法曹養成制度改革の確実な実現のために力を合わせて取り組む決議

 

 

icon_pdf.gif決議全文 (PDFファイル;215KB)

 

日本弁護士連合会(以下「当連合会」という。)は、法の支配を社会の隅々まで行きわたらせ、基本的人権を擁護し、社会正義を実現するために、司法基盤の整備、司法アクセスの拡充、弁護士の活動領域の拡大などに積極的に取り組むとともに、社会の様々な要請に応えることができるよう、質の高い法曹の養成に力を注いできた。

 

しかし、この間、新たな法曹養成制度の下で多くの新規法曹が生まれ様々な分野で活躍する一方、当初の想定と異なる司法試験合格率の低迷と司法修習終了後の厳しい就業状況が続き、法曹養成課程における経済的・時間的負担の重さもあいまって、法曹志望者は毎年大幅な減少を続けている。こうした状況が続くならば、我が国のこれからの司法と民主主義を担う人的基盤の脆弱化を招来することにもなりかねない。

 

こうした事態を踏まえ、当連合会は、2012年3月15日に「法曹人口政策に関する提言」(以下「当連合会人口提言」という。)を、同年7月13日に「法科大学院制度の改善に関する具体的提言」(以下「当連合会制度改善提言」という。)を理事会で決議し、以後これらに基づき、司法試験合格者数をまず1500人にまで減員すること、これを前提として法科大学院の統廃合と定員の大幅な削減を行い、教育の質を向上させること、予備試験について制度趣旨を踏まえた運用をすること、給費の実現等の司法修習生ヘの経済的支援を含む法曹養成課程における経済的負担を軽減すること等を、相互に関連した一つの基本方針と位置付けて取組を進めてきた。

 

そうした中で、政府の法曹養成制度改革推進会議は、2015年6月30日、司法試験合格者数について当面「1,500人程度」とすることに言及し、司法修習生に対する経済的支援の在り方について検討することなどを含む「法曹養成制度改革の更なる推進について」(以下「推進会議決定」という。)を取りまとめた。推進会議決定は、関係諸機関、諸団体の真摯な議論等を通じて、ようやく法曹養成制度改革について社会的合意が形成されつつあることを示している。

 

今日、法曹養成制度改革は、この合意を確かなものとし、その実現を目指す新たな段階を迎えた。

 

このときに当たり、当連合会は、改めて、法曹の役割や活動の魅力を広く社会に発信するとともに、法曹養成制度に対する信頼を回復し、多様で有為な人材が法曹を目指し、質の高い法曹が広く社会の様々な分野で活躍する状況となるよう全力を尽くさなければならない。

 

そのために、当連合会は、上記2つの当連合会提言に基づき、関係諸機関、諸団体と協力し、推進会議決定の積極的な内容の具体化を始めとして、法曹養成制度の全過程にわたる改革を進めるとともに、緊急の課題として、以下の事項を可及的速やかに実現するために、全国の会員・弁護士会と力を合わせて取り組む。

 

1 まず、司法試験合格者数を早期に年間1500人とすること。

2 法科大学院の規模を適正化し、教育の質を向上させ、法科大学院生の多様性の確保と経済的・時間的負担の軽減を図るとともに、予備試験について、経済的な事情等により法科大学院を経由しない者にも法曹資格取得の途を確保するとの制度趣旨を踏まえた運用とすること。

3 司法修習をより充実させるとともに、経済的事情によって法曹への道を断念する者が生じることなく、かつ、司法修習生が安心して修習に専念しうるよう、給付型の経済的支援として、給費の実現・修習手当の創設を行うこと。

 

                                                                                                                                  以上

 

 

2016年(平成28年)3月11日

日本弁護士連合会

 

提案理由

第1 当連合会の取組と旧来の法曹養成制度の課題

当連合会は、長年にわたり、法の支配を社会の隅々まで行きわたらせ、基本的人権を擁護し社会正義を実現するために、市民にとってより身近で利用しやすく、頼りがいのある司法を実現すべく総力を挙げてきた。とりわけ、弱い立場の人が不当な不利益を受けることのないよう、社会に生起する様々な問題が公正かつ透明なルールの下で適正迅速に解決されるべく、当番弁護士制度、法律扶助事業の拡充、司法過疎の解消、各種の人権課題に関わる取組等を進めてきた。今般の司法制度改革は、こうした取組をも踏まえつつ、司法の制度的・人的基盤の整備・充実、国民の司法参加など諸制度の有機的一体的改革を目指すものと位置付けられ、当連合会は、市民の権利の擁護のため、同改革の推進に力を注いできた。

