罪を犯した人の社会復帰のための施策の確立を求め、死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言

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裁判員制度において、市民が刑事裁判に参加し、事実認定と量刑のいずれについても関与することとなり、死刑を含む刑罰について市民の関心は高まっている。しかし、犯罪とは何か、刑罰とは何かについて、市民の間に必ずしも十分な議論がなされてはいない。「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」(世界人権宣言第1条)にもかかわらず、現実の社会には様々な差別があり、数多くの人々が貧困を強いられ、不合理な制約の下で自由、尊厳、権利を奪われている。そして、ごく軽微な犯罪から、死刑が言い渡されるような重大な犯罪に至るまで、犯罪の背景にはこうした問題が少なからず存在している。犯罪には、様々な原因がある。応報として刑罰を科すだけでは、犯罪を生み出す諸問題の解決には全く不十分であるばかりか、真に安全な社会を実現することもできない。

 

確かに、罪を犯した人にその罪責に応じた制裁を科すことは刑罰の重要な目的である。しかし、今日我が国では、刑罰の目的が応報のみにあるかのように受け止められ、犯罪の背後にある様々な問題から目をそむけ、罪を犯した個人にすべての責任を負わせるべく刑罰を科そうとする風潮が強い。のみならず、近時の犯罪統計によれば、凶悪犯罪が増えておらず、犯罪数自体も減少傾向にあるという客観的な事実が存するにもかかわらず、近年、立法による法定刑の引上げ、刑事裁判における重罰化などの刑事司法全般において厳罰化が進み、その一方では、刑事施設において十分な更生のための処遇がなされず、罪を犯した人が更生し社会に復帰する機会が与えられていない。

 

我が国では、刑罰制度として死刑制度を存置している。死刑はかけがえのない生命を奪う非人道的な刑罰であることに加え、以上述べた更生と社会復帰の観点から見たとき、罪を犯したと認定された人が更生し社会復帰する可能性を完全に奪うという根本的問題を内包している。我が国も批准している国際人権(自由権)規約第10条第3項は、「行刑の制度は、受刑者の矯正及び社会復帰を基本的な目的とする処遇を含む」としている。重大な罪を犯した人も、最終的には社会へ再統合される可能性があることを認め、その更生を視野に入れた効果的処遇を行うことが、国家の責務である。今、我が国の社会に求められていることは、罪を犯した人の更生の道を完全に閉ざすことなく、処遇や更生制度を根本的に改革し、福祉との連携を図り、すべての人々が共生することが可能な社会の実現を目指すことである。

 

かねてより、死刑制度については様々な問題点が指摘されている。すなわち、これまでに4件の死刑判決が再審により無罪となったことからも明らかなように、常に誤判の危険を孕んでおり、死刑判決が誤判であった場合にこれが執行されてしまうと取り返しがつかないという根本的な欠陥がある。さらに、我が国では、死刑に直面している者に対し、被疑者・被告人段階あるいは再審請求の段階に至るまで十分な弁護権、防御権が保障されておらず、執行の段階でも死刑確定者の人権保障の面で多くの問題を抱えている。そして、死刑は人の生命を確実に奪い生命に対する権利を侵害するもので、いかなる執行方法であっても、その残虐性は否定できない。であるからこそ、死刑の廃止は国際的な揺るぎない潮流となっているのである。これらのことを考えるとき我々は、今こそ死刑の執行を停止した上で、死刑の廃止についての全社会的議論を行うべきである。特に、成育環境の影響が非常に強い少年の犯罪について、すべての責任を少年に負わせ死刑にすることは、刑事司法の在り方として公正ではないことに留意するべきである。

 

ここに、当連合会は、国に対し、以下のとおりの施策の推進ないし実現を求める。

 

