生活保護の利用を妨げる「生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める緊急会長声明

 

政府は、本年5月17日、生活保護法の一部を改正する法律案(以下「改正案」という。)を閣議決定した。



改正案には、①違法な「水際作戦」を合法化する、②保護申請に対する一層の萎縮的効果を及ぼす、との二点において、看過しがたい重大な問題がある。



まず、改正案24条1項は、保護の開始の申請は、「要保護者の資産及び収入の状況」その他「厚生労働省令で定める事項」を記載した申請書を提出しなければならないとし、同条2項は、申請書には保護の要否判定に必要な「厚生労働省令で定める書類を添付しなければならない」としている。しかし、現行生活保護法24条1項が、保護の申請を書面による要式行為とせず、かつ、保護の要否判定に必要な書類の添付を申請の要件としていないことと比べて、また、口頭による保護申請も認められるとする確立した裁判例(平成13年10月19日大阪高裁判決、平成25年2月20日さいたま地裁判決など)に照らして、保護申請権の行使に制限を加えるものであることは明らかである。



また、実務の運用においても、厚生労働省は、保護を利用したいという意思の確認ができれば申請があったものとして取り扱い、実施機関の責任において必要な調査を行い、保護の要否の決定をなすべきものとしている。これに反して、保護の要否判定に必要な書類を添付しない場合には「申請不受理」とする取扱いは、「水際作戦」と呼ばれる違法な申請権侵害である。



この点、厚生労働大臣は、5月14日の閣議後記者会見において、「今までも運用でやっていたこと」「を法律に書くというだけの話なので、それほど運用面では変わらないと思います」と述べているが、当該発言は、はしなくも、改正案の目的が、全国の生活保護の窓口においてまん延している、申請権を侵害する違法な「水際作戦」を追認し、合法化することにあることを示すものである。



なお、現行の生活保護法施行規則には、保護申請は書面を提出して行わなければならない旨の規定(2条)があるが、法律による個別の委任に基づかない規定であり、これによって国民の権利を制限し義務を課すことはできないと解されている。



次に、改正案24条8項は、保護の実施機関に対し、保護開始の決定をしようとするときは、あらかじめ、扶養義務者に対して、厚生労働省令で定める事項を通知することを義務付けている。



しかし、現行法下においても、保護開始申請を行おうとする要保護者が、扶養義務者への通知により生じる親族間のあつれきやスティグマ(恥の烙印)を恐れて申請を断念する場合は少なくない。このように扶養義務者への通知には保護申請に対する萎縮的効果があり、これもあって、生活保護の捕捉率(制度の利用資格のある者のうち現に利用できている者が占める割合)が2割程度に抑えられているところ、改正案によって一層の萎縮的効果を及ぼすことが明らかであり、容認できない。



当連合会は、2006年以来、繰り返し生活保護に関する全国一斉電話相談を実施し、「親や兄弟に面倒を見てもらいなさい」「書類が揃わないと申請を受理できない」などの口実で申請を受け付けない、違法な「水際作戦」の被害の個別救済に全力を挙げるとともに、2008年には生活保護法改正要綱案を提言するなどして、その根絶を求めてきた。今般の改正案は、「水際作戦」を合法化するものであり、一層の萎縮的効果を及ぼすことにより、客観的には生活保護の利用要件を満たしているにもかかわらず、これを利用することのできない要保護者が続出し、多数の自殺・餓死・孤立死等の悲劇を招くおそれがある。これは我が国における生存権保障(憲法25条)を空文化させるものであって到底容認できない。よって、当連合会は、改正案の廃案を強く求める。
 

 

2013年(平成25年)5月17日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司