 

このような改革を進める上で、最も重要なことはそれらを支える「人」である。現行の法曹養成制度は、司法の役割の増大と、その担い手たる法曹の果たすべき役割の重要性を踏まえて、旧来の法曹養成制度の抱える課題を克服すべく提案されたものである。

 

すなわち、旧来の法曹養成制度の下では、大学は、法学部では法的素養を持つ人材を社会に輩出する役割を担うにとどまり、大学院では研究者養成を主たる目的とし、総じて、法曹を養成する専門教育は実施されていなかった。また、旧司法試験は、「開かれた制度」と評価されてはいたものの、法曹専門教育のないまま競争倍率の高い試験のみで選抜をすることにより、受験技術優先の傾向、受験予備校への依存、若年層の司法試験離れといった事態を招き、1996年には、3年以内の少数回受験者を優遇するいわゆる合格枠制(丙案)が実施されるまでに至った。

 

こうした経験や反省を踏まえ、政府は、2001年の司法制度改革審議会意見書(以下「審議会意見書」という。)において、法学教育・司法試験・司法修習を有機的に連携させた「プロセス」としての新たな法曹養成制度を整備し、その中核を成すものとして法科大学院を設けるべきであると提言されたことに基づき、2004年、新たな法曹養成制度を創設した。

 

第2 現行の法曹養成制度の概要

以上のような経緯の下でスタートした現行の法曹養成制度は、旧来の法曹養成制度において生じた様々な課題を克服し、質・量ともに豊かな法曹を養成することを期待された。

 

すなわち、新たに設置された法科大学院は、法曹養成に特化した専門教育を担う機関として、専門的な法知識の修得はもとより、これを批判的に検討し発展させていく創造的な思考力、法的分析・法的議論の能力、法曹としての責任感や倫理観等が涵養されることを目指した。具体的には、法科大学院では、少人数教育を基本とし、双方向的・多方向的で密度の濃い教育を行うものとし、理論と実務を架橋する幅広いカリキュラムを通じ、事実に即して思考する能力の養成に重きが置かれた。そして、その担い手として、研究者のみならず多くの弁護士が実務家教員として法科大学院の教壇に立ち、後継者養成に主体的役割を演じることになった。

 

また、学生の多様性確保、地域適正配置への配慮等を旨とする同制度のスタートにより、非法学部出身者や社会人経験者など旧司法試験時代には法曹を志望しなかった者も法科大学院を志願し、法曹となって各分野で活躍することとなった。

 

第3 現行の法曹養成制度の課題

現行の法曹養成制度は、以上のような意義を有してスタートしたものの、その後数年を経過するなか、様々な課題を指摘されるようになった。

 

法科大学院は、創設時の学校数や学生定員が制度設計時の想定をはるかに超えていたことや法曹養成を担う関係機関の連携が十分でなかったことなどを背景に、法科大学院間での教育内容・水準のばらつきが指摘されるようになった。また、司法修習は、「法科大学院での教育内容をも踏まえ、実務修習を中核として位置付けつつ、修習内容を適切に工夫して実施すべき」(審議会意見書)とされたものの、法科大学院教育との連携不足や期間短縮などを背景に、その充実が求められることになった。

 

さらに、審議会意見書は、新たな法曹養成制度の整備の状況等を見定めながら2010年頃には司法試験合格者数を年間3000人とすることを目指したが、当初の想定と異なり、法科大学院修了生の司法試験合格率は低迷し、司法試験合格者数は2008年の2209人をピークに、その後も2000人前後にとどまった。

 