  1. 刑罰として、不必要な拘禁を行わないための有効な施策を充実させること。
  2. 刑罰として拘禁を行う場合には、社会への再統合を円滑に図るため有効な処遇を積極的に行うべきであり、矯正と保護の連携及び担い手の育成と専門性の確保、自立更生促進センターや就業支援センターの拡充等を図ること。
  3. 有期刑受刑者に対しては、仮釈放を可能な限り積極的に実施し、かつ早期の仮釈放を実現すること。仮釈放後は、社会内における指導の充実化を図ること。無期刑受刑者に対しては、無期刑が終身刑化した現状を打開するため抜本的な制度改革を行うこと。
  4. 罪を犯した人の円滑な社会復帰を支援するため、矯正・保護部門と福祉部門との連携を拡大強化し、かつ、福祉の内容を充実すること。
  5. 罪を犯した人の社会復帰の道を完全に閉ざす死刑制度について、直ちに死刑の廃止について全社会的な議論を開始し、その議論の間、死刑の執行を停止すること。議論のため死刑執行の基準、手続、方法等死刑制度に関する情報を広く公開すること。特に犯罪時20歳未満の少年に対する死刑の適用は、速やかに廃止することを検討すること。
  6. 死刑廃止についての全社会的議論がなされる間、死刑判決の全員一致制、死刑判決に対する自動上訴制、死刑判決を求める検察官上訴の禁止等に直ちに着手し、死刑に直面している者に対し、被疑者・被告人段階、再審請求段階、執行段階のいずれにおいても十分な弁護権、防御権を保障し、かつ死刑確定者の処遇を改善すること。

 

当連合会は、罪を犯した人も、個人の尊厳と基本的人権が尊重され、社会復帰への道が確保されるよう全力で取り組むとともに、死刑廃止についての全社会的な議論を直ちに開始することを呼びかけるものである。

 

以上のとおり宣言する。

2011年(平成23年)10月7日

日本弁護士連合会


 

提案理由

第1 はじめに

2009年5月に裁判員制度が始まり、市民が、犯罪の成否の判断だけではなく量刑の判断にも関わることとなった。裁判員制度開始後1年間の執行猶予判決の7割に保護観察処分がついており、これは執行猶予にはするが何とか被告人に更生して欲しいという裁判員の思いの現れであると指摘されている。また、報道によると2011年7月31日までの間に死刑が求刑された11件について、8件が死刑、2件が無期、1件が無罪となっており、死刑にするかどうかを判断する裁判員の苦悩も指摘されている。まさに我が国は、市民が死刑の判決言渡しの判断にまで関わることを求められる社会になった。

 

しかし、そもそも我々は、市民の司法参加という制度導入の前に、犯罪とは何か、刑罰とは何かについての議論を置き忘れていなかっただろうか。この社会に「生まれながらの犯罪者」はいないのであり、我々は「全ての人間は人間である」(オスロ大学 ニルス・クリスティ教授)ことを決して忘れてはならない。

 

我が国では、刑罰の目的があたかも応報のみにあるかのように受け止められ、犯罪の背後にある様々な問題から目をそむけ、罪を犯した個人にすべての責任を負わせるべく刑罰を科すことで、「解決」しようとする考え方が広がっている。

 

最高裁判所が作成した裁判員向けのパンフレット「裁判員制度ナビゲーション」(2010年9月改訂版)にも、刑罰の目的として「犯罪の被害を受けた人が、直接犯人に報復したのでは、かえって社会の秩序が乱れてしまいます。そこで、国が、このような犯罪を犯した者に対して刑罰を科すことにより、これらの重要な利益を守っています。」と記載されている。

 

しかし、刑罰の目的は応報だけではない。国際人権(自由権)規約は、行刑の制度は、受刑者の矯正及び社会復帰を基本的な目的とする処遇を含むものでなければならないとしており(第10条第3項)、罪を犯した人たちが抱える問題点を克服し、やがては社会の一員として復帰することが目指されている。

 

当連合会は、我が国の行刑の現実を踏まえた問題提起を行い、犯罪と刑罰に関する議論を市民に提示して、共に考えていきたい。

 

