社会保障審議会生活保護基準部会の報告書に基づく生活保護基準の引下げに強く反対する会長声明

 

厚生労働省が生活保護基準の妥当性を検証することを目的として設置した社会保障審議会生活保護基準部会(以下「基準部会」という。)が、本年1月18日に報告書を取りまとめた。その報告書で示された支給水準の検証結果を踏まえ、政府・与党は生活保護基準を引き下げることで合意したと報じられている。



しかし、基準部会報告書は、「厚生労働省において生活扶助基準の見直しを検討する際には、本報告書の評価・検証の結果を考慮し、その上で他に合理的説明が可能な経済指標などを総合的に勘案する場合は、それらの根拠についても明確に示されたい。なお、その際には現在生活保護を受給している世帯及び一般低所得世帯への見直しが及ぼす影響についても慎重に配慮されたい。」としており、安易な生活保護基準の引下げに対して、むしろ慎重な姿勢を示しているのであって、安易な生活保護基準の引下げが行われた場合、その正当性の根拠を基準部会の報告書に求めることはできない。



さらに、基準部会の報告書は、平成21年全国消費実態調査のデータに基づいて世帯員の年齢、世帯人員、居住する地域の組み合わせによって一般低所得世帯(第1十分位)と生活扶助基準を比較検証しているが、報告書にある検証結果の留意事項において、「特定の世帯構成等に限定して分析する際にサンプルが極めて少数となるといった統計上の限界」があり、今回の検証方法が「唯一の手法ということでもな」く、「検証方法について一定の限界があることに留意する必要がある。」としている。また、「現実には第1・十分位の階層には生活保護基準以下の所得水準で生活している者も含まれることが想定される点についても留意が必要である。」として、「今般、生活扶助基準の見直しを具体的に検討する際には、現在生活保護を受給している世帯及び一般低所得世帯、とりわけ貧困の世代間連鎖を防止する観点から、子どものいる世帯への影響にも配慮する必要がある。」と述べ、特に報道にあるような子育て世帯に対して大幅な基準の引下げを行うことについて明確な警鐘を鳴らしているのである。



生活扶助の老齢加算廃止を内容とする保護基準改定の違法性が問われた訴訟において、平成24年4月2日最高裁第二小法廷判決は、厚生労働大臣の「裁量判断の適否に係る裁判所の審理においては、主として老齢加算の廃止に至る判断の過程及び手続に過誤、欠落があるか否か等の観点から、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査されるべきものと解される。」と述べ、原判決(福岡高裁)にはこの点に関する審理不尽があるとして審理を差し戻し、現在、福岡高裁における差戻し審が係属中である。



上記最高裁判決に照らせば、その内容において基準部会の報告書とおよそ整合せず、矛盾する生活保護基準の引下げが行われた場合、厚生労働大臣の判断には裁量の逸脱・濫用があり違法であるとの司法判断がなされる可能性がある。



当連合会は、既に昨年9月20日付けで「我が国の生存権保障水準を底支えする生活保護基準の引下げに強く反対する会長声明」を、昨年11月14日付けで「生活保護制度の『新仕分け』に先立って厚生労働省と財務省の提案の撤回を求め、生活保護基準の引下げに改めて強く反対する会長声明」を、それぞれ発表しているところであるが、改めて生活保護基準の引下げに強く反対するものである。

 

2013年(平成25年)1月25日

日本弁護士連合会
会長 山岸 憲司