そして、2000人前後の司法試験合格者を輩出する中で、司法修習終了後の就業状況は厳しさを増した。すなわち、司法の制度的基盤整備、司法アクセス拡充等の進捗が十分ではなかったこともあり、裁判所の新受件数に現れているように、法曹に対する従来型の需要は増加するどころか近年減少を続け、新しい活動領域の拡充が期待されたものの、当初予想された規模にまでは達しなかった。このため、例えば、2011年に弁護士登録した新旧の第64期司法修習生においては、いわゆる一括登録日時点の弁護士未登録者数が400人を超え、翌年の第65期司法修習生においては500人を超えるに至り、こうした中、一定数の弁護士がいわゆるOJTの機会を得ることができず、その実務経験・能力の不足が懸念されることにもなった。

 

また、法科大学院への財政措置や法科大学院生への経済的支援が十分でなかったことなどから、多くの法科大学院生が多額の貸与制の奨学金を利用し、その返済義務を負ったまま法曹として世に出ることになった。その上、2011年11月からは、司法修習生の給費制に代わり修習資金を貸与する制度(貸与制)が始まり、新規法曹は、更なる経済的負担を負うことになった。

 

こうした状況の下、2011年に始まった予備試験は、本来、経済的事情や既に実社会で十分な経験を積んでいるなどの理由により法科大学院を経由しない者にも法曹資格取得のための途を確保するためのものであった。しかしながら、近年、予備試験受験者の半数近くを法科大学院生や大学生が占める上、予備試験合格者の約8割を占める者が法科大学院在学中の者や大学在学中の者となるなど、その運用状況は制度本来の趣旨から乖離し、法科大学院教育に影響を及ぼす事態も報告されている。さらには、予備試験合格を目指し、法学部生が100万円にも及ぶ予備校講座を受講する事態すら報告され、旧来の法曹養成制度で問題視されていた受験予備校への依存が復活し、同制度の趣旨とは異なり、経済的に余裕のある学生が予備試験を目指し合格するという運用実態が指摘されるまでになった。

 

このように、現行の法曹養成制度は、一定の成果を出しつつも、その本来求められた機能を十分に果たすことができない状況にある。そして、既に述べた種々の課題とあいまって、法曹を志望する者が年々減少するという深刻な事態を生じている。こうした状況が続くならば、我が国のこれからの司法と民主主義を担う人的基盤の脆弱化を招来することにもなりかねない。

 

当連合会は、このような実態を真摯に受け止め、上記の諸課題を克服するため、次項に述べる各種の提言を行い、これらに基づく取組を続けてきた。

 

第4 これまでの当連合会の意見書等

2012年3月15日、当連合会は、当連合会人口提言において、弁護士のアイデンティティである「プロフェッション」性、すなわち、高度の専門性と公益的性格から導かれる「質」を確保するため、司法試験の合格者数を、法曹養成制度の成熟度に見合うものにしなければならないとし、市民にとってより身近で利用しやすく、頼りがいのある司法を実現するため、現実の法的需要や司法基盤整備の状況とバランスの取れた法曹人口の「適正さ」を確保すべきとした。そして、法曹人口の急増から「状況に応じた漸増」へと、速やかに移行すべきであり、具体的には、「司法試験合格者数をまず1500人にまで減員し、更なる減員については法曹養成制度の成熟度や現実の法的需要、問題点の改善状況を検証しつつ対処していくべき」とした。

 

また、同年7月13日には、当連合会は、当連合会制度改善提言において、法科大学院を中核とする法曹養成制度の制度理念の実現に向けた具体的対応策として、法科大学院の統廃合と入試競争倍率に関する一定の基準を設けることなどを進め、学生定員・入学者総数の大幅な削減を促進すること、法科大学院の地域適正配置と学生の多様性確保のための各措置を実施すること、教育の質の向上のための各措置を実施すること、法科大学院修了までの経済的・時間的負担を軽減するため、法科大学院生を対象とした給付制奨学金制度を創設する等の各措置を実施すること、司法試験制度について、法科大学院教育との有機的連携を強化する観点から各措置を実施すること、予備試験について、その実施状況を検証しつつ、経済的な事情等により法科大学院を経由しない者にも法曹資格取得の途を確保するとの制度趣旨を踏まえた運用をすること等を提言した。

 