2 犯罪の背景

「すべての人間は、生れながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である」(世界人権宣言第1条)にもかかわらず、現実の社会においては、制度上のものと事実上のものとを問わず様々な差別があり、貧困を強いられ、自由、尊厳、権利を奪われ、あるいは不合理に制約されている人々が数多く存在する。ごく軽微な事件から、死刑が言い渡されるような重大な犯罪に至るまで、多くの犯罪の背景には、こうした問題が少なからず存在している。どのような犯罪にも、その原因がある以上、単なる報復として刑罰を科すだけでは、犯罪を生み出す諸問題の解決にはならず、犯罪の根絶を目指すためには犯罪の原因にこそ目を向けるべきである。

 

3 罪を犯した人の更生

  1. 更生とは、罪を犯した人が刑の執行後に普通の市民としての人生を送れるようになることである。罪を犯した人もその尊厳と基本的人権を尊重され、社会内で地域の人々と共生できる環境を実現することは、罪を犯した本人の更生を支え、ひいては犯罪の減少にもつながる。
  2. 「刑務所は治安の最後の砦」といわれ、罪を犯した人が逮捕され裁判を経て最後にたどり着く場所であるとされるが、重罰を科すことによって、罪を犯した人をいたずらに長期間社会から隔離することは、その期間中の犯罪の防止には繋がるものの、一度社会から「犯罪者」という烙印を押されてしまった後には、社会復帰が困難になるという側面がある。
  3. 罪を犯した人の多くは生活困窮状況にあり、高齢者の再入者については窃盗と詐欺(無銭飲食)の割合が高率であることが指摘されている。このような人たちに対しては、住居、就労、医療等の生活全般を見据えた総合的な社会的援助策を講じることが必要なのであり、単なる応報的な刑罰は再犯の防止の上で意味をもたない。
  4. また少年院を仮退院した少年のうち、5%強は家族の元に帰れず、更生保護施設や、住み込みの職場等に戻っている。そこからすぐに飛び出して再犯に至る少年も少なくないと思われる。1%前後はどこに戻ったのかすら統計上明らかになっておらず、その実態は明らかではない。また、法務省の管轄する矯正・保護と、厚生労働省が管轄する児童福祉分野との連携も必ずしもうまくいっていない。少年院を出てから行き先がなくても、養護施設や里親につながるケースはまれである。
  5. 罪を犯した人が犯罪被害者の心の痛みを知り、自らの行為のもたらした結果の重大さを認識することは矯正の場でも必要なことである。ただ、更生するためには自らの罪を自覚し反省するだけでは不十分であり、社会復帰のために、本人の自覚だけではなく、社会の受け皿と支援が必要である。現代における矯正実務においては、再犯防止には、本人の社会適応能力を向上させるような認知行動療法を応用した処遇プログラムが有効であるとされている。
    矯正処遇の本来の目的は罪を犯した人の社会復帰であり、社会復帰を果たすために必要な諸条件を整えることが更生につながり、ひいては再犯を防止し社会に貢献することともなる。そこに矯正本来の使命がある。
  6. 矯正は社会に対して開かれたものでなければならず、矯正処遇の使命と内容を被害者や市民に理解してもらう必要がある。マスコミの報道には、罪を犯した側の情報が極端に乏しかったり、歪曲されている場合も少なくない。このため市民の多くは、罪を犯した人を「自分たちとは違うモンスター」であると思いかねないのであり、様々な問題点を抱え、人間としての弱さをもった加害者像が伝わっていない場合も多い。

 

