歴史的経緯に鑑みれば、これが一度整備されれば恒久化されてしまう危険性は否定できない。国費を投じて地域移行を進めるのであれば、端的に地域生活を可能にする住環境の保障や福祉サービスに充てるべきである。

 

厚生労働省が検討会(第2回)に提出した「入院中の精神障害者等に対する意向確認結果」では、退院先が病院の敷地内であったら退院したくないという回答が多数を占め、その理由は、「病院の中は嫌です。」「退院した気にならない。」「病院から離れたほうがいい。」「自由な行動をしたい。」等であった。

 

精神科病院の中には、病床削減を積極的に進め、デイサービスやグループホーム等の各種サービスを地域の中で展開し、病院職員の職域拡大を進めて経営転換を図っている実践が生まれてきており、これこそが精神保健福祉施策の進むべき途である。

 

当連合会は、厚生労働省及び検討会に対し、上記の当事者の意見を真摯に受け止め、障害者の権利に関する条約に基づく締約国の義務に従って、病床転換型居住系施設の計画を撤回し、精神障がい者の地域生活を可能にする住環境の保障と福祉サービスの充実を今こそ抜本的に図るよう改めて求めるものである。



 


  2014年(平成26年)6月6日

  日本弁護士連合会
  会長 村 越   進