以上の各提言は、現行の法曹養成制度を巡る諸課題の重さを真摯に受け止めるとともに、その実情や背景を具体的に分析し、これらを克服するため、各課題を切り離すことなく一体として解決するための具体的方策を提案したものである。これらは、とりもなおさず、法科大学院、司法試験、司法修習を有機的に連携させ、現行の法曹養成制度がその機能をよりよく発揮し、当連合会が長年にわたり求めてきた市民にとってより身近で利用しやすく、頼りがいのある司法の実現を目指す一環としての取組であった。

 

第5 法曹養成制度改革推進会議決定とそれに至る政府の検討状況

1 推進会議決定に至る政府の検討状況

 

以上述べた現行の法曹養成制度を巡る諸課題を踏まえ、この間、政府においても、2010年に法曹養成制度に関する検討ワーキングチームを、2011年に法曹の養成に関するフォーラムを設置するなどし、検討を続けてきた。

 

そして、2013年の法曹養成制度検討会議取りまとめにおいては、「現時点において、司法試験の年間合格者数を3,000人程度とすることを目指すべきとの数値目標を掲げることは、現実性を欠く。」とし、合格者数に関する従前の政府の方針を改めるとともに、法科大学院制度については、「法科大学院を中核とする『プロセス』としての法曹養成の理念を堅持した上で、制度をより実効的に機能させるため、教育体制が十分でない法科大学院の定員削減や統廃合などの組織見直しの促進」や、「法学未修者教育の充実など法科大学院教育の質の向上について必要な方策をとる」などとされ、司法修習については、「法科大学院における教育との有機的な連携の下に、法曹としての実務に必要な能力を修得させることが求められている。」として、「司法修習生に対する導入的教育や選択型実務修習の在り方を含め司法修習の更なる充実に向けて、法曹養成課程全体の中での司法修習の在り方について検討を行」うなどとされた。

 

2 推進会議決定の概要

 

上記の法曹養成制度検討会議取りまとめを受け、政府は、法曹養成制度改革に関する「新たな検討体制」として、法曹養成制度改革推進会議を開催し、その下に内閣官房法曹養成制度改革推進室、法曹養成制度改革顧問会議を設置した。そして、2年近くに及ぶ検討を経て、2015年6月30日、法曹養成制度改革推進会議は、以下の内容の推進会議決定を行った。

 

(1) 今後の法曹人口の在り方について

「司法試験合格者数でいえば、質・量ともに豊かな法曹を養成するために導入された現行の法曹養成制度の下でこれまで直近でも1,800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、当面、これより規模が縮小するとしても、1,500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはこれにとどまることなく、関係者各々が最善を尽くし、社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきである。」とした上で、「新たに養成し、輩出される法曹の規模に関するこの指針は、法曹養成制度が法曹の質を確保しつつ多くの法曹を養成することを目的としていることに鑑み、輩出される法曹の質の確保を考慮せずに達成されるべきものでないことに留意する必要がある。」とされた。

 

(2) 法科大学院について

「平成27年度から平成30年度までの期間を法科大学院集中改革期間と位置付け、法科大学院の抜本的な組織見直し及び教育の質の向上を図ることにより、各法科大学院において修了者のうち相当程度(※地域配置や夜間開講による教育実績等に留意しつつ、各年度の修了者に係る司法試験の累積合格率が概ね7割以上。)が司法試験に合格できるよう充実した教育が行われることを目指す。」、「法科大学院生に対する経済的支援の更なる充実や優秀な学生を対象とした在学期間の短縮により、法科大学院課程修了までに要する経済的・時間的負担の縮減を図る。」、「文部科学省は、地理的・時間的制約がある地方在住者や社会人等に対するICT(情報通信技術)を活用した法科大学院教育の実施について、平成28年度までの間に実証的な調査研究を行い、その結果を踏まえ、平成30年度を目途に、法科大学院における本格的な普及を促進する。」などとされた。

 