4 社会への再統合

前述したように我が国も批准する国際人権(自由権)規約は、行刑の制度は、受刑者の矯正及び社会復帰を基本的な目的とする処遇を含むものでなければならないとしている(第10条第3項)。受刑者の処遇は、地域社会からの排除ではなく、受刑者が地域社会に関与し続けることに力点をおくものでなければならず(国連被拘禁者処遇最低基準規則)、また、社会内処遇措置のための国連最低基準規則(東京ルール)は、「加盟各国は、他の選択肢を用意して拘禁処分を減少させ、かつ、人権の遵守、社会正義の要求及び犯罪者の社会復帰上の必要を考慮して刑事司法政策を合理的なものとするために、自国の法制度において社会内処遇措置を発展させるものとする。」として、刑事司法領域における拘禁の使用自体が、最小限にとどまるべきものであることを明らかにしている。刑罰としての拘禁の使用は最小限度にとどめられるべきであり、拘禁が刑罰手段として用いられる場合であっても常に、罪を犯した人の社会への再統合という基本目的の下に処遇がなされるべきなのである。

 

重大な罪を犯した人に対してであっても、最終的には社会へと再統合される可能性があることを認め、その更生のために必要な効果的処遇を行うことこそが、国家の責務である。

 

5 重罰化の問題点

  1. 犯罪白書等の統計資料によれば、殺人や強盗殺人等の凶悪犯罪は、むしろ減少傾向にあるにもかかわらず、マスコミでは凶悪犯罪の報道が繰り返され、「市民の体感治安の悪化」が強調され、厳罰化を求める傾向が、我が国では存在している。
  2. 2004年12月、有期懲役・禁固刑の法定刑の上限の引上げ・傷害罪及び傷害致死罪の法定刑の引上げ等がなされ、2005年4月には、逮捕及び監禁の罪の法定刑の引上げがなされた。また、言い渡される刑も重罰化の傾向が強まり、刑務所収容者が定員を超える過剰拘禁が問題とされるようになった。
    有期懲役・禁固刑の法定刑の上限の引上げは、犯罪対策閣僚会議が2003年12月に策定した「犯罪に強い社会の実現のための行動計画-『世界一安全な国、日本』の復活を目指して」で課題として掲げられたものであり、「今、治安は危険水域にある」とする基本的認識に立脚している。
  3. しかし、国家による刑罰権の行使は、拘禁や生命の剥奪などの重大な人権の制約を伴うものであり、重罰化や犯罪化によって守ろうとしている具体的な法益は何か、その法益を守り、あるいは再犯を防止するために真に必要かつ有効な刑罰・施策であるかなどを、実証的な犯罪情勢の分析から検討しなければならない。「治安の悪化」とされているものが真の実態を反映したものなのか、それとも単なる「体感的」なものにすぎないのかどうか、行動の自由を萎縮させないような明確な規定・基準に基づくものであるかなどを厳しく吟味する必要がある。

 

6 死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける

我が国には、死刑制度が存在しているが、これは犯罪を個人の責めに帰して、刑罰をもって極限的に社会から排除するものである。このような死刑制度は罪を犯した人の更生・社会復帰の可能性を奪うものである。重大な罪を犯した人を、社会から排除することに主眼を置き、場合によっては生命を奪って完全に排除する社会を選ぶのか、それとも、社会の一員として復帰すべく助けるように努力する社会を選ぶのか、真剣に考えるべきときを迎えている。

 

2010年現在の死刑廃止国(10年以上死刑を執行していない事実上の廃止国を含む。)は139か国、死刑存置国は58か国であって、世界の3分の2が死刑を廃止ないしは停止している。死刑存置国の中でも実際に死刑を執行している国は、更に少なく2009年が19か国、2010年が23か国にすぎない。死刑廃止が国際的な潮流であることは明らかである。

 

死刑については、免田事件・財田川事件・松山事件・島田事件という4件の死刑判決が再審により無罪となったことからも明らかなように、常に誤判の危険を孕んでおり、誤判であった場合に死刑が執行されてしまうと取り返しがつかないという根本的な欠陥がある。また我が国では、死刑に直面している者に対し、被疑者・被告人段階あるいは再審請求の段階において十分な弁護権、防御権が保障されておらず、執行に至る処遇の段階でも死刑確定者の人権保障の面で多くの問題を抱えている。