(3) 予備試験について

「法務省において、法科大学院を経由することなく予備試験合格の資格で司法試験に合格した者について、試験科目の枠にとらわれない多様な学修を実施する法科大学院教育を経ていないことによる弊害が生じるおそれがあることに鑑み、予備試験の結果の推移等や法科大学院修了との同等性等を引き続き検証するとともに、その結果も踏まえつつ予備試験の試験科目の見直しや運用面の改善なども含め必要な方策を検討し、法科大学院を経由することなく予備試験合格の資格で司法試験に合格した者の法曹としての質の維持に努めるものとする。」、「司法試験委員会に対しては、予備試験の実態を踏まえ、予備試験の合格判定に当たり、法科大学院を中核とするプロセスとしての法曹養成制度の理念を損ねることがないよう配慮することを期待する。」、「法科大学院の集中的改革の進捗状況に合わせて、法務省において、予備試験の本来の趣旨に沿った者の受験を制約することなく、かつ、予備試験が法曹養成制度の理念を阻害することがないよう、必要な制度的措置を講ずることを検討する。」などとされた。

 

(4) 司法修習について

最高裁判所において、「法曹として活動を開始するに当たって必要な能力等を修得させるという司法修習の役割が果たされるよう、こうした施策を着実に実施し、今後も司法修習内容の更なる充実に努めることが期待される。」、「法務省は、最高裁判所等との連携・協力の下、司法修習の実態、司法修習終了後相当期間を経た法曹の収入等の経済状況、司法制度全体に対する合理的な財政負担の在り方等を踏まえ、司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討するものとする。」などとされた。

 

3 推進会議決定と当連合会の取組

 

以上の内容を含む推進会議決定は、当初の想定と異なる司法試験合格率の低迷、司法修習終了後の厳しい就業状況、法曹養成課程における経済的・時間的負担を原因とする法曹志望者の減少という状況を食い止め、質・量ともに豊かな法曹を輩出しなければならないという危機意識の下、法曹養成制度改革顧問会議における議論や、関係諸機関、諸団体の意見等を踏まえてなされたものである。例えば、2014年4月には、自由民主党、公明党の両党が緊急の提言を行い、法曹人口について、自由民主党は、「我が国に力強い司法を築くために一旦体質を強化すべく、司法試験合格者数は、まずは平成28年までに1500人程度を目指すべきことを提言する。」とし(自由民主党政務調査会司法制度調査会・法曹養成制度小委員会合同会議「法曹人口・司法試験合格者に関する緊急提言」)、公明党は、「司法試験の年間合格者数を、まずは1800人程度とし、その後、今後の内閣官房法曹養成制度改革推進室の法曹人口調査検討を踏まえつつ、1500人程度を想定する必要もある」としている(公明党法曹養成に関するプロジェクトチーム「法曹養成に関する緊急提案」)。

 

そして、この間、当連合会は、これらと基本的に同様の問題意識の下、先に挙げた当連合会人口提言、当連合会制度改善提言に基づき、司法試験合格者数をまず1500人にまで減員すること、これを前提として法科大学院の統廃合と定員の大幅な削減を行い、教育の質を向上させ司法試験の合格率を上昇させること、予備試験については制度趣旨を踏まえた運用をすること、給費の実現等の司法修習生ヘの経済的支援を含む法曹養成課程における経済的負担を軽減すること等を中心とした各事項を、相互に関連した一つの基本方針と位置付けて取組を進め、その結果、関係諸機関、諸団体の理解を拡げてきたところである。

 

そのことに照らせば、推進会議決定は、なお課題とされていることも少なくないものの、これまでの当連合会の方針と取組が一定の成果を得た結果と評価すべきである。

 

以上を踏まえ、当連合会は、上記2つの当連合会提言に基づき、関係諸機関、諸団体と協力し、法曹養成制度の全過程にわたる改革を進めるとともに、まずは、緊急の課題として、第6に掲げる各事項を可及的速やかに実現するために、全国の会員・弁護士会と力を合わせて取り組む。

 

第6 緊急の課題

1 司法試験合格者数

 

前述のように、推進会議決定が、政府における度重なる検討を経て、司法試験合格者数について、当面「1,500人程度」とすることに言及し、「新たに養成し、輩出される法曹の規模に関するこの指針は、法曹養成制度が法曹の質を確保しつつ多くの法曹を養成することを目的としていることに鑑み、輩出される法曹の質の確保を考慮せずに達成されるべきものでないことに留意する必要がある。」としたことは、この間の各方面の真摯な議論と検討を踏まえたものであり、かつ、当連合会人口提言を含むこれまでの当連合会の不断の主張や取組の成果の一つと位置付けるべきものである。