 

これらのことを考えるとき、日本も、人権を尊重する民主主義社会として、今こそ死刑廃止について全社会的議論を開始すべきである。特に、例えば重篤な虐待を受けて育ったために感情のコントロールができなくなったり他者の痛みへの共感性を失ってしまうなど、成育した環境の影響を非常に強く受けて人格形成され、十分な判断力を持たない結果として生じる少年の犯罪について、少年にすべての責任を負わせ死刑にすることは、刑事司法の在り方として公正ではない。

 

なお、ヨーロッパの諸国は、犯罪被害者を手厚く支援し、かつ死刑を廃止している。人権を尊重する民主主義社会にとって、被害者の支援と死刑のない社会への取組はいずれも実現しなければならない重要な課題である。

 

当連合会は、これまで「死刑制度問題に関する提言」(2002年11月)を発表し、「死刑執行停止法の制定、死刑制度に関する情報の公開及び死刑問題調査会の設置を求める決議」(2004年10月第47回人権擁護大会決議)をあげ、「死刑制度調査会の設置及び死刑執行の停止に関する法律(案)」(通称「日弁連死刑執行停止法案」2008年3月)を取りまとめるなど、死刑執行停止へ向けた具体的な活動を行ってきた。

 

また2008年10月国際人権(自由権)規約委員会は総括所見において、日本に対し「締約国は、世論調査の結果にかかわらず、死刑の廃止を前向きに検討し、必要に応じて、国民に対し死刑廃止が望ましいことを知らせるべきである。」等の勧告を行い、当連合会も、「日本政府が、委員会の勧告を誠意をもって受けとめ、その解決に向けて努力することを強く求めるとともに、その実現のために全力で努力していく所存であることをここに表明するものである。」との会長声明を発表した(「国際人権(自由権)規約委員会の総括所見に対する会長声明」2008年10月31日)。さらに当連合会は、2009年11月、今後の人権擁護活動の指針として「人権のための行動宣言2009」を策定し、この行動宣言において、「死刑をめぐる人権」について、「政府に対し、死刑廃止を前向きに検討することを求めている国連機関・人権条約機関による勧告を誠実に受け止めるよう働きかける」と述べ、「日本弁護士連合会基本政策集」においても同様の課題を掲げている。

 

以上の活動を踏まえ、当連合会は、死刑のない社会が望ましいことを見据えて、死刑廃止についての全社会的議論を直ちに開始することを呼びかける必要がある。

 

7 提言

これまで述べてきたとおり、今、私たちの社会に求められていることは、罪を犯した人に対する向き合い方を根本的に転換し、刑事司法と福祉の連携を図り、すべての人々が共生することが可能な社会の実現を目指すことである。

 

ここに、当連合会は、国に対し下記の施策の実施を提言するものである

 

(1) 拘禁の使用の減少

刑罰としての不必要な拘禁の使用を減少させるため、ダイヴァージョンDiversion(刑事処分回避のための諸施策)を大胆に展開すべきである。ダイヴァージョンは、犯罪や非行をおかした人を放任することを意味しない。現行法においても、警察段階での微罪処分・交通反則通告制度、検察段階での起訴猶予処分、裁判段階での刑の執行猶予、行刑段階での仮釈放など、様々な制度が存在する。これらの制度を活用するとともに、新たな施策を工夫すべきである。その際、歴史的役割を終えてもはや不要となった刑罰法規や新たな社会現象への過剰反応のために作り出された刑罰法規を廃止する非犯罪化Decriminalization(例:堕胎罪の廃止。女性差別撤廃条約に基づく第4回日本政府報告書に対する当連合会の報告書第2部12項D参照)、特定の行為を禁止しつつも、刑罰を科すことを控える非刑罰化Depenalization(例:薬物乱用・依存の治療の優先など)、犯罪としての処罰が避けられないとしても、できる限り施設拘禁を避け、社会内処遇で代替する非施設化Deinstitutionalization(例:社会内処遇の充実など)が可能ではないかをチェックすべきである。