 

もっとも、推進会議決定は、「直近でも1,800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ」るなど、1500人程度を上回る規模の司法試験合格者数を視野に入れたかのような記述を含むが、前述した法曹養成制度の深刻な状況と、この間の法曹志望者減少の推移を踏まえるならば現実的な基盤を欠き、新規法曹の質の低下や、ひいては法曹養成制度に対する信頼を損なうことにもなりかねない。

 

他方で、この間、当連合会が、法曹人口の在り方を巡る困難な議論状況の下においても、一貫して、市民のための司法を確立する責務を担うとの立場から、当連合会人口提言の趣旨を関係者に丁寧に訴え、社会の信頼を得つつ、様々な意見が存する中で社会的合意の形成に努め、当面の司法試験合格者数について1500人に言及する今回の推進会議決定に至った経過を十分に踏まえなければならない。

 

したがって、当連合会は、今後も2012年の当連合会人口提言に基づき、より多くの有為な人材が希望を持って法曹を志望する状況が回復されるよう、司法基盤整備の推進と司法アクセスの拡充、そして弁護士の活動領域拡大のための施策にも取り組むとともに、法曹養成制度を巡る諸課題を克服すべく必要な取組を行う。年間の司法試験合格者数については、まず1500人にまで減員し、更なる減員については法曹養成制度の成熟度や現実の法的需要、問題点の改善状況を検証しつつ対処していくべきものと考える。とりわけ、緊急の課題として、年間合格者数を早期に1500人とするよう、関係諸機関、諸団体と協力するなどして、会員一丸となって取組を進めるものである。

 

2 法科大学院、予備試験

 

前述のとおり、現在の法曹養成制度は、旧来の法曹養成制度に関する経験と反省に基づいてスタートしたものであるが、これまで挙げたような各種の課題が指摘される状況下において、法科大学院制度を廃止して旧制度に戻るべきといった意見すら生まれている。

 

しかしながら、当連合会は、法科大学院創設以来、多くの実務家教員を送り出すなどして、法科大学院の教育に主体的に関与し、法科大学院の充実、発展に向けて取り組んできた。現に、法科大学院教育を経て弁護士になった者の数は今や約1万4000人、全弁護士数のおよそ4割となり、多様な分野で活躍し、市民にとってより身近で利用しやすく、頼りがいのある司法を実現する担い手となるなど、その存在は、まさに法曹の中核を占めつつある。例えば、2011年の東日本大震災直後には、多くの若手弁護士が積極的に被災地支援にあたり、被災地の地方公共団体に任用され、原子力損害賠償紛争解決センターの調査官に200名近い弁護士が任用されるなどの実績を通じて、同震災後の復興に多大な貢献を果たしてきた。

 

また、当連合会制度改善提言を出して以降、法科大学院の統廃合、定員削減等は加速的に進んでおり、創設当時74校を数えた法科大学院のうち30校が廃校若しくは募集停止、または募集停止を公表し(2015年12月現在)、総定員数はピーク時(2005年度から2007年度まで)の5825人から3169人(2015年度)に、入学者総数は、ピーク時の5784人(2006年度)から2201人(2015年度)にまで減少している。

 

政府も、既に述べたように、法科大学院の課題を踏まえつつ、法曹養成制度検討会議の取りまとめにおいて、「法科大学院を中核とする『プロセス』としての法曹養成の理念を堅持」するとした上で、推進会議決定において、「平成27年度から平成30年度までの期間を法科大学院集中改革期間と位置付け、法科大学院の抜本的な組織見直し及び教育の質の向上を図る」とした。

 

当連合会は、こうした政府及び関係各機関における議論、検討の経緯を真摯に受け止め、法科大学院、司法試験、司法修習が有機的に連携して、現行の法曹養成制度が本来の機能を果たすべく、入学者数等の法科大学院の規模を適正化し、教育の質の向上を実現するよう取り組む。それと同時に、存続する地方の法科大学院を充実させ、あるいは、推進会議決定で言及されたICT(情報通信技術)を活用した地方在住者や社会人等に対する法科大学院教育を実現すべく努力することなどを通じ、多様な人材が法科大学院を経て法曹となる途を確保すること、さらには、その経済的・時間的負担の軽減を図ることを目指し、推進会議決定の言う法科大学院「集中改革」にまずは力を注ぐ。