 

これらを活用し、過剰な刑罰的な介入を回避することで、より効率的で、効果的な刑事司法システムの運用が可能となる。

 

(2) 社会への再統合を図るための処遇

刑罰としての拘禁を使用する場合には、社会への再統合を円滑に図るため有効な処遇を積極的に行うべきであり、矯正と保護の連携及び担い手の育成と専門性の確保、自立更生促進センターや就業支援センターの拡充等を図るべきである。

 

受刑者としての施設内での改善指導を受けた後、それにつなげるべき社会内処遇は、施設を出た後の保護観察期間に行われる。しかし、満期出所の場合には、保護観察期間はないので、何ら中間のステップのないまま、社会復帰を迫られることになる。社会内での処遇につなげることを前提に、早期に仮釈放を認めるようにすべきである。また仮釈放の要件を備えていても、社会での受入先がないため満期釈放となるおそれがある人の受入先として、自立更生促進センターが構想されている。これは、親族や民間の更生保護施設では受入れが困難な刑務所仮出所者や少年院仮退院者等を、保護観察所に附設された施設に宿泊させて、保護観察所が24時間・365日体制の下、専門的かつ濃密な指導監督と手厚い就労者支援を実施することを目的とするものであり、主として農業等の職業訓練を行うものを「就業支援センター」と呼び、特定の問題性を抱えそれに応じた重点的・専門的な社会内処遇を実施するものを「自立更生促進センター」と呼んでいる(当連合会刑事拘禁制度改革実現本部編著「刑務所のいま 受刑者の処遇と更生」163ページ以下)。

 

(3) 仮釈放制度の改革

仮釈放については、保護観察を通じて、対象者の円滑な社会復帰と改善更生に極めて有益であり、できる限り早い段階で実施されるべきであって、原則としてすべての者について仮釈放の審理がなされるべきである。有期刑受刑者に対しては仮釈放を可能な限り積極的に実施し、かつ、仮釈放期間を十分にとることで社会内における指導の充実化を図るべきである。

 

また近年、無期刑受刑者の数が著しく増加する中、無期刑受刑者の仮釈放件数は逆に減少の一途をたどり、無期刑の事実上の終身刑化が進行している。こうした中、安全な社会復帰が見込める状態となり、本来であれば仮釈放の対象となるべき受刑者までもが仮釈放とされず、ひいては刑事施設内で生涯を終える事態が生じている。そこで当連合会は、2010年12月17日、「無期刑受刑者に対する仮釈放制度の改善を求める意見書」を発表し、無期刑受刑者に対する仮釈放審理の適正化を図るため、服役期間が10年を経過した無期刑受刑者に対しては、その期間が15年に達するまでの間に初回の仮釈放審理を開始し、その後は1~2年ごと、長くとも3年以内の間隔で定期的に仮釈放審理の機会を保障することなどを提案している。

 

 

(4) 矯正・保護部門と福祉部門との連携

罪を犯した人の更生保護においては、一貫した社会的援助が核となるべきであり、その実践のために必要な人的物的条件と法的整備が重要であるが、これらの福祉的・社会的法整備に関してはこれまで十分に取り組まれてこなかった。

 

近時、更生保護の担い手である法務省、日本更生保護協会、全国保護司連盟、日本更生保護女性連盟、日本BBS連盟、全国就労支援事業者機構だけでなく、厚生労働省が法務省と連携をとり、必要な就労支援や社会保障制度の利用に実効的な、罪を犯した人々に対する支援対策を始める動きが見られるようになってきている。

 