 

予備試験については、経済的な事情や既に実社会で十分な経験を積んでいるなどの理由により法科大学院を経由しない者にも法曹資格取得の途を確保するとの制度趣旨から離れた運用実態があることに留意し、法科大学院改革を進める中で、引き続きその実施状況を検証し、本来の制度趣旨を踏まえた運用となるよう取り組む。

 

3 司法修習、司法修習生に対する経済的支援

 

弁護士を始めとする法曹三者は、冒頭で述べたように、法の支配を社会の隅々まで行きわたらせ、基本的人権を擁護し、社会正義を実現する担い手であり、重要な人的基盤である。かかる法曹を養成するため、国は司法試験合格者に司法修習を命じ、裁判官、検察官又は弁護士にふさわしい品位と実務能力を修得するべく、統一的かつ専門的な実務研修を課してきた。現行の法曹養成制度においても、司法修習は、法科大学院教育との有機的な連携の下、法曹としての実務に必要な能力を修得させるなど、重要な役割を担うことが求められている。

 

推進会議決定は、法曹として必要な能力等を修得させるという司法修習の役割が果たされるよう、最高裁判所において「司法修習内容の更なる充実に努めることが期待される。」としており、当連合会としても、これを踏まえ、司法修習の更なる充実に向けて取組を進める。

 

また、前述のとおり、司法修習は、公共的役割を持つ法曹を養成する重要な実務研修であるため、司法修習生は修習に専念する義務を負っている。このため、司法修習生の生活の基盤を保障して安心して修習に専念できるようにするとともに、法曹に有為な人材を確保するため、司法修習生が修習期間に要する費用は公費によって賄われるべきである。

 

こうした観点から、我が国では、終戦直後から長きにわたり、司法修習生に対して給費が支給されてきた。しかし、既に述べたように、2011年11月から、給費制が廃止され、必要な司法修習生に対しては修習資金を貸与する制度(貸与制)に変更された。多くの司法修習生が、この修習資金の貸与を受けることとなり、その平均負債額は約300万円に上る。これに大学や法科大学院における奨学金の債務を合わせると、半数近い司法修習生が、実に400万円以上の債務を負担して司法修習を終えるという実態があり、債務額が800万円ないし1000万円に上る者もいる。こうした重い経済的負担が法曹志望者の激減の一因となっていることが指摘されており、経済的理由から司法修習を辞退する司法試験合格者も現れている。

 

このような看過し難い状況を踏まえ、当連合会は、司法修習生に対する給費の実現を求めて、各弁護士会とも連携して精力的な取組を進めてきた。2013年10月には「司法修習生に対する給費の実現と充実した司法修習を求める要請書に対する団体署名」を募り、多数の団体の賛同を得た。昨年は3回にわたり「司法修習生への給費の実現と充実した司法修習に関する院内意見交換会」を開催し、多数の国会議員の参加を得たほか、国会議員からの司法修習生への給費の実現・修習手当の創設に向けた賛同メッセージは既に360通を超え、議員の過半数に至ったところである。

 

こうした取組の中で、給付型の経済的支援について、より具体的な制度の提案が必要となり、また、公明党も、2014年4月の前記緊急提案において、「修習手当」の創設を含めた司法修習生に対する経済的支援を提言していることなどから、当連合会は、具体的な給付型支援の制度の提案として、安心して修習に専念できるよう「修習手当」の創設に向けた国会議員への要請活動を展開している。

 

推進会議決定も、「法務省は、最高裁判所等との連携・協力の下、・・・司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討するものとする」と方針を打ち出すに至った。関係機関は直ちに前向きな検討を開始し、必要な法改正を行うべきである。

 

当連合会は、法曹に広く有為かつ多様な人材を確保し、法曹志望者が経済的事情によって法曹への道を断念する事態が生ずることのないよう、また、司法修習生が安心して修習に専念できるよう、給付型の経済的支援としての給費の実現・修習手当の創設に向け、全力を尽くす。

 

第7 結び

以上のとおり、当連合会は、法曹養成制度改革の確実な実現のために力を合わせて取り組む所存である。