特に就労支援に関しては、法務省と厚生労働省が連携する支援対策として、「刑務所出所者等総合的就労支援対策」が発表されており、そこでは、矯正機関・更生保護機関と職業安定機関において、罪を犯した人に対する就労支援のための連携が十分ではなかったことを認め、具体的には、刑務所とハローワークを結んだ遠隔企業説明会の試行、厚生労働省の試行雇用奨励金の支給対象に罪を犯した人を含めること、ハローワークによる職場適応・定着支援の新設などが打ち出されている。

 

今後は、就労のみならず、生活全般の支援の連携に関しても積極的な推進が求められる

 

(5) 死刑廃止についての全社会的議論の開始

罪を犯した人の社会復帰という点から見たとき、社会復帰の道を完全に閉ざす死刑制度について、死刑のない社会が望ましいことを見据えて、全社会的議論を開始することが必要である。国際人権(自由権)規約第6条も、「生命に対する権利」の保障を定め、死刑制度は廃止することが望ましいことを示している。日本に対しても死刑執行停止を求める国連拷問禁止委員会の勧告(2007年5月)や国連人権理事会の審理(2008年5月)がなされており、前述のとおり、国際人権(自由権)規約委員会は、日本の人権状況に関する審査の総括所見(2008年10月)において、「締約国は、世論調査の結果にかかわらず、死刑の廃止を前向きに検討し、必要に応じて、国民に対し死刑廃止が望ましいことを知らせるべきである。」と述べている。

 

政府は、死刑廃止を前向きに検討することを求めている国連機関・人権条約機関による勧告を誠実に受け止めるべきであり、政府は直ちに死刑の廃止について全社会的議論を開始するべきである。死刑制度の運用状況、死刑事件の誤判原因、国際的な死刑廃止・執行停止の状況、死刑に代わる最高刑の在り方等について調査するため、衆議院・参議院に死刑問題に関する調査委員会を設置すべきであり、この議論の間は、死刑の執行は停止されるべきである。

 

また議論のため死刑執行の基準、手続、方法等死刑制度に関する情報を広く公開されるべきである。

 

死刑に代わる最高刑として、現行法の10年を経過すれば仮釈放が可能である無期刑とは別に仮釈放制限期間をより長くする無期刑や、仮釈放のない終身刑(恩赦制度の抜本的な改善を含む。)についても議論がなされるべきであり、十分に納得のできる死刑に代わる最高刑の提起を伴って死刑廃止を議論すれば、死刑についての国民意識も変わり、世論調査の結果も変わり得る。

 

特に前述したように成育した環境の影響が非常に強い少年の犯罪について、少年にすべての責任を負わせ死刑にすることは、刑事司法の在り方として公正ではない。子どもの権利条約第6条では「すべての児童が生命に対する固有の権利を有する」と規定されているし、同条約前文に引用されている少年司法の運営のための国連最低基準規則(北京ルール、1985年(昭和60年)9月国連犯罪防止会議採択、同年11月国連総会承認)17-2は、少年の年齢を区別することなく「死刑は、少年がいかなる罪を犯した場合にも科してはならない」と規定している。20歳未満を少年とする我が国の法制度の下では、速やかに少年法を改正し、犯罪時20歳未満の少年についても死刑は許されないこととすることが検討されるべきである。

 

(6) 死刑廃止についての全社会的議論がなされる間になすべきこと

死刑廃止についての全社会的議論の間、死刑判決を減らすため、直ちに死刑判決の全員一致制、死刑判決に対する自動上訴制、死刑判決を求める検察官上訴の禁止等に着手すべきである。

 

また死刑に直面している者に対し、被疑者・被告人段階、再審請求段階、執行段階のいずれにおいても十分な弁護権、防御権を保障し、かつ死刑確定者の処遇を改善するべきである。

 

当連合会は、罪を犯した人も、個人の尊厳と基本的人権を尊重され、社会復帰への道が確保されるよう全力で取り組むとともに、死刑廃止についての全社会的議論を直ちに開始することを呼びかけるものである。

 

以上